表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリキャラのキャキャキャ2  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ2 第一章
1/92

第一章 01 新たな目的

 大昔、精霊と人間は契約した。

 精霊は、世界を構成するエネルギー。

 人間は、それを意のままに操ろうとした。

 精霊も、自分たちの力が世界に満ちるのは喜ばしいと、人間との契約に応じた。

 しかし精霊は言った。

 お前たち人間に自由に使われてやる代わりに、同じだけの災厄を人間にもたらすぞと。

 そうして数々の魔物が生まれた。

 この、コオンテニウの世界に……。



第一章


01 新たな目的


「さーてと、まずは、どこから行こうか」

 ユージナが言った。

「まだまだ、知らないことがいっぱいあるもんね」

 リユルが答える。

「我々の旅は、まだ始まったばかりですからね」

 ヴァルルシャが微笑む。

 作家を夢見た学生に書き途中で放置されたキャラクターが、闇の中で停止しているのはもううんざりだと、自分たちで世界を動かすことに決めた。

 闇の中に現れた三人は、ユージナ、リユル、ヴァルルシャと名乗った。放置されたキャラクターは他にもいるはずだが、作者の心の底から浮かび上がってきた三人でまずは動き出すことにした。

 三人で、剣と魔法の中世ヨーロッパ風ファンタジーの世界観で設定を固めていった。中世風でも清潔な水洗トイレを使いたいので、各建物に精霊の力を利用した上水タンクと下水タンクがあり、水道が使えるということにした。そうやって人間が精霊の力を便利に使う代償として、精霊のストレスが魔物になる設定を思いついた。人間が精霊の力を使うと国に税金を払い、魔物を退治すると税金から報酬が貰えるシステムを考えた。

 そうして一つずつ世界の設定を増やしてきたが、まだ決まっていないことはいくらでもある。自分たちが動き回れば、それだけ世界は広がっていくはずだ。

「とりあえず、銀行的な施設に行きませんか? 思わぬ大金を手にしましたし」

 ヴァルルシャがユージナとリユルに尋ねた。

 この世界には、魔物を倒すと『蓄光石』というアイテムに光が溜まり、それを『鑑定屋』で現金と交換する、という仕組みがある。三人でそれを考えた。

 先ほど鑑定屋で換金したら、三人がそれぞれ、38,818テニエルという大金を得た。日本円にして38万8180円。この世界の通貨の単位は『テニエル』で、1テニエル10円、というわかりやすい設定も、三人で考えたものだ。

「そうだよね。普段使いで持ち歩くには、ちょっと金額が大きいかも」

 リユルがうなずき、ユージナもこう言う。

「だったら、宿屋に戻って大荷物の中を探してみないといかんね」

 魔物退治の旅をして生計を立てる『魔物狩り屋』が多くいる世界なので、町には魔物狩り屋用の宿がたくさんある。旅用の大荷物は宿の部屋に置いておき、手荷物だけを持って町の中の施設に行ったり、森などの魔物の出現場所に行って戦ったりし、宿に戻って休む、というスタイルが一般的だ。三人も魔物狩り屋として旅をしているので、そうしている。

 持ち歩き用の荷物には普段使いの財布とそれに見合った金額を入れ、大荷物の方には通帳のような物をしまってある、ということにしてあった。それは手形、日本で言うところの書類ではなく文字通り手の形のようなアイテムで本人確認をしている、という設定はうっすらと決まっていたが、詳しいことはまだ決めていなかった。荷物の中身を明言しなければ、後からどうとでも設定できる、そう考えたからだ。銀行の設定よりも先に決めなければ物語が進まない物は山ほどあった。魔物や、自分たちが所持している魔法などだ。

 それでもようやく、銀行関連の設定を考えるときが来たようだ。それだけ基本的な設定が固まり、細かいところまで世界観を練りこむ余裕が出てきたということだろう。

「じゃあ、一度宿に戻りますか」

 ヴァルルシャが言い、リユルとユージナと三人で歩き出した。

 三人は先ほど鑑定屋で大金を得て、近くの喫茶店で一息つき、店を出たところだった。

 三人が今いるのはファスタンという名の町で、木や漆喰でできた建物の並ぶ、人通りの多い賑やかな町だった。この町は川で西と東に分かれており、鑑定屋があるのは東側で、三人が泊まっている宿屋は橋を渡った西側にあった。少し距離があるが、宿に戻らなければ話が進まない。

「ヴァルルシャの服も破れとるで、仕立て屋かなんか探さんといかんね」

 ユージナがヴァルルシャの服の裾を見ながら言う。

 ヴァルルシャの服はいわゆる『魔法使い風のローブ』で、足首まであるロングスカートのような形状だった。だが、昨日、魔物との戦いで破れてしまった。

 中世ヨーロッパ風ファンタジーの世界観なので、町並みも西洋の雰囲気、町を歩く人々も西洋人の顔つきをしていたが、ユージナは黒髪で着物を着た東洋人だった。着物と言ってもミニスカートのような丈の着物にニーソックスを合わせた嘘っぱち着物だが。和服の資料を詳しく調べていない作者がイメージ優先でそのようにデザインしたのだ。なので、『この世界の東洋にはそういう服もある』という建前でその服を着ている。腹が冷えないようにスパッツを履いたり、わらじとも草履ともつかない履き物を地下足袋に履き替えたりと、当初の設定に多少の変更は加えたが、基本的なデザインは同じだ。

 この世界の言語も、『異世界の言語を日本語に訳している』という建前で話を進めることにした。ユージナは作者にかつて設定されたときは男言葉だったが、それではしゃべりにくいと、一人称を『うち』にし、全体的な口調も『異国の人間なので少し訛っている』という設定に変えた。

 十代の作者が、好きなアニメやゲームの影響を受けてオリジナルのキャラクターを作り、話を書き途中で放置したりキャラ設定だけ作って満足して終了したり、という行為をして生まれたのが自分たちだ。それをわかったうえで、変更する部分は変更し、元のまま残せる部分は残し、ここまでやってきた。

「そうですね。それもやらないといけませんが、私、筆記用具が欲しいですね。この世界での日記というか、記録のような物を付けておきたいです」

 ヴァルルシャがうなずく。

 ヴァルルシャは『一人称が私で知的な魔法使い風の男』が作者の好みなので、その設定はずっと変わっていない。かつて描かれた作品では『魔導士』という設定だったが、こちらの世界では魔法を使う人間を『魔法使い』という肩書に統一したので、そこは変更があったが根本的な部分は同じだ。銀色のストレートの髪を膝のあたりまで伸ばしているので手入れが大変だが、かつて設定されたそのデザインを維持するために髪の手入れは丁寧に行っている。

 それに、この世界には『精霊の力をこめた染料で髪を染めて魔法の効果を上げる』店があり、髪が長いほど髪染めの効果は高くなる。そのため、魔法使いが髪を長く伸ばすのは決して無駄ではない。

「あ、それいいかも! あいも筆記用具買いたいな」

 リユルが言った。

 リユルは、かつての設定では女言葉でしゃべっていたが、もっと自然な口調でしゃべりたいと言葉遣いを昔の設定から変更した。

 一人称も、男は私、僕、俺と使い分けができるのに、女は私かあたしの二択なので、二文字の一人称が欲しいと思い、ふさわしいものを考えた。『うち』はユージナが使うことにしたので、適切な一人称が無いのなら新たに設定してしまおうという話になった。

 考えた結果、『あたい』を二文字に縮めて、英語のIにも通じる『あい』を、この世界の女の一人称として使うことに決めた。

 リユルが一人称を『あい』と設定したことで、この世界の女性の一人称として『あい』は一般的な物となった。

 世界を闇の中から動かしたことを知っているのは最初に浮かび上がった三人だけで、他の人々はそんなことは知らず、ずっとこの世界で生きてきた、そういうことになっていた。そして三人で世界の設定を考えてはきたが、何かを決めるとそれに連動して世界の設定が勝手に決定していく。自分たちで考えなくても世界が広がっていく、それは三人にとって面白いことだった。

 リユルは、当初の設定では水着のような露出度の高い服を着た魔法使いだったが、体が冷えるので服装を変更した。体のラインが出るシャツとズボンに、ブラジャーのような丈の短い上着。かつての設定のイメージを残しつつ、防寒対策を考えてそのような服装にした。

「そういやさ、うちら宿に泊まるときに宿帳に名前書くよね? うちらは日本語訳って建前でカタカナで書いとるけど、この世界の人はみんな読み書きができるってことなんかな? どこで習うんだろ」

 筆記用具の話が出たので、ユージナがそのことに気づいた。

 話し言葉だけでなく書き言葉も日本語訳しているという建前なので、町の中の看板や商品の値札なども、三人の目には日本語で書かれているように見えている。しかし何語であれ、文字を読み書きするには勉強が必要なはずだ。

「確かにそうだね。現代日本人の感覚だと誰もが読み書きできて当たり前だから、あいたちこの世界でも普通に読み書きしてるし、他の人もそれができて当たり前みたいに思ってたけど、ここは中世ヨーロッパ風の世界観なんだもんね」

 リユルがうなずく。

「宿屋に泊まるとき、一人ずつ自分で宿帳に名前を書くというルールがありますよね。それが通用するということは、旅をしている魔物狩り屋でも識字率は高いということになりますよね。ということはどこかで習っているんでしょうか。確か、江戸時代の識字率は当時の他の国に比べても高いんでしたよね?」

 ヴァルルシャの言葉に、ユージナは記憶を探る。

 記憶と言っても作者の記憶だ。三人は作者にシンクロし、作者の記憶から知識を得ている。自分たちで世界を動かすといっても、一人の作者から作られた創作物であるという自覚はある。だから作者が知らないことは知ることができない。それに、男のヴァルルシャより女のユージナやリユルの方が作者にシンクロしやすくなっていた。東洋に関する記憶も、東洋風の衣装を着ているユージナの方が思い出しやすい。

「江戸時代は寺子屋で読み書きそろばんを教えとったって言うよね。結構たくさんあったはずだよ。だで、識字率が高いって話を聞いたことがあったと思う。作者が。

 文字の読み書きと、それから簡単な計算ができんとお店で買い物もできんよね。てことはこの世界でも、そういう施設があちこちにあって、みんな習いに行っとる、ってことになるよね」

 町には宿屋以外にも飲食店や道具屋、それに魔法を売っている店や髪を染める店など、いろいろな店があった。それらを利用するには読み書きや計算ができるのに越したことはない。

「それって民間でやってるのか、それとも国が義務教育みたいにしてるのかなあ? 自発的にお金を払って習いに行く、だと習わない人も結構いそうだよね。読み書きや計算ができないと町で買い物するのも大変だろうし、経済も発展していかないよね。てことは基礎的なことは国が無償で義務教育とかやってるのかなあ。

 現代日本で作者が学生だった頃は、学校なんて嫌だ、勉強なんかしたくない、って思って二次元に没頭して、自分でファンタジー世界を妄想して、それであいたちが生まれたわけだけど、そう考えると義務教育って大事なんだね」

 リユルの言葉にユージナもヴァルルシャもうなずく。

「中世ヨーロッパ風ファンタジーとはいえ、現代日本人の作者の理想郷としてそういう世界を想像していたわけですからね。現代日本では作者も周りの人間も当然のように読み書きができますし、そういう世界観を無意識のうちに異世界にも当てはめているんですよね。となるとこの世界にも義務教育のような物はある、と考えた方が自然かもしれませんね」

 町並み一つとっても、その風景の背景を想像していくと、その結果に至るまでに必要なものが見えてくる。そうしてこの世界は広がってきた。自分たちで世界のすべてを設定するよりも、その方が三人には楽しかった。

 この世界にはどんなものが待ち受けているのか、自分たちにもわからない。しかし、自分たちで動き回らないとそれは見えてこない。だから歩み続けるのだ。

「そういえば、国、国って言っとるけど、国の名前も決めとらんかったよね」

 町の中を歩きながら、ユージナが言った。

「そうですね。世界の名前は、やっと『コオンテニウ』と決まったところですが」

 先ほど、喫茶店で休憩をして、世界の名前を『コオンテニウ』と決めたばかりだった。

「ユージナがいい名前を思いついてくれたもんね。でもそれってさ、ほんとに決まったのかな? どこで確認すればいいんだろ。鑑定屋にあった地図にはこの辺の地名しか書いてないし……もっと大きな地図を探す?」

「世界地図みたいなのには書いたるのかな? そういうのがどこで見られるかだけど……。

 それにうちが『コンティニュー』をもじって『コオンテニウ』って思いついたけどさ、『リメイク』をもじってもよかったかもしれんね。放置された世界をリメイクしとるわけだでさ」

「でも、コオンテニウはいい名前だと思いますよ」

「そうだよ。あい、この名前好き」

「ありがと」

 そんな会話をしながら、三人はファスタンの町を歩いていった。

 そして、キヨゥラ川に分けられた町の東と西をつなぐ、大きな橋が見えるところまで来た。

 川幅は数十メートルほどあり、川にかけられた橋もそれにふさわしい大きさだった。石造りで、人間が十人ほど並んで通れそうな、幅の広い頑丈な橋。徒歩で渡る人も馬で荷物を運ぶ人もいる。橋は町のメインストリートとつながっているので、人通りが多くいつも賑わっている。

 しかし、今日は普段以上ににぎやかだった。

 橋のたもとで、紙を配っている人がいるのだ。橋を通る人々がそれを受け取っていく。

「なんだろ、あれ?」

「お店のチラシでも配っとるんかな?」

「何か言っているようですね」

 三人はそう話しながら、その声が聞こえるまで近づいていく。

「国王陛下からのお触れです! 国王陛下からのお触れです!」

 紙を配っている男性はそのように言って人々に紙を手渡していた。

 国王!と三人は顔を見合わせ、自分たちもその紙を受け取りに行く。紙をもらい、人通りのないところまで離れて、その紙の中身を読む。

 そこには、日本語訳された文章でこう書いてあった。

『この広いコオンテニウの世界で、愛する二人が結ばれるのはすばらしいことです』

「さっそく世界の名前が確認できた!」

 ユージナが顔を上げる。リユルとヴァルルシャもうなずき、続きを読む。

『このリーメイクン国の国王夫妻も、もうすぐご結婚なされてから三十年です』

「国の名前もわかった!」

 リユルが声を上げる。

「『リーメイクン』って……『リメイク』から来とるんだよね」

「でしょうね……。国名は我々が設定する前に決定したんですね」

「ユージナがさっき、リメイクって言ったから? まあ、変な名前じゃないからいいけど……『リーメイクン』って、なんか、名君が治めてそうな国名だね」

 三人は近くを通る人間に聞こえないように小声で話しながら、チラシの続きに目を向けた。

『メーンクゥン八世国王陛下と、メイ女王陛下は、ご婚約中にご旅行に行かれました』

「国王と女王の名前もわかりましたね!」

 ヴァルルシャが顔と声を上げる。

「『メーンクゥン』って、『リーメイクン』をさらにもじったような名前だけど……メーンクゥン……メインクーン……猫?」

 リユルが首をかしげる。

「でも女王の『メイ』はわりとシンプルな気がしますが……」

 ヴァルルシャが言い、ユージナがつぶやく。

「ん? でも『メイ女王』……女王……クイーン……『メイクイーン』? じゃがいも?」

 ユージナの発見に、三人は顔を見合わせる。

「確かに……てことは、リメイクをもじって『リーメイクン』って国名になって、それをさらにもじったのが国王夫妻の名前で、猫のメインクーンっぽい方が国王の『メーンクゥン八世』で、じゃがいものメイクイーンっぽい方が『メイ女王』ってわけ? あい、混乱してきた」

 リユルが頭を抱える。

「しかも八世ということは、同じ名前の国王が過去に何人もいたのでしょうね。国王の名前として珍しくない、よくある名前、と考えられますね」

「うちらが決めんでも、そうなったってことだね。……とにかく、続き読もうか」

 ユージナがうながし、三人はまたチラシに目を落とす。

『ご旅行先は、この国にある巨大な湖、フルーエ湖の中央に浮かぶ巨大な島、ルフエ島です。ルフエ島は、皆様ご存知のように、長息人が住んでいる島です』

「『ちょうそくじん』? 『ながいきじん』かな?」

 日本語訳されているので、漢字の読み方がわからず、リユルが首をかしげる。

「ふりがなが振ってないのでどちらとも判断できませんね。というか、フルーエ湖? ルフエ島……」

 ヴァルルシャの言いたいことを、ユージナも察する。

「フルーエ……ルフエ……エルフ……『エルフ』……から来とるような名前だよね」

 三人は一瞬黙ったのち、あふれるようにしゃべりだす。

「てことは、このなんとか人は、エルフ的な人々!? だから『ながいき』なわけ!?」

「漢字の読み方はどっちかわからんけど、字面からしても長命種族っぽいよね! この世界にも、そういう種族がおるんだ!」

「異世界の言語を日本語訳しているという建前ですが、日本語しか使えない作者から生まれてきた名前ですからね! 使われる漢字に意味が含まれていることは十分考えられますよね!」

「この世界のエルフってどんな感じなんだろ? やっぱ、耳が長いとか? あっでもそれって確か、いろんな創作物からの影響で日本でそういうのが定番になっただけで、本来の伝承ではそうでもなかったって話だよね」

「エルフでなくて、ながいきじん……か、ちょうそくじん、ですしね」

「うちらの思い浮かべるエルフとは違うかもしれんね」

 三人はそこまで話すと、またチラシに目を向けた。

『ルフエ島は気候が独特で、長息人の他にも、ルフエ島でしか育たない植物が多くあります。そのため、短息人(長息人の方々は長息人でない人々をこう呼びます)の観光客が多く訪れます』

 そこまで読んで、ユージナが言った。

「『みじかいきじん』……じゃ語呂が悪いで、『たんそくじん』かな? ってことは、対になっとる方も『ちょうそくじん』でないとバランス悪いよね」

 リユルとヴァルルシャもうなずき、チラシの続きを読む。

『一つの花から、二つの白くて丸い真珠のような実がつき、実が熟すにつれて二つの玉がつながっていき、やがて一つの赤いハート型の実になる双心樹も、ルフエ島独自の植物の一つです』

「真珠のような……という描写があるので、『そうしんじゅ』と読むのがよさそうな木ですね」

 ヴァルルシャの言葉にユージナもリユルもうなずき、言う。

「この世界にも真珠があるんだね。貝に異物が入るとできるわけだで、そういう貝が生息しとれば真珠も見つかるか」

「それ言うなら、この世界にもハート型ってあるんだね。心臓の形が由来だって言うし、異世界にあってもおかしくないもんね」

 三人は納得し、続きの文章を読む。

『樹齢数千年を超えると言われる双心樹の大木の元で、若き日のメーンクゥン八世様はメイ様に指輪を差し出し、プロポーズをなさいました。しかしそのとき強い風が吹き、指輪を落としてしまわれたのです。

 指輪が無くても、メイ様はメーンクゥン八世様のお気持ちをお受け取りになり、お二人はご夫婦となられました。

 しかし、毎年五月の結婚記念日が来るたびに、あのときの指輪はどうなったのだろうと、お二人で思いを馳せられるのです。

 今年の五月十五日は国王陛下と女王陛下がご結婚なされて三十年目となります。

 来月の三十回目の結婚記念日を前に、国王陛下はどうしてもこの指輪を見つけたいと願っていらっしゃいます。

 それらしき指輪を見つけた方は、王宮までご連絡ください。

 国王陛下が無くされた指輪を見つけた方には、陛下から直々に褒美が与えられます』

 そしてその文章の下に、国王が無くしたという指輪の絵が描いてあった。綺麗な装飾の施された上品な指輪だった。

「この世界にも婚約指輪を送る風習があるんだね。でも王様、落としちゃったのか~」

 そこまで読んで、まずリユルが言った。

「来月が結婚記念日って書いたるけど、そういや、この世界の暦ってどうなっとるんだろ?」

 次にユージナがそこを気にする。

「来月が五月、ということは今は四月ということになりますね」

「そういえば、暑すぎず寒すぎず、ちょうどいい気候だもんね。今は春なんだ。あいの最初の水着みたいな服はどの季節でも寒いだろうけど」

「いや、異世界だで四月が春とは限らんかもしれんよ。気候がいいのは確かだけどさ。どっかで、カレンダーみたいなもんで確認できるといいんだけど」

「カレンダー……。そうだ、筆記用具を売っている店なら、手帳やカレンダーも置いてあるかもしれませんね」

「そういえばそうだね! あいたち筆記用具も欲しいわけだし、てことは……文房具屋みたいなお店を探せばいいのかな? それっぽい店があったら入ってみようよ」

 三人はそう話し合い、チラシの最後の部分に目を向けた。指輪の絵の下には、もう少し文章が続いていた。

『ルフエ島は、港町フェネイリの北にあります。各地の港から船でフェネイリの町に向かい、そこから北を目指してください』

 チラシの文章はそこで終わっていた。

「島への行き方が書いたるね。フェネイリ……新しい町の名前が出てきたね」

 ユージナが言い、リユルとヴァルルシャもその新しい町名をつぶやく。

「フェネイリ……フェネイリ……ふねいり? 船が入るから? 港町だもんね」

「確かに、だからフェネイリなのかもしれませんね。何にしても、こうして行き方が記されているわけですが……」

 ヴァルルシャがユージナとリユルを見る。

「うん。ちょうど、次の目的を探しとったとこだしさ」

「あいたちが次に目指す場所、このフェネイリ……そして、ルフエ島ってことでいいんじゃない?」

 三人の顔に、意欲が満ちていく。

「では、ルフエ島に、この指輪を探しに行くことにしますか」

 ヴァルルシャが言う。

「そうだね。長息人がどんな人たちなのか気になるし」

 ユージナがうなずく。

「双心樹ってのがどんな木なのかも見てみたいよね」

 リユルが微笑む。

「じゃあまず、フェネイリに行かないかんよね。てことは、この辺で、船を出しとるところを探さないといかんね」

 目的地が決まったので、次にとるべき行動も見つかった。

「鑑定屋にあった地図には、南に行くとギョーソンの町って書いてあったよね」

 リユルがその図を頭に浮かべる。鑑定屋の壁に設置されている地図には、町から南に伸びる街道に『この先、ギョーソンの町』と書かれていた。

「ですが、ギョーソンは名前からして漁村っぽいですよね。遠くの港町まで行き来するような船が出ているんでしょうか?」

「んー……でも、ギョーソンが漁村っていうのは、あいたちが名前から想像した推測じゃない? 漁村じゃなくて港町かもしれないよ」

「あ、それにさ、キヨゥラ川がこうして流れとるわけだで、川はいつか海に流れ着くでしょ。ギョーソンが港町じゃなかったとしても、この先のどっかには大きな港町があるんと違う?」

 ユージナが、目の前のキヨゥラ川の流れの先を目で追いながら言った。

「そうだね。それに目的ができたっていっても、絶対にあいたちが王様の指輪を見つけなきゃ!ってことじゃないもんね」

「三十年前に無くなった指輪だもんね。うちらに見つけられるかわからんけど、あてもなく世界を旅するより、何か目標があった方が計画も立てやすいもんね」

「結婚記念日までに、とチラシには書かれていますが、私たちが焦る必要はないですからね。あとで鑑定屋に戻って、ギョーソンや近隣の町について聞いてみましょう」

 三人はそう話し合った。

「ええと、じゃあまず、宿に戻って通帳的な物を探して、銀行みたいな施設を探すよね。それから、文房具店と、ヴァルルシャの服を直す仕立て屋みたいな店も見つけなきゃだよね」

 リユルが、これからの行動を整理する。

「あ、それからうち、武器屋みたいなとこにも行きたいな。武器屋っていうか、手入れ屋? 生身を切っとるわけじゃないで、刀が脂とか血とかで汚れたりはしんけど、たまにはメンテナンスも必要かなって思って」

 ユージナは日本刀を腰に差した剣士だ。異世界で日本という国名はないので、持っているのは『日本刀』でなく『刀』と呼ぶことにしたが。

 魔物は精霊のストレスが具現化した存在なので、血肉を持った生物ではなく、エネルギーの塊のようなものだった。刀で切りつけても血が出るわけではなく、武器や魔法でダメージを与えれば蒸発するように消滅する。それでも、硬さや重さなどはある。

「昨日も酷使しましたものね。専門店でケアしてもらった方がいいかもしれませんね」

「そうだね。じゃあ、今言った店が見つかり次第、入ってみようよ。あとさ、あい、お腹すいてきちゃった。そろそろお昼じゃない?」

「そういえば……うちら今朝は起きるの遅かったし、鑑定屋とかこのチラシとか、結構時間使ったもんね」

「確かに私もお腹が空いてきました。じゃあ、どこかの店でお昼を食べて、それからいろんなお店に行きましょうか」

 三人はそう話し、近くの店で昼食をとることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ