表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷霆の神使と白皮の魔人  作者: 堕罪 勝愚
1章 朱雀の紅炎
5/51

4.告白

「月宮、明日粟島と模擬戦をするんだろ?」


 経盛先輩は紙の束を俺に渡し、口を開く。


「はい。アピールと交渉を円滑に進めるために」


「今日の授業は休め。データの研究に努めろ」


「わかりました」


 俺は紙の束に目を通す。遥の戦闘スタイルや癖が明確に記載されていた資料だった。


「月宮。習うより慣れろだ。ドールと戦ってもらう。それには粟島のプログラムが組まれている」




「弱!」


 魚止森さんの研究室の隣にあるタイルで囲まれた部屋で、俺は遥のプログラムが組まれたドールと10回程戦ったが、体術は甘いわ、動きは遅いわで、圧勝してしまった。このタイルの部屋は怪我をしても平気なように回復属性の魔力のプログラムがされていて、致命傷を与えられても、応急処置が出来るから死ぬことはないと言う。


『月宮君。どうだ?弱いだろ?レベルをあげようか?』


 スピーカからやる気のなさそうな魚止森さんの声が聞こえた。


「ああー。はい!お願いします!」


 マイクがどこにあるのかわからないので、声を張った。


『そんなに大きな声で無くていい。反響してうるさい』


「すいません」


 俺は小さく言葉する。

 肌色でデッサン人形のように関節部が適当に作られた戦闘用のドールは腰から起き上がり、ゆったりと上半身を起こす、人間離れした気持ち悪い立ち方をしてから遥の構えを真似て取る。顔面の中央に有る眼球のようなものは真っ赤に光りだす。

 さっきまで緑色に光ってたのに今度は赤。レベルを急激に上げたのだろう。そんなことを考えていると白い光が散らばり、全部が俺に集まってくる。

【アイロンサンド】砂鉄のように目標に集中することから名付けられたバレットプログラム。【ホーミング】と【ショット】で威力は低いが、撹乱に使えるとブレードを主として使う神使からは愛用されている。

 俺は両手を前方に構えてブレードのシールドを展開して防ぐ。防ぎ終わった後、後ろからナイフを突き立てる木偶でく。俺は前回り受け身を取り、左手を地面に付き、それを軸に右足で足払いをする。木偶の前足である左脚を刈り取り、後方に倒す。ドールはブリッジで頭部の激突を防ぎ、蹴り足を利用してバク転をした。

 俺は地面にピタリと付けた左手でリコシェとファイアの結合弾を撃ちだす。そして反射して俺の手に戻る瞬間にシールドを貼り、手と床で少なくとも100回は反射させた。その勢いがエネルギーとなり、前方に俺の体は流れ、後方で体制を整えるドールの胸に肘を当て、金属を砕く。左手を追撃で付き出し、坂手持ちでダガーを傷口に差し込む。


「うへ~」


 全身の力を抜き、後方にダイブし、後ろ受け身を取って高等部を守り、大の字に寝そべる。


「ブースト!出来た!」


「家に居ないと思ったら、もう学校に来てたんですね?」


 聞いたことがある声だと思い、その方向に目を向けた。そこにはパーカーに7部のズボンを着用し、櫛の様なものが蝶番で付けられている髪留めで長い黒髪を束ねている少女がタイルの部屋の思いドアを開けて入ってきた。


「片葉さん。話は全て伺いました。なんでそんなに無茶するんですか?」


「ん?真希奈か?メイド服じゃないから気が付かなかった」


「私に対する認識がメイド服って酷くないですか?私服の姿見せましたよね?」


「はは。結構印象深かったぞ。真希奈、扉を閉めてくれ」


 俺は寝そべったまま真希奈にお願いすると彼女は不思議そうな顔をして出ようとした。


「あ、出ないでくれ」


「はい?」


 戸を閉めた真希奈は「これでいいですか?」と訊き、俺は「うん」と返答し、寝そべったまま左手を持ち上げ、結合弾を売った。彼女の頬の横を滑空し、タイルを縦横無尽に翔ける。全部で弾は14発在ったが、それは木偶と真希奈、俺に当たること無く思う通りに跳弾させた。


「――か…片葉さん…」


「リコシェを指先でも動かすように操れる様になった」


「だからって私で実験しないで下さい!」


「ごめんね。自慢したかったんだ」


 子供のように自己顕示欲を振りかざす俺に、彼女は笑顔を作る工程の顔を見せる。俺は立ち上がり、自分の元に飛んで来る弾丸をダガーで斬り落とした。


「片葉さんはすごいです。二次覚醒なのに上達率が常人を超えてます。歴史上、レアケース」


「覚醒前から体術は鍛えていたからな。痛みも他人より感じるのが遅いし、体の融通は他の人よりも利く」

「だからって無理はしないでくださいね」


「無理はしないが無茶はするぞ」


 歩みを進め、そのまま扉を開けて研究室に戻る。


「どちらも同じ意味じゃないですか!?」


 不機嫌な彼女に笑顔を見せて「そうだな」と答える。




「今何時だ?」


 食堂に向かいながら真希奈に確認すると、端末を取り出し、俺に見せた。


「11時30分かぁ。3時間目の終わり際ね。じゃあ、急いで飯を終わらせるか」


 速歩で食堂に向かうと、火狩と土屋、“隣の席の女子”の3人がテーブルを1つ占拠して座っていた。


「あ!月宮!」


 火狩が俺の名を呼び、手を挙げる。


「ああ、火狩創輝、どうした?」


「お前が飯を食いに来ることは知っていた。まあ、話でもしようか」


 1つのテーブルを繋げて5人で座り、俺はラーメンをすすりながら対話する。


「ラーメンのカロリーは午後の訓練で使い果たしそうだな。すまん真希奈。適当に何か買ってきてくれ」


 俺は500円玉を彼女に渡した。


「わかりました」


 土屋は目を細めながらまじまじと見る。


「お前、戦闘では冷静な判断をするくせに私生活はだらしないよな?」


「冷静とだらしないは対義語ではないよ。俺の食事は気にせず話をしてくれ。黙って聞くから」


「では月宮片葉。改めて、私は木造きづくり沙弓さゆみ。よろしく。早速だけど、生徒会に入らない?」


「断る」


“隣の席の女子”は名乗り、加入をする。俺はラーメンを啜るついでに応えた。


「どうして?」


「先約がいるんだ」


「先約?」


「経盛先輩に火消し部に来ないかと誘われたんだ」


 俺が食べ終わると、真希奈がカレーライスを持って戻り、そのままラーメンの空を持って帰った。そしてカレーを頬張り、彼ら3人の目を見ると、鳩が豆鉄砲を食らったようにアホ面をしていた。


「なんだ?」


「経盛先輩が勧誘!?どんなコネを使ったんだ!?」


「経盛先輩の試験は受けたのか?」


「で、魔人デヴィルにどんな拷問をしたの?」


 と土屋、火狩、沙弓の順番で驚きのリアクションを取られ、質問攻めに遭う。


「コネは使ってないし、試験も受けてない。でも、拷問については評価は高かったよ」


「どんな拷問をしたんだ?」


「ビデオを見てくれ。口で説明出来るほど記憶に無いんだ」


 俺はカレーを3口目を咀嚼していると真希奈が隣りに座る。


「まあ、生徒会と部活を掛け持ちしていいわけだし、火消し部と肩部しちゃえば?」


 沙弓は笑顔で言ってくれた。


「なあ、お前らは火消し部に入るつもりは有る?」


「勿論」


「当然」


「当たり前でしょ?」


 再び、土屋、火狩、沙弓が返答した。しかも全員内容は同じだ。


「なんで部員じゃないんだ?」


 すると全員下を向き、後ろめたい様子で黙りこくった。


「試験…落ちたんだ」


「ああ」


「うん」


「ええ」


「阿吽の呼吸だな」


 俺の言葉で会話が途切れ、30秒ほど沈黙が続いた。向こうの3人は俺を勧誘する方法を探っているのだろうが、俺はただで応じるつもりはない。チャイムが鳴り響くように聞こえた。


「40分か。日渡が来るかもしれないな」


 土屋は独り言のように呟く。『日渡』と言うのは人名なのだろう。それを呟いた時、彼らの表情は少し穏やかになったのが感じられた。

 すると、細かな靴の音が聞こえてきた。


「お、お待たせしました」


 声を振り向いて確認すると黄緑色の髪の毛を肩まで垂らし、両目の瞳孔が赤く、紅の着物に桜色の帯を着用する少女が居た。服装は目立つような紅色の着物で、いくら私服が許されている学校でも少しフリーダムではないか?


「明流、4時間目の授業は結果届け出した?」


「出しましたよ」


「あ、月宮、こいつは日渡ひわたり明流めいる。生徒会書記だ」


 土屋は黄緑色の少女を紹介してくれた。


「初めまして、日渡です。月宮さん、今後よろしくお願いします」


「ああ、まあ、生徒会に入るつもりは無いから」


 彼女は俺の隣の椅子に座る。俺はカレーを全部飲み込み、空になった食器をシューターに戻しに行った。戻る頃には明流以外の生徒会の連中の顔が完全にほぐれて柔らかく乗るのに対し、彼女は緊張でガチガチだ。


「話は変わるが、月宮。明日、粟島先輩と模擬戦をするんだよな?俺達からしてみれば、その決闘は無意味だ。お前が勝ったら1000ポイントもらえるが、負けても捕獲した魔人デヴィルの所有権を奪われて1000ポイントを手に入れる事が出来る。だったら試合を受けずに魔人デヴィルを受け渡せばいいと思うのだが?」


 土屋は最もな事を言うが、俺はそれに対し、“笑顔”で答える。


「意味のないことなんてない。遥と俺が戦う事によって、俺の経験値になるし、レーラ……、捕獲中の魔人デヴィルに好印象を与えて神使側に引き入れられるかもしれないだろ?勝てば一石二鳥、負ければウィンウィン。俺にリスクの無い賭け事なら勝負に出るに決っているだろ?」


 俺はスプーンを口から外して答える。


「――月宮。出来るだけの待遇はする。生徒会に入ってくれ」


 土屋は立ち上がり深々と頭を下げた。


「は?」


「うちの生徒会は先を見通せる奴が少ない。だからお前の様に合理的な考え方をしている人間が欲しいんだ!」


「どうしてそこまで俺に執着するの?そんなに生徒会の今の状況がやばいわけ?」


「序列大会と言うのが約1ヶ月後にあるんだ。正直、参加者が多すぎて首が回らないんだ。そこで、円滑に進められそうな月宮にまとめてもらいたいと考えた」


「なるほどね。じゃあ、交渉と行こうか。実は、遥に頼まれていてね。鈴乃先輩が生徒会長を降りた後、火消し部に入れてくれって言われているんだ。彼女がどういう意図でそれを話したのかわからないけど、俺はそれを承諾したわけだ。経盛先輩が引退した後に俺はお前たち4人を火消し部に勧誘する。どうだ?悪い話ではないだろ?」


「火消し部と生徒会が合同になりそうだが、まあいいや。そのほうが面白い」


「で、具体的に俺が頼みたい事は、頑なに火消し部への入部を拒む鈴乃先輩をこちら側へ引き入れる方法を探っているんだ」


「交渉が上手ですね。気がつけば言いくるめられそうです」


 黄緑の髪の少女は口角を上げて言う。


「まあ、悪く無いと思うんだ」


 俺は立ち上がり手を振る。


「これから訓練だから、じゃあね」


 と言ってその場から立ち去る。すると真希奈はお辞儀をして俺に着いて来た。




 午後に行った訓練は【バレットチャージ】と呼ばれるもの。両手の手根部を付けてバレットの素となる魔力を長時間に渡って溜め込み、一気に放出するもの。慣れれば片手で魔力を溜めることが出来るらしいが、これにはコツが必要で、溜めるだけでもスキルがいるし、戦闘中に扱うには大幅な隙が産まれる。

 真希奈は今、研究室のコンピューターで俺の動きやチャージ時に出来る大幅な隙を録画している。今はいち早く慣れて片手でバレットチャージを出来るようにしなくてはならない。


『月宮君。どうしてバレットチャージなんていう低能スキルをマスターしようと思ったんだい?』


 練習して慣れてきた頃に、スピーカーを通して魚止森さんが問う。


「特に理由はありませんよ。急がばまわれと言うじゃないですか」


『そうだな。聞いた私の理解力が足りなくてすまない』


 俺がタイルの部屋で休憩がてらミネラルウォーターを飲んでいると、“黄緑の髪の少女”が中に入ってきた。


「失礼しますね。月宮さん」


「君は確か……明流だったか?」


「は!?はい。下の名前ですかいきなり…」


「いやすまん。正直苗字が思い出せなくてさ」


「日渡です。えっと、月宮さん、軽く、模擬戦を此処でしませんか?」


「なんで?」


 彼女は銃身を持っていて、戦う気満々だった。黄緑の髪に、紅色の和服にライフル銃のようなものを持っていて全てが全てミスマッチだった。


「なあ、明流。下の名前でいいよ。俺もそうさせてもらうし」


「――っ!じゃ、じゃあ、片葉……さん?」


「ああ。それでいい。じゃあ、やろうか模擬戦。君が勝ったら何が欲しい?」


「片葉さんが欲しいです」


「ああ。了解」


 俺は深く考えず頷く。


「じゃあ、俺が勝ったら質問攻めをするから全て的確に答えてくれよ」


「はい。どうして私の要求に追求が無いんですか?」


「要求に追求……。洒落?」


「わ、私のボキャブラリーが無いだけです!」


 顔を赤らめる少女は幼く見えた。


「詳細は後ほど、俺が勝ったら理由を訊くよ」


 ミネラルウォーターを床に置き、体術の構えをとった。緑色のバレットチップが右手のリストバンドに嵌めこまれていたのでスナイパーだろう。この猫の額程の部屋だと圧倒的に俺が有利だ。

 俺は手根部を付き、魔力を溜め、左手にその魔力をストックする。そして右手にダガーを取り出した。彼女はライフル銃を向けてバレットを一発、射た。俺はそれを肉眼で見て、レフトステップで回避し、直線的に突っ込んだ。二発目が来た時にはもう、銃口は俺の頭の後ろまで通り過ぎ、彼女の体が目の前に有る。そのまま左手を付き出し、チャージバレットをつきつける。


「チェックメイト。未だやる?」


「はい」


 すると彼女は銃身を離して俺の側面に回り込む。俺は即座にバレットを撃ちだすが彼女のは右方に逃げ込み、跳弾は12発飛んで上下左右を跳ね返る。

 明流は左手でバレットを発射しようとしたところで、彼女の左手に俺の右手を合わせて根本から魔力をかき消す。


「速いですね!」

 彼女は左手にダガーを持ち、刺そうとしてくるが、高威力の連射弾は明流の肘に触れた。すぐに回復魔法は作動して、怪我が出来る前に治癒を済ませたようだ。


「俺の勝ちだよ」


 ドヤ顔をしてしまった。どうやら格闘技の事になると顕示欲が増すみたいだ。


「ま、参りました」


 彼女は脱力し、地面にダラダラと落ちていった。


「それにしても、片葉さんはすごいです。バレットの中でもっとも着弾速度が速い物を見極めて回避するんですもん」


「そうなのか?でも、銃口から弾道を予測できるからそんなに難しい物じゃないと思うんだが?」


「いえ、片葉さんは弾丸を目で追っていました」


「そんなところまでどうして目が行くんだ?」


「順を追って説明します」


 彼女は立ち上がる。


「食堂でお話しませんか?」


「ああ。腹減ったしな」




 というわけで、俺と明流は向い合って食堂の席に座ってしまった。


「片葉さん。好きです」


「うん。ありがとう。で?」


「付き合って下さい」


 軽く告白をされてしまった。放課後で人が全く居ない食堂の空間で、俺は初めて女の子に告白されてしまった。大事なことなので3回言います。俺は告白をされた。

 表ではドライアイス見たく、「で?」と対応してしまったが、内心、悶えるほど興奮している。俺の身体のどこかに触れれば心拍が上がっている事がわかるだろう。


「出逢ったばかりの君の告白は受け入れられない。せめて日をおいて、もう少し対象と親しくなってから告白するべきだと思うよ」


 と、断ってから他人事の様に述べるが、彼女は納得行かないようで唇を噛み締める。どこか、その顔は真希奈にも似ていて、危うく対応を間違えるところだった。


「君さあ、敬語だけど、何年生なの?」


「2年生です。敬語は癖なので気にしないでください」


「今から治せと言われたら出来る?」


「無理です。幼い頃から染み付いたものですので」


「うん。話変えてごめんね。明流、君は嘘をついただろう?」


 頬杖を付き、ダウトゲームのように言葉を並べる。彼女が嘘を吐いたと俺自身気づいていない。

 彼女は一瞬だけ目を見開き、その後は建前の笑顔を見せる。


「どの辺ですか?」


 丁寧な言葉で淡々と進める彼女に俺は一瞬恐怖を得るも、顔は動かさずに耐え切る。


「ふっ!」


 鼻で笑い、口角を釣り上げる。


「わからないよ」


 怪しさが尾鰭背鰭を唸らせて泳ぎ寄ってくる。彼女はとうとう目を見開き、表情を隠さなくなった。


「ごめんなさい……。最低です。私」


 彼女は謝罪と卑下をする。


「君が最低かどうか俺は判断し兼ねるけど、勝利条件が質問だから答えてもらおうか。まず、俺に接触してきた目的は何だ?」


「私は日渡家3代頭領、日渡信三郎と日渡明穂、旧姓三江明穂の娘、日渡明流です。恐らく、知らないと思いますが」


 彼女は質問に答えるどころか、自己紹介を始めた。俺はそれについては触れずに明流のペースに合わせる。


「まあ、神使の貴族なんだろう?詳しくは知らないよ」


「強ち間違ってはいませんね」


「うーんと…」


 俺は両手を組み、肘をテーブルに押し付け、顎を支えた。


「縁談話かな?」


「――はい」


 その後、彼女の長々とした説明や詳細を確認しまとめると、どうやら「神使貴族どうしで婚姻させて家の権力を強くする」といったものだった。明流はそれを快く思っていないらしい。詳しい理由は知らないが、俺は彼女の言葉を聴いて何も考えずに口を開く。


「俺がなんとかする」




 何とかするといったものの後日、俺は歩いて登校して学校の教室に荷物を起く。


「取り敢えず火消し部の部室に行くか……」


 息を吐くついでの独り言は教室にいる2,3人の生徒の耳には入らなかったようだ。

 教室のドアを開けて廊下に出ると、染めたような茶髪に、短いピアス、ワイシャツの前ボタンを全部開けて中の黒字のTシャツを見せるように羽織り、学校指定のズボンを着用する男子生徒、火狩創輝が立っていた。


「おう!月宮じゃないか?今日の試合、配信されたら絶対見るから頑張れよ!」


「プレッシャーと応援ありがとう火狩。お前の無神経な性格は切羽詰っている時に聞くとマジ殴りたくなるから勘弁な」


 荒々しく親指を立ててグーサインを見せてから舌を出し笑顔を向ける。


「す、すまん。空気を読んでなかったようだ」


「いや、今切羽詰っているわけじゃないからいいよ。本当に退っ引きならない時は殴るから安心してくれ」


「……機嫌悪いな」


「眠れなかった挙句、食事も喉を通らなかったよ」


「そうか、こういう時、頑張れって言葉しか思い浮かばない自分が情けない」


「俺なら勝ったら『食事奢ってやる』とか言ってくれたら励みになるぜ!」


「現金だな」


 火狩は肩を竦め、眉間にシワを作る。


「ははは。冗談だよ火狩。ただ、お前を誂っただけだ。気を悪くしたなら謝るよ。俺が勝ったら食堂のメニューの食券1個を奢ってやるよ」


「それ俺のセリフじゃなくていいのか?」


「何だよ素直で優しいやつだな。チャラいのは外見だけか?」


 と言って彼と別れて廊下を歩いて去っていく。


            ――4.告白 完――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ