僕たちの場所
一年ぶりに幼馴染と再会した。こういうと僕と唯花が離れ離れになっていたように思える。まあ、距離的には唯花の家と僕の家は徒歩十分で行けるのだが。
しかし、精神的に離れ離れになっていたことは否めない。一年前のせいで、誰も信じられないのだ。それは家から飛び出すことができた今でも変わらない。事実、今隣にいる、さっきまで僕のために涙を流していた少女―――日景唯花をまだ完全に信じている訳ではない。ただ、唯花の叫びに、僕が変われる可能性に、賭けただけだ。
「久しぶりだな、唯花」
「そうだね。最後に回人の顔見たの、一年前だもん」
「ところで、今僕たちはどこに向かってるんだ?」
僕の家の前で色々あった後、唯花に「ついて来て」と言われたものの、どこに行くのか見当もつかない。
「そうだね~強いて言うなら、秘密基地、かな?」
少し意地悪そうに唯花は微笑む。
唯花は昔から、俗に言う美少女に分類されている。すらっとした長い脚に、理想的な体つき。おまけに少しあどけなさが残る整った顔。腰まである長めの黒髪に対して雪のように白い肌。こいつと一緒にいると、僕がよく怪訝そうな目で見られるのだ。今の微笑みで世の男子は皆唯花の虜になっているだろう。
「それってどんだけ時間かかるんだ? 一年間引きこもってる僕にこの直射日光はきつい」
「う~ん。あと一時間くらい?」
「長ぇ……僕がミイラになったら責任とってくれるのか?」
「春のポカポカした日差しでミイラになる人なんて、見たことないよ!」
「引きこもりなめんな。直射日光でさっき眩暈したからな」
「変な所にプライド持たなくていいから!」
道の途中、時間をつぶすためどうでもいい話をする。こうでもしないと、日光にやられてしまう。さすが引きこもり。
「でも……よかったなぁ」
唯花は優しい目になって呟いた。
「やっぱり、回人だ。変わってない。私に接するときの態度も、表情も。私の知ってる回人だ」
「人っていうのはそんなに簡単に変われねぇよ。たとえ、両親が殺されて、自分まで殺されるっていう恐怖が付きまとっても、根っこの人格は変わらない。ただそれに人間不信、ていうステータスが付くだけだ」
「悟ったようなこと言うのも、やっぱり回人だ。確かに、色々なことあって辛いかもだけど、私だけは絶対に回人を裏切らないよ。回人は、私にとって大切な人だもん!」
今度は唯花が純粋な笑顔を僕に向ける。見る者全てを元気にさせる笑顔だ。唯花も唯花で、やっぱり変わらない。
「だから……今は私のこと完全に信じられなくてもいいけど、でも、私は回人の味方だってことを、忘れないでほしいな」
「で、僕の味方が何僕に救済求めてるんだよ、『秋』さん?」
そろそろ、僕は本題に入った。すると、また唯花が意地悪そうな笑顔で言った。
「ゲームでの名前を現実世界で呼ぶもんじゃないよね? 『輪廻』くん(笑)」
「笑うな! これでも一応、回人っていう名前と掛け合わせてるんだ、決して痛くない!」
「別にユーザー名が痛いとは言ってないじゃんか、『総てを統べし王(笑)』くん」
「だから笑うな!(笑)入れる場所にどうみても悪意ありありなんですが! ああ分かりました認めます、どうせ痛い名前ですよ! 高校生にもなってまだ中二病全開だけど、それが何か悪いか!」
「だから別に何とも言ってないじゃん! ちょっと嘲笑しただけだよ」
「嘲笑が全て物語ってるんだけど!」
「じゃあ、ちょっと微笑んだだけ」
「何も変わってない!」
「ていうか、お前どうやって僕にメール送ったんだよ! 謎すぎて怖いんだけど」
「ああ、それなら簡単な話だよ。回人の使ってるIDとかって、大体kaito000かkai000じゃん」
「なんでお前それ知ってんの?」
「回人の事だったら、なんでも知ってるからね」
「怖いわ!」
「なあに、ただ中学の時に回人の部屋にあった『パスワード、ID一覧マル秘帳』見ただけだから。IDもパスワードもほとんどその二つだけでびっくりしたよ。他にも核発射コードとか、異世界転生の呪文とか、もっと面白いものが書いてあったけど」
「やめろ! 僕の黒歴史を漁るな!」
そりゃ、確かに僕が異世界からの使者だったり、某国のスパイだったりする妄想は結構してたよ? でも、それは所謂一種のロマンなんだよ! 男の夢っていうやつ。
「でも、大変だったんだからね? ありとあらゆるゲームやインターネットサービスにこのIDとパスワードでログインしまくって、やっと回人のアカウント見つけたんだから」
確かに、僕がそのIDを使っているものと言えば、cards castleくらいだ。唯花も探すのに苦労しただろう。
「はいはい、お疲れ様。で、ちょっと話が脱線したから戻すけど、何を助けてほしいんだ? 僕にできることなんて、そんなに多くないと思うけど」
「詳しいことは向こうに着いてから話す」
「さようですか。なら、何も聞かないでおこう」
「そうしてくれると、助かる」
それからまた、僕たちは他愛もない話や懐かしい昔話をしつつ、その足を進めていった。
やっぱり唯花は、昔のままの唯花だった。
意地悪な笑顔と優しい笑顔。人々は、唯花の二つの笑顔に惹かれるのだ。
それはやっぱり、今でも変わらないようだった。
「さ、着いたよ!」
あれこれ話しているうちに、目的地に着いたみたいだ。
目の前に広がるのは……広大な田んぼ。
いや、田んぼだった場所。田はすでに干からびて、農道には雑草が生い茂っている。放置されている場所なのだろう。ていうか、どこだよ、ここ。
家から徒歩一時間ちょっとでこんな元田んぼだらけの場所に出るのか。
でも、目の前にあるのは、一面に広がる田んぼだったものだけ。
建物の一つもありゃしない。唯一、農具小屋らしきものがあったが、すっかり荒れ果てており、とても人が入れるようには見えなかった。触っただけで倒壊しそう。
「何が秘密基地だよ。何もないじゃないか。まさかあのオンボロ小屋がそうなのか?」
「いやいや、確かにここには何も見えないけど、私たちの秘密基地って、割と本気の秘密基地なんだよね」
「どういうこと?」
「まあまあ、私についてきなさいよ。すごいものを見せてあげるから」
そう言って、唯花は元田んぼへと歩いていく。僕はそれについて行くだけだ。
ちょっと歩くと、唯花は立ち止った。相変わらず、周りには田んぼだったものしかない。
「じゃあ、今から私たちの場所へ行くけど、いくつか注意点があるんだよね」
唯花が続ける。
「第一に、私たちはみんな正義感が強いんだ。だから、冗談で言ったつもりでも、それに過剰に反応する人もいるの。だから、変なことは言わないようにね」
「第二に、私たちにはそれぞれ、その強大な正義感を持った理由があるの。みんな、色々な体験をしてる。想像以上に残酷な過去を持っていたりするから、人の過去は詮索しないようにね」
「じゃあ、行くよ」
そう唯花が忠告したあと、唯花は地面に両手を突っ込んだ。
何をしているんだろうか。
僕が疑問に思っていると、それを察したのか唯花は両手を地面に突っこんだまま言う。
「むかしむかし―――ていうか百年前ぐらいなんだけど、あるところ―――ていうかここなんだけど、ある貴族の人がいました」
「その人はもういないんだけど、この国で結構有名な貴族の人でした。で、当時の日本と言えば、まあ、戦争をしている最中でした」
「そして、軍部の人とも仲がいい貴族の人は、ここが空襲にあうかもしれないと知りました。で、密かにシェルターをつくって、自分の身を守ろうとしました。実際にこの町は空襲にあい、多くの人が無くなりました。もちろん貴族の家も焼けてなくなりました」
「その後、貴族は自分だけ助かったことを知られたくなかったので、シェルターの存在を隠し、ひっそりと庶民にまぎれて暮らしましたとさ。めでたく―――はないよね」
唯花の話は、ここで終わった。その話で、僕の疑問がすっかり解けた。
つまり、僕が今行こうとしている場所は……
「あったあった! ここを外してっと」
唯花が地面に手を突っ込んで何かをした。
すると、その瞬間。
ゴゴゴゴ、と音を立てて、干からびた田んぼに正方形の穴が開いた。その穴の奥には、階段らしきものが見える。
マジな秘密基地じゃねえかよ。
「それじゃあ、行こっか」
唯花はそう言って、階段を下りていく。
僕もそれについていく。
僕たちは、変革の始まりの場へと、歩いていった。