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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第四章
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第四章 01 再始動

第四章


01 再始動


 四月十二日、朝の六刻。ユージナ、リユル、ヴァルルシャの三人は同じ時間に起き、身支度をして荷物をまとめた。宿の一階に行き、受付に今日で宿を発つことを告げて部屋の鍵を返す。

 六泊した宿を出て、三人は近くの店で朝食をとる。それから開いている店を見つけて弁当を買い、町の大通りを北に向かって歩き出した。大通りはそのまま北行きの街道になり、コハンに続いているはずだ。

 しばらく進むと、貸馬屋が見えてきた。北の街はずれだ。道に馬車が準備され、客が乗り込んでいく姿も見える。今回は徒歩で移動するので、三人は貸馬屋を通り過ぎた。

 町の中は地面が舗装されており、町の外に出るとむき出しの土になっている。だが四日前に雨が降ってからは晴れが続いているので、地面は乾いており、歩きやすかった。

 街道は馬車の数倍の広さがあり、道の先を見渡すと徒歩で移動している人が幾人も見えた。三人もその一員になり、徒歩で街道を進んでいく。道の左右には木が茂り、その周りには畑が広がっていた。

「葉が青々と茂ってるね。なんの作物なんだろう」

「よくわからんけど、栄養いっぱいに育っとる感じがするね。天気もいいし」

「農家の方が丁寧にお世話されてるんでしょうね」

 畑の向こうには、農村らしき集落があるのが見えた。外に出て作業をしている人も見える。人通りがあるので魔物の気配はなく、穏やかな田舎道といった風景だった。

 街道沿いにはところどころに公衆トイレが設置されていた。近くに木のベンチが置かれていることもある。そこは街道を行く人の休憩所になっていた。トイレは有料で、10テニエル銅貨を一つ入れてレバーを回すと鍵が開く仕組みになっている。ユマリに教わったような自動で清掃される仕組みは見当たらなかったが、トイレは清潔が保たれていた。おそらく近くの集落の人間がトイレを管理し、こまめに掃除や消耗品の補充に来ているのだろう。高級トイレではないので使用料も安く、道行く人がよく利用していた。

 頻繁に掃除に来るのは手間がかかるだろうが、自動清掃機能付きの高級トイレを設置しても、あまり料金を高く設定するとトイレを使う人が減り、隠れて畑に粗相をする者もいるかもしれない。魔物が出る危険な森の中とは違うから。街道沿いのトイレは今までに見た物もだいたいこのぐらいの値段だった……。三人はそんな会話をしつつ、適度に休憩しながら街道を北へと進んだ。

 昼頃に公衆トイレのある場所で弁当を食べ、体を休めつつまた進んでいくと、夕方より前の時間には最初の宿屋が見えてきた。

 人間用の宿屋と馬を休ませる厩舎、それから食堂。それらの建物がいくつか集まっており、人々が利用して賑わっている。三人を馬車が追い抜かしていくが、今日はこれ以上街道を行かないのだろう、宿屋の前で停まり、客を下ろすのが見えた。

 三人も宿屋の前にたどり着く。今晩の宿泊を申し込み、一人500テニエルを支払って部屋の鍵をもらう。宿屋の構造は他の町と変わりなく、ベッドと荷物置き場だけの個室があり、風呂とトイレは共同だった。三人はそれぞれの部屋でしばらく休憩し、ユージナとリユルは風呂の横の洗い場に行って布ナプキンを洗って干した。

 夕方になるころ、三人は食堂に移動した。食堂は宿の隣にあり、十数人ほど入れそうな建物が複数あった。どこも半分くらいは客が入っており、魔物狩り屋や御者らしき人々が食事をしていた。皆、今夜はここで泊まるのだろう。

 三人ともずっと徒歩で移動してきたので空腹だった。食堂のメニューはパンにサラダ、肉野菜炒めに肉野菜スープなど、選択肢はそれほど多くないが温かくおいしい料理があった。三人はそれぞれ120テニエルほどの料理を食べた。

 季節の果物20テニエルというメニューを追加で頼んだリユルが、運ばれてきた柑橘系の果物を手に取りながら言った。

「それにしても今考えると、リスタトゥーの宿屋の夕食込みで500テニエルって結構安かったんだね。夕食無しでも、朝食付きで400テニエルだったもん」

 はちみつ入り牛乳20テニエルを飲みながらユージナもうなずいた。

「ここの宿屋も500テニエルだけど、朝食も夕食も付いとらんから隣の食堂でって言われたし、うちらこうして夕食だけで150テニエル近く食べとるもんね」

 一か月ほど前、闇の中から世界を動かし始め、自分たちのいる場所を宿屋の一室と決めた。宿屋の料金も自分たちで考え、夕食込みで一泊500テニエルと設定した。価格は現代日本のビジネスホテルを参考にした。

「ご夫婦で経営している宿屋ですから、食事は全員同じメニューですし夕食は事前に申し込みが必要でしたけど、それだって支度が大変ですよね」

 香りのいいお茶20テニエルを味わいながらヴァルルシャも答えた。

「町だと食事は近くの飲食店で、ってできるけど、一軒家の宿だとそこで全部まかなわないといけないもんね。宿の中に食堂も作ってあったし、食材は町から取り寄せてる、っておかみさんが言ってたし。それであの値段だもん、超良心的価格だよ~」

 リユルがそう言って柑橘の最後の一房を口に入れた。

「町の宿が高いのは、人が多くて需要が高いからなんでしょうけど……でも街道沿いの宿だって、無いと困るので需要は高いはずですよねえ……」

 ヴァルルシャの言葉を聞いて、ユージナが思い当たった。

「あっそうだ、リスタトゥーの宿屋って、街道沿いだけど魔物の出る森のそばに作られとったでしょ? 貸馬屋で馬車のこと聞いたときに、ファスタンとギョーソンをつなぐ街道には真ん中あたりに馬と人間の宿屋兼休憩所があるって言っとったことない? だで、あんまり宿代を高くすると、リスタトゥーの宿屋に泊まらずにそっちの宿屋に泊まる人が増えるで、安めにしとるんじゃない? 魔物狩りができるとはいえ、ちょっとファスタンまで行って北へ行けばそこにも魔物はおるんだでさ」

「ああ、そういう理由もあるのかもしれませんね。それにギョーソンは漁村で、その先に町はないそうですから、ファスタンからギョーソンへ行く人はそこまで多くないのかもしれませんね。だから土地の値段などが安くて宿代も安くできるのかも」

「RPGじゃ宿屋なんて定番設備で、深く考えずに利用してたけど、リアルに考えると宿屋経営って大変なんだなあ。あい、宿屋のおかみさんとか絶対やれないわ~」

 リユルが周りの客に聞こえないか確認しながらRPGという単語を口にした。

「フェネイリとコハンの間は、そこそこ人の行き来があるで宿もこのぐらいの値段なのかもしれんね」

 そう言ってユージナがはちみつ牛乳の最後の一口を飲み干した。

「コハンまで、あと四つこういう宿屋があるんですよね。価格もここと同じぐらいでしょうね。……この街道沿いには魔物狩りができるところってあるんでしょうか。後で聞いてみましょうか」

 ヴァルルシャはそう言って手の中のお茶のカップを空にした。

 夕食を終えて一息つき、三人は宿に戻った。

 宿の受付で尋ねると、フェネイリとコハンの街道沿いには魔物狩りのできるところは無いということだった。だがフルーエ湖は広いため、コハンの町が接しているのはフルーエ湖の湖畔の一部だという。町から離れた湖のほとりは木々が生い茂っているところもあり、ひと気が無いので魔物が出たりするそうだ。三人はそれを聞き、コハンに着いたら周辺で少し魔物狩りをしようかと話し合った。

「じゃあ明日も今日と同じぐらいに起きて、次の宿屋まで移動するってことでいい?」

 部屋に戻りながら、リユルがユージナとヴァルルシャに聞いた。

「うん。明日も晴れるといいね」

「雲がそんなにありませんでしたから、明日も晴れると思いますよ」

 目覚まし時計は朝の六刻、現代の七時半に合わせたままだ。

「明日に備えてうちは今日も早めに寝ようかな。ヴァルルシャはまたイクーサをやるの?」

「ええ、一人で詰めイクーサを考えているのも楽しいですから」

 ユージナとリユルはフェネイリにいる間は早く就寝していたが、ヴァルルシャは部屋で一人、詰将棋のようにイクーサを並べて遅くまで起きていた。そのため朝起きるのが少しゆっくりしていた。

「やるのはいいけど、寝坊しないでね。あいも早く寝るつもりだから」

「はい、ほどほどにしておきます」

 三人は部屋で休憩し、風呂に入ってくつろぎ、眠った。

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