6.自責
俺はスクールバッグを持ちながら立ち上がり、真希奈の前頭部に手を乗せた。
「真希奈。じゃあ、雑談しながら帰ろうか」
「?はい」
教室を出た辺りで俺は言葉を持ちかける。
「なあ、真希奈は俺に彼女ができたらどう思う?」
「いきなりなんですか?まぁ、悲しいです。と言うか、片葉さんとその女性をばらばらにして埋めます」
「君を攻略したらヤンデレルート直行だな」
「何いってんですか?もう攻略されていますよ?それと、私には片葉さんに処女を献上するという義務がありますから」
「未だそのネタ続くか」
恐らくこの子は最近下劣な言葉を覚えたせいで使い回しが激しいのだろう。俺も覚えたての技を使いたくなるものだ。
「なぁ。それってどういうことか理解してる?」
「痛いってことですか?」
「あまり大きな声で話すことじゃないよ。恥ずかしいんだから」
「どうしてです?」
無邪気に首を傾げる少女に俺は悶えながら笑いを堪える。
「君は、風呂に入った時、どこから洗う?」
「……頭?」
「あ。そう来たか」
此処は体の部位を答えるところだが、面白いので黙っておこう。
「(あれ?どうして今、こんなに楽しんでいるんだろう?)」
かすかな疑問が浮かび、俺は彼女を見つめる。
「片葉さんはどこから洗うんですか?」
「そうだなー。よくよく考えたら、左腕かな?」
「甘えん坊ですね?」
「なんで体を洗う場所だけでその性格がわかるんだ?後、俺は断じて甘えん坊じゃないから」
「そういう診断が有るんです。偶々腕は覚えていました」
「今回の場合はどの体の部位を先に洗うのかって訊いてたんだ。俺はてっきり首から下の答えが帰ってくるのかと思ったよ」
「首から下?言いたくありません。恥ずかしいので」
「君がさっきから言っている内容は、それを暴露する以上に恥ずかしい内容だから黙ろうねって言いたかったの!」
彼女は満面の笑みを作る。それは本当に楽しんでいるのだろうか……。少なくとも、俺は楽しい。今まで他人に気を使って生きてきたが、この子相手だと気を使う必要が無いと心の何処かで理解している。
「で、片葉さんは誰かに告白されたんですか?それとも、好きな人ができたんですか?」
「両方かな?」
彼女は目を見開く。
「誰に告白されたんですか?」
「え?明流。日渡明流だよ」
「見合いが近々予定されいてる方ですよ?もしかして、見合いを壊したくて好きでもなんでもない片葉さんに嘘の告白をしたんですかね?で、なんて返事しました?」
「俺と同じ解釈をしたな。まあ、断ったよ」
「懸命です」
胸を張って誇らしげに威張り散らし、笑顔を作る。
「何故上から目線なのさ」
「私は偉いからです!えっへん!」
「そうでございますか」
俺は完全にやる気を消すと彼女は目を細めて話しを変えた。
「で、誰を好きになったんですか?」
「ん?なんのこと?」
「さっき私が、告白されたのか好きな人が出来たのかと聞いた時に両方だと言っていましたよね?」
「あ?ああ。で?」
「好きになった人、誰なんですか?私じゃなかったらその相手を解体します」
俺はまじまじと彼女を見つめるが、不満気な表情を見せる。
「冗談ですのに」
「いや、なんて返したらいいのかわからなかっただけだよ」
「で、誰なんですか?」
「猟奇的な目だね。まぁ3回も同じ質問されてしまったら答えざる負えないか。正直言いたくないんだよね」
玄関に着き、俺は内履きを中に入れ、足を外履きの中に入れる。
「片葉さん」
「あ?」
真希奈の声ではないと思い、振り返ってみるとそこには明流がいた。
「公式戦の勝利、おめでとうございます」
「ありがとう」
「ああ、日渡先輩。こんにちは、これからおかえりですか?」
「凩さん。お久しぶりです」
真希奈の攻撃的な挨拶に対し、丁寧な返答をする大人びた明流。
「片葉さん。お願いが有るんですがいいですか?」
彼女は俺の目をじっと見つめてから言う。自然のその黄緑の瞳に目が惹かれる。
「なんだ?」
俺は口を中途半端に開き、動かさずに返答する。呂律は回らなかったが、3音程度の言葉なら問題なく聞き取れるだろう。
「今、付き合っている人とか、いますか?」
俺はその突拍子もない質問に目を丸くする。
すると、真希奈が間に割り込み、
「居ます!私です!私!」
と敵意を露わにして言葉する。俺は真希奈を無視し「居ないよ」と答える。
「そうですか。良かった。私と付き合って下さい」
「え?君、凝りないよね?俺、あの時断ったじゃん」
「今は?」
「一概にいいよなんて言えない」
俺はあくまで道徳的な考えを行使して返答する。
「どうしてですか?私を好きになれないとか?」
「違う。理屈では表現しきれない。あのさ、君は見合いをぶち壊したいだけなんでしょ?俺じゃなくてもいいわけだ」
「そ、そんなことは」
「だったら、俺が図星突いたら一々動揺するなよ。そんな態度だと、言ったお前も言われた俺も傷つくんだから」
冷たい対応を作ると、彼女は俯く。
「すみません。今日は出直します」
そうして内履きを脱ぎ、ローファーの中に足を入れた。赤い和服に紺のローファーはミスマッチだろ?下駄とは言わないが、草履のほうがいいんじゃないのか?
それから、明流はすごいよな。第三者がいるにも関わらず、堂々と付き合ってくれと言えるんだから。
「片葉さん。私は日渡先輩にあなたをとられるのは嫌ですが、言わせていただきます」
「何を?」
真希奈の突拍子もない言葉に一瞬、遅足だった明流は歩みを止めた。俺は真希奈に適当な相槌を返す。
「日渡先輩は【神威】を使うことが出来ます。」
「何その新単語?俺は初めて聞いた」
「簡単に言うと、神使が使う魔法です。ただでさえ神使貴族というステータスを持っているのに、そんな強靭な力を持っているんです。どの貴族も喉から手が出る程欲しいはずです」
真希奈の説明を受け、明流を見ると、動揺したように突然足を早めて玄関に出て行った。
「そんな人の告白を蔑ろにしてしまったら、もったいないですよ?」
「もったいないってねぇ。相手の価値が関わってくる問題でそんな打算は要らないんだよ」
家に帰り、うつ伏せに倒れた。
「だるい」
重力というものは疎ましい。鎖のように地面に俺を繋ぐ。
無駄な事を忌むのは馬鹿げているからそろそろやめよう。端末をポケットから取り出し、『日渡明流』という名前を検索した。感応者という単語に引っかかった。もしかすると髪の毛が黄緑色だった理由はそれが原因だったのかもしれない。
そんなことを推測しながらテンキーの【Enter】をタップした。
『日渡明流。神使貴族【日渡】直系の女性。現在高校生。生まれつき【朱雀】という能力を持っている。炎を操るもので、ライターくらいの小さいものから翼の様にうねる巨大なものまでと多彩に動かせる。彼女の主な使い方としては、神器の銃身から赤色の炎をスナイパーのプログラムと一緒に撃ちだす』
インターネット検索でそれが出てきた。他の学生を調べたらこんなに詳しくは出てこない。つまり、彼女は特別だということだろう。
今日は土曜日、授業もまともに出ていない状態で1週間を過ごしてしまった俺はベッドから体を起こす。
「うわ!もう11時かよ。昨日9時に寝たのに寝すぎだろ俺」
携帯端末の時間を見ながら独り言を吐き散らす。独り言を呟いたせいか、口の中から異常なまでの熱が感じられる。
「これって、痛いっていうのか?苦しい……とはニュアンスも変わってくるな」
俺は敷布をそのままにし、洗面所に行って嗽をする。水と一緒にピンク色の液体が流れた。
「なんで突然痛みを感じられる用になった?」
試しに俺は台所に行って包丁を手に取る。
「いや、流石に包丁は死活に関わるな」
フォークに持ち替えて左手の甲をまな板の上に置き、右手を振りかざし思いっきり突き刺した。
「うーん?痛くないな」
金属が肉体の中を泳ぐというのは感じられるが、別格、変わった感覚はない。
「あらら、血が出てきた。めんどくさ。変に試すんじゃなかった。後片付けが大変だよ」
俺はフォークを抜こうと左手を上げたが、フォークと俎板を一緒に持ち上げた。力を入れてフォークを引き抜くと、赤黒い俎板はシンクに落ちる。
「さて、どう処置したものか」
ダラダラと流れる暗赤色をティッシュで拭き、バンソーコーを表裏8箇所に貼り、包帯でぐるぐるに巻く。学校に行けば怪我が治ることもあり得るので下手な治療はしない。
俺はそれを期待し、学校に足を運ぶ。
学校に着くと門が降りていた。確か、門の隣にスキャナーが在ったはずだ。俺はそれを見て生徒証をかざすと門が上がり、学校内に入れる。偶々家を出てくるときに持ってきてよかったと安堵している。
「あ?」
スキャナーの隣には簡易的なスクリーンが取り付けられているのは前から知っていた。外部からの指示を文字で此処に指示をするのだという。前から知っていたのだが、別段気にするものでもないと思ったが、緑色の光を画面いっぱいに放ち、点滅するのだから嫌でも目が行く。そして俺が見た一瞬だけ文字が浮かび上がった。『〇〇を〇〇』という形式で書かれているのは見えたのだが、初めの二文字が見えず、『〇〇を勧誘』で、何を勧誘するのか読めなかった。
「鈴乃を勧誘?遥の嫌がらせかな?」
適当な独り言を呟き、門を通る。すると門の鉄格子がガラガラガラと音を立てて降りてきた。こうすることで外部からの侵入を防ぐ事ができるのだろう。
事務所前の玄関に入ると、バインダーが有り、そこには名前を記入する欄が在った。上から順に土屋克己、火狩創輝、木造沙弓、日渡明流と書かれていた。生徒会の4人が土曜日にも関わらずに登校しているようだ。
俺は期待をせずに魚止森さんの研究室に向かうことにした。今日は土曜日なので出勤していないと思うが……。
俺は研究室の片開きドアをノックする。するとドアノブが周り、扉が開く。
「やあ、月宮君。どうしたんだ?」
彼女は片手にフォークの刺さったカップラーメンを持った状態で扉を開けて俺を出迎えてくれた。
「その左手の包帯は…何をしたんだ?」
「ステンレスのフォークで刺しました」
研究室の来客用のソファーに座ると、彼女は蓋を開けて麺を絡ませて啜る。
「痛くないのか?それとも君は痛みで快楽を覚える人間か?」
包帯を取ると血の滲んだバンソーコーが出てきた。
「そう見えますか?」
「いいや。冗談だ。私の冗談はかなりわかりづらくて申し訳ないな」
「あ、まあ、似たようなものですから気にしないでください。俺、先天性無痛無汗症って病気だったんですが、魔力治療をしました」
「魔力治療の場合、痛覚は消えたままだからね」
「ええ。でも口内炎は痛かったんです。本当にこれが痛いってことなのかわからなかったんですが、確認のためにフォークで手の甲を刺しました」
彼女はしかめっ面をしながらラーメンを啜る。
「どうしてそんな真似をしたんだ?」
「気になったんです。痛いってどんなものなのか」
「で、結果は?」
「今までどおりです。金属が血管をズタズタに斬り裂くのは感じられたのですが、痛いって全然わかりませんでした」
「君は感受性も感覚もないわけか。結構戦闘のために仕組まれた肉体で面白いね」
「そうですか?」
「傷を再生させようか。こっちへ」
彼女に案内されて、俺はタイルの部屋に入る。
『絆創膏を取っていいよ』
俺は指示に従い、血が滲んだバンソーコーを剥がす。怪我と呼ばれるものは無くなっていて、出血もしていない様子。
今日の目的は果たすことは出来、四方タイルの部屋から出ると、魚止森さんはしかめっ面をして俺を見ていた。いつものやる気のない顔とは違い、どこか不機嫌そう。
「ありがとうございました」
俺は取り敢えずと言わんばかりにお辞儀をする。
「月宮君。自己顕示欲は猿にでもある。それを忘れないでくれ」
これは説教として受け止めていいんだろうな?確かに俺には見せびらかしたいと言う感情は備わっている。でもそれは自己顕示欲なのだろうかと疑問に思ったし、猿にでもあるという単語は確実に小馬鹿にしてきている。
「……」
説教をされたとき、改めて魚止森さんの存在が曖昧で不明確になった。
「すません」
俺は首を落とし反省の色を見せる。色を見せるという言い方をしたが、理解できていないのが事実。
俺は地下牢に向かい、レーラに会いに行く。目的は尋問ではなく説得だ。先程、廊下に机と冊子が置いてあった。その冊子には魔人を人間側に引き入る制度が導入された歴史が書かれてあった。具体的に、捕獲した魔人を収容する施設があり、中々に待遇がいいらしい。裏切られても文句が言えない状態なので賛否は両論だが、人手が足りない以上はこういった不合理な方法を取らなくてはならないらしい。それを見て気になったから地下牢に足を運んだのだろう。
地下牢のドアに指をかけて開けると、敷布の上で仰向けになる少女がいた。
「レーラ」
俺は彼女の名前を呼びかけると、彼女は笑顔でこちらを向いて近寄ってきた。
「片葉!」
その笑顔は当初出逢った時よりも幼く見える。
「私のために体を張ってくれてありがとう!」
遥の言った通り、最大限に効果が発揮されたようだ。
「どういたしまして」
俺は笑顔を向ける。
笑顔を作るのは得意だ。腹違いの妹である片利に対していつも嘘の笑顔を見せていたから。
「レーラ。君は、覚悟はあるか?」
「なんの?痛いのは嫌だよ?」
「天使を裏切る覚悟」
俺は魔人を天使と呼んで彼女に話しを合わせた。
彼女はそれを聴いた瞬間、目を見開く。状況を説明したが、どんな心情なのか理解できない。
「別に、焦らなくてもいい。俺が君の立場だったら裏切りなんて出来ないから」
「少し……。少し待って」
俺は頷き、壁に寄りかかって足を伸ばし、座る。
「天使はね。人間を殲滅させるつもりはないの」
「前に行っていたね。間引きって」
「そう。私達天使は人間が身勝手に壊していく自然を修復しに産まれてきたの。いや、そう言われていた」
宗教みないなものなのだろか。最前線の激戦区にいる神使はどうかわからないが、現代では人はどうして産まれたのか、何のために生涯を終えるのかなど、唱えるものは少ない。それは生きるのに必死だから……。真逆だ、外部の心の支えが不要なほどに安定した生活を送っているからだ。では俺達人間は何のためにこの世に召喚されたのだろう?そんな考え方が出来る言葉をくれた。
「でもね。私思ったの。人間も自然なんだって。自然である人間が自然を壊していくなら、それもまた自然の摂理なんだって」
やけにむずかしい言葉を並べるな。“自然”という単語が彼らの合言葉の様に感じる。
「賢いね。レーラは。そんな君に少し長く生きた俺から知識をあげよう」
昔から、劣等感を覚えると俺は自分でも抑えられない程に攻撃的になってしまう癖があった。二重人格で別の俺が俺の身体を動かしているようにも感じられる。
「(何に劣等感があった?)」
「何?」
彼女は興味津々に食いついてくる。俺は「よっこいしょ」と声を上げてゆったりと立ち上がり、口を開く。今やこの体を動かしているのは俺ではない。劣等感だ。
「俺達人間は。レーラ達天使は。食用の家畜は。――全ての生物は何のために産まれたと思う?」
「何のため?共通の理由があるの?」
「奪うために産まれてきた。死ぬために産まれてきた。奪いながら生きている。死ぬために生きている」
俺は恐怖を与えるように若干声を低くして話しかける。いいや、何度も言わせるが、この体を動かしているのは俺ではなく劣等感だ。
「そして、争う事が本望だ!正当な理由なんて存在しない。有るのは弱肉強食の血なまぐさい現実だ。下手をすれば君は死んでいた。俺が殺していた。下手をしたら俺は死んでいた。君が殺していた!君達天使は、俺達人間と争うために産まれてきた!」
彼女は涙目になり、尻餅をつく。
これで改めてわかった。魔人は俺にとって劣等感を与えてくる対象なのだ。この症状は父親のせいだ。父親は俺の感情も肉体も戦闘に特化した形に育て上げた。
「ごめんね。ちょっと言い過ぎた。まあ、裏切る話は考えておいてね」
俺は小声で「種のために死ぬか、自分のために生きるか」と言っていた。その言葉のせいで全身の毛が逆立つ。
「う、うん」
俺は地下牢をでてカギをかける。
トイレの便器の中に俺は入り、便座に顔面を近づける。
「うぇ!」
俺は口から朝食のぐちゃぐちゃになったものが出てきた。
身体と感情と言葉がちぐはぐになり吐き気がする。自分で制御出来ないから恐ろしい。
「ムカつく!なんで俺は!ムカつく!ムカつく!」
自己嫌悪と共に便座を握るとミシミシと音がなる。俺の指が折れているのか、便座が壊れているのか、それとも両方が崩壊しているのかわからない。
俺は気持ちを落ち着かせるために食堂に向かう。別に座れる場所であれば教室でも良かったのだが、距離的にこちらのほうが近かった。
座って考えをまとめよう。俺は椅子の背もたれに体重を全て乗せて仰け反り変える。
痛みがないから、感受性もない。感受性がないから他人の思考がわからない。だから素の言葉で傷つけてしまう。空気が読めないと感じたことはないし、他人からも指摘されたことは無かった。この場合は単純に言いたい事を言ってしまった俺の落ち度だ。
まあ、今更“無い物強請り”で嘆いても仕方がない。他の何かで感受性は補わなくてはならない。今更だ。もっと前に学ぶべきだった。自分が他人の感情を読み取るのが出来ない事を悟るべきだった。
後悔をしている。罪悪感を覚えている。
では、俺は何に後悔と罪悪感を得ているのか……?わからない。
「お疲れ様です」
透き通るような声とコロンという音が向かい側から聞こえ、俺はそちらへ目を合わせた。
「あ、明流か」
湿度を感じない掠れた声で、声の主の名前を呼ぶ。
「疲労ですか?」
「過労だよ」
「やつれてますね」
「やつれてるよ」
無気力に返答を受け流すと、彼女は上瞼と下瞼の距離を詰めて俺を見つめる。
「何が在ったのか、訊かせてもらってもいいですか?」
「いいよ」
俺は起床からの出来事を一部始終説明した。レーラの説明をし始めた時、言葉が乱れたり泣き崩れる場面も在った。でも彼女は笑顔で聴いてくれた。それに俺は甘えた。真希奈の言うとおり、俺は甘えん坊なのかもしれない。いや、認めたくないから、その時は甘えたい気分だったと言い訳をしておこう。
俺は涙を拭き呼吸と声を整え、口を開く。
「明流、俺は君を助けたい。君が力尽くで阻止したい見合いをなんとかしてあげたい」
「――具体的に何をしてくれるんですか?」
「虎の威を借る」
――6.自責 完――