ダメ人間のご主人様について、8000文字で語ってみる
私の名はコレット。王宮で侍女をしております。
2年前に幼馴染の彼と結婚し、甘い新婚生活を送っていましたが、その半年後に夫が事故で急死。彼との思い出が残る家にひとりでいるのが辛くて実家に戻ってきたものの、私よりも遅れて結婚した兄夫婦に邪険にされ、家の隅っこで小さくなって暮らしておりました。
そんな私を見かねた伯母から、王宮で下女を募集しているから応募してみては?と勧められました。伯母自身が王宮の下女をしていたことがあり、そこで働くことの楽しさを私に教えてくれたのです。給金も良く、残業もないホワイトな職場。それまで外で働いたことのない私でしたが、ある程度家事が出来れば問題ないとのことでした。しかも住み込みなので、兄夫婦に遠慮しながら生活することもない。私は一も二もなく、その話に飛びついたというわけです。
私が配属されたのは食堂でした。これでも家事は得意ですから、野菜の下ごしらえや食堂内の清掃、食器洗い、破れたテーブルクロスの繕いなど、何でもやりました。しかも、やればやっただけ褒めてもらえる!今までは“やって当たり前”とばかりに、褒められたことなど一度もありませんからね。これはとても新鮮でした。
初めて知る働くことの面白さ。私は毎日楽しく仕事に励んだのです。
そんなある日、侍女頭様に突然呼ばれました。下女である私が雲の上の存在である侍女頭様にお声を掛けられるなんて…何か失敗でもしたのかと不安になりましたが、侍女頭様のお話はとても意外なものでした。
「コレット、あなたの評判は聞いているわ。とてもよくやってくれているようね」
「ありがとうございます。精いっぱい務めさせていただいております」
「そんなあなたを見込んで頼みがあるの」
それは王宮付きの筆頭魔法使いである、ディーン様の専属侍女になれと言うものでした。一介の下女である私が、侍女頭様よりもさらに雲の上の存在である筆頭魔法使い様の侍女だなんて…。
「何故ですか?何故私なんですか?」
「驚くのも無理もないけれど、あなたの働きぶりを見込んでの話なのです」
聞けばディーン様は類まれなる才能を持った魔法使いなのですが、魔法のこと以外は赤子並みに何も出来ない方なのだそうです。魔法の研究に没頭すると、寝食や入浴、果ては着替えをすることすらも忘れてしまうのだとか。1ヶ月お風呂に入り忘れたことがあり、周囲に悪臭をまき散らしたそうで…(ううっ、汚い…)。
まさにダメ人間!
そして3ヶ月前、餓死寸前で倒れているところを発見され、彼の生命を維持するために、専属の侍女が付けられることになったのだとか。しかしディーン様の下で働くことは並大抵のことではなかったらしく、これまでに6人の侍女が職を辞したそうです。3ヶ月で6人って凄くないですか!?
「そこで白羽の矢が立ったのが、コレット…あなたと言うわけです」
侍女よりも辛い下女の仕事をイキイキと楽しそうに、しかも命じられていないような細かいことも進んで取り組む姿勢が評価され、ディーン様専属侍女に抜擢されたのだ、と侍女頭様は仰いました。
自分の仕事を評価していただくのは本当に嬉しいことです。
ですが、6人の侍女に逃げられるほどダメ人間のご主人様の下で、果たしてやって行けるかどうか…不安が募ります。
一応、遠回しに辞退する旨を伝えてみたのですが、職場では上司の意見が一番です。私の言葉はあっと言う間に一蹴され、翌日からディーン様付きの専属侍女になったのでした。
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翌日、私は侍女頭様に連れられて、ディーン様のお部屋に伺いました。そこは城の北塔の中でも一番奥にあり、人気もまばら。少しだけ心細くなりました。
侍女頭様は茶色の大きなドアの前で立ち止まり、ノックをされました。どうやらここがディーン様のお部屋のようです。
「ディーン様、新しい侍女をお連れしました」
でも何の返答もありません。もしかしてお留守?
しかし侍女頭様は、返答の無い部屋のドアを開けたのです。お留守なのに勝手に入っていいんですかっ!?
ドアを開けると、埃がふわりと舞い上がりました。汚いっ!一体どれだけ掃除してないの!?
口元を手で押さえながら一歩中に入ると、部屋の奥に人影が見えました。少しくすんだプラチナブロンドの髪に、真っ白な肌。銀縁の眼鏡をかけて、手にした本を食い入るように読みふける人物…この方がディーン様でしょうか。
「ディーン様、侍女を連れて参りました。一瞬でいいので、こちらをご覧ください」
彼はゆっくりと顔を上げました。銀縁メガネの奥にある青い瞳が、私の姿を捕らえます。
「侍女のコレットです。本日からディーン様のお世話をさせていただきます」
「コレットです。よろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げた私に、たった一言
「………ども」
とだけ呟いて、ディーン様はまた本に目を落とされました。
「コレット。あなたの仕事はディーン様の生命を維持することです」
「せ、生命の維持って…」
「ひとまずは食事を欠かさず、1日4時間以上の睡眠を取っていただくことを優先させて。出来れば毎日の入浴と、着替えも忘れずに。もし可能であればこのお部屋のお掃除も頼みたいところだけど、それは難しいかもしれないから…とにかく食事と睡眠だけはお願いね」
何ですか、そのお仕事内容は!? そんなこと、私以外でも出来るんじゃ…。
去っていく侍女頭様の後姿を私は呆然としながら見送ったのでした。
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新しいお仕事は実に簡単で、むしろつまらないものでした――となるに違いないと思っていました。でも、それが大きな間違いだったことに気付いたのは、昼餉をお持ちしたときのことです。
「ディーン様、お食事をお持ちいたしました。どこに用意すればよろしいですか?」
声を掛けたものの、反応がありません。ディーン様は私が来てからもずっと、本を熟読しているのです。熱中しすぎて、人の声が耳に入らないのかしら?そこでもう一度声を掛けてみました。
「ディーン様、お食事の時間でございます」
やっぱり反応はありません。どうしたらよいものかと思案して、ふと先ほどの侍女頭様の言葉を思い出しました。
「ディーン様。一瞬でいいので、こちらをご覧ください」
するとディーン様はゆっくりとこちらを向いたではありませんか!初めて犬に“お手”を覚えさせたときと同じ感動が胸に宿ります。
「お食事でございます。どちらにご用意いたしますか?」
少しの沈黙のあと、ディーン様は極々小さな声で
「テーブル…?」
なぜ疑問形?
まぁ、とにかくテーブルに置けとの指示があったので、テーブルへ向かおうとしましたが…テーブルの上には本や書類が山積み!昼餉を置くスペースなんて一切ありません!
「あの…ディーン様、テーブルのどこに置いたらよろしいでしょうか?」
ディーン様は小首を傾げて少し考えたあと
「…床?」
いやいや、床はありえないでしょう!
「もしよろしければ、テーブルの上を少し片付けさせていただいても構いませんでしょうか」
「…うん」
許可も出ましたので、まずは書籍を本棚に、書類は机の上に置き、そのほかの物は部屋の隅に転がっていた空箱に入れました。テーブルを拭き、昼餉を並べたら準備OK!
メニューは茹で卵入りミートローフにクラムチャウダーとライ麦パン。ほかほかと湯気が立ち、美味しそうな匂いが辺りに漂います。ディーン様は無言でソファに座ると、本を読みながら食べ始めました。が、本に夢中になりすぎて手元がすぐお留守になるし、果てはミートローフの欠片を本の上にボトリと零す始末。
「…ご馳走様」
ディーン様はそう言ってフォークを置かれました。
「えっ!? ですがまだこんなにも沢山残っていますよ?」
「本が汚れるから、もういらない」
ちょっと待って!だったら本を読まないで食事すればいいんじゃないんですか!?
「本を読まないと、死ぬ」
死にませんからっ!!
その後、どんなにお願いしても昼餉を召し上がろうとしないディーン様。
昼餉だけじゃありません。夕餉も同様に数口食べて、本の上に零して終了。お風呂も「本を読む時間がなくなる…」と言って入ろうとしません。当然着替えもせず。
…思ったよりも手強いです。
結局、初日は何も出来ないまま終わりました。
でも私は負けません。明日こそはっ!と決意も新たに、ベッドに入ったのでした。
**********
翌朝。
お部屋に伺うと、ディーン様は朝から読書に勤しんでおりました。
「ディーン様、おはようございます。昨夜はよくお休みになられましたか?」
「…寝てない」
「はっ!? 」
「本を読んでたら、朝だった」
ちょ、ちょっと!徹夜してまで本を読んでたんですか!?
私は思わず唖然としました。
「眠くはないのですか?」
「ちょっと眠い…かな?でもおかげでようやく手掛かりが掴めた…」
そう言うと物凄いスピードで紙に何やら書き出しました。
こっそり覗き見たところ魔法陣のようなものを書いているのですが、果たしてそれが何なのか、凡人である私にはちっともさっぱり理解できません。
「よしっ」
書く手を止めたディーン様は、その紙を持って部屋を出ようとなさいます。
「どちらへ行かれるのですか!? お食事の時間ですが!」
「いらない」
「えっ!? 」
「実験に取り掛かりたいから、ご飯は食べない」
そういうディーン様でしたが、突然お腹の虫がぎゅ~っと鳴きました。そりゃそうです。昨日は昼も夜もほとんど召し上がっていないのですから。
「お腹、空いたんじゃありませんか?」
「…空いた、かも?」
と言いつつも部屋を出ようとしたディーン様の腕を取り
「空腹で集中力が欠けているときに実験をしても、上手く行かない可能性があります。お腹を満たせば集中力もアップし、よりいい実験結果が出るやもしれませんよ?」
「集中力アップ?いい結果?…それ、本当?」
「えぇ。まずはお食事を召し上がって、鋭気を養いましょう!」
ディーン様が考え込んでいる間に、テーブルの上に朝餉を並べます。
今朝はスクランブルエッグとハム、トマトたっぷりのサラダです。それをピタパンに挟んで差し出しました。
「これなら本を読みながら食べても零れる心配がありません。どうぞお召し上がりください」
スクランブルエッグ入りのパンと、ハム&サラダのパンをそれぞれ2つ。それを食べている間に濃いめのミルクティを淹れました。紅茶とミルクの割合は半々。こうすることで逆にミルク臭さが薄まり、コクが出て美味しくなるのです。私自慢の紅茶レシピ。徹夜をされているということでしたので、お砂糖は少し多めに。脳が疲れてるときは甘いものが一番だって言いますしね。
本を読みながらも、もくもくと食べていたディーン様は、ミルクティーを飲み干すと
「美味しかった…」
と満足げに呟かれました。
「でも何だか、急に眠気が…」
お腹が満たされたディーン様は、ショボショボした目を何度か擦りました。
「このまま仮眠をお取りになったらいかがですか?」
「でも実験が」
「少し寝て頭をすっきりさせた方が、よりいい結果が出るはずです!」
「でも」
「寝不足の状態も、やはり集中出来ないと思いますよ!」
「…わかった。少し、休む」
言うが早いか、ディーン様はそのままテーブルに突っ伏して寝てしまわれました。
「ディーン様!? せめてベッドに!」
でももう私の声など聞こえていないようです。既にすーすーと規則正しい寝息を立てています。
私は何とかメガネだけ外して、寝室から毛布を持ってきてディーン様に掛けました。座りながら寝てるから、あとで体がバキバキになるであろうことは想像に難いですが、とにかく4時間以上は寝ていただかないと。
私は空になった食器を持って、そぉっと部屋を後にしました。
そろそろ昼餉の時間というころになって、ディーン様はお目覚めになりました。とてもスッキリしたお顔で「疲れが取れた」と仰い、私は思わず嬉しくなりました。
すぐさま研究棟に向かおうとなさいましたが、すかさず昼餉をお勧めします。昼餉はトマト・ベーコン・バジルのピッツァを一口大に切ったもの。チーズが垂れて本が汚れることを懸念して、(不本意ではありますが)若干冷めた状態で召し上がっていただきます。
ディーン様はこちらも完食し、足取りも軽く研究棟へと向かわれました。
その夜、夕餉も全て召し上がられたディーン様は私に勧められるまま入浴も済まされ、すっかり綺麗になりました。異臭も漂いません。部屋の奥の本溜まりに向かわれようとしたので
「ベッドの中で読んではいかがでしょう。ふかふかのお布団にくるまって読んだ方が、脳がリラックス出来て、内容も頭に入りやすくなるかと」
と提案したところ、素直に応じてくださいました。
「お休みなさいませ、ディーン様」
「…おやすみ」
ディーン様は素敵な笑みを浮かべながら、部屋を出る私を見送ってくださいました。
ふっふっふ…やったわ。私、やりましたわ!それにしても私の言うことを素直にお聞きになるディーン様は何て可愛らしい。思わず見惚れてしまいますね。
最初はどうなることかと思いましたが、この調子で頑張ればディーン様が死の淵に立つことはないでしょう。
侍女頭様にもお褒めいただき、私はこの上ない喜びを感じていたのでした。
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その後もディーン様は毎食きっちり召し上がるようになり、夜はベッドに入るとすぐに寝落ちするため、睡眠も充分取れているそうです。入浴と着替えだって毎日欠かしませんから、清潔そのもの。少しくすんで見えたプラチナブロンドの髪は、今ではキラッキラと輝くまでに。
最近のディーン様は、私の姿を見ると優しく微笑まれるようになりました。そして何かするたびに「ありがとう」と感謝の言葉を口にされます。私のような者にまで優しくして下さるディーン様に、少しずつときめきを覚えるようになりました。このままずっとこの方に仕えていられたら、どんなに幸せだろう――。
そう願っていた私に、ディーン様の侍女を辞して元の下女に戻るよう通達があったのは、それから数日後のことでした。
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「つまり、馘…ですか」
「馘ではないのよ。ただ、厨房の下働きの仕事に戻ると言うだけのこと」
侍女頭様は少し困った顔をされながら、そう仰いました。
「理由をお聞かせいただけますか?私、何か大きな失敗でもしたのでしょうか?」
「そうではないわ、コレット。あなたは私たちが思った以上の仕事をしてくれているわ。近ごろのディーン様はお顔の色も冴え、毎日精力的にお仕事に励んでおられるもの。命の危機を脱した今、そろそろ本来あるべき状態に戻そうということになってね」
侍女の仕事に就く人の多くは貴族のご令嬢方か、平民でも豪商など裕福な家庭のお嬢さん。私のようなごくごく一般的な庶民がなれる職ではありません。
今回の私の人事がイレギュラー中のイレギュラーというだけであって、ディーン様に問題がなくなった今、下女ではなくちゃんとした侍女をお側に付けた方が良いという意見が出たのだとか。
「私はいつ食堂に戻ることになりますか?」
「明日の朝には仕事に取り掛かってちょうだい」
「…かしこまりました」
上司の命令は絶対です。そこに否やは許されません。
何故か胸がズキズキと痛みます。ディーン様のお側にいられないと思ったら、苦しくて切なくて、涙が零れそうになりました。
そして私は初めて気付いたのです。自分の胸に宿った恋心に。
でもディーン様はそもそも雲の上の存在。緊急事態でも発生しない限り、私なんかがお側に仕えることなど出来ないような方なのです。いくら恋しいと思ったところで、どうしようもありません。
「最後まで精いっぱい務めよう」
そして、ディーン様の笑顔をこの目に焼き付けよう。私にはそれしかできないのだから――。
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ディーン様が夕餉を終わられるのを見届けたあと、私はおもむろに例の話を切り出しました。
「もうここには来ないの?」
ディーン様は少しだけ目を見開いて、呟かれました。
「私はもともと下女ですから…。ディーン様は随分変わられました。もう私がお仕えしなくても大丈夫ですよ」
一切の感情が抜け落ちたかのような顔をしたディーン様は何も言わず、しばらくの間私の目をジッと見つめましたが、やがて
「今日はもう下がっていい」
と言い、浴室へと向かわれました。
ひとり残された私は食器を片付け、部屋を後にしました。
――最後に見るのは笑顔が良かったな…。
涙が一筋、また一筋と頬を伝います。
「ディーン様…」
私は声を殺して泣き続けたのでした。
そして私は、翌日からまた食堂の下働きとして働き始めました。ディーン様の下で働いていたころとは違い、何しろやることはたくさんあるので、余計なことを考える暇もありません。
ただ、仕事を終えて与えられた自室へ戻ると、急に寂しさに襲われます。
ディーン様のお顔が見たい。ディーン様の声が聞きたい――。
叶わぬ想いを押し殺し、無理やり眠りにつく日々が続きました。
そんなある日、私は再び侍女頭様に呼ばれました。
2週間ぶりに会う侍女頭様は、少しだけ困ったようなお顔をされています。
「コレット、久しぶりね」
「はい、侍女頭様」
「実はまた、あなたに頼みがあってきたのよ」
もしかして、ディーン様のほかにもダメ人間な方がいらっしゃって、その方の侍女になれとでも仰るんでしょうか。
「ディーン様のことなんだけど――」
侍女頭様のお話を聞いた私は、すぐさま部屋を飛び出して、ディーン様の元へと急いだのです。
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『あなたが侍女を辞めたあと、ディーン様はすっかり元の生活に戻られてね。お食事も召し上がらず、入浴も着替えもされない。睡眠だってほとんど取られていないようなのよ。どの侍女を付けても駄目で、この2週間で7人の侍女が職を辞したわ』
2週間で7人!それはちょっと多くないですか?
『このままではまた命の危機が訪れかねない状態でね。あれだけの力を持った魔法使いをみすみす死なせるわけにはいかないので、コレットをディーン様付きの正式な侍女にするようにと、国王陛下の命が下ったのよ」
陛下のご命令ですと!?
『ディーン様はあなたでなければ駄目なのね。だからコレット、今すぐディーン様の元へ行きなさい。きっとあなたを待っているわ』
ディーン様が私を待ってる?本当に?
「ディーン様っ!! 」
重い扉を開けると、部屋の隅にいたディーン様がゆっくりと振り返りました。
絡み合う視線…目を離すことが出来ません。
「ディーン様…」
何か言わなきゃ…でも頭の中がグチャグチャで、言葉が全く浮かびません。
ディーン様は両腕を広げてゆっくりと近付いてきます。その顔には満面の笑みが浮かんでいました。
「コレット、おかえり」
ディーン様にギュッと抱きしめられ、体が燃えるように熱くなるのがわかりました。
「ディ、ディーン様…」
「帰ってくるのを、ずっと待ってた」
優しく落ち着いた声が耳元で響きます。胸がキュゥッとなって、涙が浮かびます。
「ディーン様、あれからお食事を召し上がっていないと聞きました。睡眠も、お風呂も、着替えも。私がお仕えしていたときは出来ていたのに何故」
「コレットを僕のところに戻すための、最短の方法を考えたんだ。それを実行しただけ」
たったそれだけの理由で!? なんて無謀な…。
「そしたらやっぱり、コレットは戻ってきてくれた。ねぇコレット、僕は君がいないと生きていけないんだ。だからもうどこにも行かないって約束して」
私を抱く腕に力が籠ります。この国一番の魔法使い様のはずなのに、何だか小さな子どものようで、胸の奥がほんわりと温かくなりました。
「大丈夫ですよ。コレットはもうどこにも行きません。これからもディーン様にお仕えいたしますから、ご安心ください」
そう言う私の顔を見たディーン様は、蕩けるような笑顔を浮かべたのでした。