第二章 04 更に次の町へ
04
朝の六刻、三人は目覚まし通りに起きた。身支度をすませ、すべての荷物を持って宿を出る。宿の受付で、町の南に行けばフーヌアデにつながる南の街道に出るという情報を得たので、朝食を食べる店を探しつつ、南へ向かって歩く。
「なんか、空が暗いね」
リユルが天を仰いで言った。
「くもっとるもんね。太陽も隠れとるし」
「ええ……雨が降らないといいんですが」
そう話しながら三人は開いている飲食店で朝食を食べ、町の南を目指した。
しばらくすると町の端と街道らしきものが見えてきたが、ぽつぽつと雨が降り始めてきた。
「わ、降ってきちゃった。どうしよう、雨具……はリュックの中か」
リユルが頭に手をやりながら言う。
雨具は以前雨に降られたときに、雑貨屋で購入した。自分たちで設定は考えなかったが、この世界にも傘とレインコートがあった。レインコートは布を油で防水した厚手の物と、布に精霊が『撥水の魔法』をかけた薄手の物があり、三人とも薄手のレインコートを買った。
しかし今は大荷物の方にしまいこまれている。
「朝から天気悪かったで、さっきお店でご飯食べた時に荷物から出しとけばよかったね。ここで出すのは……ああ、もっと降ってきた」
ユージナがそう言う間にも雨脚が強くなってくる。
「徒歩での移動を考えてましたけど……とにかく、ちょっと雨宿りさせてもらいましょう」
街道との境目には貸馬屋があった。手前の事務用の建物は開いていたので、三人はそこに入る。
「雨降ってきちゃったねえ。いらっしゃい」
ちょうど入り口のところで天気を眺めていた中年の女性が出迎えた。
「すいません、おじゃまします。……どうしよ、歩こうって言っとったけど、今日も馬車に乗っちゃう?」
ユージナが女性に言い、それから二人に振り返った。
「う~ん、今日もかあ……またお金使っちゃうなあ」
「でも雨ですしね」
顔を見合わせる三人に、貸馬屋の女性が言った。
「何? フーヌアデに行きたいの? 今ならまだ馬車は出せるけど、もっと降ってきたらわかんないなあ」
三人は女性に、セカンタからフーヌアデまでの馬車の代金やかかる時間などを尋ねた。
「ファスタンからセカンタまで馬車で来たのかい? だったら同じぐらいだよ。ここからフーヌアデまでの街道に、宿屋兼休憩所が二つある。馬車ならこれから支度して、最初の休憩所に昼ぐらい、次の休憩所が昼の三刻ぐらい、そこからフーヌアデに、夕方ぐらいには着くね。
徒歩だと、この雨だしねえ、最初の宿屋まで行くのに一日がかりじゃないかい?
馬車代は、雨降ってるから屋根付きだろ、一人2,500テニエルだよ」
昨日の屋根なしの馬車より500テニエル高くなる。しかし雨の中、屋根のない馬車に乗るのは嫌だし、一日中歩き続けるのも大変だし……と三人は話し合う。
「あの、でも、雨で馬車は走れるのですか?」
ヴァルルシャがそう質問すると、女性は答えた。
「今のところそこまでひどい雨じゃないからね。南の方は明るかったし、馬車で雨雲の下を通り抜けちまえばそんなに濡れないと思うよ。ここでぐずぐずしてると本降りになってくるかもしれないし、雨が長引いたら地面がぬかるんで、しばらく馬車は出せなくなるかもね。
あんたたち魔物狩り屋かい? 雨で足止めくらって宿に何泊かしたら、馬車の代金と同じぐらいの金がかかるんじゃないかい? 北や東の方ならねえ、街道の先に魔物が出るところもあるんだけど、南の街道にはそういうとこ無いんだ。あっても雨じゃ行きづらいだろうけど」
女性はそう答えた。三人は入り口から空の様子を見てみる。雨は小降りではあったがしとしとと降り続いている。南の街道の先の空は確かに明るかったが、セカンタの上あたりは黒い雲が広がっている。
「雨、しばらく降るんかなあ」
「すぐに止むとしても、すでに地面は濡れてきてるよね」
「街道は舗装されていませんから、徒歩だと移動は大変でしょうね。かといって晴れて地面が乾くまでこの町で待つのも……」
馬車代2,500テニエルは安くはない。が、500テニエルの宿に五回泊まるのと同じ値段だ。
徒歩でフーヌアデまで行くなら、街道沿いの二つの宿にそれぞれ泊まる必要がある。セカンタで足止めを三日食らえば馬車代と変わらない。セカンタの雨がすぐに止むとは限らないし、徒歩で街道沿いの宿に行った先でも雨に降られるかもしれない。
三人は顔を見合わせてうなずきあった。
「馬車に乗ろっか」
「そうですね。雨がいつまで降るかわかりませんし」
「天気のことはわからんもんね」
そして貸馬屋の女性に馬車を申し込み、一人2,500テニエルを支払った。
しばらく待つと、幌付きの馬車が用意される。三人が乗り込み、馬車は南に向けて進み始めた。




