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オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第二章
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第二章 05 港町


05


 雨粒が幌に当たる音が聞こえる。それほど大きな音ではない。御者も、幌の先頭部分にいて雨が直撃しないためか、それとも雨が強くないためか、レインコートなどは身に付けていなかった。

 三人は幌馬車の中でしばらく雨音を聞いていたが、やがてそれは聞こえなくなった。幌の隙間から見える外の様子も、明るくなってきたようだ。馬車が最初の休憩所に着くころ、雨はすっかりやんでいた。

「すっかり晴れとるね」

 休憩のために馬車を降りたユージナが背伸びをする。

「でも、地面は濡れてるね。この辺もちょっとは降ったんだ」

 続いて馬車から降りてきたリユルがあたりを見回す。真昼の日光に照らされて、草木に付いたしずくが輝いていた。

「でも、北の方はまだ暗いですね。あっちはまだ降ってるのかもしれませんね」

 ヴァルルシャが北の空を仰ぐ。セカンタ方面の空はまだ暗かった。

「馬車にして良かったね。雨の中歩くの大変だもん」

「うん。この先は雨降っとらんみたいだし」

「じゃあ、お昼にしましょうか」

 御者に別れを告げ、三人は食堂に入った。このあたりもまだ周りが農地なので、新鮮な食材の料理が出てきた。

 休憩を済ませ、幌馬車で次の休憩地に向かう。次の休憩地では雨はすっかり止んでいた。軽食で体を休め、さらに南に向かう。幌の外が夕焼けに染まり、明るさが薄れてくるころ、町が見えてきた。

 まだ夜ではないので、町全体を見渡せる。規模は、ファスタンやセカンタよりも大きいだろうか。町の先に海も見える。

 こちらは雨すら降らなかったようで、地面は乾いていた。街道のむき出しの地面が町に続くところから、石畳になっている。

 町の入り口には貸馬屋があり、馬車はそこに止まった。御者に礼を言い、三人は馬車を降りる。

「日が落ちてしまいましたね」

 ヴァルルシャが空を見上げる。夕焼けの時間はすでに終わり、夜が始まろうとしていた。

「雨降っとったで、やっぱ昨日より時間かかったね」

 ユージナが荷物を背負いなおす。ファスタンからセカンタまでと、セカンタからフーヌアデまでは同じぐらいの距離。貸馬屋でそう聞いたが、昨日セカンタに着いたときはまだ辺りが明るかった。今日は少し雨に降られたので、移動に時間がかかったのだろう。

「じゃあ、さっき話してたみたいに、港へ行くのは明日でいいかな?」

 リユルが二人に尋ねる。フーヌアデに着いたら宿と夕飯を食べる店を探し、港へは明日ゆっくり行こうか、三人は馬車や休憩所でそう話し合っていた。

「もう暗くなっとるもんね。宿とお店探さんとね」

 ユージナが言い、三人はフーヌアデの町を歩き始めた。日は沈んだが飲食店の明かりがともり、町は明るい。人通りもファスタンやセカンタよりあるようだ。三人は荷物を背負い、昨日と同じようにまず宿を探しつつ、良さそうな飲食店もチェックすることにした。しかし、裏通りに行ってみても、安い宿はなかなか見つからなかった。

「一泊500テニエルの宿って無いですねえ」

 ヴァルルシャがため息交じりに言う。目の前にある宿も、朝食、夕食無しで一泊700テニエルだった。

「港町で人が多く集まってくるで、宿の値段が高いんかな? 700テニエルでも安い方だもんねえ」

 ユージナが言うように、いま歩き回って見かけた宿の値段は、1,000テニエルを越えるところも珍しくなかった。

「これがこの町の相場ならしょうがないか。これ以上歩き回っても安いとこが見つかるかわかんないし、ここに泊まっちゃう?」

 リユルが言い、二人もうなずいた。宿に入り、宿泊を申し込む。値段が少し高いとはいえ、セカンタやファスタンの宿と同じような作りだった。部屋に荷物を置き、施錠して町に出る。

「ご飯どうしよ?」

「あい、さっき気になるお店があったんだけど」

「ああ、立ち止まってましたもんね」

 そんな話をしながら三人は夕飯を食べに行った。リユルが示したのは海鮮料理の店で、絵入りの看板が店先に置かれていた。いい匂いが道まで漂い、やや広めの店内が八割ほど客で埋まっていた。三人はその店に入り、奥のテーブルに案内される。

「『海老と野菜のサラダ』『白身魚のムニエル』『巻貝のバター炒め』『二枚貝と野菜のスープ』……どれもこれもおいしそう」

 リユルがメニューを眺めながら言った。フーヌアデは海があるので魚介類が豊富なようだ。

「でもさ、例えばヒラメとか、ムール貝とか、そういう単語は出てこんのだね。こっちの世界ではそういう名前じゃないから? うちらが固有名詞を知らんで、全部『野菜』とか『二枚貝』になっとるんかな?」

 店内は料理や酒を楽しむ客の声でにぎわっており、こういった会話も隣の席まで届かない。

「他のお店で見たメニューでも、野菜はせいぜい『葉野菜』『根菜』『果菜』って区別ぐらいだもんね。あとは『芋』とか? 実際食べても、レタスっぽいとかトマトっぽいとかはわかるけど、微妙に違う感じがするし。おいしいし、異世界の野菜、って感じで好きだけどさ」

「『じゃがいも』という名前の由来は、ジャカルタから日本にもたらされたので『じゃがたらいも』が訛った、と言われていますよね。現代日本では。

 異世界の言語を日本語に訳しているという建前ですから、この世界にジャカルタが無くても『じゃがいも』は『じゃがいも』と呼べるんでしょうけど、それが『じゃがいも』とは似て非なる種類の芋だった場合、それを『じゃがいも』と訳すことはできないので、メニューの表記は『じゃがいも』ではなく『芋』となるのかもしれませんね」

「『じゃがいも』ばっかで、聞いとるとゲシュタルト崩壊起こしそう」

 三人は笑い合い、料理を注文した。やがて品物が運ばれてくるので、その味を堪能する。

「あっでもさ、この世界ではパンに具材を挟んだものを『はさみパン』って呼んどるけど、『サンドイッチ』って単語は聞かんよね。この世界にサンドイッチ伯爵がおらんかったでじゃないの?」

 ある程度食事が進んだところで、ユージナがその話題に戻る。

「うーんでも、ハンバーガーとかホットドッグみたいな形状のやつも全部『はさみパン』だよね。日本語で『サンドイッチ』って言うと白い食パンを三角に切ったやつをイメージするじゃない? この世界だと魔物狩りで持ち歩くことが多いし、固めのパンにはさんであるものが多いよね。それを『サンドイッチ』って訳しちゃうと印象が変わってくるからじゃない?」

「かといってハンバーガーやホットドッグのように形状ごとに分類するより、全体的な名称でひとまとめにされてた方が便利ですからね。具を挟んであるから『はさみパン』、わかりやすいですし」

「そっか。うちらにわかりやすいような翻訳になっとるんだね。あ、でも、バターはバターなんだね」

 リユルが『巻貝のバター炒め』を口に運ぶのを見て、ユージナが言った。

「牛乳がある、つまり牛か、牛と翻訳しても問題ない動物がいるんでしょうね。馬は馬でしたし」

「馬車から見た感じだと街道沿いは畑ばっかりだったけど、ちょっと離れたところには牧場もあるのかもね」

「卵料理もちょくちょく見かけるし、鶏っぽい生き物もおるんだろうね」

「それにしてもおいしいなー! 魚介だけじゃなく、野菜もおいしいよ。あい、おかわりしようかな」

「農地も近くにありますから、魚介も野菜も新鮮な物が手に入るんでしょうね」

「日本語訳がどうなっとるにせよ、この世界のご飯おいしいよね」

 三人は談笑しつつ、夕食を堪能した。各自200テニエルほどの会計を済ませ、宿に帰った。

 明日は朝の五刻に起きることにし、三人は宿屋で眠りについた。

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