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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第一章
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第一章 02 この世界の筆記用具

02


 厚切りのパンにバター、香辛料の利いた肉に、新鮮な野菜のサラダ、豆の入ったスープに、みずみずしい果物。

 近くに農地があって食べ物が豊富なファスタンの町で、三人は昼食を堪能した。

「目的ができたから食欲も出てきたなあ。あい、たくさん食べちゃった」

「うちら、鑑定屋を出た時はぼんやりしとったもんね」

「食欲があるのはいいことですよね」

 空になった皿を前にして、三人は食後のお茶を飲みながら休憩しているところだった。

「そういえば私、筆記用具が欲しいと言いましたが、この世界の筆記用具ってどんなものなんでしょうね。羽ペンは宿帳の記入などで使いましたが……」

 ヴァルルシャが、近くに人がいないのを確認してから言う。

 三人は橋を渡る前に、川沿いにあるカフェに入った。客席は八割ほど埋まっていたが、三人の隣のテーブルの客は先ほど食事を終えて店を出たところだった。

 リユルとユージナも周りを確認してから答える。

「羽ペンってちょくちょくインク壺にペン先をつけないといけないよね。旅に携帯するには不便だよねえ」

「日本じゃ矢立っていう、筆と墨を携帯する道具があったみたいだけど、ここは中世ヨーロッパ風の異世界だもんね。あっでも、うちは嘘っぱち江戸時代が基本設定だけど、そういえば江戸時代って中世? 近世?」

「江戸時代って、結構長く続いてましたよね。幕末あたりなら近世と言っていいと思いますが、ユージナさんがどのあたりの江戸時代を想定されていたかは……」

 ヴァルルシャはそこまで言い、ユージナの返答が想像つくので言葉を切る。

「そんな詳しい設定、もちろんされとらんよ……。きちんと時代考証する作者なら、うちはもっとリアルな着物を着とるよ」

 ユージナが苦笑する。

「でもさ、決まってないってことはどうとでも決められるってことじゃない。ユージナが江戸時代後期をモチーフにしてるってことにすれば、中世ヨーロッパ風ファンタジーとはいえ、この地方もユージナの時代に合わせて近代の物を出してもいいんじゃない? ていうか、現実の中世ヨーロッパじゃなくて異世界なんだから、不自然でなければ『この世界ではこの時代にこの道具が開発されました』ってことにすればいいんだよ」

 リユルの意見に二人はうなずいた。

「となると、この世界における筆記用具の状況を考察する必要がありますね。とりあえず、こうしてチラシを印刷して無料で配っているわけですから、印刷技術と、ある程度の紙はあるわけですよね」

 ヴァルルシャが先ほど受け取ったチラシを取り出して言う。

「ファンタジーでよく出てくる紙って羊皮紙だけど、あれって本物の動物の皮なんだよね? 作者が本物を見た記憶は無さそうだからはっきりとはわからんけど、これは植物性の紙っぽいよね」

 ユージナがそのチラシを触って確かめる。リユルもチラシの材質を確認し、うなずく。

「トイレットペーパーにも少しは紙が使えるし、こうしてチラシで配ってるし、お店で買い物をすると紙袋をくれたりするし、紙がそこまで貴重品ではない世界なんだよね」

 トイレは、基本的にはウォシュレットだが、紙も少しは設置されている設定にした。備え付けられたホースから出る水で体を洗った後、水気を拭くための紙だ。

「紙がそれなりに流通しとるってことは、紙の材料になる植物が入手しやすいってことだよね。魔法で水が得られる世界だで、作物も育てやすいのかもしれんね」

 この世界では、魔法は魔法屋で購入すると使えるようになる。その際に精霊のストレスが発生するため、料金に税金が上乗せされている。魔法の習得後はその人間の精神力で魔法を使うため、精霊のストレスにはならないし、どこかにお金を払う必要もない。そして、発動した魔法はすぐに消える。魔物に魔法の炎をぶつけて攻撃しても、炎はすぐ消えるため周りに延焼することはない。

 魔法で出した水を飲むなど、魔法の効果を後まで残す場合は、精霊の力が必要となる。

 精霊の使う『残水の魔法』は、人間が魔法で出した水が消えなくなる効果を持つ。残水の魔法がかけられた上水タンクは各建物にあり、残水の魔法がかかった水筒もあちこちで売られている。もちろんそれを作るのは精霊のストレスになるので、値段に税金が含まれている。

 だから中世ヨーロッパ風ファンタジーでも水洗トイレが使えるし、旅をするのにも、そこまで大きな水筒は必要ない。

 精霊のストレスは世界のどこかで魔物になり、魔物を退治すると税金から報酬が貰える。このコオンテニウの世界はそういう仕組みだと、三人で考えて決めた。

「確かに、水の入手にそこまで困らないというのは重要かもしれませんね。水源が無い土地や日照りの時でも作物が育てられるわけですから」

「じゃあ、手帳とかノートとか、紙に関しては庶民が普通に買えるぐらいの値段で町にも売ってそうだよね。あとは書くものの方だけど……」

 リユルがそう言いながらチラシの文字を触る。

「これは印刷してあるんだよね。グーテンベルクが活版印刷をどうこうって話は作者も知ってるけど、詳しい印刷方法とかは知らないみたいだよね」

 リユルが目を閉じて作者の記憶を探る。ユージナとヴァルルシャもそうしてみるが、作者が知らないことは自分たちの頭にも浮かんでこない。

「日本の瓦版は木を彫って文字や絵を刷っとるよね。刷り方がどうだとしても、こうやって印刷するインクはあるってことだよね」

「宿屋などでも羽ペンとインク壺は差し出されますからね。ただ、携帯できる形状があるかと言うと……。万年筆のように、ペンにインクカートリッジを内蔵して持ち運びたいという需要はあるでしょうが、技術が付いてくるかですよね」

「インクがぼたぼたこぼれてきたら嫌だもんね。書くときにインクが垂れるのもそうだし、あいたちみたいに旅をしてたらそれなりに移動で振動するだろうし、荷物の中でインクが漏れたらひどいことになるもんね」

「いっそ、羽ペンとインク壺を持ち歩くとか? でもそれも壺が割れたら困るか。あんまり高性能な万年筆を設定すると世界観が狂いそうだし、ボールペンなんかもっと出せんよねえ……。あっそうだ、ペンじゃなくて鉛筆は? 鉛筆ならインク漏れること無くない?」

 ユージナがそう思いついた。

「そうか、ペンにこだわることはありませんでしたね。鉛筆の方が万年筆よりもシンプルな構造ですし、中世風の異世界にあってもおかしくなさそうですね」

「鉛筆の芯って、ダイヤモンドの親戚みたいな成分だったよね? そういう物質さえ見つかってれば、木で挟んで鉛筆の形にするのは誰かが思いついてもおかしくないよね。削るのも小刀があればいいし。あ、てことは、消しゴムもあるのかな?」

「昔はパンを使って消していたそうですし、現代日本でもデッサンには消しゴムでなくパンを使うと言いますよね。ということはこの世界でもそうなんでしょうか?」

「あ、でも、ゴムが無いわけじゃないよね。うちニーソックス履いとるし……。きみらも下着とかにゴム入っとるでしょ?」

「うん。最初にトイレの設定を考えた時は、トイレの設定だけで精いっぱいで自分の下着の構造まで考えてなかったけど、それで違和感がなかったってことは、現代日本の作者の知識で違和感のない下着、つまりゴムの入った近代的な下着だったってことだもんね」

 初期設定で水着のような服を着ていたため体を冷やし、慌ててトイレの設定を考えてトイレに駆け込んだリユルがその時のことを思い出す。

「作者が、好きなアニメやゲームに触発されてオリジナルのキャラクターをデザインしたのが我々とはいえ、下着までは設定されていませんでしたからね。ですので、実際に動き始めた私たちが無意識に、現代日本の一般的な下着の構造を自分の衣類に当てはめたんですよね」

「トイレのたびに紐をほどいたり縛ったりするのは面倒だし、伸び縮みする下着で良かった~、って後から思ったけど、それってつまり、この世界にもゴムひもがあるってことになっちゃったよね」

「うん。でも、ゴムって植物でしょ? だったら異世界にあってもおかしくないんと違う?」

「そうですよね。それに異世界の植物ですから、『現実世界のゴムの木に近いけれども、もっとゴムひもが作りやすい樹液が出る』とか、少しは都合のいい設定にしてもいいですよね」

 ヴァルルシャの言葉に、ユージナもリユルも笑った。

「うちらに必要なのは、リアルな時代考証じゃなくて、リアリティのある異世界だもんね。異世界なんだから、現実と違う植物が生えとってもおかしくないし」

「でもゴムひもの方に便利設定を適用するなら、消しゴムまで便利に作れちゃうと都合よすぎかな? ゴムって言ってもあれは『プラスチック消しゴム』で、なんかいろいろ混ざってるんでしょ? 詳しいことは作者の記憶には無いけど……。この世界では消しゴムじゃなく、パンくずを使ってるってことでもいいよね」

「私たちが旅に持ち歩くのなら、消す用品は無くてもいいですしね。書き損じは二重線で消すなりできますし。自分の記録や日記が書ければいいわけですから」

「……じゃあ、この世界には鉛筆と紙が普通に売っとって、町で庶民的な価格で買える、って考えて大丈夫かな?」

 ユージナが言い、ヴァルルシャもリユルもうなずいた。

「ふう、ようやく文房具の設定が固まったね」

 リユルが言い、三人は寄せ合って話していた顔を離し、椅子の背にもたれて一息ついた。

 今いるのは窓際の席で、窓は大きいがガラスではなく、木の板を開け閉めするタイプだった。天気がいいので、窓は大きく開けられている。

「ん……?」

 ヴァルルシャが声を上げる。今は四角いテーブルにユージナとリユルが並んで座り、向かいにヴァルルシャが一人で座っていた。そのヴァルルシャが二人を通り越して窓の向こうを見つめ始めた。二人が尋ねる。

「どうしたん?」

「何かあったの?」

「……あれ、文房具屋じゃないですかね……」

 そう答えるヴァルルシャが指さす先を、ユージナとリユルも振り返る。窓の向こうに見える、やや遠くにある店の看板には、確かに『文房具』と書いてあるように見えた。

「また設定したとたんに見つかったよ。都合いいねえ……」

「うちら、あの近くを通らんかったっけ? そん時からあの店あそこにあった?」

 そういうことは今までに何度もあった。道具屋を探し始めた途端に道具屋が見つかり、時間の設定を考え始めた途端に時計塔が見つかった。

「異世界の言語を日本語訳しているという建前ですから、文房具の設定が固まったことで、文房具屋の看板が我々の目に認識されるようになった……と解釈することもできなくはないですよね」

 何にせよ、食後のお茶も空になっていた。店が見つかったのだから行ってみよう。三人はそう話し、席を立った。


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