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第五話 なんでもはできないの 1

 鞠と体に張り付けた呪符に守られながらなんとか部屋への進入は成功したが、すぐさまテラス側の窓際へと避難せねばならなかった。部屋の中はもはやトーコの張った結界で満たされており、とてもではないが居ることが出来なかった。


「あつっ」


 体に張り付けた呪符が燃えたのだ。炎が出る訳ではないので幸い火傷には至らなかったが、全身に張り付けていたため一刻も早く部屋の結界から逃れなければならず、あわててテラス側の掃き出し窓へと退避した。ミケランジェロは驚いて跳ねのき、部屋の外へと猛然とダッシュして逃げてしまった。


「あんたのその“能力”が何なのかはわかんないけど、少なくともあんたは魔王なんかじゃない」


 図星をつかれ、朱莉はつい苦い顔をトーコにみせてしまった。鞠の存在がばれた訳ではないにしても、トーコに今までの茶番を見抜かれてしまっていることは確実といえた。なぜかは解らないが、『シュリ・バーミリオン』が存在しない魔王だという事がばれている。


(くそ、鞠さん……話し合うつもりだったけど、こうなったら吹き飛ばそう!)


(諦めるの早っ! でも朱莉ちゃん、相手はホームの地縛霊よ? あたしの力じゃ念力場を一時的に散らすことはできても、ここじゃトーコちゃんの力場の方が強いからすぐに戻っちゃうわよ。私はあなたを守るための力はあっても、除霊する力は基本的にはないんだからね)


(じゃあ、消滅させてよ!)


(だから、それは嫌だっての!)


(かぁあ、役たたないなぁ)


(言葉に気をつけなさい、このまま放置するわよ?)


(ごめん)


 鞠と念話でやり取りしているうちに不意を突かれ、胸に強い圧力を受け、開け放ったテラスに面した掃き出し窓から外に突き飛ばされた。


 尻から勢いよく着地し、痛みをこらえているうちにガラガラと掃き出し窓が閉じられる。


(あんたの居場所はそこよ。この部屋はペットを飼う事を許されているのよ、幸いね)ソファに座ったままのトーコが冷たい視線を投げかけて言う。


「なっ、何言ってんだ! ここはあたしのウチだ!」


(あんたは借りてるだけでしょ、今日からはあたしが飼ってやるって言ってるんだ、大人しくしてりゃとり殺したりしないよ)


 トーコは凶悪な笑みを浮かべてなおも窓を閉じる。


「ばかっ! この炎天下で放り出されたら死ぬわ!」 


(ならペットらしく裸で日陰にでも寝転がってなさい)


「トーコっ! ここを開けろ!」


 マンションの掃き出し窓は全室標準装備の防犯ガラスになっており、ゴルフクラブで百回叩こうが割れない堅牢設定だった。約六メートル四方で囲われた柵の下は地上十八階、朱莉は逃げ場のない炎天下のコンクリートに覆われたテラスに取り残され、わずかに影になる部屋側のひさしの下で、壁に背をつけて日が落ちるまで耐え忍んでいた。


「部屋に入ったとはいえテラスじゃ野宿とおんなじじゃん!」


(ふうん、えらくご立腹のようね?)


「あったりまえよ! ここはあたしの部屋!」


(じゃなくて、トーコちゃん。朱莉ちゃん思い当たる節はないの? なんでばれたのかしら?)


「判ってたら話し合いくらいは応じるよっ」


(朱莉ちゃんの“話し合い”ねぇ……)


 部屋に居ながらにして部屋から閉め出されていた。これは最悪だ。これならまだ部屋に入らず玄関で足止めを食らっている方がましだった。会社にすらいけない。


 そこへスマートフォンが振動で電話の着信を告げてくる。


「くああ、こんな時に誰? はいぃもしもし――」


《あ、周防さんですかぁ、どーも植丸不動産の山岸ですぅ》


「なんですか、今忙しいんですけど!」


《いえ、しばし家を空けられてるようですが、さすがにアレですか?》


「アレってなんですか、ちゃんと住んでますよ、夏休みで実家に戻ってただけです!」


《ええ? 出て行ったんじゃないんですか?》


「出てゆくなら出てゆくって一言でも二言でも言いますよ、なんですかそれ。あたしが夜逃げしたみたいな言い方」


《いえ、まあ……実際そういう方がほとんどでしたんで……》


 おそらく解約の違約金を支払うのが嫌で夜逃げするというより、一秒でもこんな怪奇物件から逃げ出したい気持ちで入居者が突発的に退居してしまうというのが、今までのパターンだったのだろう。


「で、これ、生存確認ですか?」


《ああ、いえ。あの、そちらにね、建物清掃の方がもう向かってましてね、あの、もし来られたら――》


 山岸がそう言い終えるまでに、轟音とともに玄関のドアが部屋内に飛び込んできたのが見えた。ドアから何かが飛び込んできたのではない、ドアそのものが飛び込んできたのだ。


「なに! いまのなに?」


《ありゃ、もう来ちゃいました?》


「何が来たのよ! あたしにテロリストでも差し向けた訳?」


《なんですかその常軌を逸した被害妄想は……部屋は無人だから勝手に入ってもいいって言ったんですけど、どうにかなりました?》


「ドアが吹き飛んでるわよ」


《…………》


「もしもし?」


《ハードクリーニングコース……》


「いや、意味わからんから! あれは誰!」


《ゴーストスィーパーです》


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