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雷霆の神使と白皮の魔人  作者: 堕罪 勝愚
1章 朱雀の紅炎
14/51

12.逢引

 片葉君と沙弓ちゃんがデート!?

 まるで彼氏彼女のような雰囲気を見せる2人。果たして片葉君は初デートでどのようなやらかしをするのか!?

 まあ、堕罪が作者なんでストーリーに差し支えない場面では醜態は見せない様にしますよ……。

 本日も晴天なり。俺は布団にくるまり、土曜の朝を満喫していた。いつもなら6時半に携帯情報端末、スマホのアラームが鳴るのに、休日である今日はそんなことはなく、俺は睡眠を貪ることにした。

 そんなかすかな楽しみは10時過ぎで終わった。

 インターホンを破壊したくなるような素っ頓狂な高音は俺の耳を通り、脳に刺激を与える。


「うるせぇー!」


 珍しく大きな声を出し、反応してしまった。たった一度のインターホンの音にガチギレするなんて普段はありえない。だが、今日はこの音を出す物体とそれを押した人物を破壊したくなった。


「片葉。私だよ。なんだ?機嫌わりーのか?」


 女性の声なのはわかるが、ドア越しなので誰だか分からない。俺は取り敢えず玄関の扉を開けた。


「おはよう。さっきまで寝てたような格好だな」


 木造沙弓!俺はこのつり目美少女の顔がとてつもなく憎たらしくなった。だから取り敢えず腹いせに彼女の頭を鷲掴みにした。


「え?なに?」


「こっちのセリフじゃごら!」


「デートしようぜって誘ったんだけど?」


「先に行ってくれよ。忘れてた」


 俺は頭を掴んだ右手を引き寄せ、玄関をくぐる。


「新手の羞恥プレイかな?」


「この玄関を挟んでプレイするのは2度目だよ。なんか、今猛烈に片葉君の機嫌が悪いから沙弓ちゃんを虐める」


「冗談でも怖いから」


 俺は頭から手を話し、鍵を閉め直し、布団にダイビングした。


「なに、いじめるって放置プレイ?」


「この玄関を飛び越えてプレイするのは初めてだな」


 5分程度であるが、俺は本当に沙弓を放置した。


「片葉!かまって!流石にこのままは嫌だ!」


 沙弓は俺の体を揺らし、起こそうと努力してくる。


「俺忙しいの」


「寝てるだけじゃん!」


 カレカノみたいな会話だと思うが、俺達は付き合っているわけではない。まあ、知ってるか。


「何する?」


 俺はうつ伏せから仰向けになり、さり気なく、胡座を掻く彼女の膝に頭を乗せて問う。


「鈴乃先輩が言ってたとおりだ。あんた甘えん坊でしょ?」


 彼女は嬉しそうだったため、肯定を返してしまった。


「自覚有ったんだ!?」


「ああ」


 彼女は髪の毛を指で掻き、頭を撫でてきた。


「膝枕して気づいたんだけどさ?」


「枕営業して何を気づいたんだい?」


「ちげーよ!」


 沙弓は赤面して俺の額に指全体を開いて叩く。ペチンといい音が鳴った。


「あんたが浅宮に来てから1ヶ月経ったけど、前髪がめっちゃ伸びてるよね?」


「昔から、前髪だけ早く伸びるんだよ」


「切ろうか?」


「お願い」


 安請け合いをすると、彼女は俺が膝にいるのにも関わらず立ち上がる。万有引力のせいで布団にへばりついてしまった。


「鋏ある?」


 実行力有りすぎだろこいつ。




 布団を畳み、ゴミ箱の前で胡座を掻かされた。


「行くよ」


 沙弓は鋏を猟奇的に開いて閉じてと繰り返した。


「沙弓。俺の目玉に価値はないぞ?」


 そんな冗談は軽く流され、縦に鋏を入れて俺の前髪を揃え始めた。


「ねえ、明流と喧嘩して、月曜日の放課後決闘するんでしょ?」


 俺は返答しない。いや、出来なかった。


「なんで明流が怒っているか知ってる?」


「知る由もない」


「じゃあ、あんたはどうして明流を避けているの?」


 沙弓は俺の額を押して角度を変えてまた戻す。俺はうつむいたまま答えをゆっくり考える。


「うぅー」


「どうして唸る?」


「なんか、それらしい理由はあるんだけど、言葉にできなくて……。でも、もう吐き出せそう。ゴミ箱の中にごぇーって」


「ゴミ箱を洗面器みたいに言ったな」


 沙弓は手を止めた。


「明流が怒っている理由は、言い訳をしてくれないことだって」


「言い訳?」


「環奈は事情を全て説明して謝った。だから明流は事情を知っていた。でもあんたは言い訳しないで誤解されたままでいいって対応を見せてる」


「それだよ。俺がわからないのはそこなんだよ」


「ごめん、何言ってんのかわからない」


 俺は顔を落としてじっくり考える。


「どうして俺は明流を避けているのか。やっとわかった。俺と環奈が取っ組み合っている時に明流は悲しそうな顔をしたんだ。俺のせいで、そんな顔するんだったら、離れた方がいいなって。思ってさ」


 ゴミ箱に向って「ごぇー」ではなく、「うぷっ」と言葉を吐き出した。その際に吹いた息で、髪の毛のかけらは沈下する。


「焼いちゃうな」


「今、重大なことを思い出した」


 話しの区切りが出たところで俺は見上げる。彼女はいつも所持しているのか、手鏡を俺に見せて来る。


「前髪これでいい?それで、何を思い出したの?」


「前髪はこれでいいよ。俺、訓練で制服ボロボロにした。だから買わないと外着が無いんだよ」


「買いに行こう?」


 彼女は笑顔を見せてくるが俺にはそれは悪魔の艶笑に見えた。


「嫌だな。服如きに金を使いたくない」


「自分で縫う?」


「中学の頃のジャージを改造して着るしか無いな」


 俺はゴミ箱から離れ、タンスまで貼って歩き、サイズの合わないジャージを取り出した。


「片葉。無理買いに行こう」


 さっきまで気さくに笑顔を作っていた彼女だが、突然冷たく真顔になった。


「わ、わかった」


 俺は彼女の冷たく鋭い言葉に圧倒された。





「古着屋でいいだろ」


 ショッピングモールのフードコートで俺は肘をテーブルについて呟く。今、沙弓はカウンターで食券とタイマーを取り替えていた。


「おまたせ。片葉。あんた結構ジャージでも違和感ないし、すごく似合ってるよね」


「ありがと。つまり安っぽい服装がにやっているってことだろ?」


「そこまで卑屈にならなくてもいいじゃない」


 彼女は眉をハの字にする。


「冗談だよ」


「で、片葉は何も食べなくていいの?」


「……」


 俺は最近、自分で作るご飯が食べにくくなってしまっている。学食のせいで、味覚で楽しむということを覚えてしまったのだ。


「食べるよ」


 それで…オムライスの食券を買ってしまった。


「オムライス好きなの?」


「学校で食べたやつが美味しかったから……」


「その表情可愛いな」


 俺のはにかんだ姿を見て睨みつける彼女。俺は慌ててオムライスを取りに行った。誂われたのは初めてで覚束ない。


 そして口にオムライスを含んで感じた。


「俺でも作れるんだけど」


「それ言っちゃ駄目」


「金払ってるのにこれはひどい」


 俺はオムライスを飲み込むように食べ終える。


「もう腹いっぱいだ」


「私の記憶が正しければ、あんた学食を大量に食ってたろ?その食欲はどこに行ったのさ?」


 遥との戦闘を想定した訓練の後のことだろう。俺はそれを思い返す。


「あの時は空腹で食事が後一秒遅れていたら死んでたよ」


「大袈裟…とも言えないか」


「それより、早く服を買って帰りたい」


「わかったよ。食い終わるまで待って」





 俺と沙弓はショッピングモール3階の洋服に行き、服を見に行った。


「どれがいい?」


 俺は沙弓に問うと彼女は真剣な顔を見せてスタスタと歩いていった。


「おいで。あんたを暫く着せ替え人形にするから」


「うん」


「ワイシャツは何着持っているの?」


「1着もない」


「そう」


 暫く彼女が俺をコーディネートした。なんとなく、レディースが多かったが、俺は逆らうこと無く着せ替え人形になる。

 彼女のお遊びはどんどんエスカレートしていき、気づいたときにはワンピースにポンチョだった。


「ねえ!なんで何も突っ込んでくれないの?完全に女の子の格好だよ?」


「沙弓ちゃん?と、そっちの彼女は?」


 突然、女性の声が聞こえ、俺は背筋を震わせた。この姉ボイスは確実に鈴乃先輩だ。髪の毛が長い(と言っても、女の子のショートカットな)せいで、俺は女の子として認識されてしまった。


「鈴乃先輩…」


 沙弓も危機感を持っているようで、手を握りしめていた。熟俺も間が悪い。


「――!?もしかして、片葉君?」


 俺はカーテンを閉めて服を脱いだ。今まで掻いたことのない汗が一気に流れ出てきた。服にかからないために着替えを終え、俺はカーテンを開ける。


「知らなかった。片葉君に女装癖があるなんて」


「違うんです。私が片葉に無理やり着せたんです」


 沙弓は弁解をしてくれたようだ。


「そりゃ、抵抗しないこいつも悪いですけど……」


「え?」


 俺は仰天して声を上げる。


「2人とも、明後日から3日間、中間テストだけど、勉強した?」


「なぅ!」


 俺は声を荒げ、恐れ慄いた。


「沙弓……聞いてないよ。明日テストだなんて……」


「なに泣きそうになってんだよ」


「テストやりたくない。あるって知っていたら今日出かけなかった」


 さっきまでの着させられていた服をハンガーに掛け、沙弓に突きつける。


「この服どこに有ったの?」


「此処から右3つ目の棚」


 彼女の指さす方向へ俺は駆けていきその場を離れる。


「はぁ」


 喪失感と倦怠感が同時に淀めきだし、俺は溜息を付いてハンガーラックに額を当てて寄り掛かる。女性物の服が掛けられていた事を思い出し慌てて体制を立て直し、沙弓がいる場所に戻った。


「先輩は?」


「万里花先輩が捕獲してくれたよ」


「鈴乃先輩を猛獣みたいに言ったな」


 白銀先輩と一緒に来ていたのか。


「さっきはごめん、私、調子に乗りすぎた」


 彼女はハンガーにかけている白いボタンダウンシャツ5着にジーンズと黒いスニーキーパンツを買い物かごの中に入れた。


「はい。1万円未満だよ」


 俺は彼女の頭に手をおいて「ありがとう」と笑顔で応ずる。


「現金な子」


「いいや、ありがとう。態々俺のために」


「デートだし気にすんな。後で私のお願い訊いてよ?」


「わかった。いいよ」


 俺は懲りずに安請け合いをしてしまった。後先考えず…いや、それは違う。そうだと思いたい。と言う具合で2秒で後悔した。

 レジにそれぞれの服を通すと9800円の買い物ができた。


「この店のモットーは安くてかっこいいだからあんたにはピッタリでしょ?私も買いたい物があるからちょっと待っててね」


「うん。わかった」


 彼女は先程の着せ替えで欲しいものでも見つけたのだろうか?俺はレジと背を向けて端末を見て待っていると、すぐ、彼女は現れた。


「これ、プレゼント」


 紙の買い物袋を手渡しされ、俺は戸惑う。


「え?」


 レディースのものではないかと警戒したが、もらえるものはなんでもいいと思い、受け取った。


「ありがとう……」


「なんか、嬉しそうじゃないね?もしかして遠慮している?」


「――う、うん」

 俺は中を確認した。すると、ファスナーのついた黒いパーカーが入っているではないか。


「これ、寒い時とかカーデガンの代わりに着られるでしょ?」


 理性の線が途切れ、彼女を抱きしめてしまった。


「ちょ!片葉…」


 俺の胸元で篭った声は照れている様に聞こえる。


「ごめん。ごめんね。でも、嬉しくって……」


「ガキみたいだからやめて。これからのお願いも聞いてもらいたいから。あくまで私の打算だよ」


「前払いってわけか。だったら金が欲しかったよ!」


 俺は彼女への抱擁の力を強めて要求した。


「苦しい!」





 沙弓のお願いというのは単純に神器のコアグリップ選びだった。

 ショッピングモールには量産のコアグリップを販売しているところがあり、金銭でも購入できるし、ポイントでも交換可能という素晴らしいものだ。学校で注文する際は送料もかかってしまうが、これはその場で受け取れると言う利点を持っている。


 彼女のバレットはスナイパーとリコシェ。メインはスナイパーなのでバレルはライフルが最適だと本人は言っていた。彼女はダネルNTW‐20を購入した時、威力は高いが重くて機動性が削られると明確に説明をしてくれた。量産型狙撃銃、M24SWSは威力は低いわけではないし機動性を欠くことはないのだが、彼女は物足りないと言う。


「片葉から見て、私ってどう?」


「冷静だけど、短気な女の子」


「そういうこと聞いてんじゃないんだよ」


「いや、性格って戦闘に依存するもんだよ?」


 俺は篭手に付いた紫色のチップを見せながら言う。


「で、俺も聞きたいことがあるんだけど、ファイアを装備していない沙弓でも連射って出来るの?」


「バレルコアグリップの特性を活かせば出来る」


「出来るんだ……」


 彼女は展示されている見本の量産型突撃銃を持ち上げ、マガジンと思われるパーツを取る。


「これにプログラムを込めた魔力をはめ込んでいくの。チャージバレットの応用だよ。でも、リロードの時間が必要だからファイアのほうが早い」


「沙弓はリコシェよりもファイアのほうがいい気がするんだけどな……」


「そこはあんたの意見に賛成。でも、バレットのプログラムチップは1回嵌め込むともう変えられない」


「それ。ずっと気になってたんだけど、なんで?」


「拒絶反応らしい。私も詳しく知らないけど、魔力は未だ解明されていないところが多くてどうすれば拒絶反応が無くなるか研究中なの。それがわかればチップなしで弾丸を操れる事ができるって言われているらしいね」


 彼女は89式小銃と書かれている値札のところに置いた。


「でも、バレットの拒絶反応が働かない人もいる。それが万里花先輩」


「ん?その前にどうやって拒絶反応がないとかわかるの?」


「知らん」


 彼女はライフルを手にとってから色々と確認を始める。


「なんでリコシェになったの?」


「魚止森さん曰く、私は咄嗟の判断に優れているらしいのよ」


「咄嗟の判断ねぇ。俺も同じような事を言われた気がする」


「私ら、似た者同士だしね」


 彼女は展示されているWA2000のスコープを覗き、俺に向けてきた。他の狙撃銃に比べて銃身が短く、全体的に長方形になっている特徴的なものだ。


「あんたがスナイパーにならなかった理由は私に足りない体力と筋力が有ったから?」


「それと、じっとしているのが苦手で射撃が下手くそなところ。性格は似ていても、趣味や特技は違ってくるんだよ」


「卑下すんなって。ま、でも、そういうところ、好きだよ」


「俺も沙弓のはっきり言ってくるところ、好きだよ」


「両想いだな。がはははは」


「下品な笑い方するな」


 結局のところ、沙弓はAK-47と呼ばれるアサルトライフルと、それに取り付けが可能なスコープをポイントで購入した。

 彼女はこれを改造して持ち運びやすく連射性に優れたライフルを作ると言っている。


「ありがとね片葉」


「は?俺、何もしてないよ?」


 彼女は笑顔を作ってスタスタと去っていく。




 俺の部屋で、沙弓はバレルコアグリップを軽く分解していた。


「ねえ。バレルコアグリップって、バレットにどんな影響を与えるの?」


「基本的にはバレットの利点を底上げしてくれるの。銃に依ってどのステータスが上がってくるかってのが変わってきて、取り回しも含め、どのアドバンテージを取るかが駆け引きになってくるの」


「銃身でチャージバレットは出来る?」


「出来るよ。まあ、と言っても、直接銃に行うのではなく、マガジンに魔力を送り込むんだよね。でも、銃口を通したのと素手でチャージしたのだと威力はほぼ同じだし、元々需要が無いんだよ」


「チャージバレットを乱用するのは俺くらいか」


「浅宮では訊いたことがないな」


 彼女は一時作業を中断して携帯情報端末を見せてきた。


「藤林学園だと、宝生輪音って生徒が使ってる」


「宝生?」


「うちらの学校の理事長の三女だとよ」


 つまり、俺の兄妹に当たるのか。


「この人の戦闘資料あるけど、見る?」



            ――12.逢引 完――

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