第四章 02 フルーエ湖
02 フルーエ湖
四月十三日の朝、予定通りの時間に三人は起き、身支度を始めた。
着替えを済ませて隣の食堂に行き、朝食を食べた。朝食はパンとサラダとスープで50テニエルだった。
食堂は朝の間は弁当用のはさみパンも売っていた。パンに野菜とハムやソーセージをはさんだもので、標準サイズが50テニエル、大きめサイズが70テニエルだった。瓶詰の果汁なども20テニエル前後で売られている。
三人は弁当を買い、宿に戻って荷物をまとめた。
ユージナとリユルの生理ももう七日目なので、量はかなり減っている。布ナプキンも小さい物で事足りるので、洗うのも楽になっていた。昨晩の分も薄手のハンカチより小さい布一枚で済んだ。寝間着から服に着替えた後、すぐに風呂場の横に行って洗って干したが、朝食をとっている間に乾いていた。それも忘れずに回収し、荷物に入れる。
ユージナ、リユル、ヴァルルシャはそれぞれの荷物を持ち、部屋の鍵を受付に返して宿を出た。
「今日も晴れとるね。昨日ヴァルルシャが言ったとおりだ」
「風も気持ちよくて、歩くのにちょうどいい天気ですね」
「これなら今日中に余裕で次の宿に着きそうだね。じゃ、行こっか」
三人は街道を北へと歩き出した。街道の周りには畑が広がり、街道沿いに定期的に公衆トイレがあるのも昨日と変わりなかった。三人は昨日と同じように休憩しつつ街道を行き、昼には弁当を食べた。そうして夕方になる前には次の宿に着いた。
次の宿も最初の宿と同じような作りで、隣には食堂と厩舎があった。三人は同じように食事をし、一晩休んだ。
三人は翌日も同じようにフェネイリからコハンに続く街道を移動していった。街道沿いに五つあるという宿屋に順番に一泊しつつ、北への距離を進めていった。移動中、雨には降られなかったので徒歩での移動も苦労しなかった。
四月十七日、五つ目の宿を発った三人は、前日と同じように街道を北に進んでいった。昼には弁当を食べ、休憩してまた先に進む。ユージナとリユルの生理はすでに終わっていた。
「そろそろ町が見えてくるかなあ?」
夕方にはまだ早い時刻、道を歩きながらリユルが言った。
このまま歩いていけば、次に見えてくるのは街道沿いの宿屋ではなく、コハンの町のはずだ。
「町よりも先に湖が見えてくるかもしれませんね。大きい湖だそうですから」
ヴァルルシャが少し背伸びをしてみるが、まだどちらも見えてこなかった。
街道は平坦だが多少の起伏はあり、時折カーブもある。周りは畑だが、木の茂っているところもある。人通りがあるので魔物の出る気配はないが、一直線にどこまでも見通せるという景色ではなかった。
それでももうしばらく進むと、道は緩やかな上り坂になり、それを昇りきったとき、視界が開けた。
「うわーっ……」
三人は声を上げた。
なだらかな下り坂の先に建物が集まっているのが見える。コハンの町だ。
そしてその先に、まるで海のように水平線が広がっている。
空の青を反射しているのか、水の色は青く、湖があると知らなければ海が見えたかと思うほどだ。
「大きい湖って言われてたけど、ほんとに大きいね。海みたい」
リユルがそう言って息を吐く。フルーエ湖は想像をはるかに超えて大きかった。
「うん。琵琶湖より大きいんと違う?」
ユージナが、近くには自分たちしかいないことを確認してから二人に尋ねた。
日本人の作者にとって、大きい湖として馴染みがあるのは琵琶湖のはずだ。三人は作者の記憶から琵琶湖の姿を頭に思い浮かべてみる。だが、目の前の湖はそれよりもはるかに大きいようだ。
「日本のような島国規模の湖ではなく、大陸規模の湖なのかもしれませんね。カスピ海とか……ええと、五大湖とか」
ヴァルルシャが現実世界の大きな湖を例えに出そうとするが、詳しい名前や具体的な大きさは頭に浮かんでこなかった。作者が詳しいことを覚えていないのだろう。
「多分そのぐらい大きいんだろうね。てことは、中に浮かんどるルフエ島もでかそうだね。うちなんとなく、日本の離島みたいなのをイメージしとったんだけど」
「あいもそう思ってた。でもこの様子じゃ、島っていっても県一個分ぐらいとか、もしかしたら北海道ぐらいあるのかもしれないね」
三人はひとしきり驚き合った後、緩やかな傾斜を下りはじめた。




