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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第五章
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第五章 02 ルフエ島の人々

02 ルフエ島の人々


 スフィアがいつも泊まるという宿は、船着き場から歩いてすぐのところにあった。交通の便の良い場所にある宿は高い。三人は今までの経験でそれを知っている。

 その宿は立地もそうだが、建物自体も値段通り立派で頑丈そうだった。三階建てなので、縦に何十階も積み重なった現代日本の高級ホテルとは違うが、気品と風格を兼ね備えている点は同じだった。

 漆喰のような白い壁に、ガラスの窓。出入り口の木製の扉も大きい。

 中に入ると玄関も広く、高級ホテルのロビーといった雰囲気だった。奥にはフロントがあり、隣には食堂があった。壁には時計があり、針は九十度よりやや手前を指していた。昼の二刻過ぎ、現代で言う昼の二時半といったところだろう。

「船が着いたの、予定よりそこまで遅くなかったんだね」

 時計を見ながらリユルが言った。船は昼の二刻ごろ、現代で言う一時半にルフエ島に着く予定だった。

「ほんとだ。魔物が出てきたで、もっと時間かかったかと思ったけど」

「クラーケンから逃げるために船が全速力を出したので、そこで挽回したのかもしれませんね」

 そう話す三人を、スフィアが振り返った。

「僕、チェックインして部屋に荷物だけ置いてきます。すぐに戻りますから、食堂で待っててください」

 スフィアはそう言ってフロントに向かった。リユル、ユージナ、ヴァルルシャの三人は食堂に入り、奥の席に座る。椅子もテーブルも木製で、全体的に大きかった。

 昼食でも夕食でもない時間なので他に客はおらず、三人は顔を近づけ、小声で先ほど得た情報について驚きを確認し合った。

「長息人! エルフ的なイメージを持ってたけど! ああいう感じなんだ!」

「でも二百年ぐらい生きるってスフィアくん言っとったで、そこはエルフっぽいっちゃエルフっぽくない!?」

「呼吸がゆっくりだから長息人、ということですが、やはりネーミングには日本語の言葉遊びとして、『長い息』と『長生き』がかけられていますよね! 日本語しか使えない作者が無意識のうちに生み出した名前なわけですから!」

「でもエルフだと、何百歳とか千歳を超えるキャラなんかもいたりするけど、長息人は、あいたちの倍ぐらいなんだね。それだって長いけど」

「ていうか、うちら……『短息人』の寿命も百歳ぐらいって、スフィアくんが言っとったね。ええと、この世界での百年は……」

 ユージナの言葉に、ヴァルルシャは手帳を取り出した。そこには、現実世界の年齢がこちらの世界では何歳に当たるかを一覧にした表が書かれていた。以前手帳を買ったときにその計算はしたが、ヴァルルシャは後に画材屋で定規を買ったので、空いた時間に表に清書し直していたのだ。

「現実世界の暦に換算すると八十二年ですね。現代日本では平均寿命が八十歳を超えてますけど、ここは一応、中世ヨーロッパ風の異世界ですからね。作者の理想が入っているので、衛生面などは現代日本と同レベルかそれ以上を想定されてはいますけど、さすがに平均寿命は現代日本よりは短いようですね」

「その表、便利だね。でも、平均はそうでも、たまには健康ですっごく長生きする人もおるかもね。確か、葛飾北斎って九十歳ぐらいまで生きたんだよ。江戸時代の平均寿命は現代日本より短いけど、長生きする人はしたみたい」

「じゃあこの世界でも、時々は現実世界で言う百歳ぐらいまで生きる人がいるかもね。現実世界の百歳は、こっちの世界だと……?」

「百二十一歳ぐらいですね。確かに、そういう人がいてもおかしくないでしょうね。ということは、長息人は二百年ぐらい生きるとスフィアくんが言ってましたが、長息人も、現実世界の暦での二百年、つまりこの世界における二百四十二年ぐらい生きる人がいてもおかしくないのかもしれませんね」

 三人はまず年齢に対して、スフィアがいてはできない話をした。

「うちらの倍ぐらいっていっても長生きだよね。てことはやっぱり、長息人はこの世界におけるエルフ的な種族と考えていいんかな?」

「あ、でもさ、さっきスフィアくん、長息人と短息人のことを、『人種』って言ってなかった?」

 リユルがスフィアの言葉を思い出す。長息人から見ればこちらの方が呼吸の短い『人種』なのだ、と、そういう言い方をしていたはずだ。

「確かに。ということは、長息人はエルフのような『異種族』ではなく、『人間』という同じ種族の中で、体格の大きい人種、のような扱いなのかもしれませんね」

「そうだね。エルフみたいに耳が尖っとるわけでもないし、見た目はうちらと変わらんもんね。ちょっと大きいとはいえ、現実世界でも、スポーツ選手とかだったら二メートル超える人も珍しくないし」

「あとは全体的にゆっくりってことだけだもんね。呼吸の長さだけじゃなく、心臓の鼓動もゆっくりっていうのは驚いたけど」

 リユルの言葉に、ユージナが記憶を、作者の記憶を思い出した。

「あっ……。そういやさ、動物が生まれてから死ぬまでに呼吸する回数とか、心臓が脈打つ回数とかが、全部同じだって話を覚えとらん? 人間から見れば、鼠は短命で象は長生きだけど、どっちも、それに人間も、一生の鼓動の回数は同じなんだって」

 そう言われ、リユルとヴァルルシャも作者の記憶を探る。

「ああ、確かに、聞いたことあるような気がするね。小さい生き物は寿命が短いけど、その分動きが素早くて……」

「大きい生き物は、長生きだけどその分、動きが遅いんですよね。だからそれぞれが感じる一生の長さは、どの生物でも同じなんじゃないかという……」

 そこまで話して、三人は気づいた。

「そうか! だで、長息人も、体が大きい分、ゆっくりなんだ!」

「あいたちの倍ぐらい生きるのも、鼓動や呼吸があいたちと倍ぐらい違う速度だからだ!」

「だから動作や話す速度が、我々にはスローモーションのように見えるんですね!」

 三人は納得した。

「てことはやっぱりエルフとは違うよね。エルフは人間と同じ速度の状態で、何百年も生きる種族だもんね」

「うん。だで、魔法とかいろんな知識が人間より豊富で、人間より気位が高い、みたいな立ち位置だったりするけど、長息人はそういう感じじゃなさそうだよね。うちらの倍生きても、うちらが、短息人が一生にやれることとおんなじだけのことをやって一生を終わる、って感じじゃないかな」

「だから、年数で言えば私たちの倍生きるとはいえ、同じ『人間』……。種族が違うのではなく、人種が違うだけ、そういう立ち位置なんでしょうね」

 腑に落ちたことで、驚きが落ち着いてきた。三人は近づけていた顔を離し、一息ついた。

 そうしていると、食堂の入り口からスフィアがやってくるのが見えたので、ヴァルルシャは手帳をしまった。

「お待たせしました。あ、皆さん、ご注文はまだですか?」

 そう言いながらスフィアは三人が座るテーブルの空いた席に座った。

「うん、あいたち、長息人の人たちを初めて見たから、びっくりしてたとこ」

「初めての方は驚くみたいですね。じゃあ、お茶、何がいいですか?」

 スフィアはテーブルの脇にあるメニューを取り、飲み物のページを広げた。

 香りのいいお茶、砂糖入りのお茶。柑橘のジュースに、野菜のジュース。三人の目にはそのようにメニューが映った。

 ヴァルルシャは香りのいいお茶、リユルとユージナは柑橘のジュース、スフィアは砂糖入りのお茶を頼むことにし、スフィアが店員を呼んだ。

「すみませーん」

 調理場の方に声をかけると、店員がやってきて注文を受け付けた。調理場に戻っていく後ろ姿を見ながら、リユルが言った。

「今の人は長息人じゃないんだね?」

 注文を取った店員は、リユルたちと同じ身長、同じ速度で話す、短息人だった。

「ええ、この宿の食堂は僕たちと同じ、短息人がやってます。その方がいいと思ったんで、皆さんをここにお連れしました」

「なんで? 長息人の食生活は、うちらと全然違うとか?」

 尋ねるユージナに、スフィアは答えた。

「いえ、特にそういうことはないんですけど、長息人の方々はゆっくりでしょう? だから食堂も、料理が出てくるスピードが遅いんですよ。観光でルフエ島に来る人は、そういうのも含めてルフエ島を楽しむわけですけど、今はすぐにお茶が出てきた方がいいかなって」

 その説明に、三人はうなずいた。

「ここは船で島の外からやってきた短息人が泊まる宿ですから、移動で疲れてる人が多いんです。だから食事がすぐ出せるように、食堂は短息人がやってるんです。船着き場の周りはそういうところが多いですね。切符売り場も、長息人と短息人が両方働いてます。島に初めて来る人は、長息人と話すのに慣れてませんから」

 先ほど船が着いたときも、船を出迎えた船着き場の人々は、長息人と短息人が半々ぐらいだった。それにはそういう理由があったのかと三人が納得していると、店員が飲み物を運んできた。

 疲れた体を、それぞれが頼んだ飲み物が潤していく。

「ああおいしい。爽やかだね、このジュース。

 ……あっ、そういえば! さっき、しばらく船を出さないって言ってたけど、あの船って、観光客の行き来よりも荷物のやりとりがメインなんでしょ? てことは、船が出ないとこの島で食べる物が無くなっちゃうんじゃないの!?」

 リユルが危惧するが、スフィアがその不安を取り除いた。

「大丈夫だと思います。ルフエ島は島といっても大きいんで、農地とか果樹園とかいっぱいありますし」

「そうなんですか。でも、船で食料品をやりとりしてるんでしょう?」

「ええ、でもそれは、お米とか香辛料とか、この島で取れない物を他の地方から取り寄せてるんだって聞きました。島で食料がまかなえると言っても、いろんな物が食べたいですもんね。だから売り買いしてるんだそうです。逆にこの島の特産品も売りに出してるそうですよ」

「この島の特産品って何なん?」

「魚醤です。何十年物とか、百年物とかも普通にあるんですよ。周りが湖だから魚がたくさん捕れますし、長息人は長生きですからね。僕たちだったら、魚醤を百年熟成させるなんて、親や祖父母の代から作り始めないといけませんけど、長息人だったら、若いときに自分で仕込んだ魚醤を百年後に売る、ということも難しくないですからね。おいしいんですよ。軽食にあるかな、僕ちょっとおなか空いたし、食べましょうか」

 スフィアはそう言い、メニューを手に取って店員に注文した。

「チョビアンのカナッペ、十二枚お願いします」

 三人の耳にはそう聞こえた。チョビアンはアンチョビが由来だろう。カナッペはこの世界でもカナッペなのだ、三人は目でそういう会話をした。

 やがて、その料理が運ばれてきた。数口で食べられるほどの薄手のクラッカーの上に、刻んだ野菜と魚肉を混ぜた具を乗せた料理が出てきた。

「おいしい! この魚がチョビアン?」

 その料理を口にして、リユルが顔をほころばせる。そんなリユルを見て、スフィアも嬉しそうに答えた。

「はい。フルーエ湖の、特にルフエ島周辺に多い魚だそうです」

 チョビアンは、味もアンチョビのような塩気の効いた魚の味をしていた。

「それを捕って魚醤を作るんだね。ああ、だで、釣り船も出さんように、ってさっき百三十二歳の人が言っとったんだ」

 ユージナが、船着き場で船長たちがしていた会話を思い出す。

「そうですね。それで、ルフエ島かコハンにクラーケンが現れるのを待つんだと……。あれ? でも、コハンの町は、クラーケンが現れたことをどうやって知るんでしょうか?」

 ヴァルルシャも船長たちの言葉を思い出し、そのことに気づく。

「見えた……わけはないよね。あいたちがクラーケンに襲われたの、ルフエ島近くになってからだもん」

 もちろん船からコハンの町は見えなかった。コハンからもそうだろう。

「多分、伝書トーハで手紙を送ってると思います。船着き場同士はそれで情報のやりとりをしてるそうですから」

「伝書トーハ!?」

 声を上げたユージナに、スフィアは説明した。

「この国には、トーハっていう鳥がいるんです。マメデポって木の実が好きで、好きというか、食べると衝撃を受けるみたいで、一度その実を食べると、その場所を覚えて必ずそこに飛んで行くっていう習性があるんです。昔はマメデポはめったに実をつけない木だったんですけど、今は栽培方法が確立されて、安定して実を収穫できるようになったんです。だからトーハの足に手紙をつけて、手紙をやりとりしたい場所でマメデポの実を食べさせると、トーハがその場所を往復して手紙を運んでくれるようになるんです。

 時間がかかってもいい手紙は、伝書屋さんに頼めば馬で他の町まで運んでもらえますけど、トーハは飛ぶから早いんです。ただ、決まった場所にしか行けませんけど。でも定期的に同じ場所と情報のやりとりをする場合には便利なんですって。

 それぞれの町にある鑑定屋が、シュトゥーンにある集計場に退治された魔物の量を報告したり、集計場が魔物退治の量と精霊の使用量を集計して、魔王予報を鑑定屋に返事したり、っていうのには伝書トーハが使われてるそうです。

 コハンとルフエ島も、トラブルで船が数日遅れるとか、至急送ってもらいたい荷物があるから次の便に間に合うように準備してくれとか、そういう連絡をする必要があるんで、伝書トーハで連絡を取り合ってたはずです。だからクラーケンが出た話も、コハンに伝わってると思いますよ」

 スフィアは詳しく解説した。伝書トーハに驚いたのがユージナだったので、東洋では形式が違うと思ったのだろう。

「そうなんだ……。教えてくれてありがとうね。シュトゥーンは、首都?」

 ユージナが情報を咀嚼しながら聞き返す。

「はい。シュトゥーンは、この国、リーメイクンの首都です」

 響きからの推測は当たっていた。他もおそらく、トーハは鳩、マメデポは豆鉄砲が由来だろう。手紙を運ぶ職業は伝書屋と言うんだ、鑑定屋の集計はそのようにしていたんだ……。三人は驚きをあまり表情に出さないようにしつつ、スフィアの言葉にうなずいた。

「あ、それで、リユルさんたちは王様の指輪探しに来たってことですけど、やっぱりまずは指輪を無くしたっていう場所に行きます?」

 スフィアは三人の様子を特に疑問に思わず、そう尋ねた。

「うん、そうだね。もうとっくに探し尽くされてるとは思うけど、やっぱり自分たちで確かめたいよね」

 リユルが言い、ユージナとヴァルルシャもうなずく。

「双心樹って木のところで指輪を無くしたってチラシに書いたったよね」

「ええ、しかも樹齢数千年とか……その木の場所まではチラシに書いてありませんでしたけど」

 それだけの大きい木、しかも王様のエピソードで有名なはずだから、ルフエ島に行けば詳しい情報が得られるだろう、三人はそう思っていた。

「さっきこの宿の受付で聞いてきたんですけど、その大木は、公園の中にあるんですって。というか、その双心樹の大木を見に行きやすいように、周りを整備して公園にしたってことらしいです。そこはその木以外にもいろんな植物が見られて、植物園みたいになってるんだそうです」

 やはりすぐに情報が得られた。リユルが礼を言う。

「そうなんだ。聞いてきてくれてありがとね」

「お役に立てたなら嬉しいです。その公園は、コーウェンの町にあるそうです。コーウェンの町なら僕も知ってます。このイリーグの町と近くて、馬車で北に半日ぐらい行くとすぐです」

 公園があるからコーウェン、ルフエ島の入り口だからイリーグ、なのだろうと三人は思った。

「馬車で半日なら、徒歩だったら一日かな? だったら、うちら歩いて行ってもよくない?」

「ええ、急ぎの用があるわけじゃないですし、観光がてらゆっくり進んでもいいですよね」

「てことは、今日はあいたちこの町でゆっくり休んで、明日は早めに起きてコーウェンの町に向けて出発ってとこかな? 日が暮れる前に、この町の北の方で安めの宿を探そうか」

 リユルたちはそう話し合った。それを見てスフィアは少し寂しそうな顔をした。

「やっぱりこの宿には泊まらないんですね……。もうすぐリユルさんたちとお別れか……」

 机の上のお茶とカナッペは空になっていた。休憩もそろそろ終了だ。

「そんな顔しないで。同じ島にいるんだもん。それに船はしばらく出ないんだし、船着き場はここにしかないんでしょ? クラーケンが退治されたらみんなまたこの町に来るはずだし、この町か、帰りの船で会えるんじゃない?」

「……そう……ですね。同じ島にいるんですし、縁があったらまた会えますよね」

 スフィアは寂しそうだったが納得した。

「じゃあ、あんまり引き留めるとリユルさんたちが宿を探す時間がなくなりますね。そろそろ、店を出ましょうか」

 スフィアは席を立ち、飲食代をすべて払おうとしたが、それはリユルたちがどうしても断った。結局、料金は四等分して払うことにした。

「じゃ、またね」

 宿の玄関でリユルがスフィアに微笑む。

「はい、指輪が見つかるといいですね」

 スフィアも笑顔で三人を見送った。

 リユルたちはスフィアと別れ、イリーグの町を歩き出した。


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