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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第一章
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第一章 04 長さの単位


04


 川を渡る前に近くのカフェに入ったので、三人はもう一度橋のたもとに向かう。チラシ配りの男性はまだいて、橋を渡る人にチラシを渡している。それなりに人が立ち止まって混雑しており、三人の耳にこんな会話が聞こえてきた。

「ああ、ちょうそくじんの島のあれな」

「毎年この時期になるとお触れが出るけど、何十年も前に無くした指輪なんてねえ」

「昔はそれなりに探しに行くのが流行ったけど、今さら見つからないよね」

「この季節の恒例行事みたいなもんよ」

 誰かがそう話すのを聞き三人は振り返るが、会話は人の波にのまれて消えていった。人だかりを避けて橋の上に行きながら、ユージナが言う。

「ちょうそくじん、って言っとったね。やっぱり発音はちょうそくじんでいいんだ」

「うん。でも、みんな冷静なんだね。確かに指輪なんてそうそう見つかんないか」

 リユルがうなずき、ヴァルルシャも続ける。

「でも、私たちの目的はルフエ島に行くことで、指輪探しはおまけのような物ですから」

 そんな話をしながら、石造りの橋を渡っていく。チラシを受け取る人は橋を渡るとは限らず、川幅は広く橋も広いので、橋の上はそれほど混雑していない。

「そういえば、この川は幅が数十メートルほどありますが、この世界の長さの単位ってどうなってるんでしょう」

 ヴァルルシャが二人に言った。

「あ、そうだね。メートル法があるわけないし。あれって地球の直径を何万等分かにしてるんでしょ?」

「日本じゃ尺貫法ってのを使っとったはずだけど、パッと言われてもわからんし、うちらにはメートルやセンチの方が馴染みがあるよね」

「そうですよね。となると、長さはセンチやメートルと同じで、呼び方だけ異世界風になっているとありがたいですね。先ほどの暦のように、現実世界と異なるのは異世界感があっていいんですが、換算するのが大変ですから」

 三人は橋を渡りながら、長さの単位について考えてみる。

「とはいえ、センチやメートルの基準になる、この世界での何かが無いと不自然だよね。物差しの原型になるものが要るっていうか」

「原型か……。昔は人間の体が基準になっとったって言うよね。指を広げた長さとか、手を広げた長さとか」

「身体尺ってやつですね。でも一センチや一メートルに対応する人体の部分と言うと、何がありますかね」

「うーん……指? でも幅が一センチってことは無くない? あいの指でも一センチなのって小指ぐらいだし、男の人だともうちょっと太いでしょ」

「それに一メートルだとどこになる? 腰の位置ぐらい? でもうちときみらとでもずいぶん違うし、人によってばらつきがあるよね」

「中世風のファンタジーだから、ある程度ゆるくてもいいと思うけど……。そう考えると、あいたちの使ってるメートル法って、誰が測っても絶対同じ、っていう、がっちりした基準なんだね。それが近代ってやつなのかなあ」

「中世ぐらいだと、人によって長さが少し違ってもいい、つまり自分の身体感覚の及ぶ範囲で生きている、ということなのかもしれませんね」

「でも現代日本人の作者から生まれてきたあいたちにはメートル法がなじんじゃってるよね。尺とか言われてもすぐわかんないし。何か共通の基準になるものがあるといいんだけど」

「基準……あ、植物とかは? 枝の太さが必ず一センチになる木とか、一メートルまでしか伸びん木とか。異世界だしそういう木があってもいいんじゃない?」

「ああ、確かにそれだとわかりやすいですね」

 そんな会話をしているうちに、三人は橋の反対側までやってきた。西側の橋のたもとにも国王からのチラシを配っている人がおり、人が集まっていた。混雑を避け、西ファスタンの町の中に行く。

「あっ、あれ!」

 ユージナが声を上げる。その指さす先には、『仕立て屋エラ』『衣類の仕立て、修繕、承ります』という看板があった。

「あいたちが長さの単位の話をしたからすぐに見つかったのかなあ。仕立て屋さんなら定規とか使いそうだもんね」

「エラ、は、テーラー、から来てるんでしょうかね」

 三人はそう話しつつ、店が見つかったのだから入ってみる。

 あまり大きくない店の中に布や服、糸、裁縫道具などが並び、小柄な中年男性が奥に座っていた。

「いらっしゃい」

 おそらく店主のエラさんと思われる男性が立ち上がって近づいてきた。

「あの、私の服が破れてしまったので、直していただきたいんですが……」

 ヴァルルシャが自分のローブの裾をつかみ、店主に示す。

「ああ、いいですよ。でもこれ結構破れてるねえ……」

 店主がしゃがみこんでヴァルルシャの服をじっと見る。足首まであるロングスカートのようなローブが、体の正面の中央で太ももの辺りまで裂けている。その裂け目につながって、正面の裾も十センチぐらい破れて無くなっていた。

「当て布をして縫い合わせてもいいけど、真ん中にスリットを入れて、裾も一番短くなった部分に合わせて、全体的に十フィンクほど裾上げした方が仕上がりがきれいだと思うねえ」

 フィンク。この世界での単位だ。三人は顔を見合わせる。十センチぐらいのことを指しているし、響きは、フィンガー、から来ているように思われた。

 ヴァルルシャは動揺を悟られないように平静を装って返事をする。

「ああスリット、確かにその方が動きやすいかもしれませんね。裾も少し短い方が邪魔にならないかもしれません」

 女性のスカートと違い、ヴァルルシャはローブの下にズボンを履いているので、ローブの中が見えても困るということは無かった。むしろズボンがあるのでスカート部分は無くてもいいぐらいだが、作者にそうデザインされたのでその服でずっと過ごしていた。布が厚くないのでそこまで不便はなかったが、これを機に多少の変更を加えた方が便利かもしれない。

「他に破れてるところは無いかね? 魔物狩り屋は戦いで服が破れることが多いから、こういう注文はよくあるんだ。それにしてもお兄さん、背ぇ高いねえ」

 店主がヴァルルシャの服や背丈を見ながらそう言う。

「あ、そうですかね」

「私が小さいから余計にそう見えるのかもしれないけどね。ちょっとこっちに立って」

 店主は店の中の柱の一つにヴァルルシャを促した。そこには、細かく目盛りの刻まれた紙が貼りつけてあった。

「175フィンクか。足も長くて1エストぐらいあるねえ」

 エスト。三人はまた顔を見合わせる。その紙には一センチ幅で目盛りが刻まれ、それが十ごとに長い線になり、百のところでもっと長い線が引かれていた。おそらくそれを指していて、一メートルのことだ。ちょうどヴァルルシャの腰の辺りだし、響きは、ウエスト、から来ているのだろうか。

「壁に目盛りがあるんですね」

 リユルが店主に、さりげなさを装って尋ねる。

「ああ、私は背が低いから、大きなお客さんだと身長を測りづらいからね。こうして貼ってあるんだ。長さを測るには、このジョウの木の物差しが一番なんだけどねえ。歪まないし、育ち方も一定だし、物を測るために生まれてきたような木だよ」

 ジョウの木。定規だ。三人は確信した。先ほど話していた、センチやメートルの基準になる木だろう。

 店主はそのジョウの木の物差しをヴァルルシャの服の裾にあてがう。

「裾は今よりも短くなってふくらはぎぐらい、正面中央のスリットは足の付け根ぐらいまで入るけど、いいかな? お兄さん足が長いし、裾が少し短くなっても雰囲気はそんなに変わらないよ」

 そう言う店主の身長は目盛りと見比べると160無いぐらいで、男性としてはかなり小柄な方だろう。

「では、それでお願いします。あっでも、着替えをどうしよう……」

 ヴァルルシャのローブは上下がつながったワンピースの形状なので、スカート部分だけを渡すということができない。

「旅をしてると着替えが無い人も多いからねえ。一張羅の修繕の間、貸しておく服も用意してあるよ」

 店主が示したコーナーには、様々な体型の人が着られそうなゆったりした作りの服が並んでいた。ヴァルルシャはその中から借りる服を選ぶ。

 その間に、リユルとユージナも壁の目盛りで自分の身長を測ってみた。

 リユルが172センチ、いや172フィンク。ユージナは155フィンクだった。

 ヴァルルシャはゆったりした貫頭衣を選んだ。

「で、修繕には何日ぐらいかかって、おいくらぐらいでしょうか?」

「今日は忙しくないし、明日の昼前には渡せると思うよ。貸し服も一日分だから、合わせて400テニエルなります」

「じゃあそれでお願いします……あ、明日! 明日って何月何日でしたっけ」

 日付の話題が出たので、ヴァルルシャがすかさず尋ねる。

「ん? 明日は四月二日だよ。今日は四月一日だろう?」

 店主は普通に答える。

「あ、そうでしたか。ありがとうございます。では、よろしくお願いします」

 ヴァルルシャはそう言って自分のローブを脱ぎ始める。肌着とズボンになった上から貫頭衣をかぶり、ローブを店主に渡す。

「じゃ、これ、預かり証だから。明日これとお代と貸し服を持ってきてくださいね」

 店主はそう言って羽ペンで書きこんだ伝票をヴァルルシャに渡した。

 そこには、『預かり物』『お渡し日』『代金 テニエル』『貸し服 有・無』『仕立て屋エラ』と最初から印刷してあり、店主の手書きで『ローブ』『四月二日』『400』と書かれ、貸し服の欄には『有』に丸がつけてあった。

 ヴァルルシャは預かり証をしまい、リユルとユージナと共に店を出る。店からやや離れた人のいないところで三人は話し出す。

「メートルやセンチの、この世界での呼び方がわかったね。ユージナが言ってた基準になる木も。ジョウの木だって!」

「まんま定規な名前だよね。ジョウ木!」

「それに、今日の日付もわかりましたね。思えば、王様からのチラシに来月が結婚記念日とあるので、その前の月の一日から告知を始める、というのは自然なことでしたね」

「うん。でも明日には服を直してもらえるなんて早いね」

「ミシンは見当たらんかったけど、手縫いなのかな? スリットで動きやすくなるといいね」

「そうですね。これで全員、初期設定から少しデザインが変わったことになりますね」

 リユルは露出度の高い服を丸ごと変更したし、ユージナは服の下にスパッツを追加して履き物も地下足袋に改めた。ヴァルルシャだけは服装に変更がなかったが、これでローブの形が少し変わることになる。

「作者があいたちを見た目だけでデザインしたから、実際に着て動いてみると不具合が出てくるんだよね。必要に応じて変えていけばいいんだよ」

「うちらが動きやすいのが一番だもんね。落ち着くとこに落ち着いたって感じがするよ」

「ええ、余計な我慢をする必要はありませんからね。……あ!」

 そこまで話し、ヴァルルシャが声を上げた。

 よく見ると、『仕立て屋エラ』のある通りには、『武器・防具お手入れします』『刃物 研ぎなおします』『破れた服 修繕します』などの看板がいくつも並んでいた。

「魔物狩り屋がいっぱいいる町だから、同じような店が集まってるんだ」

 リユルが納得する。

「そうですね。さっきは気づきませんでしたけど」

「うちの刀もどこかのお店で見てもらお」

 ユージナはそう言って通りの店舗を見て回った。

 服の修繕は今頼んだところなので、衣類関連でない看板をよく見てみる。

 武器と防具に関しては、両方の修繕を扱う店と、どちらかのみに特化した店とに分かれていた。ユージナの刀は東洋の物なので、武器専門店でないと対応できないかもしれない。

 そして、武器と言っても刃物以外を使う人もいるので、刃物に特化した店の方がいいだろう。

 ユージナは通りの店を一通り眺め、『刃物研ぎ・手入れの店ケンマ』と看板に書かれた店の前に戻ってきて立ち止まった。

「ケンマって、研磨のこと? それとも店主の名前かな?」

 一緒に立ち止まったリユルが首をかしげる。

「わからんけど、どっちにしろちょっと東洋っぽくない?」

 店はそれほど大きくなく、扉は閉まっていたが入り口に営業中の札はかかっていた。

「ユージナさんの刀に対応できる店だといいですね」

 ヴァルルシャの言葉にユージナはうなずき、店の扉を開ける。

 扉の近くに机があり、白髪交じりだが黒髪で、やや東洋っぽい顔つきの男性が三人を見た。奥には預かった刃物なのか、ナイフのような小型のものから、ブロードソードのようないわゆるファンタジーで見かける剣、斧や槍のなどの武器が並んでいた。

「いらっしゃい」

 店主らしき彼はそう言い、ユージナが腰に差した刀に目を向ける。

「あっあのこれ! 手入れしていただきたいんですけど」

 見つめられてユージナは帯から刀を抜き取り、鞘ごと店主に差し出した。

「東洋の刀だね。一本だけかい?」

 店主に言われ、ユージナはふと気づく。そういえば時代劇の侍は腰に大小二本の刀を差していたような気がすることに。ユージナの刀は一本だけだし、日本刀と言っても種類はいろいろあるはずだが、もちろんそんな細かい設定はされていない。

「あっはい……一本だけです」

「後ろの方々も?」

 店主は特に不思議そうな顔をせず尋ねた。ファンタジー異世界なので、現実の日本の侍のような刀の使い方をしなくても良いのだ。ユージナはそう思いなおす。

「あ、私たちは武器は使わないので……」

 ヴァルルシャとリユルがユージナの後ろでそう答える。

 店主は受け取った刀を鞘から抜き、状態を確かめる。

「魔物と戦ってるだけだね。血や脂で汚れてないし、刃こぼれもしてないね」

 店主はすぐにそう判断した。

「そんなにひどい状態じゃないから、ご自身で手入れしてもいいぐらいだけど……こういうの持ってない?」

 店主は刀を机に置き、そばの棚から箱を取り出してくると、刀の横に置いた。

 箱の中には、紙の束と小瓶に入った油、木の棒に白く丸い球が付いた道具などが入っていた。

 時代劇で見る、耳かきの綿毛みたいなので刀をポンポンする奴だ!と三人は目で会話をする。

「打ち粉までやるのはうちみたいな専門店でやってもいいけど、紙や布で汚れをぬぐって油を塗りなおすぐらいはご自身で適宜やった方がいいと思うねえ。魔物や魔法は戦ったら消えるけど、魔物が出る場所は水場だったりするし、錆びの原因になりかねないからね。油とか切らしちゃったのならここでも売ってるよ」

 そう言われ、ユージナは少し考えたがこう答えた。

「ああ、ええと、じゃあ、荷物の中を探してみます。とりあえず今日はこちらでお手入れをお願いします」

「そう。急ぐかい?」

 店主は普通に答えた。自分で手入れせず店に頼む人も珍しくないということだろう。

 ヴァルルシャの服も明日までかかるし、宿でゆっくり荷物の中を見てみよう。ユージナはそう思った。

「いえ、そんなには。おいくらになりますか?」

「研ぐわけじゃないし、100テニエルだね。明日の朝には渡せるよ」

 店主はそう言って羽ペンで預かり証に必要事項を書き込み、ユージナに渡した。

 その紙には『預かり物』『お渡し日』『代金 テニエル』『刃物研ぎ・手入れの店ケンマ』と最初から印刷してあり、店主の手書きで『東洋刀』『四月二日』『100』と書かれていた。

 店主に刀を頼み、三人は店を出る。

「メンテナンスしてもらえてよかったね。でも時代劇で見る耳かきの綿毛みたいなやつ、実際に見ると結構硬そうなんだね」

 店から少し離れて、リユルが言う。

「うん。あんなんは持っとらんとしても、さび止めの油と紙ぐらいは荷物の中にあるといいなあ」

 宿屋に置いてある荷物の中身は、まだすべてを設定していない。

「荷物には銀行の通帳のような物も入っているはずですからね。荷物の容量に問題が無ければ、入っていないと明言さえしていなければ、出てきてもおかしくはないですよ」

 三人は会話が通行人に聞こえないようにしながら宿屋へ向かって歩き出す。

「でもやっぱり『日本刀』じゃなくて『東洋刀』って呼ぶんだね」

 ユージナが、手渡された預かり証をもう一度確認しながら言う。

「この世界でどう呼ぶとしても、刀にも太刀とか脇差とかいろいろ種類はあるはずなんだけど、うちの刀ってどれなんだろ。日本刀かっこいいみたいなイメージでとりあえず設定されただけ、って気がするでさあ」

「でも、作者は刀の手入れ方法の知識は持っていたんですね。全く知らないことはこの世界に現れてこないはずですし、耳かきの綿毛じゃなくて本格的な道具が出てきたわけですから」

「テレビかなんかでメンテナンスシーンは見たことがあったんだろうね。あいたちが作者にシンクロしても詳しくは思い出せないけど、記憶のどこかには残ってて、お店の専門家が使う道具って形で、本格的な物が記憶の底からこの世界に浮かび上がってきたのかも」

「そうかもしれんね。そういう番組の記憶、うちの中にもはっきり浮かび上がってこんかなあ……。汚れを拭くぐらいの手入れは自分でできた方が便利だでさ」

「確か、時代劇とかで、侍が口に紙を咥えてその紙でしゅーっと刀をかっこよくぬぐったりしてなかった?」

「いや、あれはなんか、刀に息を吹きかけないために紙を咥えるとかで、別にやらんでもいいって話だった気が……」

「あ、少し思い出してきたんじゃないですか?」

 そんな話をしているうちに、三人は宿屋に帰り着いた。

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