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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第一章
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第一章 03 この世界の暦


03


 カフェを出て、道の向こうの文房具屋の看板を目指す。歩いていくにつれ、『文房具・各種あります』という文字と、インクと羽ペンの絵が描かれた看板が近づいてくる。

 さっきも視界に入っていて見過ごしたのか、三人で文房具の設定を考えたことでこの店が現れたのかはわからないが、見つかったのだから入ってみよう。三人はそう話しながら店の前に着いた。

 晴れているので、店の扉は大きく広げられている。店内には、様々なサイズのノートや筆記具が並べられているのが見える。

「いらっしゃい」

 三人が店に入っていくと、穏やかそうな年配の男性が奥から声をかけた。店主だろう。店に他の客はおらず、落ち着いた雰囲気なので三人も静かに品物を選ぶ。

「ノート、いろいろあるね」

 リユルが静かな声で言う。ノートはメモ帳サイズからスケッチブックサイズまで何種類もあり、表紙の色も様々だった。中身は、無地の物と、罫線が印刷されているものと二種類あった。価格は、小さめの物なら一冊50テニエル前後、罫線があったりサイズが大きかったりするとそれに比例して値段も上がっていった。

「あ、鉛筆だ」

 ユージナが静かに声を上げる。そこには、現代日本にもあるような、木で芯を包んだ鉛筆が並べられていた。一本10テニエル。

 現代日本の価格に比べれば高いが、高級品というほどでもない。三人はそれぞれ気に入ったノートと鉛筆を選ぶ。鉛筆売り場には削るための小刀も置いてあった。一本100テニエル。それから布や革製のペンケースが、100から500テニエルぐらいで売られていた。

 羽ペンやインク壺は旅には不向きだが、形や色がきれいなので三人はその棚も眺める。

「あ、手帳がありますね」

 その先の棚を見てヴァルルシャが言う。そこには、ノートではなく手帳と呼ぶのがふさわしいような、革張りで手に収まるサイズの冊子が並べられていた。

 ヴァルルシャはその中の一つを手に取り、開いてみる。

 そこには、『一月』『二月』『三月』……と、暦が印刷されていた。

「!!」

 ヴァルルシャは目でユージナとリユルを呼び寄せ、手帳の中身を見せる。二人も声には出さないが、目を見開いて驚く。

 この世界の暦はどうなっているんだろう。さっき話していたものの答えが、そこにあった。

 ヴァルルシャの指がページをめくるが、『十月』の次のページは、また『一月』となっていた。

 そして、それぞれの月は、どれも同じように一日から三十日までの枠があった。

「私、これも買います」

 ヴァルルシャはノートに加え、手帳も買うことにした。ノートより高く、300テニエル。

 店を出て、じっくり確認しよう。三人は目でうなずき、まずは会計を済ませた。

 紙袋に入れて渡された品物を持ち、三人は店を出る。人通りのない路地裏に移動してから、我慢していた興奮をあふれさせる。

「月が!! 月が十か月しかないの!?」

「しかも一か月は全部三十日なん!? 三十一日とか二十八日とかにならんの!?」

「とにかく、もう一度確認してみましょう!」

 ヴァルルシャが購入した手帳を取り出す。店頭でパラパラめくったときとは違い、一枚目からじっくりめくる。こげ茶の革の表紙を開き、淡い色の遊び紙をめくると、白っぽい本文用紙が現れる。最初の見開きはただ横に罫線が引かれ、ノートのような状態だった。

 次の見開きは、カレンダーのようなマス目で区切られていた。しかし、現代日本で見られるカレンダーとは姿が異なっていた。

 現代日本のカレンダーは、横に七つのマスがあり、七つの曜日が割り振られているはずだ。

 しかし目の前の手帳にあるマス目は、横に五マス、縦に六マスという形で、三十個の四角が並んでいた。

 マス目ごとに数字が書かれているのは現代日本のカレンダーと同じだったが、空欄は一つも無かった。

 一番上の行が、左から右に1、2、3、4、5、と書かれ、改行している。

 二番目の行が、左から右に6、7、8、9、10と書かれ、また改行している。そうして五×六のマスに三十の数字がぴったりと収まっていた。

 ページの左上には『一月』と書かれていた。見開きの左右の割り振りは、左のページに三列、右のページに二列。右ページの右端は縦一列分が余白で、メモなどが書けるようになっていた。

 次のページを開くと、左上の文字が『二月』となっていることだけが異なる、同じ形状のマス目と数字が並んでいた。

 そうして、『十月』まで続くと、その次はまた『一月』が始まっていた。一月から十月までのページを二周して、残りのページはまたノートのような罫線になっており、手帳の内容は終わった。

 手帳一冊から得られる情報が多すぎて、三人は何から話そうか迷うが、やがてユージナが言った。

「えっと……最初のページに西暦何年とか書いとらんのだね。西暦なり和暦なり、そういうものがこの世界には無いってこと?」

「無い……ことはないんじゃない? だって何年に生まれて今は何歳、とか話す時に必要でしょ? それを印刷しちゃうとその年にしか売れないから、手帳に書かれてないだけじゃない? だって、月の始まりがずっとページの左上なんだもん」

「曜日が無いので、年ごとに同じ日の曜日が変わる、ということが無いのでしょうね。ならば年ごとに手帳を作り替える必要がありませんものね」

「これ見ると、一か月が常に三十日になっとるよね。そんで、一年は十か月できっちり終わりってこと? うるう年とかそういうの全く無しで? つまりこの世界の一年は三百日ってこと?」

「十月の後にすぐ一月が始まるし、そういうことだよね……。確かに一年が三百六十五日っていうの、半端な数だとは思うけどさあ」

「異世界の暦なので、わかりやすい設定になっているということでしょうか。週も……曜日という概念が無いなら週という区切りがあるかもわかりませんが、カレンダーの改行が七日単位でなく五日単位ですよね。見やすいと言えば見やすいですが、日曜日は休み、のような風習は無いのでしょうか」

「マスを縦に見てくと、5、10、15、20とか、4、9、14、19、ってなっとるよね。5と0の付く日は休みとか、4と9が付く日は特売とか、そういう区別をしとるんかな? もし五日ごとに休みなら、日曜日ごとに休み、より回数が多くていいね。週休二日がこっちにもあるのかはわからんけど」

「週はそうだとして、一月二月って区切りは月の周期を基準にしてるんだよね。夜になると空に月が出るし満ち欠けしてるみたいだから、それが三十日で一回りするのかな? それを十回繰り返すと元に戻って一年、この世界ではそういう周期って考えればいいの?」

「このカレンダーを見るとそういうことですよね。一年はきっかり三百日、現実世界の三百六十五日より短いんですね」

「あいが十九歳でユージナが十八歳でヴァルルシャが二十一歳でしょ? それってこっちの暦での歳? それとも一年が三百六十五日の方? 作者が設定した時点では、あいたちに自分と同じ暦を当てはめてただろうから、そっちでの歳かな? 一年が三百日ってことは、約六分の五だから……」

「ちょっと計算してみましょう」

 ヴァルルシャが、手帳の余白のページを開いた。

 買ったときには気づかなかったが、この手帳は背表紙のところに細めの鉛筆が内蔵されているタイプだった。その鉛筆はすでに削られていたので、すぐに書くことができた。

 自分たちの歳が現実世界の暦での年齢なら、この世界の暦に換算すると何歳なのか。

 19×365=6,935。それを300で割ると、約23歳。

 18×365=6,570。それを300で割ると、約21歳。

 21×365=7,665。それを300で割ると、約25歳。

「うるう年は省略しました。誕生日からどれだけ過ぎたかでも違ってきますし、そもそも私たちの誕生日っていつでしょうね」

「そんな設定、されとらんと思うよ……。でも、三百日換算だとうちらの歳、結構上がるね」

「あいたちの歳がこの世界の暦でのものなら、現実世界だと何歳になるの?」

 ヴァルルシャはもう一度計算する。

 19×300=5,700。それを365で割ると、約15歳。

 18×300=5,400。それを365で割ると、約14歳。

 21×300=6,300。それを365で割ると、約17歳。

「ちょっと幼すぎだなあ……。てことはやっぱ、あいたちの年齢設定は現実世界の暦の物なんだろうね」

「そうですね。となると我々が年齢を聞かれた場合、三百日換算の年齢を言った方がいいんでしょうね」

「なんかややこしいけど、でも異世界だもんね。現実と同じ暦をつかっとる方が不自然なのかもしれんね」

「わかりやすく年齢を換算して表にした方が、とっさの時に困らずに済みそうですね」

 ヴァルルシャはそう言ってまた計算を始めた。この世界での年齢に300を掛け、それを365で割って、現実世界のだいたいの年齢に換算する。

 5歳/4歳

 10歳/8歳

 15歳/12歳

 20歳/16歳

 25歳/20歳

 30歳/24歳

 35歳/28歳

 40歳/34歳

 45歳/36歳

 50歳/41歳

 55歳/45歳

 60歳/49歳

 70歳/57歳

 80歳/65歳

 90歳/73歳

 100歳/82歳

「十代から三十代だと五歳ほど、四十代から六十代だと十歳ほど、それ以降だと十五から二十近くの差が出てくるんですね」

「一年が六分の五、つまり約八割ってことだもんね。積み重なると大きいんだなあ」

「この世界の成人年齢の基準とかも違ってくるかもしれんね。この世界の二十歳が現実世界の十六歳か……。でも昔の日本も十代で元服しとったはずだし、当時は数え年だで満年齢の十六歳ぐらいが成人扱いでもおかしくないか」

「結婚する年齢も早いかもしれないね。で、来月の五月十五日が王様の結婚記念日……。あ、そういや今日って何月何日なんだろ」

 そこまで話し、リユルがそのことに気づいた。

「ああ、手帳を買うときに聞けばよかったですね。今から戻って日付だけ聞くのは……ちょっと不自然ですかね」

「うーん、また別のタイミングがあるんじゃない? 銀行とか、まだ行っとらんところもあるしさ」

「それもそうか。にしても、文房具屋だけでもすっごい情報量だったね」

 リユルの言葉に二人もうなずいた。そして宿を目指しつつ、行きたい店も探してまた歩き出すことにした。

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