学習
よろしくお願いいたします。
5話
学習
女の子達が帰って何日かたちお姉さんとよくお話をするようになった。一番驚いたのは僕は声が出ないってこと、もし他の人が来たらどうしようかと思ってたらお姉さんからこの国、アストリア王国の文字や言葉、数字に算数を教えてもらって毎日地面にしゃがんで枝で土に沢山書いて勉強した。
でもお姉さんが一番大事に教えてくれるのは無闇に生き物を『殺す』しちゃダメってことだと思う、だってお姉さんこの話をすると怖いもん。
『何で殺すことはダメなの?』
『殺すことは事態は何も悪くありません。生き物は皆何かを殺して生きています。私が言いたいのは無意味に殺すことです。判りますか?』
『うーん?』
話が難しくてよく分からない。殺さないと生きられなくて、殺したらダメ?うーん?
『…分かりやすく言えば『殺しを楽しんではいけない』です。』
『楽しい?』
『はい。貴方はあの女の子達を襲った人達の事を覚えていますか?』
『うん。覚えてる。』
僕は森の中を指差して言う。指を指した方向には茶褐色に染まった土や倒木の隣に死んだ人を埋めて太めの枝を刺してる、お墓って言うらしい。
この前女の子達を追いかけてきた人達を追い払おうとしたら皆赤くドロドロになって散らばっちゃった。
僕はあの人達をいつの間にか殺してた。
『それじゃあその時の事をよく思い出して下さい。』
『うん』
あの時は確か女の子が怖がってるのをみたら追ってきてた人達を追い払おうと思って…。
『…貴方は皆を追い払おうとしたんですよね?』
『うん』
『何で追い払おうとしたんですか?』
『女の子が怖がってたから』
『それじゃあ皆を殺そうとしましたか?』
『ううん?』
『それで皆を殺してしまってどう思いましたか?』
『うーん?よく分かんない』
『ん~じゃあ…殺した時と私とお話をするのはどっちが楽しいですか?』
『お姉さんとお話しする事!』
『むふふ、ありがとう。私も楽しいです。』
『えへへ…』
僕が楽しい事をお姉さんも楽しいって言ってくれて何だか嬉しくて体がムズムズしちゃって変な感じになる。
『ここで話を戻します。貴方はあの子を助けるために村人達に立ちはだかり誤って殺してしまった。ですね?』
『あっ、うん』
『つまり、貴方は悪者から女の子を守った。これは良いことなのです。』
『えっ?でも沢山殺しちゃったよ?』
『確かにそこは反省しなければいけませんが…でもやろうとしたことは立派です。他人を守りたい、その心が大切なのです。分かりますか?』
『うん、多分』
『ではまとめてみると…殺すのはダメ!人を守ることは良いこと!覚えましたか?』
えーと、殺すことはダメだけど人を守ることは良いこと。よし!覚えた!
『覚えた!』
『よし。良い子です。では最後に私との約束を決めましょう。』
『約束?』
それからお姉さんと僕はいくつか約束をした。
・誰かが来たらまず隠れる
・見つかって襲われたらすぐに逃げる
・逃げられなくなったら殺さないように追い払う
・相手が逃げていったら追い掛けない
・自分から襲わない
『基本的に私が近くに居るので大丈夫だと思うのですが…私が居なくなる事があるので念の為です。』
『えぇ!お姉さんいなくなっちゃうの!?ヤダヤダ!一緒にいてよぉ!』
『う、うわ!』
僕は慌てて両手をついてハイハイしながらお姉さんに詰め寄る。お姉さんが逃げるのでまた詰め寄る。何で逃げるの!?
『ち、近いです!速いです!怖いです!』
『あっ…ごめんなさい…』
お姉さんに怖いと言われて冷静になり立ち止まって膝を抱え座る。
うぅ…怒られるかな?
『ふぅ…そんなに慌てないで下さい。すぐには行きませんし、なるべく早く帰るので。』
『ホント?』
『はい本当です』
なぁんだ良かった…でも直ぐに戻るって言ってたけどいつか行っちゃうんだよなぁ。イヤだなぁ…。
『それより…少し後ろを見てもらっていいですか?』
『ん?』
右手をついて上半身を捻り後ろを見ると地面には等間隔で深く抉られた跡があって何かの足跡みたいだ。
そこでふと僕は自分の行動を振り返る。
確かハイハイして…
『お姉さん?これ僕?』
『そうです、これは貴方がやりました』
やっぱり僕がやったらしい…地面がボロボロだぁ…
『とりあえず、穴を埋めましょう。そうすれば傷付いた草や花も元に戻ります。
ですが彼らにも命は宿っています…無闇に傷付けないよう気を付けて下さいね?』
『はい…』
うぅ…やっぱり怒られた…
抉れた土はあちこち散らばって埋めるにはとても足りないからとりあえず森の中に入って何も生えてない土を持ってきてそれを使お。
だけど空いた穴は深くて多いから森と湖を3往復位した、あーぁ何で地面とか人ってこんなに脆いんだろう。
もっと丈夫なら僕もこんなことしなくて良いのになぁ。
お姉さんは全部の穴を埋めたのを確認すると僕の方に向かって飛んできた。
『うん。良くできましたね。お利口な子にはご褒美です!』
お姉さんの光が淡く光り僕の頭の回りを滑るように飛び、頭を撫でてくれた。
これをされると優しい温かさが物凄い早さで回るものだからくすぐったくて仕方がない。でもこれをされるとスゴく嬉しくて幸せな気持ちになる。
『アヒャハハ!お姉さんくすぐったい!』
手を使ってお姉さんを捕まえたいけど地面とか人が簡単に死んでしまうことを思い出しお姉さんも殺してしまうかもと思い我慢した。
『…フフっ、さて今日のお勉強はこれでおしまいです。今日も頑張りましたね。』
『エヘヘ、またお姉さんに誉められちゃった!…でも今日はいつもより終わるの早いよね?まだお日様上にあるよ?』
僕はお空に指を指しながら言う。
お姉さんのお勉強はいつもお日様が見えなくなってからいつも終わるのに今はお日様はてっぺんにある。
『うーん…貴方が頑張ったお陰で早く私が教えられるお勉強は終わってしまったんですよ。なので今日は体を使ったゲームをしようと思います。』
あれ?知らない言葉だ。
『ネェ?お姉さん。ゲームって何?』
『えっ?、あぁ…ゲームと言うのはまぁ…遊びです。ほら、えぇと…お互いに競争したり勝敗をぉ…決めるものをゲームとも言います。分かりましたか?』
『…うーん?』
『伝わってませんね…まあ楽しい事なので取り合えず一緒にやってみませんか?』
『楽しいの?じゃあやる!』
『それでは説明しますね?これからやる遊びは『鬼ごっこ』です!』
ーーーーーーーー
どうしてこんなことになった?
私ラミはそんなことを思いながら私は森の茂みに身を隠し彼からの追跡を逃れようと必死だった。
『お姉さぁん?どこぉ?』
っ!きた…
『うーん?ここにはいないのかなぁ…』
私を追ってくるのは黒いスーツを着たミルクのように白い肌に茹で玉子のようにツルツルとした滑らかな頭部をもつのっぺらぼうの大男。
どちらかと言うと体格は長身痩躯だが、腕と足が異常に長く太い四肢も華奢に見えてしまう。
彼にはラミと名乗ってここ数日監視のついでに湖で勉強を教えておりお姉さんと慕われている。
彼は脳がまだまだ若いらしくスポンジが水を吸うように数多の知識を吸収していき今では四足演算と読み書きも出来るようになっている。
今日は私が教えられる知識は所はだいたい教えてしまったので、強い体に慣れさせるため現在地面や木々を傷付けてはならないという縛りを与えて『鬼ごっこ』をやっている…
はずだった。
『よし!あっちだ!』
ガザザザザザザザザザ…
…行った?
茂みの間から覗き彼が居なくなったことを確認する。
この体は今は粒程の大きさしかないので茂みから頭を出さないで茂みの中を通ることもできる。
まぁ色々と制約も多いけど。
話を戻す。さっきも言ったけど彼はまだ新しい体に慣れていない。だから守ろうとした女の子さえも殺しかけてしまった。
…まぁ無理のないことだけど
だから私は彼がまた同じ事を繰り返すことのないように遊びを通して体の制御を覚えてもらおうとしているのだ。
だけど予想外の事が起きた。
彼は一度走れば木々を薙ぎ倒し、地面を人の頭が入る位大きな陥没できていたというのに今ではすっかり慣れてしまい木が体に当たって葉っぱか数枚舞う程度だ。
勿論これは喜ばしい事でかなり早いが私の目論み通りだ。
問題はそのあとだった。
追われると物凄い怖いのよぉ…
彼は身長が三メートル近くある大男。
そんな男が普通に森を歩こうとすると頭に枝が当たり前が見えない、その為最初は両手をついてハイハイしながら木々を傷付けないように慎重に追ってきた。
そして次第に慣れてくると最終的に蛇が草を縫い進むが如く木々をすり抜け、蜘蛛が糸の上を歩くみたいに繊細に長い手足は地面を掴み胴体を運ぶ。
想像してみてよ?
白蛇に蜘蛛の足が生えてこっち追って来るのよ?
少なくとも私はそういう幻覚が見えたわ。
しかも彼は自分より数千倍はでかいから迫力も桁違いよ。
おまけに速いのよ。
いくら相手が(アハハ!お姉さんまてぇ!)
って親しみのある可愛い声で言ってきても怖いのよ!いやっだからこそ怖いのよ!
大人気なんて気にしないで鬼ごっこなのに必死にこうして隠れてるわよ!
何でこんなに早く森の移動に順応するのよもっと苦戦しなさいよ馬鹿っ!
心の中でひとしきり叫び精神が安定した私はぼそりと独り言を漏らす。
そう、彼は素直で純粋で寂しがり屋。
見た目は怖いが内面を知るとどうしても世話を焼きたくなる。
隠れてから結構たってるしあの子はそろそろ不安がるかもしれない。
『…はぁ。彼には悪気は全く無いのよねぇ…まぁそれが余計に質を悪くしているのだけれど』
正直まだ恐いけどいつまでもこのままじゃいけない。
もしあの子が迷子になり万が一密両者や冒険者に見つかれば最悪の結果になりかねないのだ。
ここはひとつ、私が疲れたと理由を付けて鬼ごっこは終わりにしましょ。
あの子なら私が意心を飛ばせば直ぐに来てくれると思う。
私は茂みから抜け出し彼に呼び掛けようとしたが
タンッ
という音と共に頭上の葉っぱがパラパラと舞い落ちてきたので上を見上げると彼の顔が眼前にあった。
それはもう視界いっぱいに。
『…あらら!見つかってしまいました。』
ひぃっ!と喉まで出かけた悲鳴を無理矢理飲み込み外面のお姉さん口調で話かけた。
えっ!なんで!こんなに近くに居るのに気が付けなかったの!?
さっきまであんなにガッサガッサ足音たててたのに!
彼の姿を見てみると両手足は地面に付いておらず、木々の枝に手足を引っ掻けて体重を支え移動もこなしていたらしい。
…どうやったらそんなの思い付く?そして実行出来る?猿でも出来ないわよそんな芸当…
『エヘヘ!お姉さんみーっけ!』
彼の声が意心を通して聞こえる。のっぺらぼうの彼に表情などと呼べるものはないが声色だけでも彼がどんな感情を抱いているかは意心が使えれば誰でも分かるだろう。
自分の事を見付けてこんなに嬉しがられたら先程の恐怖も驚愕も薄れてしまった。
『フフ、それでは遅くなる前に帰りましょうか?』
『うん!帰ろお姉さん!』
彼は木から降り私と一緒に湖へと向かった。
いやぁでもこの歳でお姉さんって呼ばれるのはやっぱり嬉しいわぁ。ムフフッ!
ここまでお読みになっていただいた方、実にありがとうございました。