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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第二章
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第二章 09 魔物の出現


09


 目覚まし時計はセットしなかったので、三人は朝、ゆっくり目覚めた。身支度を済ませ、食堂に向かう頃にはすっかり日が昇っていた。四月五日の今日も海の上はいい天気だった。

 船の上では、風係が魔法で風を起こして帆を膨らませている。船はゆっくりとだが安定して進み、フェネイリの町を目指している。

 食堂でチケットを差し出し、朝食をもらう。はさみパンとジュースだった。

 三人は船の上でくつろぎ、ユマリとすれ違ったときは簡単なあいさつを交わした。やがて昼になり、食堂で昼食を食べる。具沢山のパスタだった。

「船旅って穏やかだねえ。でも天気がいいからか。雨とか降ってたらまた違うんだろうね」

 リユルがパスタを飲み込みながら言った。

「うん。風もあんまり吹いとらんで魔法の風で走らせとるけど、風の強い日だったら、風係の人は休めるかもしれんけど、船を操作する人は大変かもしれんね」

「魔法が無ければ帆船が進むのは天候次第でしょうからね。魔法は船の動力としても必要不可欠な存在なんですね」

 そんな会話をしながら食事をし、またゆっくりと過ごした。

 やがて日が傾き、空が赤く染まってくる。

 広いところで風景を眺めようと、三人は甲板にやってきた。

「食堂は混み始めましたね。私たちの夕食はもう少し後にした方がいいでしょうね」

「うん。日が暮れるまで夕焼けを見とろうよ。きれいだし」

「周りが海ばっかりだから、水平線に日が沈むところが良く見えていいよね」

 船は陸からまだ遠く、周りは海の青と空の青ばかりだった。それが夕焼けの赤に塗り替えられていき、夕日の反対側で、少しずつ、夜の闇が広がってくる。

 船は日が暮れる前に停泊の準備をしたのだろう、もう動いてはいなかった。

 青かった空と海が赤くなり、やがてどちらの色も暗く沈んでいく。そんな時間帯に、三人はいた。

「んっ?」

 ユージナが目を凝らす。

 水面が、ざわり、と動いたような気がしたのだ。

「どうしました?」

「いや……気のせいかな……」

 まだ周りは明るいとはいえ、真昼とは違う。見間違いかもしれない。それに、海面はいつも揺れているものだ。

「あの辺がどうかし……あれ?」

 リユルが、ユージナの眺めている方に視線を向ける。そしてやはり、目を凝らす。

「なんだか……変に揺れている気がしますね……」

 ヴァルルシャもそちらの方向を見て、そう言った。

「やっぱり? なんか変な感じしとるよね?」

 ユージナがもっとよく見ようと船べりに近づいたとき、水面がはじけた。

 魚ではないものが水面に顔を出した。

「魔物!?」

 三人は身構える。しかもそれは、水の中からいくつも現れた。

 そして船を取り囲み、船に突撃してくる。水面から飛び出し、船の側面に張り付く。

「人魚だ!!」

 甲板にいる別の誰かが叫ぶ声が聞こえた。

 現れたものは確かに、人と魚に似たところがあった。

 だが、人間の美女の上半身に魚の下半身を合わせた形ではなく、下半身は魚で、上半身も、魚に近かった。ひれが人間の腕のように変形していたり、目鼻口の位置が人間と近かったりはするが、美しいとはお世辞にも言えず、魔物と呼ぶにふさわしい姿をしていた。

「グロテスク系の人魚だ!!」

 ユージナが叫ぶ。ユージナの頭に浮かんだのは、日本の寺にあるような人魚のミイラだった。それが乾燥していない状態で動いている、そんな印象を受ける魔物だった。

 大きさは、人間の半分ぐらいだろうか。船の側面を昇り、船の上に上がろうとしている。

「船は魔物に襲われないように明かりをいっぱいつけるって、昨日ユマリさんが言ってたのに!」

 リユルが声を上げる。まだ辺りは完全に夜になったわけではないが、船の明かりはすでにともされている。

「確か夕方は、逢魔が時とも呼ばれますよね。魔に逢う時間……だから魔物が出てきたんでしょうか?」

 ヴァルルシャが言い終わったところで、ユマリの声がした。

「なんだこれは!」

 食事をしに来たのか異変を察して甲板に来たのか、ユマリが三人の後ろに立っていた。

「人魚の群れだと……。君たちには嘘を言う形になってしまったな。

 人間が大勢集まっているところには、『魔物はめったに現れない』はずなんだ。

 だが、ごくまれに、人間が大勢いる、つまり大量に餌食にできる、と思って魔物が集団で襲ってくることがあるらしいんだ。特に海の上は、町と違って人間の領域ではない。だから魔物が調子づくこともあるのだと聞くが……。私も自分が載っている船が襲われるのは初めてだ……」

 船旅に慣れているというユマリが言うのだから、これはめったにない事態なのだろう。ユマリと三人が顔を見合わせたとき、少し離れたところから声が聞こえた。

「炎よ!」

 見れば、風係として船を動かしていた魔法使いたちが、炎の魔法で人魚を攻撃している。

「風係が朝から晩まで風を起こし、夜の休みを取る前の、一番疲れている時を狙ってきたか……」

 ユマリがつぶやく。それでこの夕方の時刻に船が襲われたのか。納得したリユルがユマリに言う。

「えっ……じゃあ、あの人たちにまかせてはおけませんね。あいたちも戦わないと!」

「そうだな。……炎よ!」

 ユマリはリユルの言葉にうなずき、間髪を入れずにリユルの背後に炎の魔法を放った。バレーボールぐらいの大きさの火の玉がまっすぐに走り、船に上がろうとしていた人魚を焼いた。

「グアッ!!」

 人魚は呻き、蒸発するように消えていく。そしてわずかな光が残る。光は少しためらうようにその場に残った後、船室の方に流れ星のように消えていった。

「あれっ? 光が変な方に行っとる」

 思わず声を上げたユージナに、ユマリが答えた。

「ああ蓄光石……カバンの中に入れてたかな? まあ、持たずに倒しても光がただ消えて換金できないだけだ。この状況では魔物と戦う以外の選択肢はないな」

 三人は蓄光石を常に首から下げ、服の下に携帯している。魔物を倒すとそこに光が吸い込まれる設定を考えたが、蓄光石を所持していなかったり体から離していたりするときにどうなるかの設定は考えていなかった。図らずもその場合の結果を知ることができた。所持していなければ光は消え、手元に無くても甲板から船室程度の距離ならば、光は本人の蓄光石に吸収されるようだ。

「ようし、あいだって!」

 リユルが気合いを入れる。船べりから別の人魚が体をのぞかせているので、リユルも精神を集中する。

「岩よ!!」

 ユマリが放った炎と同じぐらいの大きさの岩の塊が、船べりから顔をのぞかせる人魚を打ち据えた。

 リユルは、水、氷、岩、回復の中級魔法、そして風の初級魔法が使える。この世界での旅を開始し、自分たちの初期設定を考えていった結果、所持している魔法はその五種類に落ち着いた。この中で人魚に効果的なのは、おそらく岩だろう。リユルの推測通り、岩に打たれた人魚はぐったりし、甲板に倒れこむ。

「たあっ!」

 ユージナが刀を抜き、弱った人魚にとどめを刺す。人魚は蒸発するように消え、光がリユルとユージナの胸元に吸い込まれていく。

「炎よ!」

 ヴァルルシャが、甲板に乗り込んできた新たな人魚に炎の玉を投げつける。

 ヴァルルシャは、炎、風、雷、回復の中級魔法が使える。これも旅をする中で固まっていった設定だ。この中ではもちろん炎を使うべきだろう。

 バレーボールサイズの火の玉がヴァルルシャの手から放たれたが、ユマリのように一撃で退治というわけにはいかなかった。

「岩よ!」

 そこにリユルがもう一度、岩の魔法でダメージを与える。人魚の形は消滅し、残った光がヴァルルシャとリユルの胸元に吸い込まれていく。

 魔物を複数の人間で倒した場合、『明確に戦闘に参加した人』、つまり『その魔物を倒すのにその場で魔法や物理攻撃を行った人』に、光が均等に分配される。ただ近くにいただけの人間には光は分配されない。直接攻撃する人も補助魔法を使う人も不平等にならないようにと、三人で設定を考えた結果だ。

 人魚はあまり大きくないこともあってかそれほど強くなく、ユマリの魔法なら一撃、リユル達の魔法や刀攻撃ならば数回攻撃すれば倒すことができた。しかし数が多く、今戦っている場所だけでも十数匹が現れた。船の他の場所でも、風係の魔法使いやナイフを手にした船員、旅の魔物狩り屋たちが戦っているのが見える。商人などの戦えない人たちは船室に隠れているようだ。

 それでも、一人が五、六匹倒したころだろうか。船べりから新たに顔をのぞかせる人魚がいなくなった。三人は安堵のため息をつき、肩の力を抜くが、ユマリはまだ辺りを警戒していた。

「……こんなのは雑魚だ。人魚には何種類かあって、もっと人間並みに大きく、美しさで惑わせてくる者もいるらしい。だが魔物だから人間への敵意しかなく、人間が美しさに見とれていると殺されてしまうのだそうだ。そういう強力な奴が、これから出てこないといいが……」

 ユマリは海の方を見回す。日はすでに沈んでいたが、まだ空には明るさが残っている。しかしいずれ夜になるだろう。船にはランプがあるとはいえ、夜の闇の中から魔物が襲ってきたら、今のようにとっさに対応はできないかもしれない。

「えっ……困りますね。まだ魔物がいるなら、全部退治してしまわないと……」

 リユルがそう言い、船べりから海を覗き込もうとする。

「気をつけるんだよ」

 ユマリが声をかけた時、船が、揺れた。

 ただの波ではない。大きなものが船の下にあり、それが動いたために不自然な波が船を大きく揺らした、そんな振動だった。

 ぬらり……。夜の黒に近づいていく海の表面が、生きているかのように盛り上がった。

 そして水面を割り、大きな塊が水の中から姿を現す。

 それは水面を蹴るようにして飛び上がり、船のへりを乗り越えて甲板に駆け上がった。

 船のライトに照らされて、その姿がよく見える。

 基本的には、馬に似ていた。

 だが、全身に皮膚は無く、筋肉と血管がむき出しになっている。

 上半身はどことなく人間に似ているようだが、目は二つではなく、片目だった。

 耳の……上半身を人間に例えるならば、耳のある辺りまで大きく裂けた口から、蒸気のような息を噴き出している。

 上半身からは、だらりと長い腕が垂れ下がっている。

「ケルピー……? いや、違いますね……」

 ヴァルルシャがつぶやく。ケルピーとは以前、川で戦った。それは馬と魚を融合したような姿で、馬に似ているという意味では目の前の魔物と共通点はあるが、ここまで凶悪な姿ではなかった。

「これ……知っとる……確か……これは……」

 ユージナが切れ切れに言う。そう、知っている。作者がかつて、何かの本で読んだのだ。

 リユルがその記憶をたどり、その名を口にする。

「ナックラヴィー、だ……」

 三人の頭に浮かんだのは、作者が昔読んだ、外国の魔物を描いた本の記憶。こういう恐ろしい怪物がいるのだと、作者がおびえたことを思い出した。

「ナックラヴィーだと! 名前は聞いたことがあるが、こんなところで出くわすとは……」

 ユマリの顔に緊張が走る。この世界においても、雑魚の人魚とは違う、凶悪な魔物として知られていることが想像できた。

 三人は作者が読んだ本の内容を思い出そうとする。確か、何か弱点があったはずだ。

 だが、詳しいことを思い出す前に、ナックラヴィーが襲い掛かってきた。

「グアッ!!」

 裂けた口から熱い息を吐き、長い腕を振り回して、馬の足で大きな一歩を踏み出した。ナックラヴィーは三人とユマリがいるところに突撃する。四人ともとっさに身をかわし、ナックラヴィーは勢い余って数歩先まで進む。

 その辺りには、別の魔物狩り屋たちがいた。

「炎よ!!」

 彼らは人魚の時と同じく、炎の魔法で攻撃を試みる。火の玉はナックラヴィーに命中はしたが、それほどのダメージは与えられなかったようだ。

 魔法使いでない魔物狩り屋は、両手持ちの剣でナックラヴィーに切りかかる。だが肉厚なその体には、深い傷はつけられなかったようだ。

「グゥゥゥ……」

 ナックラヴィーは一つの目で彼らをにらみつけ、長い腕を叩きつける。近くにいた数人がその腕でなぎ倒された。仲間が駆け寄ろうとするのを、ナックラヴィーはさらに狙おうとする。

「雷よ!」

 だがその前に、体勢を立て直したヴァルルシャが雷の魔法を放った。稲妻がナックラヴィーへと走る。

「岩よ!」

 リユルがバレーボールより大きいぐらいの岩の塊をナックラヴィーに投げつける。

「炎よ!」

 ユマリが、バレーボールの三倍ほどありそうな炎の塊をナックラヴィーにぶつける。

 その隙に、ユージナは他の魔物狩り屋を手伝い、ナックラヴィーの腕に倒された人を抱えて離れたところに連れていった。彼らは体を押さえてうめいていたが、仲間が回復魔法を使うことで顔色が良くなっていく。

 複数の魔法を受けたナックラヴィーだが、大きなダメージは負っていないようだ。その場にいる人間たちをにらみつけ、もう一度、馬の足で大きく跳ねて長い腕を振り回す。皆は体を伏せたり身をひねってたりして攻撃をかわす。

 ユージナは刀を盾にしてナックラヴィーの腕を防ごうとするが、その力は重く、刀を構えた形で跳ね飛ばされてしまった。船の壁に背を打ち付ける。

「うっわ、でら強い……」

 ナックラヴィーの腕には、ユージナの刀の跡がくっきり刻まれている。

 魔物は生物ではないので、切りつけても血は流れない。世界のエネルギーが魔物という形をとって動いている状態なので、刃物での攻撃は、粘土の人形に傷をつけたように切れ目ができるだけだ。それでもダメージにはなる。

 しかしユージナの刀の跡はナックラヴィーの腕にくっきりと刻まれてはいたが、深さが全く見られなかった。弾力のあるゴムに定規を押し付けたら少しへこんだ、程度の跡だった。

「ただの刀じゃ切れんのか……。魔法剣にした方が……?」

 旅をする中で、刀を魔法で包み、威力を強化する魔法剣という戦い方も覚えた。防御力の高い魔物とはそうやって戦ってきた。

「風の刃よ!」

 そのとき、別のところから強い魔法が放たれた。風係の魔法使いが、風を刃のようにしてナックラヴィーに投げつけたのだ。船を操れるくらいだから、風の魔法の扱いには長けているのだろう。人間の身長ほどもある鋭い風の塊が走っていくのを感じる。

「グッ……」

 ナックラヴィーは少しうめいたが、その風の刃でさえも致命傷にはならず、ナックラヴィーの体に線がついただけだった。

「ブワアアッ!!」

 ナックラヴィーはいらだつように顔を振り、口から大きく息を吐いた。近くにいる人間から順に咳き込んでいく。

「ど、毒の息……?」

 ヴァルルシャが口を押さえながらうめく。

 魔物は生物ではないので、呼吸は必要ないはずだ。だが、生命活動の維持のために呼吸をするのではなく、攻撃方法の一種として、口から毒を吐く形になっているのだろう。

「こんなに大勢でも勝てないなんて……」

 リユルは咳き込みながらつぶやき、考える。

 そう、確か、かつて作者が読んだ本には、ナックラヴィーの弱点が書いてあったはずだ。

 ナックラヴィーは海から現れ、上陸すると作物を枯らし、家畜も人間も皆殺しにするのだとか、恐ろしいことが書かれていたことは覚えている。

(その先に……何か、逃れる方法が……)

 記憶を探るリユルの耳に、ユマリの言葉が聞こえた。

「炎の魔法もろくに効かなかったし、水で攻撃するわけにもいかないしな……」

(水? そう……水だ!)

 リユルは顔を上げた。

「いえ、確か、水が弱点なはずです!」

 そう言うリユルに、ユマリは戸惑う。

「まさか! 海の魔物だぞ」

 海から現れた魔物。つまり水に近い属性を持っていると、誰もが考える。だから誰も水の魔法では攻撃しなかったのだ。

「そう、海の魔物だから、淡水には弱いんです! 塩水でなければ、攻撃が効くはずです!」

 リユルが思い出した作者の記憶。そこには、ナックラヴィーは淡水に弱いので、川を渡れば逃れられると書いてあったはずだ。

「なるほど……盲点だったな。水の魔法なら私が得意だ。やってみよう」

「あいも水の魔法は得意です、やってみます!」

 ユマリとリユルは精神を集中し始める。

 まき散らされた毒の息が大気に混じって薄まり、咳き込んでいた人々が体勢を立て直し始める。もちろんナックラヴィーも次の攻撃をしようと、駆け出す方向を品定めするかのようにあたりを見回している。

 己に攻撃しようと構えているユマリとリユルを見つけ、ナックラヴィーは二人に向けて駆け出そうと力を込める。ナックラヴィーが一歩を踏み出そうとしたとき、二人の魔法が放たれた。

「水よ!!」

「水よ!!」

 ユマリの手から、人間ほどの大きさのある水の塊が放たれ、ナックラヴィーに正面から激突する。ナックラヴィーは踏み出そうとした足を止める。

 リユルが手を振り下ろすと、ナックラヴィーの頭上から大きなバケツをひっくり返したような水が落ちる。

 魔法も世界を構成する力なのだから、精神集中さえできれば、手元に出すことも、敵の頭上に出すことも、自在にできるはず。リユルは以前からそう考え、敵の頭上で魔法を発動させることも行ってきた。

 ナックラヴィーは、ユマリの魔法で体の前面を、リユルの魔法で背中や後ろ足の辺りまでを、水で濡らされた。

「ギャアアアッ!!」

 皮膚のない体に真水が染み込むのか、ナックラヴィーはのたうちまわった。

「効いた!」

 ユマリが声を上げる。苦しがるナックラヴィーは腕を振って暴れるが、近くにいた魔物狩り屋が剣でそれを受け止めると、腕に深々と傷がついた。

「武器も効くようになっとる!」

 近くまで戻ってきていたユージナが言う。ナックラヴィーを取り囲む他の人間も、勝てる!と顔を輝かせる。

「このまま一気に倒すぞ!」

 ユマリが気合いを入れ、もう一度水の魔法を使うために精神を集中し始める。

 リユルも同じ魔法の準備を始め、ユージナは刀を構える。ヴァルルシャも、水ではないが魔法の発動の準備に入る。

「食らえ!」

 近くにいた魔物狩り屋が剣で攻撃すると、ナックラヴィーの体に大きな傷がついた。

「風よ!」

 風係の魔法使いが、風の刃をナックラヴィーに向けて放った。先ほどと違い、ナックラヴィーは大きな叫び声を上げる。

「雷よ!」

 ヴァルルシャの稲妻がナックラヴィーの体に刺さる。水以外の魔法も効くようになった。

「うりゃあ!」

 ユージナが刀で切りかかる。真水のダメージによってナックラヴィーの体の弾力が失われ、深々と切りつけることができるようになった。

 ナックラヴィーは暴れるが、先ほどのような勢いはもう無い。

 ユマリとリユルは水の魔法を、他の人間はそれぞれ得意な魔法や物理攻撃を繰り返す。やがて、ナックラヴィーは動きを止めた。

 ナックラヴィーの体は蒸発するように消え、後に残った光が、共に戦った十数人の胸元や船室の方に吸い込まれていく。

「……倒せた……」

 リユルが安堵の表情を浮かべる。

「倒せたぁー!」

 周りから次々と声が上がり、船の上は歓喜のざわめきに包まれる。

「リユルくん、きみのおかげだ。よくあいつの弱点を知っていたな」

 顔をほころばせるユマリに、リユルが答える。

「ええ、確かそんな話だったって……思い出して」

 さすがに作者が本で読んだ記憶とは言えず、リユルはあたりさわりのない言い方にとどめた。

「でも、ユマリさん、すごいですね! あんな大きな水の塊を出すなんて……。あいも全力でやったんですけど、あんなに大きな水は出せないですよ」

「だが、きみだって敵の頭上に水の塊を出しただろう。離れたところに魔法を発動させるのは難しいのに、上手だったじゃないか」

「そこまで遠くありませんでしたから。それに、奴に動かれたら外すところでした。ユマリさんの魔法で動きを止めてもらったから命中したんです」

 リユルとユマリはすっかり打ち解けていた。ユージナとヴァルルシャがお互いの無事を確認し、リユルのところに集まろうとしたとき、誰かが叫ぶ声が聞こえた。

「大変だ!! 誰か来てくれ! トイレが……!!」

 三人とユマリは顔を見合わせ、声のする方に向かった。

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