プロローグ 色のない怠惰
やや短めですが、続きます。
「...ふう」
アタシ、須藤メイは結局こうなってしまった。
今日こそは...という淡い期待は溜息と同時に消え去り、心の内に残ったのは怠惰。罪悪感なぞ、とうの昔に霧散してしまった。
所謂、サボり、 おサボり、サボタージュ。
「コンビニの近くに公園を付属させるなんて国が俺に堕落しろと囁いている」
うわあ、ものすごくラノベタイトルっぽい。
ため息ひとつ。
ただ、ただ、くどい。くどい上に意味が無さすぎて味のないガムより味がない。
まるでアタシの人生のようだ、とため息混じりに、アタシは立ち上がる。
営業。外回り。そしてまた営業。帰宅。そんな彩と結果の伴わない繰り返しの中にアタシはいる。
「あー違う。違う。」
彩のないというのは語弊がある。こちらから願い下げってことが正解。この何の変哲もない、成人済み社会人女性、独身。営業職。存在するも、その意義に疑問符が尽きない。
< 。 、 ... >
そうして、昨日も今日も明日もまた。アタシは座り込み、無色の埃を吸い込みながら、足を止める。
「さあてとぉ」
数時間某を置いたところで、しぶしぶと動き出す。説明しよう!結果を問われる仕事なので、何かしら成果を持ち帰らなければ切り捨てられるのである。当たり前である。
「もう何分か休憩したいでござるん...」
ぐだぐだしながらも、資料が入った鞄をまさぐる。リスト〜リストや〜い。
「む」
無い。 ある気配がない。
「ボールペンが忘却の彼方へ...」
リストは発見できたものの、肝心な筆がない。これは...
「弘法筆を無くす、か...」
よし。休憩。
忘れ物すると仕事のやる気が無くなることって...ありません?
「これでまた休めるぞー」
...と口では言ったものの、何か妙とも感じた。
間違いなくボールペンはある。あるはずである。いやそこに無ければならない。
何故なら、ものの数秒前に使っていたから。
「おるぇ〜おとっしたかなあ〜」
そう呟き、周囲を見回す。うん。見た感じ草が生い茂っていること以外珍しいものは無い。ならば、と思い自分が乗ってきた自転車付近へと目を移す。ギアも何もついてない普通のママチャリだ。
「相変わらず、ボッロボロすなあ」
うん、まあどうせ会社のだしいいか。大事なものでもないしね。
「どっかコンビニにでもよってテキトーに見繕うかねえ〜」
やれやれ、と呆れながら前を向く。いや、いつも後ろ向きな性格してますけれど、物理的に正面向くくらいならアタシにでも出来ますのよ?
「さーて、こっの周辺っに、コンビニは〜っと」
そうして胸ポケットにあるはずのジョブスマを使おうとし、
「...」
...したのだが、
「無い。」
困った。どうやら睡眠不足らしい。おかしいな。最近気づいたらすぐ寝てるつもりなのに。やっぱ休み大事。絶対。可憐!
「別んとこに突っ込んだのかなあ」
己の身体をまさぐるも、それらしい物体は出てこない。そもそもポケットそんなないから気づかないはずがないはずだ。
「つうか、さっきまでスマホでゲームしてたじゃんよ...」
流石に少し苛立ってきた...どんだけアルツハイマーかましてんだよ。
「まだ若いつっても、もう歳かあ...」
嫁...ホシ...かゅ...ぅま...
あーもー、散々だ。これは夢の中だ。そう、そうしよう。うん。アタシがそう決定したんだからもうそれは決定事項で、断定で、これは確定ガチャ。ピックアップ仕事した。
そんな平凡かつ、退屈な現実を忘れつつアタシは、少し眠ることにした。
少し、 少しだけ、ほんの少し、もう少し。 アタシ は睡魔に身を任せることにした。
思い出すのは、ページを捲り終えた後で。
積み木を積み上げ、崩すように。
手塩にかけたものを屑同然として扱うように。
物語は巻戻り、進まず、また戻る。
井の中の蛙は、井戸があることすら気が付かない。
無くすものは突然に、忽然と。
忙しい日々を過ごすかのように。
自分が、何であったか。それさえも思い出せず。
ただ、無意味に、無色な息を零す。
ここまで読んでくださり、真にありがとうございます。のんびり続いていきますのでどうぞ、温かい目で見守ってやって下さい。