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雷霆の神使と白皮の魔人  作者: 堕罪 勝愚
1章 朱雀の紅炎
3/51

2.襲来

「月宮さん!」


 目を開けた瞬間、甲高い女の子の声が聞こえた。その声のする右側を見ると、カーテンを背景に真希奈が座っていた。


「真希奈…」


「良かった。思ったより早く目を覚ましました」


 俺は起き上がろうとすると左手が抑えられていて動かなかった。


「なんだこれ?」


「点滴です」


 正面に目を向けると見知らぬ天井と並列に並べられた蛍光灯があった。


「点滴…かぁ。起き上がって平気?」


「はい。どうぞ?」


 俺は上半身をゆっくり起こした。体には布が掛けられていて両手につけてあったリストバンドが取られてあった。そして左手には半透明のバンソーコーが付けられていて、その下からチューブが這い上がっている。そしてその左手が動かないように灰色のリストウエイトが付けられていた。


「これ、外していい?」


「大丈夫だと思います」


 重しのマジックテープを右手で剥いで針の刺さった左腕を持ち上げる。


「月宮さん…」


「片葉でいい」


「――片葉さん。本当にごめんなさい」


「ん?何が?」


 彼女の謝罪に俺はあっけらかんと対応してしまった。


「どうして頭を下げるの?」


「私の過失です。片葉さんに迷惑を掛けました」


「別にいいよ。目眩には慣れているから」


「慣れないでくださいよ」


 チューブの行く先を目で辿り、キャスターにぶら下げられたパックを見る。


「この液体何だ?」


「ミネラルが含まれたものです」


「後どれくらいで終わるの?」


「恐らく30分後かと」


「今何時?」


 俺の位置からは置き時計が見えなかった為彼女に聞いた。


「9時40分です」


 彼女は時計を眺めて答える。


「お腹すきませんか?」


「いいや。俺の腹の虫は発音器官が切除されているから空腹になることはないよ」


「胃を蝉かなにかの虫の様に例えましたね」


 彼女は笑顔を見せてくれた。


「お腹が空いていなくても食事は大事ですよ。学食に行きましょう?」


 俺は渋々首を下げた。




 食事はエネルギーを補い、血肉を作り、心を整える効果がある。でも俺は食事が嫌いだ。食物は元々命であった。それを人間達は『美味しい、美味しい』などと味覚を楽しんでいる。別にそれ自体を否定しているわけではない。俺にはそれが出来なくて困っているということだ。

 真希奈に案内され、俺はキャスターを引き釣りながら付いて行く。今は授業の時間らしいので、真希奈はサボっていることになる。


「真希奈。俺のために案内してくれてありがとうな。単位は平気か?」


「届を出したので、欠席にはなりません。そんなことより、私の不注意で、片葉さんに迷惑をかけてしまいました。それ相応の償いはしないといけませんね」


「何度もあやまんないで。じゃあ、お言葉に甘えるよ」


 てっきり、ここに冗談でも入れてくるのかと思ったのだが、割りと素直に話をしてくれた。

 学食は広く、体育館のようなホールで、そこに椅子やテーブルが丁寧に敷き詰められていた。俺は適当に食券自販機に金を入れ、適当にボタンを押し、適当に食券を手に摂り、適当にお釣りを取る。

 食事というものは俺にとって作業でしかない。あくまで肉体を維持するだけのものだ。

 俺は食券のバーコードを読取機にかざした。すると機械からはデミグラスオムライスと表示されていた。そこには『03:00』と表示されていて、カウントダウンが始まる。俺は一旦、真希奈が待っているテーブルの向かいに座るが、その表示されている3分は少し雑談しただけで到達してしまった。俺は立ち上がって注文の品を取りに行く。左手が塞がっていたので右手を滑りこませて取る。持って改めて確認するが、ボリューム満点で重量感が力の入れていない俺の片手に感じられた。


「すみません。私が持ってあげれば」


「いいよ謝らなくて」


 俺はそれをテーブルの上に置き、付いているスプーンで掬って口の中に押し込む。


「――あ!美味しい。俺の作るオムライスの800倍はうまいよ」


「その800って数字はどこから出てくるんですか?」


 彼女は笑顔で答えてくれた。未だ知り合って時間は経っていないが、結構打ち解けてきたと思う。


「片葉さんって料理するんですか?」


「ああ。食材と暇があれば絶対するようにしているよ。母、まぁ血は繋がっていないんだけど、栄養士だから食事の栄養バランスには気を使っているんだ。最近は疎かになってきたんだけどな…」


 俺は咀嚼しながら言葉する。あまり口の中に多くのオムライスを含んでいるわけではなかったので言葉はこもらなかったはずだ。


「一度、片葉さんの料理を食べてみたいです」


「俺、味とか気にしてないから食べるのに根気いるよ?」


「そんな卑下しなくても」


 彼女は俺の動いている口を見ながらボソっと呟く。


「オムライス、好物なんですか?」


「いいや。全然違うよ」


 彼女は俺の言葉を聞いて少し不思議そうな顔を見せた。しかし、そのまま言葉を続け、


「好きな食べ物は?」


 と問う。


「無いよ。俺にとって食事は宿題と同じ“やらなくてはならない”ことだから」


 俺は今のありのままの思いを彼女に伝えた。これを言うことに合理性を全く感じないが、聞いて欲しかった。


「なんか、悲しいです。食事を楽しまないと人生損ですよ?」


「どうしたら食事を楽しめるかな?」


「ん?難しいですね。美味しいものを口に入れるとか?」


「今度試してみるよ」


 受け流す様に言葉する。

 結構味覚を刺激された為、手が進む。家で1人だったり、実家で家族とだと素早く胃袋の中に投げ入れて済ますのだが、わりかしスムーズに手が動く。


「ああ、確かにカロリーは大事だな。ほっとくとすぐに俺の華奢な腕の筋肉が削られていく」


「あははは。片葉さんの腕、結構筋肉有るじゃないですか?」


 高笑いをして俺の腕に指をさす真希奈。別にウケを狙って言ったわけじゃなかったが、なんとなく、彼女の笑顔が見れて満足感が溢れてきた。

 俺が言葉を止めると、真希奈が気まずい空気を出して、俺の顔をじっくりと眺めた。


「あの、片葉さん」


 会話が途切れてすぐ、彼女は話題を作ろうとしてくれた。彼女は沈黙が苦手なのだろうと感じされられる。


「片葉さんのお父さんってどんな人だったんですか?」


「簡単に言うと人に優しく自分に厳しい人だったよ」


 俺は食事の手を止めて答える。


「ごめんなさい。不謹慎でしたか?」


「そんなことはないよ。俺が単純に親父の記憶が曖昧なだけで考えこんだだけだ」


「…」


 彼女は無言になり下を向いた。

 と突然、チャイムが鳴った。これは恐らく授業終了のものだろう。俺は空になった皿をカウンターまで運ぼうと持ち上げる。


「わ、私がやります」


「――わかった。任せる」


 全神経を張り巡らせて気を使う彼女の姿勢に、俺は圧倒されてついつい渡してしまった。


「そんなに頑張らなくていいのに」


 彼女に聞こえないように呟く俺は後ろ姿をじっくり見て、点滴を付けた手でキャスターを握る。




 真希奈から学校の見取り図に付け足しをしてもらい、スクールバッグを引っ掛けたキャスターを引きずり、俺の教室である2年3組に向った。話に寄ると全部で4クラス在るらしい。

 教室には次の教科である数学の教師らしき中年男性が教卓の前で授業の準備をしていて、生徒は他クラスの人やらがワイワイ騒いでいた。そしてすぐにチャイムがなると、走って自分の席、教室に戻る生徒で殺到した。俺はそれに合わせて先生に話を付けた。浅宮学園には制服というものが存在しているらしが、校則で制服の着用を厳守しているわけではないらしい。真希奈見たいにメイド服のコスプレをする人が入れば、制服ではないスーツを着る人、はたまたパジャマのような私服で学校に来ている人が無数に居た。


「4時間目に自己紹介と言う形で申し訳ありません。以前は一般校である諸星高等学校に通っていました。月宮片葉です。よろしくお願いします」


 俺はそう言って自分の席に座ろうとキャスターを転がすと、生徒の手が一気に上がった。


「はーい!月宮片名さんの息子って本当ですか?」


「二次覚醒者の訓練で好成績を出したって本当?」


「その点滴は何?」


「神器の種類は決めた?」


「いま来ている制服は一般校の?」


 次々来る質問を俺は無視して机に座る。ていうか先生、生徒の質問攻めを止めろよ。


「おーい。そろそろ授業に入るから静かにしてくれ!」


 先生は手を叩いて授業を進行し始めた。

 授業内容は決してレベルが高いわけではなかったが、久しぶりの授業に多少の戸惑いを覚えながらも、シャーペンの持ち方などを思い出して行った。この学校は教科書が無く、問題集が印刷された紙を渡されてそれを先生が解説しながらやるものだった。

 俺は転校したばかりだというのに真ん中の席に座らされている。

 周りを見渡すと鞄の隣にバレット神器を制御するバレル、近接戦闘用のブレードのコアグリップなどがかけられていて、彼らの両手には神器本体であるリストバンドが付けられていた。想像でしか無いが、いつで【魔人デヴィル】の強襲に対応出来るようにしているのだろう。


「土屋!練習2番の(3)の回答」


「はい」


 呼ばれた青年はブレザーを着用していた。それ自体この学校の制服なのだが、そのブレザーの中には青っぽいパーカーを着ていて、ズボンはジーンズのような素材出来ていて、一般校からしてみれば不良の格好だった。眠気眼で黒板に出て回答をスラスラとかく。俺はそれと同じ回答だったので手短に赤いボールペンで丸を付けた。


「さすがだな」


 先生は笑顔を見せ、土屋という生徒はスタスタと戻っていく。


「次、月宮、(4)行けるか?」


「はい」


 俺は立ち上がり、前へ出て板書する。


「正解だ」


 数字と文字のバランスがひどかったが、先生は笑顔を見せてくれた。

 俺が席に戻った瞬間、警報の様に高い音が放送から鳴り響く。その瞬間、生徒全員がコアグリップや銃身を手に取り、構える。

 長さ70センチ程の銃身を構える隣の席の女子は耳打ちで教えてくれた。


「学園内に【魔人(デヴィル】が侵入してきたんだ」


「迎え撃つの?」


殿しんがりと時間稼ぎ。私達がいるところに来ればなんだけどね。時間が経てば火消し部がなんとかしてくれるの」


「火消し部?」


「簡単に言うと、実戦経験が在る学生ね」


「教えてくれてありがとう」


「呑気ね。これから攻めてくるかもしれないのよ?」


 彼女の焦りを見ると、半分怯えていた。もう半分は……分からなかったが。

 以前から俺は悪運の強い男だった。強い凶運を持っているだけなのか、ただ巻き込まれ体質なのか……、それとも偶然の重なりか。

 此処、2年3組の教室は3階にあるのだが、窓を軽々と飛び越え、少女が現れた。その少女の髪、皮膚は雪のように白く、光を反射していて、瞳は透き通るようなスカイブルーで本来黒目であるべき部分は薄い水色をしていた。顔にはあどけなさが見え、年齢的に中学生ぐらいではないだろうか?

 神秘的なまでの外見に見とれてしまい、俺は身動きを取れなかった。

 その白皮の少女は日本語らしき言葉を話す。


「高い魔力の人だね」


 俺と少女が目が合うと同時に俺を含める3人を除いて廊下側に走った。驚いたことに、先生も逃げに回った。俺はその赤い瞳をじっくりと見つめる。

 俺の隣の席の女子はバックステップをして銃身から白光りする弾丸を放った。


「遅い!」


 早すぎて何が起こったのか、想像でしかわからないが、バレットが当たる寸前、敵である少女は弾を弾き返し、それを隣の席の女子はダガーのシールドを展開して防ぎ、廊下側の壁に叩きつけられた。


「っく!」


 土屋と呼ばれていた生徒はソードを鞘から抜き、日本刀の様に形を具現し、突撃した。しかし、その場に少女はおらず、彼の一太刀は空振りで滑空した。


「タッチ!」


 その少女は俺の近くに来ていて、右手を俺の額に当てた。


「あなた、魔力値高いわね?」


 魔力も何も、ミネラルなどのエネルギーだぞ?もしかして点滴のそれが俺の身体の中に入ってきて魔力として反応させていているのだろうか?


「魔力が目で見えるのか?」


 俺は演技で少し怯えた目を見せて訊く。どういう姿勢でも問題は無かったが、できるだけ刺激しないように努力した。


「うん。私だけじゃなく、天使は全員見えるの」


 天使といったか?


「あなたの魔力は結構使えそう。私達天使のところに来ない?」


「……」


 俺は目を見開いた。彼女たち魔人は自分の事を天使と呼んでいるのだろうか?


「動かないで!」


 少女は当たりを見渡し剣幕を強めて言う。俺に言ったわけではないようだ。


「魔力は、死んでからも抽出できるわ。下手な動きをすればこの子の頭が蒸発するわよ?」


「っく!」


 土屋の舌打ちが聞こえる。


「交渉の余地は在るか?」


 俺は目の前にいる敵に向けて唱える。


「うん。イエスかノーだけどね?」


「俺は死にたくないからな……」


 唐突に、扉が開く音が聞こえ、何かが入ってきたようだ。


「おっと!此処に魔人デヴィルが居たのか?」


 その声は男で、今入ってきた奴のものだろう。


「動かないで」


「いや、人質がいる時点で俺は動けないわ」


 その男は冷静なのに馬鹿らしく対応した。こういう修羅場はくぐっているのだろうか?


「ははは。それもそうよね?」


 確実に俺達を舐め腐っている口ぶりだった。それには幼さすら感じてしまう。


「克己と沙弓を呼び出して魔人デヴィルの捜索に当てようと思ったが、これは無理そうだ。寧ろ、俺のせいで状況が悪化したな」



「冗談言ってる場合じゃねーよ、創輝!これは結構拙いぞ!」


「わかってるって。おい敵!何が目的だ?」


 馬鹿見たいに直球で質問を繰り広げる青年。演技だったら上出来だ。


「目的ねぇ。誘拐かしら?」


「誰を?」


「決っているでしょ?この子よ」


 敵も随分流暢な口ぶりで語るものだ。余裕綽々で油断しかしていない様に見える。同時に稚拙である事が伝わる。


「そいつの変わりに俺を差し出す!」


「要らないわよ」


 創輝と呼ばれた青年は胸を張って言うが、それを敵に真っ向から否定されてしまう。


「そもそも、あんたとこの子の魔力量は圧倒的に違うの。同じ価値が在ると思わないで」


 俺は彼女に割居る。


「中断していた話を戻そうか。俺は月宮片葉って言うんだ。よろしくな」


「私はレーラ」


 俺は名乗り、親近感を抱かせた。相手が幼い思考でその手の幼稚な作戦は成功した。


「レーラ…か」

 魔人デヴィルは皆そういう名前なのだろうか?俺は立ち上がると、警戒したように構える。いくら警戒しても、攻撃をする予兆が見えない。俺は右手を前に突き出し、彼女の左手を掴む。


「痛い痛い!離して!」

 涙目になる彼女は反対の手を俺に向けて突き出すが、掻い潜り、敵の胸に背中を押し付け身体を乗せる。そのまま前方に投げ飛ばすと、少女の背部が俺の机の角に当たり、苦しそうに息を吐き出す。地面に落ちた彼女に馬乗りになり、点滴の管が繋がる針を外し、敵の首の左手で掴む。その左手にレーラは右手を添えてきた。


「――私の魔法は…熱を生み出すものよ。簡単にあなたの腕を…蒸発させることが出来るわ…」


 力は完全に入っていない。背部の損傷による一時的な疲労感と、俺の手に呼吸を遮られて、肩で息をするのがやっとのようだ。魔法と言うものがどれくらい脅威なのか俺には理解できない。ここはリスクを考えて慎重に済ませるべきなのだが、このご時世、左手の1本や2本失ったって元に戻る。俺は推定されるリスクを掻い潜り、最適な手段を使う。


「試してみる?俺の腕が無くなるのが先か、君の頭が無くなるのが先か」


 俺はブレードの【ダガー】を作り出し、俺の左手の指を謎る様に刃先を突き立てた。


「――殺す!」


 彼女は鋭く俺を睨みつけてきた。その行為に関しては予想外だった。激情して魔法を使い、俺の腕が消えると判断したのだが、そんなことはなく。息を吐きだし、言葉にするエネルギーを使い果たすのが精一杯だった模様。


「やってみろよ」


 俺は声を荒げずに殺気だけを向ける。そして左手に全体重を乗せ、呼吸を詰まらせる。


「がぅ!」

 痰や胃液を口から出し、白目を向いて意識を飛ばしたようだ。

 父親が言っていた通り、心理や肉体の構造は人間と変わらない。

「月宮だっけ?お前すごいな。俺は火狩かがり創輝そうきって言うんだ。よろしくな」

 と呑気に言う。先のノーテンキは演技ではなかったのだろうか。火狩はポケットから枷を4つ出した。


「ああ。よろしく」


 俺は頷き、枷をもらい、レーラの四肢にはめ込む。


「これは?」


 と、途中問いかけた。すると火狩は


「マジックキャンセルって呼ばれる超合金だ」


 と言って優しく応えてくれた。



 俺を含む4人の生徒は会議室に集められた。襲撃してきた魔人デヴィルの件だろう。


「生徒会長の金森かなもり鈴乃すずのです。月宮君は初めまして。土屋君、沙弓ちゃん、火狩君はお久しぶり」


 女性が自己紹介を初めて授業のように会議室にあるホワイトボードの前に立った。


「皆おつかれ。初めての魔人デヴィルとの戦いはどうだった?」


「自分の持っている力に飲まれているって印象でしたね」


 土屋は自分ではなく、敵に対しての感想を述べる。


「まず、精神も肉体も年齢が低いせいね。失敗や挫折の経験が少ないのよ」


「あの魔人デヴィルの魔法属性って【高温】でしたよね?バレットを弾き返したのは何ですか?」


 “隣の席の女子”は手を上げて訊く。


「ブレードと同じ用量で魔力そのものをシールドのように貼ることが出来るの」


「シールドってバレットを弾き返せるんですか?」


 俺は手を上げて問う。


「これは…恥ずかしながら、私が左右のバレットを間違えて撃っただけなの」

 “隣の席の女子”は左手の神器に付けた紫色のチップを俺に見せてくれた。紫色と言うことは【リコシェ】のバレットだろう。右手は緑色のチップが嵌めこまれていたのだが、なんの種類か分からない。


「まあ、結構よくあることなのよね」


 と生徒会長の鈴乃先輩はフォローを加える。


「右手で左に付けたバレットを撃ちだす時って時間かかるのよね」


 リコシェはシールドにより、跳ね返って自分に危険を及ぼすのか。使い方には気をつけないとな。


「先輩。俺、魔人デヴィルと戦わなかったからわからないんですけど、どれくらい強いんですか?」


 火狩は純粋に質問をする。


「そうね、個体差はあるけれど、経盛つねもり君と万里花まりかのタックみたいな感じね」


「そんなに!?」


 その名指しした2人が誰なのかわからないが結構強いのだろう。その2人と戦ってみたいものだ。


「逆にそれくらいの強さってわけだ。俺達だって専用神器があれば問題ない!」


 土屋は吐き捨てるように言葉する。


「先輩。皆は知っているようですが、人名みたいな2人は何ですか?」


「経盛東郷君と白銀万里花。私の同級生で火消し部の3人の内の2人」


「もう1人って粟島あわじまはるかって人ですか?」


 魚止森さんから教えてもらった人の名前を出した。


「そうよ。よく知っているわね?」


「神器をセレクトしてもらった時に俺と同じスタイルだって魚止森さんに教えていただいたんです」


「コアなしの戦闘?二次覚醒でそれは辛いんじゃないの?」


「厚い皮膚より速い足って言うじゃないですか」


「ところで、捕まった魔人デヴィルってどうなるんですか?」


 “隣の席の女子”は問う。


「尋問と実験をするわ」


 鈴乃先輩の言葉に俺は焦りを見せる。


「実験!?」


「捕まった初日は尋問。それ以降は相手の態度に依って対応が変わってくるわね」


 先輩はあくまで抽象的だった。その情の込められた言葉で、無情な行為をされているのだと理解した。


「あの…尋問に捕まえた本人である俺が立ち会うことって出来ますか?」


「勿論。それにあなた中心に尋問、又はあなたのみで尋問も出来るわ、月宮君」


「下の名前でいいです。鈴乃先輩」


 俺は立ち上がり、見取り図を広げて会議室とレーラが連れて行かれたとされる監獄へ向かう。


「待って。つ…片葉君」


「何ですか?」


「場所はわかるの?」


「勿論」


 俺は地図をひらひらさせながら廊下を駆け巡る。



          ――2.襲来  完――


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