第三章 01 腹痛
第三章
01 腹痛
四月六日の朝、三人は船室で心地よく目覚めた。夜の間は何事も起こらなかったようだ。船はすでに動き出しており、昨日のトラブルなど無かったかのようにフェネイリに向けて進んでいた。
三人は身支度を済ませて食堂に向かう。朝食は今日もはさみパンとジュースだったが、昨日とは食材が違うので別の味を楽しむことができた。
食後に甲板でくつろいでいると、同じく朝食後らしいユマリと顔を合わせた。
「おはよう。昨日はよく眠れたかい?」
「はい。昨日は遅くまでありがとうございました」
そう答えるリユルの横にユマリはやってきた。挨拶を交わし、四人で船の進行方向を眺める。
「船の進みは順調だな。予定通り夕方までにはフェネイリに着きそうだ。きみたちはルフエ島には何で行くつもりだい?」
ユマリに聞かれ、三人は顔を見合わせる。
「そういえば考えてなかった……ルフエ島ってフェネイリから遠いんですか?」
リユルがユマリに尋ねる。国王が配ったチラシには、ルフエ島はフェネイリの北、ぐらいの情報しか書かれていなかった。三人ともルフエ島の情報はあまり事前に調べないようにと思っていたので、具体的な行き方を考えていなかった。
「フェネイリの北の街道をまっすぐ進むと、ルフエ島のあるフルーエ湖の湖畔にある、コハンという町に着く。街道沿いには宿屋と馬の休憩所がいくつもあって、馬車だと二、三日、徒歩だと、六日ぐらいかかるかな。コハンからルフエ島行きの船が定期的に出ているよ」
ユマリは丁寧に教えてくれた。
「ここに来るまでに馬車代も船代も結構使いましたし、徒歩ですかね」
ヴァルルシャがリユルとユージナに言い、二人はうなずく。
「そうか。私はフェネイリに着いたら、馬車で日が暮れるまでコハン方面へ進もうと思ってるんだ。町に着いたらお別れだな。短い間だけど楽しかったよ。ルフエ島でまた会ったらよろしくな」
こちらこそありがとうございました、と答える三人に別れを告げ、ユマリは船室に戻っていった。
「ユマリさんかあ。また会えるといいな」
ユマリを見送って三人だけになった後、リユルが言った。
「行き先は同じですから可能性はありますよ。それにしても、湖畔にある町の名がコハンとは……。この世界の言語だと違和感が無いんでしょうけどね」
「湖畔の町、コハン。あいたちだけはその響きがひっかかっちゃうよね」
ヴァルルシャとリユルは笑うが、ユージナは笑わない。それに、先ほどから口数が少ない。
「……どうしたの?」
リユルが尋ねると、ユージナはおもむろに口を開いた。
「やっぱ……お腹痛い……かもしれん……」
そう言ってユージナは自分の下腹に手を当てた。
「食あたりですか?」
ヴァルルシャの言葉に首を振り、ユージナは答える。
「ちょっと前から何となくそんな気はしとったんだけど、そこまでひどくないから昨日も魔物と戦えたんだけど、やっぱますます腹重くなって来とるわ……」
「あ、生理か!」
そう言うリユルにうなずき、ユージナはため息をつく。
「腹に血の詰まった袋がある……って感じ。薬で止めとっても、そろそろこの血を出さんと腹が重くてしゃあないわ」
作者が中世ヨーロッパ風ファンタジーでトイレの設定を決めていなかったように、生理用品の設定ももちろん決めてはいなかった。しかし、設定が固まっていなくても人間の体には排泄が必要だし、女の体には月経が起こる。
この世界で初めて出血した時、ユージナとリユルは急いで生理用品について話し合い、布ナプキンで処理する方法と、ピルのような薬がある設定を考えた。
薬については、まず『月経停止薬』という、一日一錠を飲んでいる間は生理が来なくなる薬を考えた。それから『月経開始薬』という、来そうで来ない生理をすぐに開始させる薬があったら便利だ、という希望から、この世界にはそういう薬があることにした。薬に関しては、異世界なのでそういう作用を持つ植物がある、と考えて便利な設定を作ることにした。
その後、ユージナとリユルが自分の荷物を探ると、その薬や生理用品が見つかった。二人は布ナプキンで経血を処理し、生理が終わってからは毎日一錠ずつ月経停止薬を飲んでいた。
しかし、前回の生理から一か月ほど経ったので、そろそろ月経停止薬を飲むのをやめ、生理を再開させないといけないようだ。
「あいはまだお腹痛くないけど、ユージナと同じ時期に生理だったもんね。タイミング合わせた方がいいし、フェネイリに着いたら月経開始薬、飲んでみようか。で、何日かフェネイリでゆっくりしようよ」
生理の時は体調を崩したり気分が悪くなったりする。コンディションの悪い時に魔物退治の旅をするのは効率が悪いので、生理の時は魔物退治を休もう、と前回の生理の時に三人で話し合った。
前回はユージナもリユルも自然に出血したので、月経開始薬は飲んでいない。だが、生理で魔物退治を休むのならば、女二人が同じタイミングで生理になった方が良い。月経開始薬を飲めばそれが可能なはずだ。
「ごめんね……このところ馬車にも船にもいっぱい乗っとるのに、すぐに魔物退治に行けんで……」
肩を落とすユージナに、二人が言った。
「魔物は昨日たくさん倒しましたから。それに、最近は移動ばかりで落ち着いて町で過ごす時間がありませんでしたからね。たまにはゆっくりしましょう」
「そうそう、セカンタもフーヌアデも、通り過ぎるだけだったもんね。フェネイリって港町だし、いろんな品物が入ってくるんじゃない? 生理の軽い日には観光して回ろうよ」
「うん……ありがと」
ユージナは微笑み、三人は船室に戻ることにした。




