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第一話 ようこそホテル・カリフォルニアへ 追伸

 消したはずのテレビは家に帰ると必ずついているし、窓は開いている。たんすの引き出しはすべて開いており、部屋は荒れ放題。


 ふつうこれを見て泥棒が入ったと思わない人はいないだろう。だがこんなことが毎日続けば泥棒のほうがまだよかったと思うに違いない。


 もちろん盗られたものなど何もない。これは泥棒の仕業ではないからだ。


 天井のシーリングライトはことあるごとに明滅する。何もしていないのに蛇口から水がながれだす。寝室で寝ているとあちこちからピシピシ、キシキシとラップ音がする。マンションなのだから温度や湿度による躯体の軋みなどないはずなのにだ。


「うっるさぁあああい! いいかげんにしろぉ!」


 朱莉は叫び寝室のスイッチに手をかけるも、電灯は点かない。何度かバチバチと操作を繰り返していると眼前にやわらかい衝撃が襲ってきて床に落ちた。枕が飛んできたのだ。


「ふっざけんな! あたしは出て行かないからなぁっ!」


 朱莉は布団を頭にかぶり、感情をこれ以上昂らせては相手の思うつぼだと、懸命に意識を沈める。


 霊との付き合い方には慣れている、相手のペースに乗りかかると自分の分の力まで利用されて、より被害は大きくなる。


 これらポルターガイストが物理的に物を動かす力を、朱莉は念動力ねんどうりょくと呼んでいる。この力は霊体そのものが持つ、かつて身体を動かすために使っていた力であり、現存する人の力と違いはない。


 そもそも人は魂で思考しそのイメージで身体を動かしている。だが身体に備わる感覚器官の情報をフィードバックするが故に、イメージの抑制を受けている。すなわち身体は魂の器であると同時に枷でもあるのだ。


 つまり逆を返せば、この身体の制限を受けないのが霊体である。ある程度霊として成熟した彼らは念じた行為を物理的に正確に再現することができるため、暗闇であろうが枕を正確に朱莉の顔面にぶつけることも、人間一人では動かせないような家具を動かすことも、紙片を高速で飛ばして刃物のように扱う事すらできる。


 霊体の起こす霊障に対し人が抗する術は意識を切り離すこと、つまり無視することにある。恐れ霊体の存在を認識すればするほど彼らの力は増す。彼らを認識して状況に取り込まれると、同調され自分のもつ念動力までをも利用され、力はさらに大きくなってしまう。


 捉えにくい概念かもしれないが彼らも物理的な存在である。ゆえ霊とて念動力は体力と同じで無限ではない。そして扱える技量も要する。普通の無害な霊体なら年月がたつほど力が弱まる傾向があるので、めったなことではポルターガイスト現象など起こせないのであるが、“彼女”はそうではないらしい。


 能動的に人の恐怖心をあおり、同調し、自らにその力を集合させさらに霊障を強め、活動するためのカロリーを得ようとする類の霊を悪霊と呼ぶ。


 布団の中で、この部屋に地縛する霊の強さは異常だと思いながら、朱莉は持ち前の精神力で毎夜の霊障をやり過ごす日々を送っていた。そしてこのままでは済まさない、と。



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