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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第四章
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第四章 03 コハンの町


03 コハンの町


 小さく見えていた建物が、一歩進むごとに大きく見えてくる。町の入り口に貸馬屋が見える。むき出しの地面だった道が、町に入ったところで舗装され始める。

 三人はコハンの町に着いた。

「到着ー! どうしよ、まだ明るいし、安めの宿を探しつつ、港まで行ってみる? あ、湖でも港って言うんかな」

 ユージナがリユルとヴァルルシャの顔を見た。

「海みたいな大きさですし、船が出るなら港と呼ぶかもしれませんね。それか船着き場と呼ぶか……。何にしても、湖方面に行けば見つかりそうですね」

「他の港町みたいに船着き場の近くは宿が高そうだし、大通り沿いも高いよね。ちょっと狭い道で安い宿を探しつつ、湖の方へ行ってみようか」

 三人はそう話し合い、コハンの町の中を歩いていった。

 町はフーヌアデやフェネイリほどは大きくなかった。船が出入りすると言っても行き先がルフエ島しかないためだろうか。人通りはそれなりにあるが、穏やかな町という印象だった。街道沿いには畑が広がっていたので、そこから農作物や畜産物が運ばれてくるのだろう、食料関係の店は今までの町と同じようにたくさんあった。湖で取れる魚などを扱う店も多いようだ。

 やがて食事無しで一泊500テニエルの宿を見つけたので、三人はそこで宿泊の手続きをした。部屋に荷物を置き、施錠してもう一度外に出る。まだ日暮れより早い時間なので、船着き場を探して湖の方を目指す。

 しばらく行くと、湖の岸辺とそこに浮かぶ一艘の船が三人の目に映った。岸辺は船が着きやすいように舗装されていた。手前には倉庫が並んでいる。筋肉質な海の男、ならぬ湖の男たちが、荷物を運び終えたのかリヤカーを片付けているのが見える。船の上にも人の姿があったが、どうやら掃除をしているようだ。

 湖を街道から眺めた時より島に近づいているはずだが、船着き場から眺めても湖の水平線に島の姿は見えなかった。

 船着き場には『切符売り場』と書かれた建物があり、三人はそこに入る。棚に書類やファイルが並び、カウンターの中で中年の男性が書類の整理をしていた。彼は建物に入ってきた三人に気づき、顔を上げた。

「あの、ルフエ島に行きたいんですけど」

 リユルが尋ね、男性が答えた。

「船は五日後に出るよ。五日後の天気が悪ければ一日ずつ延期ね」

「五日かあ。まだ先だね。外に船があるで明日ぐらいには出るんかなと思ったけど」

 ユージナがリユルとヴァルルシャに言った言葉を聞き、男性が説明した。

「船は一艘しかないからね。ルフエ島に行って五日間停泊して、こっちに戻ってきて五日間停泊して、の繰り返しさ。今日、島からこっちに着いたばかりだもの、まだ船は出ないよ」

「へえ、だから掃除とかしてたんだ。お客さんの中には長息人もいたのかな?」

 リユルが外の方を振り返るが、カウンターの男性は首を振った。

「長息人はめったに島から出てこないよ。乗客は我々、向こうの人の言葉で言う短息人が、ここから船で島に渡って、島で観光なり仕事なりをして船で戻ってくるっていうパターンばっかりだね」

「そうなんですか。どうして長息人の方々はこちらに来ないんです? 気難しいとか?」

 ヴァルルシャは、日本のファンタジーのエルフ像には『森の奥に住んでいて、気位が高く、人間とは交流を持ちたがらない』のようなイメージがあったことを思い出した。

「いや、そんなことはないよ。ずっと昔から船での行き来はあるし。ただやっぱり、同族がたくさんいる場所の方が過ごしやすいんだろうねえ」

「ユマリさんも、言葉も共通だし一緒に仕事もするって言ってたもんね。でも住み慣れた地元が好きってことなのかな。ルフエ島は気候が独特だって話だし」

 リユルがフェネイリ行きの船でユマリから聞いた話を思い出し、それから国王のチラシに書かれていた内容を思い出した。

「うん、一年中過ごしやすくていいところなんだよ。だから保養地として昔から王族だって遊びに行ったし……。ああ、そういえばもうすぐ五月か! 国王の指輪探しの時期だね。きみたちはあれを探しに行くのかい」

 男性は今気づいたというような顔をした。ということは、ユマリが言っていたように島に指輪探しに行く人は少ないのだろう。三人はそう思った。

「ええ、チラシを受け取ったので、行ってみようかと。船代はおいくらですか? 時間はどのぐらいかかりますか? 岸から島が見えませんが、島はかなり遠いんでしょうか」

 ヴァルルシャが質問し、男性が答える。

「ここを朝の七刻に出航して、向こうに昼の二刻ごろに着くよ。

 三人掛けの長椅子とテーブルのある個室だと、片道で一部屋6,000テニエル。三人で同じ部屋に乗るなら一人2,000テニエルずつね。

 大部屋に二人掛けの椅子が並んでるだけの自由席だと、片道で一人1,000テニエルだよ」

 船は朝の九時に出発し、昼の一時半に到着するということだ。三人は料金について話し合った。

「フェネイリ行きの船より安いですね。移動時間が半日ぐらいですし、船に宿泊しなくてもいいからでしょうね」

「個室だと、馬車で朝から晩まで移動するのと変わらんぐらいの値段だね。でも安い方の席でよくない?」

「うん、島に行けるなら大部屋の自由席で十分だよ。

 ……そういえば、この大部屋はともかく、馬車は『一人いくら』って感じなのに船は『一部屋いくら』って値段設定が多いんだね。なんでだろ?」

「そういやそうだね……。あ、馬車は小さいで、一人増えるとそれだけ馬の負担も大きくなるけど、船は大きいで、乗客の数がちょっと前後しても平気だでじゃない?」

「ああ、それに船は荷物も運んでいましたものね。そちらもかなり重いでしょうし、船全体の重さに比べたら人間数人の重さは小さなものでしょうからね」

 三人の会話を聞き、カウンターの男性が相槌を打った。

「うん、島とこっちを行き来する船は、荷物のやりとりがメインだね。食料品とかのさ。国王の指輪探しが流行ってた頃は乗客がいっぱいで席が取れないこともあったけど、今は満席になることは無いね。自由席の方でも半分ぐらい空いてるから、ゆったり座ってくつろげると思うよ。旅の荷物も、大部屋には10テニエル銅貨で使えるコインロッカーがあるから荷物を置いて景色を楽しんだりできるし」

「へえ、コインロッカーもあるんだ。便利だね。じゃあうちら自由席で全然問題ないね」

「うん、フルーエ湖は確かに広いけど、海を渡るほど大変じゃないさ」

 男性はそう言ってユージナを見た。東洋人なので船旅をしてきたと思われたのかもしれない。

「じゃあ五日後に三人分、お願いしましょうか」

 ヴァルルシャの言葉にユージナもリユルもうなずき、財布を取り出そうとするが、男性の言葉に手が止まる。

「島へは長く滞在するのかい? 島へ行ったその船で五日後に戻ってくるなら帰りの切符もここで用意できるけど、もっと長く滞在するなら帰りの切符は島の切符売り場で買うことになるけど」

 三人は顔を見合わせた。

「五日で指輪が見つかるとは思えないし、せっかく島に行くんだからいろいろ見て回った方がよくない?」

 リユルの言葉にユージナもヴァルルシャもうなずいた。

「そだね。観光もしようよ」

「ええ。ひとまず片道でいいですよね」

 三人は片道の切符を申し込み、1,000テニエルを取り出す。カウンターの男性は切符の手続きを始める。

『コハン――ルフエ島』『自由席』『 月 日出航(予定)』と印刷されたチケットに、手書きで『四月二十二日』と書き込む。

「五日後の天気が悪かったら朝のうちに確認に来てね。延期かどうか教えるから」

 カウンターの男性はそう言って切符を三人に手渡した。

 切符売り場を出ると夕方近くになっていたので、三人は夕飯を食べる店を探した。やがて、湖で捕れる魚などを扱う料理屋を発見したのでそこに入る。賑わう店内の奥のテーブルで三人はメニューを広げる。

「魚以外にも貝とかあるね。海産物……いや、海じゃないで、湖産物?」

「確か、湖とか川で捕れるものは水産物って言いませんでしたっけ?」

「ああ、確かそうだったよね。それにしてもおいしそう。『二枚貝のスープ』『巻貝の煮物』『フルーエ海老の姿焼き』……あ、これだけ固有名詞が書いてあるね」

 リユルがメニューの『フルーエ海老』の文字を指さした。三人の目には、日本語訳されたその名前が映っている。

「『伊勢海老』のように、名前に地名が付いているので、我々が『フルーエ湖』の名前を知ったから固有名詞が翻訳できた、ということでしょうか」

 ヴァルルシャが他の客に聞こえないように二人に顔を近づけて言った。

「かもしれんね。響きは『オマール海老』っぽいけど……あれ? でも、湖に海老っておったっけ? 淡水におるのってザリガニじゃあ……。それともザリガニって海老だっけ?」

 ユージナも声を潜めてそう返した。

「どうだっけ……見た目似てるし近い種類な気もするけど、何にしても異世界の生物だし、湖に海老が住んでたっておかしくないよ」

 リユルが言い、二人もうなずいた。

「そうですね。じゃあ、せっかくですし、どんな味なのか一匹頼んで三人で分けてみましょうよ」

 ヴァルルシャは姿勢を戻し、改めてメニューを選び始めた。

 三人は葉野菜のサラダ、パン、魚のスープ、二枚貝のパスタなどを注文し、フルーエ海老の姿焼きも頼んだ。フルーエ海老ははさみの大きな大型の海老で、三人で分けても十分な量があった。

 食事を終えた三人は宿に戻ってくつろぎ、明日も朝の六刻に起きることにして眠りについた。

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