第四章 05 この世界の魔物
05 この世界の魔物
公衆トイレが設置されているので魔物狩り屋がそれなりに来る場所なのだろうが、今は三人以外の気配は感じなかった。ルフエ島やコハンの町に用事のない魔物狩り屋はわざわざここまで来ないからだろうか。三人はひとまず湖の波打ち際を目指して木々の中を歩き始めた。
「魔物、どんなんが出てくるかねえ」
ユージナがつぶやく。
この世界の魔物は、この世界オリジナルのモンスターと、現実世界で伝承のあるモンスターと、両方存在することにした。
作者はゲームなどが好きだったので、ある程度、現代日本で知ることのできる世界のモンスターの知識を持っている。だが、すべてのモンスターの情報を詳しく知っているわけではない。ナックラヴィーは、作者が本で詳しい情報を読み、恐ろしさを感じたので記憶に残っていた。そのため、リユルは弱点を思い出すことができた。だが、ゲームの敵キャラとして出てきただけの、作者が名前しか知らないモンスターもいるはずだ。
三人で新たに世界の設定を作り、作者の知識を探って情報を得ると言っても、作者が知らないことは三人も知ることはできない。
だから、作者の記憶にあるモンスターはこの世界にも登場するが、作者の記憶があいまいな部分は、『この世界ではそのモンスターにはこういう伝承がある』という設定を付け加えてもいいことにした。
そして作者のモンスターの知識が無くても魔物が出てこられるように、この世界のオリジナルのモンスターも存在するという設定にした。
現実世界におけるモンスターの伝説も、大自然に対する畏怖の念を表現したもの、などと言われたりするし、それはこの世界で、精霊のストレスが魔物として具現化するのと同じようなものではないか。だからこの世界の魔物は、現実世界に伝説があるものと、この世界独自のものと、両方存在することにしよう。その方がバトルシーンがワンパターンにならない。
以前、三人で魔物の設定について話し合ったとき、そういう結論になった。
「しばらく魔物と戦ってないし、HPもMPも満タンって感じ。あい、どんなのが出てきても全力で戦えるよ」
リユルが気合いを入れる。
「ええ、一稼ぎできるといいですよね」
ヴァルルシャがそう言ったとき、少し離れたところで物音がした。
地面の近くを、落ち葉や小枝をかき分けながら、小動物が駆け抜けていくような音。
「この音は……!」
ユージナが刀の柄に手をかける。この音は何度も聞いたことがある。これは小動物が立てる音ではない。
「いたっ!」
リユルが指をさす。その先には、木の葉や木の枝や木の実をかき集めてサッカーボール大にしたような存在がいた。
それはこの世界のオリジナルの魔物。葉っぱの獣、葉獣と三人が名付けたその魔物は、葉っぱの塊に手足が生えており、走ることができる。そして人間に体当たりしてくる。森の中ではよく見かける魔物だ。
しかも葉獣は二匹いた。木陰から現れた二つのサッカーボールは三人をめがけて突進してきた。
「風よ!」
ヴァルルシャが、風の魔法で葉獣のうち一匹を抑え込む。
葉獣は葉っぱの塊なので、炎の魔法を使うと大きなダメージを与えられる。だが素早いので、炎の魔法は避けられることが多い。そのため、ヴァルルシャは風で動きを止める戦法を選んだ。
「氷よ!」
リユルが、もう一匹の葉獣に氷の雨を降らす。これも氷でダメージを与えるというよりは、葉獣の動きを止める作戦だ。氷は葉獣を覆い、その動きを止める。
「ユージナさん、とどめを!」
「うん!」
ユージナの刀が、まず風で抑え込まれた葉獣を切り裂き、次に氷で固まった葉獣を両断した。二匹の葉獣は蒸発するように消えていく。葉獣がいた場所から、それぞれ三つの光が放たれ、三人が首から下げている蓄光石に二つずつ吸いこまれていく。
魔物を倒したときに出る光は『その魔物を倒すのにその場で魔法や物理攻撃を行った人』に均等に分配される。
今の戦闘は、ヴァルルシャもリユルも片方の葉獣しか攻撃していないが、『三人がかりで二匹の葉獣を倒した』ことになるので、二匹の葉獣の光が三人に均等に分配されたのだ。
RPGの戦闘画面で葉獣二匹と戦い、パーティメンバーが敵の片方しか攻撃しなくても、戦闘終了後にパーティー全員に同じだけ経験値が入るようなものだ。
戦闘を終え、三人は一息ついた。
「まず二匹っと。葉獣は簡単に倒せるで良かったね」
ユージナが刀を鞘に納めながら力を抜く。
「ええ。ウォーミングアップとしてちょうどいい相手でしたね」
「もうちょっと強い相手が出てきても良かったんだけどね……ふふっ」
リユルが自分で言いながら笑うので、ユージナが首をかしげる。
「どうしたん?」
「いや、あいって昔、『どんな魔法でも使える、国で一番の魔法使い』みたいな設定をされててさ、そんなチートなキャラ設定は恥ずかしいから、この世界では普通にしようって、設定を作り直したじゃない? でも、普通レベルの魔法使いでも、弱い敵なら軽々倒せて、こんなセリフも言えるんだなって……普通レベルでも十分やっていけるんだなって、なんか、嬉しくなったの」
それを聞いて、ヴァルルシャが笑ってうなずく。
「そうですね。私もかつてはそういうハイスペック魔導士みたいな設定でしたが、キャラに壮大な設定を盛り過ぎると持て余すんですよね。作者の表現能力が設定に追いつかないというか……。それで作品が書き途中で投げ出されたりしてしまうんですよね……」
「主人公がチートでも何でも、プロみたいに作品をまとめ上げる力があればいいんだけどね。そもそも作者があいたちみたいなオリジナルのキャラを作る時に願望とか理想像とかを込めまくってるし、そのオリキャラを贔屓するためにまた設定を盛りまくると、世界観が崩壊して話にならないんだよね」
ユージナも笑い、少し考えて言った。
「作者が十代で世の中の仕組みもよく知らんうちは、それが限界だったのかもしれんね。大多数の普通の人がおらんと、食べ物屋とか宿屋とか、町が機能していかんけど、そういうのはRPGのモブみたいなもんで、物語の重要なポジションにはおらんって思っとったんだよ。
うちらは能力的には町で見かける旅人ABCみたいなもんかもしれんけど、充実した生活を送れとるよね。
中二病臭い設定でもなんでも、そうやって作者がいろんなキャラや設定を想像しとったで、作者の想像力が広がって、うちらが勝手に世界を動かそうって思ったときに、作者に蓄積されたものを使って世界を広げることができたんだよ。
今、うちらがこういう形でここにおれるのは、そのおかげなんだよね。てことは、どれもこれも、無駄じゃなかったんだよ」
三人は笑顔でうなずきあった。
「あい、昔の設定を思い出すといたたまれない気持ちになったりするけど、でも大事な足跡だもんね」
「ええ。ユージナさんの言う通りです」
「うん。だで、今のうちらは今のうちららしく、魔物狩り屋としてこの森でいっぱい魔物を狩ろうね……」
ユージナがそこまで言ったところで、茂みの奥から、また音がした。




