1.適合
異変を抱えた世界でも、俺達学生はいろんなことを学ばなければならない。特に神使は…。
5月になり、俺は久しぶりの登校と、新しい学校の期待と不安に胸を踊らせている。何故久しぶりと説明を加えたのか?それは俺が神使になってしまったからだ。
神使は普通、産まれた時から神器に適合しているものらしい。だが、俺こと、月宮片葉は去年の11月…16歳で突如適合してしまった。これを世間では二次覚醒と言うのだが、非常に珍しいケースで伸びシロや見込みは薄いという。
その為、去年の11月から今年の5月の昨日まで、特殊な訓練と、一般校から神使校への編入試験を受けたのだ。
朝、目を覚ますと、両腕に黒いリストバンドが付けてあったことに気づき、ようやく自分が神使である事に実感を覚える。
この黒いリストバンドは神器本体で、神使のもつ魔力を具現化させて武器にする力がある。別に四六時中付けないといけないわけではないが、装備したまま寝てしまったらしい。
洗面台に行き、歯ブラシに歯磨き粉を付け、口に突っ込んだ。屈みに大口を開いた瞬間、唾液と歯磨き粉が混ざり白くなったものの他に赤いものが見えた。俺は焦って嗽をして口内を確認する。
「歯は、抜けてないか…」
よく見ると左頬の裏に円形の傷が出来ていて、それから血が出ている。額にかいた冷や汗を手の甲で拭い、歯磨きを再会した。
歯磨きを終え、時間を確認する用量で携帯端末を開く。【7:01】と表示されているものの、3件のメール通知の方に目が行ってしまい、スワイプして開いた。
『学業に復帰おめでとう。今度の休みにでも、うちに返って来てね』
と妹の片利からのほのぼのとした文章。彼女の顔を思い出し、自然と笑みが出た。2件目のメールは戸籍上の母からの形だけの者。心が篭っていない事が嫌でも理解できたが、一応読んでやろう。
『片葉へ。あなたのお父さんも高校から神使になりました。だから正直あなたも神使になるのではと心配していましたが、その心配が見事に的中し、母は不安でいっぱいです。お勉強頑張ってください』
無理しなくていいのに。自然と嫌悪感を覚えてしまうその態度に俺は眉をハの字にして画面を戻す。
「そういえば。俺のお父さんも二次覚醒の神使って聞いたな」
月宮片名と言う俺の父は、俺が7歳の頃に危険度が4段階評価の最大値で表された魔人を狩りに行って返り討ちに会った。確かあの魔人、俺達人間からは【セイル】と呼ばれていたな。
最後のメールはスパムのようなアドレスだったため危うく消しそうになった。
「あーさーのーみーやー……。浅宮か」
アットマークの後ろにあるアルファベッドのローマ字を声に出して読む。俺は横文字が苦手なので、口に出さないと理解できないのだ。
『月宮片葉様へ。本日より浅宮学園に編入いただき感謝申し上げます。午前7時半より案内人である生徒を派遣致します。浅宮学園理事長、宝生清子』
宝生……。この名前には聞き覚えがある。そんなことは今はどうでもいいか。7時半に案内人が来ると書いていた。だから俺は身支度をした。しかし、未だ30分にはなっていないのにインターホンが鳴る。
俺は玄関に向かいレバーハンドルを捻り、重い扉を押す。
「おはようございます。月宮片葉さんで、よろしいでしょうか?」
「おはよう…ございます。月宮片葉です」
彼女を見た瞬間、違和感が全身を駆け巡る。違和感の正体はツリ目なのに穏やかに見える顔ではないし、口紅をつけているわけでもないのに赤く色っぽい唇でもない。黒いワンピースにふくらんだスカート、その上には真っ白でフリルがついたエプロンを着用し、方まで伸びる髪の毛を白い三角巾でまとめたコスプレメイド服だ。
「君が案内人である生徒?」
「はい。私は浅宮学園高等部、神器整備科1年の凩真希奈と申します」
「凩真希奈…。後輩かぁ。よろしく」
「はい。後輩と言っても私、学部を変えたせいで留年扱いになっています。年齢的には月宮さんとは同い年ですよ」
この場合、どれが正しい反応なのだろうか?俺は話を切り替えるために興味のない疑問を打ち付けた。
「でさあ、君は何故コスプレをしている?」
「情報では、月宮片葉さんはメイドに萌える変態と聞き受けました」
俺は取り敢えず玄関を閉めた。
「開けて下さい。あなたを学校まで連れて行くと言う義務がありますので」
「じゃあ、その義務を全うするために弁明してみろ」
「はいはい。すみませんでした。変態さん。このメイドになんなりとご申付下さい。どんな如何わしい好意でも笑顔で乗り越えます」
投げやりな返事の後に全く弁解する気のない単語を連発してきた。
「帰れクソビッチ」
「私は処女です!」
「いやいいよ。そういう嘘は」
「嘘じゃありません。確かめてみます?」
「結構です」
「え?じゃあどうやって処女であることを証明しろと?」
「しなくていいんだよそんなこと」
全く、扉を挟んで何をやっているんだ俺達は…。
俺は昨年まで通っていた諸星高校の制服に着替える。その間、真希奈は何度も俺を呼びかけたり、弁明をしようとしてきた。俺は30秒で寝間着のジャージを脱ぎ、ワイシャツを羽織り、制服のズボンとベルトの中に入れる。ネクタイやブレザーは面倒だったので腕にかけて玄関に近づく。
「月宮さん!私の初めて差し上げますから!開けて下さい」
俺はドアを開け、彼女の側頭部を右手で鷲掴みにする。
「お前、未だそんな話してたか。学校だろ?飯食うから待って」
「え?そんなの学校で…違った…。私を食べて下さい」
「言い直すなよ。今なにか重要な事言ったよな?学校でなんだって?」
「月宮さんは防衛基礎学科ですよね?魔力を体内で扱うので、相当カロリーを消費します。ですので、高カロリーな学食をおすすめしたいだけです。で、私をデザートにどうですか?」
「君はふざけに来たのか?」
俺は敵意を顔に張り巡らせ、右手を引き寄せながら、彼女の赤い唇に口を接近させた。
「冗談ですよ。ヤダなぁ。そんなに怖い顔されて。せっかくのイケメンが台無しですよ」
冗談と言うより誂いのほうが近い。何かを見透かされているような感覚で嫌気が刺した。
「君は、凩といったな?もしかして凩孤児院の?」
「ええ。その通りです。私には親が居ません」
陽気に振る舞う彼女はどこか寂しそうに見える。父が生きていた頃、俺は凩孤児院に行ったことがある。父の用事で行ったのだが、何をしたのかは記憶ははっきりしていない。
「さて、月宮さん、学校に行きましょう」
彼女は俺の手を引き玄関の外に出る。俺は鍵を閉め、彼女に付いて行く。
黒い車が俺の済むアパートの駐車場の前を駐車していた。恐らくリムジンと思われるが、メイド服の彼女は堂々と乗り込んだ為、俺もついていって乗った。
その中には運転手と思われる黒い背広を羽織る男性が1人だけ居た。
「えっと、運転手さん?」
「これ、ドールって呼ばれているんですが、魔力で動く機械です」
「機械?本当の皮膚みたいだな」
顔の構造が成り立っていて皮膚、と言うより、人間そのものだった。
「私が作ったんです。簡易プログラムなので、全身に人工筋肉とゼラチンとグリセリンでコーティングしました」
「顔はどうやって作ったんだ?」
「石膏像の顔に人工皮膚、さっき言ったゼラチンとグリセリンで作った膜を貼り付けて形を作ったんです」
彼女は俺達が座っている後部座席から運転席に手を伸ばし自信満々にドールの頬を引っ張る。
「触ってみてください」
俺は彼女の言われたとおり、俺はドールの頬に触れる。
「本当は人間でしょ?」
あまりの感触に彼女の言葉を疑ってしまう。
「そう思います?すごいでしょ?私」
「うん。これ、AIにしたら、もう神使要らないと思う」
「逆にAIが人間を裏切る危険性だって有りますよ?」
飛躍しすぎていると思うかもしれない。しかし、人工知能が出来たばかりの頃から人類にクーデターを起こす可能性があると言われている。まあ、もうすでに魔人のせいで滅びかけているのだから危険視というより、懸念だ。
「直接の戦争に関係なくても、この技術のお陰を使って、失くなった四肢を補う事が出来るんですよ」
「そうだな。でも、早く車を動かしてくれ」
「すみません」
【凩真希奈】と俺は自分の携帯端末のブラウザで検索してみた。
出てきたのはプロフィール。彼女の出自と現在の学科。隣に彼女がいたので時間を掛けてじっくりは見なかったが、彼女は【剥奪者】である事が記載されている。ストレスにより神器を扱えなくなった神使を示す単語だ。と、同時に、彼女は人間の研究をしているということが書かれている。
神器の整備ではないのかとも思ったのだが、医学的なのか、科学的なのか、分からない。
彼女は走行中、ずっと俺の顔を見つめてくる。
「ん?どうした?」
「あの、神使になるってどういう気持ですか?」
これをずっと聞きたかったのだろうか、言葉がまとまっていなかった。でも、俺はその言葉の意味が分からずにいた。だから、黙った。
「その…聞いてます?」
「うん」
「聞いているんでしたら何か反応して下さいよ!」
「そうだなー。どうしてそんな意味不明な質問をしたのか聞いていいかい?」
「さっき、月宮さん。私の事をネットで調べていましたよね?」
「見えていたのか?」
俺は窓を見た。するとスマホの光が反射し、鏡のようにくっきり反転して写っていた。
「ごめん」
俺は顔を俯かせた。
「なんで謝るんですか?」
突如、彼女の声色は先程の甲高いものから多少和らいで低くなったものへと変わる。恐らく、先のテンションであれば誂いの言葉の1つや2つを持ってきたであろう。
「真希奈のことだから、君に直接聞けばおかったね。訊かれたくないことも合っただろうから」
「ネットに書かれている程度の情報なら訊かれても問題ありませんよ?」
「そう?好きな男のタイプとか書かれてるけど、問題ない?」
「はぇ!?そんな情報有りました?」
ガラスを引っ掻いたような高音に俺は耳をふさぐ。
「冗談だよ。そこまで取り乱されたらなんか罪悪感湧いてくるよ」
「そ、そうでしたか」
安堵が手に取るように認識できる。
「まあ、初めの話に戻ろうか。神使になった気持ち…だっけ?」
「はい」
「質問の意味が判らない」
俺は端末の電源ボタンを押してスリープモードにしてスクールバッグの中に放り込む。
「16年間、一般人として生きた後、神器を扱う力を手に入れてみて『どう感じているのか』というものです」
「俺に対してする質問じゃないね」
俺は目を瞑り、背もたれに寄りかかる。だから、彼女がどんな顔をして、どんな感情で話しているのか解らない。Blindnessことで、元々薄い感受性が更に削られ、彼女に対して感情的に動かずに済んだ。
「神使は遺伝する。だから、俺が普通の人間として産まれてきても、父は何れ神使になるって知っていたから体術や技能、心理を叩きこまれた。だから、神使になっても、やっぱりかとしか思わないんだよ」
「【ソードダンサー】」
「あ?知ってたの?俺の父親のこと?」
「はい…」
「俺はあの人のことは人間として、1人の男としては尊敬していた。でも、男親としては出来てなかった」
「私には親がいないので、何ができている親なのか、それ以外がなんなのかわかりません…」
「俺も正直わからない」
「じゃあ、どうして言ったんですか?」
「彼が父親であることに不満だっただけだ」
神使になった気持ち。車内で黙る2人はその言葉に引っかかっていた。神使は役職の名前なのか?であれば彼女の質問を簡単に応えたはずだ。人間をやめて神使になるのであれば話は違う。神使は人間ではないのなら、『人間を辞めた気持ちを教えて下さい』と言う質問になるのだから。
「私は…」
校門が見えてきた辺りで、彼女は口を開く。
「私は剥奪者になった時、血の気が引きました。大切な人と同時に、仇討ちの希望までも…奪われてしまったのですから」
真希奈は細い指10本をつなぎあわせて顔の半分を覆い隠す。
「口が裂けたんだね」
彼女に聞こえない程度の声で呟く。彼女の心理的後遺症は自分の顔半分までも腐らせる程、汚染されていたようだ。
校内に車が入り、駐車場に止め、俺達2人は後部座席の両側の扉から降りる。
「すみません。9時過ぎていますので、私はこのまま授業に行きます。見取り図を渡しますので、その場所に向って下さい」
彼女はプリントアウトされた紙を俺に押し付け、スタスタと消えていった。地図には、現在駐車場のところに赤いマーカーで塗りつぶされていて、神器相談室と書かれた部屋には青いマーカーで丸されていた。
「失礼します」
目的地の神器相談室は他の教室とは違って片開きドアだった。そのドアをノックすると、女性なのに低い声が聞こえる。
「どうぞ」
低いというより気だるそうな声質だった。俺はドアを開けて入ると相談室というよりは事務所に近い雰囲気で銀色のデスクが並べられていた。全部で6つが前と横を連なっていたのだが、何1つ片付いているものが無かった。
「月宮片葉と言います」
「知っているよ」
目に隈を貼った女性は黄土色の液体が入ったカップを右手に持ち、クリップで止められた複数の紙を左手に持っていた。
「私は魚止森。覚えなくて結構だ」
といい、右手に持ったマグカップをファイルや紙でかさばったデスクの1つに置いて、左手に持っている資料を前に突き出し、俺とその資料を比較しているように見える。
「君、今までに骨折をした回数は?」
「数えてません」
「だろうね。このご時世、骨折するほうが難しいのに、君は少なくとも9箇所の骨に折れたような後が有ったんだ」
彼女が9箇所といったが、実際のところ、もっとあるだろう。俺は足にある腓骨と呼ばれるものを何度も折ったことがあるのだから。
「何よりびっくりしたのが骨折をしているのにも関わらず、骨の強度は他人のそれと比べ物にならないんだ。どうしたら骨折できるのかってくらいにね」
俺は立たされたまま話を聴いていた。
「それ以外にも、優れた点で他人と異なるものがいくつも見えてくる。訓練の成績がトップクラスなのは身体の異常が原因なんだね?」
と言いながら資料を散らかった机に置き、机の下からメガネケース程の箱を出した。
「君のために選んだ神器だ」
と言って彼女は俺に渡してきた。
「君が今はめている神器に円いくぼみがあるだろ?そこにはめ込んでくれ」
つまり、早速開けろということだ。俺は厚紙に付いている粘着テープを無視して強引に開け、中を見る。その中には500円玉くらいの大きさのコインが2つ入っていた。片方は紫色でもう片方は赤。
「君の場合、右にリコシェ、左にファイアをはめ込んでくれよ」
彼女は今横文字を言ったが、それはバレットの名前である。
【リコシェ】つまりは跳弾で壁や床、敵に当たればボールの様にバウンドする。当たったものの強度に依っては破損することもある。特殊な為、使いこなすのが困難でじゃじゃ馬とまで言われている。
【ファイア】連射弾。他のバレットに比べ、威力は著しく低いが発射の連続が可能。最も簡単に使いこなせると言われているバレット。
「どっちがどっちが未だ見分けが付きません」
「ん?そうか、申し訳ないな。紫色がリコシェだ」
神器本体であるリストバンドにバレットのプログラムが組まれたチップを入れる。
「なんで、このバレットなんですか?」
「君の正確ではスナイパーが向いていた。冷静に判断が出来て、正確にバレットを操作出来る。でも、君の運動量を活かさないのはもったいないと考えた。そこで単純なファイアを入れてみたんだよ」
「リコシェを選んだのは?」
「言ったろ?君は冷静だ。接近戦でリコシェを使うのは諸刃の剣だ。でも君はそれを使いこなせると私は判断したのだよ」
「そうですか」
魚止森さんは黄土色の液体の入ったカップを持ち、それを音を立てて喉に流していく。
「君はコアグリップと呼ばれるものを知っているか?」
「一応…」
「大きく分けて、コアグリップには3種類ある。ブレードタイプで攻撃に特化した【ソード】。魔力障壁の強度を高める【サーベル】。安定して威力の高いバレットを撃ちだす【バレル】。ソードは前衛で、サーベルは真ん中、バレルは後衛用と別れるわけだが、私は君にコアグリップを付けなかった。バレットのプログラムと違って、コアグリップは後で変更したり、複数装備しても問題はない。欲しければ後で申請でもしてくれ」
「付けなかった?」
「実際のところ、私は君にこの中のどれかを上げる義務があった。でも、資料を見る限りだと、君は剣や銃を要らない戦闘スタイルを持っているからね」
複数叩きこまれた格闘技だろう。今更剣や銃を渡されたってうまくは扱えない。
「他に、コアグリップ無しの戦闘スタイルの人はいますか?」
「この学校の神使は粟島遥という生徒のみだよ」
どれだけイレギュラーが居るのか知りたかった俺は確認がてら訊いてみた。
「他に質問はあるかね?」
「ありません」
「よろしい。では、本題に移ろう。そこに扉があるだろ?」
話に区切りが着くと、魚止森さんは出入り口ではない扉を指差す。
「そこは訓練部屋になっている。バレットで試し撃ちでもしてみるかい?」
「あ、いいんですか?」
その部屋は四方がタイルのようなもので囲まれている。例えるなら独房のようだった。
部屋の中央に立つと簡易的に書かれた人の絵が前後左右に動いている。的当てなのだろうか?
30分程的当てをして、俺は事務室のような場所に戻と、紅茶を嗜むメイド服の少女が居た。この学校はメイドが沢山いるのかと思ったが、真希奈だった。先程は髪の毛を垂らしていた彼女だが、束ねていたようで、一瞬彼女だと気づかなかった。
「月宮さん。お疲れ様でした。では、教室の方へ案内します。着替えるまで待って下さい」
「は?」
彼女は俺が先ほどまで射撃訓練していた部屋に入り込んだ。
「あ、説明するのを忘れていた。彼女にメイド服着るよう命じたのは私だ」
「パワハラかよ」
「君の冷静さをこの目で見てみたかったんだ」
魚止森さんはサインペンのような物を俺に渡した。
「これは盗撮カメラだ。君の反応は全て録画させてもらったよ」
彼女は先のダルそうな態度から一変して少し明るくなった。その証拠に声のオクターブが上がっている。
「研究材料としては面白かったけど、リアクションがつまらなかったな」
「突然バケツひっくり返したみたいにテンション変えるのやめて下さいよ」
「凩ちゃんのお陰だよ。彼女と君の組み合わせを見ていると疲れが吹き飛ぶよ」
彼女が陰気なのは、寝不足だからなのだろうか?
真希奈が訓練室から私服|(?)で出てきて、俺は立ち上がる。立ちくらみがしたが、いつもの事だったため、その場は放置した。
「お待たせしました」
俺はいち早く魚止森さんから距離を取りたかったので、校内案内を言い訳に、事務室のような相談室を出て行く。
「あれ?」
俺は血行が悪く、立ちくらみをしょっちゅう起こすのだが、今回は脳震盪にも似た感覚で膝をついて倒れてしまった。
「月宮さん?」
そのまま俺の意識は遠ざかる。
――1.適合 完――




