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王の誕生

cards castle、このゲームは世界で一番『現実』に近い戦略ゲームである。ゲーム攻略サイト、攻略本をつくる事は運営によって強く禁止され、何の効果があるか分からない無数の選択肢から、勝つための手を選んでいく。

 攻略サイトも攻略本もない世界。

 ただあるのは、無数の選択肢。ただしそれがどう影響するのか、全く分からない。

 最善手を選べば、即座にクリアでき、最悪手を選べば、また逆も然り。

 何が最善手で、最悪手かは、やってみるまで分からない。

 まさにスクリーンの上の『現実』。

 そして、今僕は、まさにこの『現実』の攻略法をこのゲーム内で一番知っているユーザーだ。すなわちこの世界を統べる権限、『王』になる資格がある。『総てを統べし王』の称号に相応しい。まあ、スクリーンから離れたら、一気に引きこもり人間となってしまうのだけども。

 で、僕が『王』になるにあたり、最も効率的で、最善で、最悪な手がある。現実世界でも大いに通用する手だ。

 第一に、イベント『総てを統べし王よ』のルールでは、イベントフィールドに残った最後の一人のプレイヤーにのみ、称号『総てを統べし王』が与えられると明記されていること。

 第二に、このゲームは、イベントフィールド含むすべてのフィールドを対象にした無数のコマンドがある。

 第三に、そのコマンドの中に、フィールド上のすべての権利を買える『買収』コマンドがあること。

 そして、僕は今、序列名簿一位ユーザー『輪廻』として、このゲームにおける五〇パーセントの資源およびカネを所持していること。そのことから導き出すに……

 フィールドを買おう。

 引きこもり、フィールドを買う。どっかで似たような言葉を聞いたことがある。それはどうでもいいとして。

 このゲーム世界は、現実世界同様に資本主義の世界である。どれだけ頑張ったかを評価するのではなく、どれだけ稼いだかを評価される。実は序列名簿も、所持資源をカネに換算した総資産で決まるのだ。

 実に惨めで、美しい。単純な結果というシンプルなもので争う。その間にどれだけの苦労があっても、どれだけの涙を流しても、それは反映されない。

 早速、僕はイベントフィールドへ移動する。僕とは正反対の凛々しい眼をした、ユーザー名『輪廻』のアバターが瞬時に移動する。

 さて、さっさと買ってしまおう―――そう思った瞬間。

 「ここであったが百年目! 序列一位『輪廻』、先週の無念、晴らしてやる!」

 あ~、めんどくさい奴にからまれた。

 強制的に戦闘画面に切り替わる。

 「わが名を忘れたとは言わせんぞ!」

 チャットでそう言われたものの、事実こいつの名前なんて覚えていない。覚える価値もない。

 「序列名簿七十三位、『三代目大剣豪忠華金衛門』いざ参る!」

 あ、そんな名前だったな。先週勝手に戦い挑んで、結局自滅した序列七十三位の奴だ。ていうかどこが三代目なんだよ。僕は先代見たことないけど。あと自分で大剣豪って名乗るの少し痛すぎやしませんかね。

 そんなことを思っていると、敵の、ナントカ衛門がモンスターを召喚してきた。

 『忠実なる英霊』が召喚された。屈強な肉体を持つ、男の象徴ともいえる剣士が場に現れる。課金ガチャでしか入手できないモンスターで、チート級の攻撃力を持つ割に、低コストで召喚できる。さっき確かに僕はカネが全てと言ったのだが、リアルマネーを使ってきたか。

 僕の中に先週ナントカ衛門と戦った記憶がよみがえってくる。

 思い出した。こいつ、重課金プレイヤーだ。先週も課金モンスターしか出さなかったくせに、僕の『裏切り』コマンドで僕に自滅させられた奴。重課金衛門とでも名付けようか。

 「わが英霊はリアルマネーにして十万円かけて手に入れた超レアモンスターだ。一位の貴様とて、カネの力には勝てぬだろう!」

 最低な奴だ。アホだ。確かに、このゲームでも資本主義が取り入れられているが、しかし。

 このゲームは、リアルマネーなんてゴミに等しい。

 課金で入手できない、ゴールドというゲーム内通貨で全てが決まる。

 僕もモンスターを召喚する。『醜き淫魔』を召喚。艶やかなオーラを纏い、赤髪に羊のような角が生えたサキュバスが場に現れる。ノーマルガチャで手に入る、いたって普通のモンスターだ。

 しかし、男性ならばこのモンスターに邪な思いが芽生えるのも不思議ではない。それが、男の運命なのだから。

 たとえ、英霊でも男なら、本能に逆らえない。

 僕はコマンド『誘惑』を選択。『醜き淫魔』と相性のいいコマンドだ。『醜き淫魔』はグラビアアイドルのようにセクシーなポーズで、『忠実なる英霊』を誘惑していく。妖艶な身体が、何かを求めるように官能的に蠢く。醜く、美しく。

 『忠実なる英霊』は案の定誘惑に負け、『醜き淫魔』の元へ寄っていく。こうなればもう『醜き淫魔』の虜だ。あとは、裏切らせて重課金衛門に攻撃させるもよし、『忠実なる英霊』を倒して少しずついたぶっていくのもよし。

 だが、僕はそんなサディズムな趣味はない。故に一瞬で終わらせてやる。

 『醜き淫魔』に『攻撃命令』コマンドを使った。命令先は『忠実なる英霊』攻撃先は重課金衛門。

 それを受け、『忠実なる英霊』は愛する淫魔のため、重課金衛門を攻撃する。

 時間にしておよそ三十秒の戦い。

 チート級の攻撃力から放たれる英霊の一撃は、一瞬で決着をつけた。

 「馬鹿な! 十万かけたキャラが、サキュバスごときに誘惑されるはず……」

 重課金衛門は落胆する。

 「一ついい事を教えてやろう。『忠実なる』英霊、いったい何に忠実なのか、自分で調べた方がいい。このゲームでは、リアルマネーがゴミになる、なんてこともよくあるからな。」

 そう、こいつが忠実なのは己の主人なんかではなく、己の本能なのだ。英霊の正体は本能に従順な獣であり、十万の価値はほぼゼロだ。主に忠実でないチート兵器など、恐ろしくて使ってられない。

 戦闘が終わり、イベントフィールドに帰還。すでに重課金衛門の姿はない。

 僕は安心してコマンド『買収』を選択、イベントフィールドを買収。『輪廻』の凛々しい眼とは裏腹に、エグいことをされる。まあ、操作しているのは僕なのだけど。

 莫大な金―――僕にしてみればわずかな金を対価に、管理者コマンドが現れる。

 『ブラックリスト設定』コマンドを選択。これに登録されたユーザーは、そのフィールドから追放される。ブラックリストに、『輪廻』以外のユーザーすべてと打ち込んだ瞬間。

 イベントフィールドでひしめき合っていた者たちは、一瞬にして消失した。同時に、イベント終了のアラームが鳴り響く。優勝者の欄に『輪廻』が刻まれる。

 なんだろう、試合に勝って勝負に負けた気がする。僕はまあ、多少腹黒い手を使って序列名簿一位にたどり着いたのだが、今回は群を抜いてエグかった。

 まあでも、現実でもこんな手よく使われるじゃないですか。企業による圧力。政治家の黒い部分。それは僕の行為よりも、さらにセコく、黒い。

 まあ、『黒き王』ってなんかカッコいいじゃん。魔王的な強さ秘めてそうじゃん。だから、これでいい。どれだけ黒くとも、『王』は『王』だ。

 そうして王になった罪悪感、達成感を感じていた時だった。

 僕のもとに、一通のメールが届く。『from 秋』と表示される。

 ユーザーにメールを送るには、僕がゲームにログインするときに使うユーザーIDが必要になる。これは非公開だから、誰も僕にメールを送ることはできないはずだ。

 『秋』、何者なのか。

 恐る恐る、メールを開く。

 「『全てを統べし王』よ、どうか私たちを救ってください。私たち、そしてあなたの場所のために。本当の『現実』のために。」

 このメールが、今後僕の人生を、僕の場所を大きく変えることになるのだと、僕はまだ知らない。


 

  

 

 

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