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無名の異人  作者: ALFRED
7/18

厄日

今週はまさかの二度目の更新です。

7話


厄日


『ソレハ、本当カ、白黒模様?!』


『うん!人なら絶対に解毒剤持ってる!だから早くその人達がどこに逃げたか教えて!』


僕は背広を脱ぎ、弟の熊さんに背広を被せながら言った。弟の熊さんはまだ息が浅く早い、容態はさっきと変わらないみたいだけど僕がここに来てから今までの時間を考えれば危ないかも知れない。


『人間ハ、向コウニ、逃ゲタ!(ツガイ)デ、『アルジール』二、乗ッテイタ!ソレト、、男ガ、弟ヲ、ヤッタ!』


『『アルジール』?』


『小サク、走ッコイ、魔物ダ!見レバ、分カル!』


『うん!じゃあここで待ってて!』


飛び散った土や小石が熊さん達に当たらないように少し離れた所に移動する。

ここから先はお姉さんとの鬼ごっこでも行ったことが無いからかどうなっているか分からない、でも逃げてる人達はこの森の道順は知ってるんだと思う。

だから正直怖いけど最初から全力で走るつもりだ。


両手をつき、指を地面にめり込ませて、右足を前、左足を後ろに、腰を頭より高くするように膝を伸ばす。

前に進みたい両足の力を両腕の力で無理矢理押さえ込み力を溜める。

自然とこういうポーズをとったけど多分これで正解。何故か確信がある。


『白黒模様…』


『何?』


僕は前だけを見て聞く。


『アリガトウ、ココマデ、シテクレテ』


『…まだ早いし、お礼なんて僕が言いたよ』


僕を孤独から守ってくれたのは君達だから。


両足の溜まっていた推進力が一気に爆発し、地面を後ろに掻くように腕を動かしそれさえも走る力に変える。

景色が流れて体に当たる木々の感触もいつもより軽く感じた。

自分でも信じられなくなるほどの加速力でこのままどこまでも行ける気がする。

そしてみるみる内に熊さん達が遠くなる。


「グオオオオオオオオ!」


後ろで熊のお兄さんの叫び声が聞こえる。意心じゃないから何を言ってるのか分からないけど、何を言いたかったのかは分かった。


『大丈夫だよ…絶対に助けるから!』


両足に掛ける力が更に強まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ポテッポテッと擬音が付きそうなゆっくりとした早さで森の獣道を移動する二つの影。


その姿はシルエットをだけを見るなら滑らかな円を描いた肌色の小岩に鞍と手綱を着けてそれに跨がっているような姿だが小岩の正体は『アルジール』という魔物だ。魔物と聞くと皆火を吐いたり、大きかったり、人を襲ったりとマイナスのイメージを持つがアルジールは魔物の中では小型に属し草食で勿論人を襲わずむしろ人を見かけたら逃げ出すような臆病者だ。


しかし上位の捕食者から逃げるための脚力や噛み砕かれないように発達した甲殻は丸まることで柔らかい肉が表に出ないようになっており、影に隠れれば攻撃を凌ぐ盾にもなる。

おまけに気配に敏感で魔物や人間の不意打ちをいち早く察知してくれる。

戦闘をしないのであれば頼りになる相棒だ。

だがガタガタ揺れて乗りこなすのにコツがいるし、専用の鞍は高いし、小型であり移動する際の見た目は半円状なので愛らしく、馬や魔獣に比べ格好が付かないのが難点だ。


「あぁもう遅いぃ!何よこいつら!全然走らないじゃない!」


そう叫んだ女は緑色のバンダナで森の中では目立ってしまう金髪を隠し同じ緑色の制服は少し膨らんだ胸元を明けて着崩している。

装備は短剣と短弓(ライトボウ)、所属している組織『生態監査群(エンジェルズ)』で支給されたものだ。

アルジールの上で腕と足を振り回して余りあるフラストレーションを発散しようとするが、当のアルジールはのほほんといていて節介な彼女は穏やかな性格のアルジールの歩行速度は気に入らないようだ。


「エルミィ…いい年して騒ぐなよ、こいつらが落ち着いてるのは周りが安全な証拠だろう?みっともねぇ…」


「何よ!?うっさいわよ!ハゲ!」


未だに騒ぐエルミィを諭した男はアルフ。光を反射し森の中では光って目立ってしまうスキンヘッドをエルミィとお揃いのバンダナで隠し同じ緑色の制服をきっちり着ている。

年齢は30を過ぎ、少々のあご髭を蓄え落ち着いた雰囲気と相まって大人の男性の魅力を醸し出している。

エルミィとは良くコンビを組み仕事をしているが毎度のことエルミィの我が儘に振り回されている。

正確にはエルミィの我が儘に耐えられるのは彼だけなのだが。


「ハァ…お前が年上であるというのが信じられない。もう少し落ち着けないのか?」


「だって!今日は非番だったのよ?ひ・ば・ん!お仕事大好きなあんたには分からないでしょうけど非番の日は仕事を休んでもいい日なのよ!それをあんたが家まで押し掛けてくるから『森爪(クロウサイン)』に出くわしたりひどい目にあってるのよ!」


「人手が足りなくなったんだ仕方ないだろう?『森爪(クロウサイン)』も俺の弓矢で動きを止めれたし、それに上に掛け合って非番だった奴らには手当てが付くようにした、おまけに明日に休みが移ったからいいじゃないか?」


「今日が良かったの!人気のお店の人気の商品だからだからすぐに売り切れちゃうのにぃ~!」


イライラが募り頭のバンダナを乱暴に取り払うと輝く金髪と共に長い耳も露になる。彼女の種族はエルフだ、アルフからすれば曾祖父の代にエルフと争いがあったらしい、という意識だがエルフ達からすれば親から言い聞かせられ人間を毛嫌いする者は多い。

しかしエルミィのように新しい世界に憧れ人間の社会に乗り出すエルフも少数だが存在している。


「ふぅバンダナしてると蒸れるのよねぇ…早く集団浴場に行きターイ」


バンダナに収まるようにしていたお団子を解くと髪の間に空気を送り込むように長い後ろ髪を両手の甲でバサバサとなたびかせる。

太陽を存分に浴びた金髪光を反射し妖精のように輝いていた。

並みの男ならこれだけで惚れてしまいそうな姿だがアルフは表情を変えずに告げる。


「おい?ここはまだ森の中だぞ?数は減ったが魔物も獣も居る。お前の髪は目立つからそういう奴に見つかりやすい…それに正体不明の魔族の話もギルドであったし、早くしまっとけ。」


「何よお堅いわね?アルジールもこうやって落ち着いてるのは周りが安全な証拠ってアルフが言ったんじゃない?それに正体不明の魔族?そいつの目撃情報も森の最深部の雨雷轟湖(レインオブサンダズ)でしょ?それに調査も終わってあとは帰るだけ。心配しすぎよ」


彼らの任務は謎の魔族らしい存在がこの森の生態系にどのような影響を及ぼしているかの調査だ。

と言っても日頃から『生態監査群(エンジェルズ)』はこの森の獣や魔物の種類や数を調べその調査結果を元に冒険者ギルドに駆除依頼を申請するのだ、普段とやることは変わらない。

彼らは森のプロでここ『ジュガルガンの森』では知識量にて彼等に敵うものはいないだろう。

だが戦闘に秀でている訳ではないので流石に森の最深部に出向く際には冒険者や傭兵と共に向かう。


「そうだが…その魔族は既に20人以上殺してるってよ?心配しすぎることなんてないね」


アルフが落ち着いた雰囲気を更に落とし神妙に語る。


「…それが信じられないのよねぇ。誰の情報なの?あの湖に居たってことは冒険者何でしょ?」


「あぁ『黒駆(スキップシャドウ)』のトレットとパールだそうだ。何でも避難中の村人を護衛中に魔族と遭遇したんだと。」


「ハァ!?村人連れたまま最深部突っ切るって頭おかしいわよ!?その二人本物なの?『黒駆(スキップシャドウ)』がそんなこと考えないと思うけど?」


黒駆(スキップシャドウ)』は信頼の置ける四人組の冒険者チームで名指しの依頼も多くあるという。

日頃から冒険者ギルドに頼っている『生態監査群(エンジェルズ)』にとってはこう言った冒険者の評判にはうるさい。

エルミィやアルフも『黒駆(スキップシャドウ)』の活躍は良く耳にしている。


「うん。何でもトレットとパールは採集依頼で出向いていて依頼中に避難中の村人二人を見付けて成り行きで護衛したそうだ。」


「一般人が単独で最深部に?『黒駆(スキップシャドウ)』に会うなんて運が良いわねぇ…一体何から避難してたって言うのよ?ドラゴンでも出たの?最深部突っ切るって余程のことよ?」


冗談半分でエルミィは言う。確かにドラゴンは存在し、とてつもない力の持ち主だがエルミィの両親がまだ幼少期の頃から目撃されていない。


「…ここから先は噂なんだがな?隣村の連中から逃げて来たらしい。村人に集団で襲われて街までの最短距離で移動してた所を途中の湖にいた魔族に見つかり…

襲ってきてた隣村の集団は全滅…『黒駆(スキップシャドウ)』と護衛してた村人二人は何とか逃げ延びたってな流れだ。」


「なんと言うか…色々大変な事になってないそれ?…」


「恐らく魔族も敢えて人数の多い方を狙ったんだろうな。かなり好戦的な奴かもしれん…それにしては森は平穏そのものだが。まぁ噂だしどこまで本当か分からんがな?」


ニカッと笑って沈んだ空気を軽くし場の空気を入れ換える。

いつも大人びて落ち着いている彼だがたまに子供のように笑う。

それはいつも空気を読んで場を和ませる為だが普段の雰囲気のギャップにより密かなファンはそれなりにいそうだ。


「フフッそうね…あ~私達の今日の仕事は帰って報告するだけだし…あんた、明日は非番?」


「あぁそうだが?」


「良し!それなら今日は飲むわよ!付き合いなさい!私の家に集合ね!」


「はあ…お前また勝手に決めて…まぁ良いけどよ」


「いぃーよっしゃあ!なら早く戻るわよ!ハイヨー!アルジーール!」


エルミィは乗っているアルジールの横腹を蹴るがアルジールは『ムオッ』と鳴き

三角形の頭をエルミィに向け抗議する。

それに気付かないエルミィは「イエェーイ!」と森に声を轟かせ狂喜乱舞している。


「はあ…」


うるさいエルミィの隣でアルフは溜め息をつき、心のなかで(嫁も居ないのに娘が出来た気分だ)と嘆いた。

すると二人が乗っているアルジールが急に止まる。


「ん?どうしたんだ?」


アルジールからの返事は無いが耳と鼻をピクピク動かして周囲を警戒している。


「…エルミィ、警戒」


「分かった」


二人は短弓(ライトボウ)と矢をいつでも構えられるように準備する。先程の和やかな空気は入れ換えられ緊張感が張りつめ周りが静かになった。

すると聞こえてきた。


「グ、ォ…ォォォ…!」


かなり遠くだが森爪(クロウサイン)の雄叫びであるとは分かった。

森爪(クロウサイン)はジュガルガンの森の中層と最深部の間を縄張りにしており家族単位で群れを作っている。

攻撃方法こそ牙や爪などの原始的なものだが知能が高く一部の見解では言葉も理解出来ていると言われていれ、全身緑の体毛で覆われており横腹にある大きな爪痕のような黒い模様と縄張り木に爪痕を残すことから森の爪痕、『森爪(クロウサイン)』と呼ばれている。


「アルフ?さっきあんたが射止めた奴だと思う?」


「…充分量は足りていた筈だが…早いところ行こう。ここにこれるほど元気だと思えないが手負いの獣ほど怖いものはない」


「えぇそうね…行きましょ。ん?アルフ、アルジールの様子がおかしい」


「えっ?…何だ?どうしたんだ?」


アルジールは耳は真後ろを向いたままカタカタ身体中を震わせているのを鞍を通じて感じる。落ち着かせようと小さい三角頭を撫でるが落ち着く気配はない。


アルフとエルミィは目を合わせる。どちらも今の状況が分からないらしい。

アルジールの耳が後ろを向いたまま動かないので気になった二人は後ろを見てみる。


すると遠くの、木々の間、森の奥、枝と葉で出来た、薄暗い影の中で、白い影が、点で見えた。

二人は目を凝らす、最初は余りに小さかったから。


ド…ォ……ォォ…ドオォォドオオン!


でもだんだん分かってきた。

地鳴りのような低い足音を立てて

それはとてつもない早さで森を駆けてる。木があちこちに当たるのも厭わず真っ直ぐに此方に向かってくる。


白い顔がこちらを見ていた。ずっと後ろから。


「「っ!!」」


遠くからでも感じる凄まじい威圧感。


「「逃げるぞ(わよ)!!」」


叫んだのは二人同時だった。手綱をパシン!と鳴らしアルジールに合図を送る。

だがアルジールは答えない。

小便を漏らし震えたままだ。


「ちょっと何でよ!」


「おいおいこんな時に擬死かよ!」


擬死とは動物が驚いたときに見せる防衛本能の一種で体が硬直して動かなくなる現象だ。いわゆる死んだフリ。

しかし二人の騎乗を前提に飼い慣らしたアルジールには擬死にならないようにならないように訓練されている。

が、今のアルジールは大声を出しても手綱を操作しても横腹を蹴るってもアルジール岩のように動かない。

アルフは後ろを見る。白い点がさっき見たときより大きくなって足音の地鳴りも強くなってきた。

このままじゃ追い付かれるまで4、5秒だろうか。


「さっさと走りやがれ穀つぶしが!」


アルフは拳を振り上げ堅い事で有名なアルジールの頭を素手で殴った。アルジールからすれば屁でもないが思考を取り戻すのには充分な威力だ。


「ムオオオ!」


アルジールは短い四本足をバタバタと動かしとてつもない急加速をする。

それを見てエルミィのアルジールも後を追うように走り出す。

その加速に位置エネルギーが働いていた二人は大きく後ろに体を仰け反らせるが体勢を立て直し、前傾姿勢で尻を浮かせアルジールの上下に揺れる体を膝を曲げ伸ばしすることで吸収する。

肌に痛いほど当たる風がアルジールの速さを物語っており陸上で追い付ける者はそうそういないのはず…


だけど後ろの奴は?


(どんなに速くてもこれなら…)


半分以上願望だがエルミィは後ろを振り返る。

すると…


誰もいない。何もいない。


ほぅ…と安堵の溜め息をつく。


「ねぇ!アルフ!さっきの何なの!?湖の魔族!?」


エルミィが右側で並走するアルフに風の音に負けないように叫ぶ。

遠くで少ししか見えなかったがあれはヤバイ。

森の管理人としての知識と生物としての勘がそう告げる。

アルフも同じことを感じていたみたいで頭に巻いたバンダナが冷や汗で濡れて色が変わり、顔色も悪い。


「分からん!だが、噂の魔族は白い肌に全身黒服を着てるらしい!さっきの奴は見えた範囲じゃ全部白かったから別じゃないか?!」


「ちょっと待って!あんなのが別にもう一体いるって言うの!冗談じゃないわよ!」


「落ち着け!今はまず帰還して…」


ズガバギャキャ!


アルフの真後ろで乾いた音が鳴り響く。

後ろで見えなくなっていたはずのあいつが腕をX字に組み木々を吹き飛ばしながら森の中から獣道に飛び出してきた。

子供が積み木を手で叩いて崩したみたいに簡単に。

そいつは片手を地面に突きそこを支点にドリフトしながら方向転換、此方に向かってくる。


そして二人は初めて追跡者(ストーカ)の姿を捉える。

肌はミルク色、頭は茹で玉子のように滑らかでツルツル、輪郭を見れば小顔の部類に入り顎はシャープだ。

服装は変わっていて上は肌と同じ白、下は黒いズボンを履いている。靴は上品な光沢のある革靴で首に付けているのは黒いリボンだろうか?

風にたなびきバタバタと音を立てている。

だが、一番の特徴は顔だろう。

魔族のような角も、牙も、翼も見当たらない。

それどころか目も、鼻も、口も、耳も、髪もない。

確かに一部が退化し他の器官が発達している生物はいる。

しかし丸々顔のパーツが無くなっているのは聞いたことがない。

あり得ない存在だが…目の前に居る以上信じるしかないだろう。


相手は服を着た魔物か?それとも魔族か?意思の疎通は可能か?

二人とも後から後から疑問が湧き出てくるが今はそれどころではない。


「アルフ!狙われてるわよ!」


「分かってる!」


追跡者(ストーカ)は30㎝はありそうな右手の平を長射程の腕から怠慢な動きで掴み掛かる。

アルフはアルジールを蛇行操作し巨大な手から逃れ続ける。

すると追跡者(ストーカ)は焦れたのか左手も繰り出してきた。

援護しようとエルミィは矢を構え狙う。

だが、アルジールの背の上ではいくらエルフと言えども至難の技だ。

おまけに追跡者(ストーカ)は蛇行するアルフを追っている為動きも不規則だ。


だけど気がこっちに逸れれば!


エルミィの当てずっぽで放った矢は本人の予想を裏切り真っ直ぐ追跡者(ストーカ)の頭部に吸い込まれる。


当たる!


だがこの予想も裏切られる。

追跡者(ストーカ)は減速して矢の進路上から外れた後再び加速した。

一瞬顔がエルミィの方を向いたが興味が無いのか直ぐにアルフに向かう。

それを見てエルミィは思う。


アルフがピンチなのは分かるけど…

何か悔しい!何!?私みたいな女性エルフより同じハゲが良いわけ!?


「キィィィィ!こぉんのハゲ頭がぁ!」


ヒステリックな奇声を上げ青筋をたてて二本目の矢を放つ。

が、今度は明後日の方向に向かい木霊と共に虚しく散った。


「おい!エルミィ!…っ真面…目、にやれ!」


「私は真面目よ!」


言いながら三本目の矢を放つ。

今度は脇腹に向かったがこれも避けられる。今度は追跡者(ストーカ)は顔も向けない。


「エルミ、ィ!『あれ』だ!『あれ』やれ!うおっ!」


「えぇ!『あれ』ってバカっ!あんたまで巻き込むでしょ!!」


「考えがある!信じろ!…っつ、5秒前!4!…3!…」


「ええ!?『か、風の鈴音に耳を預け我が声を聴け…』」


エルミィは弓矢を捨てて両手を交差させるように前に出しエルフの言葉で言葉を綴る。

すると周りに多くの緑色の光の粒子が彼女を照らす。


「2!」


アルフは自分と鞍を繋ぐ金具を外した。


「『我が名はエルミィ…仇なすものを世の果てまで飛ばせ!』」


エルミィの集中力が高まり瞳の色が青からうす緑に変わる。


「1!クォーゲル!」


アルフが地面に魔法をかけながら飛び降り、短剣を抜く。

するとエルミィの進路上に影響が無い範囲で獣道が泥沼と化す。

アルフが使える少ない魔法のひとつだがかなりマイナーな魔法だ。

効果範囲は広く自由に範囲を変えられるのだが、いかんせん使いどころが無い。

水を生み出す訳でもなく巨大な壁が現れるでもない使えば地面がビチャビチャになる迷惑魔法だ。

アルフ自身初めて使うし、こんな状況でなければこの使い方は誰も思い付かないだろう。

泥水はアルフと小石が混じった地面との摩擦を減らし泥水を撒き散らしながら氷のように滑っていく。

追跡者(ストーカ)も足を滑らせ尻餅をつき背中で滑っていた。


「やれ!エルミィィ!」


アルフはすかさず短剣をぬかるんだ地面に突き刺して減速を図る。

不意の出来事に戸惑った追跡者(ストーカ)は木に捕まろうとするが届きそうで届かない。


アルフは減速し、アルジールは既にはるか前に逃げお失せている。

魔法範囲内に奴は一人…遠慮することはない。


「『ノームスヌーズ!』」


エルミィの纏った緑色の光が手の平に集約し追跡者(ストーカ)に向かって撃ち出された。

狙いが少しずれたが光自体が意思を持つように緩やかなカーブを描くと着弾した瞬間、追跡者(ストーカ)の周囲の全てを巻き込み暴風…いや爆風と表現するべき風が追跡者(ストーカ)を襲う。

木々は根本から引き抜かれ、泥水も乾燥した土が露出し、追跡者(ストーカ)は両手足を広げて車輪のように回転しながら飛ばされる。果てまで。


エルミィが使ったのはエルフ特有の魔法で大気中に漂う精霊の力を借りた『ノームスヌーズ』『精霊のくしゃみ』と言う意味の魔法だ。

正確には魔力を使っていないため魔法ではないが…

威力が強すぎて使いどころが難しい。

しかもエルミィは魔法とらしいものがこれしか使えないから手に負えない。高い魔力を誇るエルフなのにだ。

その代わり弓矢の腕はそこそこだが。


「はぁ…はぁ…」


短い追い駆けっこだったがもう二度とごめんだ。と、エルミィは思った。

飛ばされた追跡者(ストーカ)を見届けた後、泥だらけのアルフが歩いて着た。


「ペッペッ!…どうだ?上手くいったろ?おえっ!」


「そうだけど…はあぁ…今日は厄日だわ」


エルミィはアルフに色々と言いたいことがあったが今日の夜酒の席で伝えようと決めた。

ようやく魔法が出せましたぁ。(この世界では違う扱いだけど)


ここまでお読み頂きありがとうございます。

実はダメ元でネット小説大賞に参加させて頂こうとしているのでもしもお時間がありましたら皆様の御指南のほうろよしくお願いします。


ー追記ー

あっあと今まで作中で使っている単語で説明出来ていない物が多々あると思いますので作者の頭の整理も兼ねて感想欄やメッセージ機能等どこでも構いません。

何かご質問があった際には退屈にならない程度のネタバレを避けた『説明会』を予定しておりますのでご遠慮なく送ってきてください。




作者の餌に成りますゆえに…

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