それでも列車は走り出す
そもそも私は彼と同じ駅なのだ。
だから今まで彼と、偶然でも遭わなかったことが不思議なくらいであった。
私の降りた列車が走り出すと、反対側のホームに停まっている列車は、ちょうど発車のベルが鳴り出す。
そのときだった彼の声が私を呼んだのは…。
私はとっさに振り返る。
列車のドアが閉まる瞬間、そこには懐かしい、彼のはにかんだ笑顔を、私は1年振りに見たのだった。
私は今すぐ彼のもとへ飛び込んで行きたかった。
列車は笑顔の彼を乗せ走り出す。
彼は、私が見えなくなるまで、いつまでも、いつまでも見届けてくれていた…。
私はそのときほど胸が締めつけられる思いをしたことはなかった。
死ぬほど、死ぬほど切なかった…。