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雷霆の神使と白皮の魔人  作者: 堕罪 勝愚
1章 朱雀の紅炎
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9.神器

 着地時、膝を思いっきり曲げ、前方に転がり、衝撃を吸収する。何度も骨を折ったため丈夫になった俺の身体は悲鳴1つ上げずに五体満足の状態を保つ。そのまま駆け出すが、彼女も続いて降りてきた。衝撃を吸収する必要があるのにも関わらず、膝を曲げただけ。骨をおるリスクがあるだろうに。


「デタラメだ」


 俺は息を切らしながら足をすすめる。しかし、環奈はラグビーのようなタックルを俺に食らわせてきた。。俺と彼女はゴロゴロと転がっていった。


「ぐは!」


 俺は余裕がなかったためか、断末魔が棒読みになってしまい、横になって肩で息をする。環奈も同じく息を切らしていた。


「あれ――メガネは?」


「落ちました」


 メガネがないせいか、目が大きく見えて余計に幼くなっている用に感じる。


「先輩のその身体能力はどうやって手に入れたんですか?」


「先天性無痛無汗症。生まれつき末梢神経に生涯があって……痛みや温度を感じる器官が無い病気。――魔力治療をしたんだけど、痛みがない状態でね。少しばかり、無茶が利く体になったんだ」


 呼吸が乱れたせいで低い声になる。その言葉を俺を抱きしめて倒れる彼女に言い聞かせた。


「で、君のそのデタラメな運動神経と体力はなんだ?」


「【神威】です」


「ああ。神使が使う魔法か」


 疲れたせいで俺の右耳は塞がれたように音を聞き取らなくなったが、いつものことだし、左側に環奈がいるので、聞き取りに問題はなかった。


「はい。私の神威は【蝗害】という名前です」


「バッタか」


 蝗害こうがいとはトノサマバッタなどの一部のバッタが起こす現象で、餌が少なくなったなど、絶滅の危険が迫った際に体が進化する。普段は食べない稲などを食い荒らす為、【飛蝗バッタの害】と表す。


「簡単に言うと、身体能力が向上するだけの能力です」


「なるほど。君はいろんな生物の能力を取り入れている様ですごいよ」


「スローロリスですか?」


「推すねぇスローロリス。ちょうのように舞い、飛蝗のように駆け、蟷螂かまきりの様に捕らえ、蜈蚣むかでの様に喰らう」


「え?蜂のように刺すは?」


「確かに、スズメバチみたいに攻撃的だなっては思ったけど、蜈蚣のほうが君に有っているよ」


「そこまで醜くありません。その上、外見の説明はありませんね?スローロリスは?」


「節足動物で説明してきたのに、いきなり哺乳動物を入れられるわけ無いだろ?せめて言うなら、汗がベトベトしていてトビイロゴキブリみたいな感触だ」


「最低です。ゴキブリに触ったことがあるみたいな言い方ですね?」


「あるに決まってんだろ。実家で毎晩見かけたよ」


 俺は息を吐き捨てる。


「よく老人がアブラムシって言っているよ」


「それを女の子である私に当てはめないで下さい」


「わかった。訂正しよう。黒髪の艶がクロゴキブリみたいで綺麗だね」


「虫で当てはめないで下さい!それから私の毒舌キャラを奪わないで下さい」


「毒をもって毒を制す。これ、家訓だから」


「なるほど。先輩はイラガの幼虫みたいに触ったら激痛を与えてきますね」


「態々マイナーな毛虫で説明してきたね。この学校の生物のカリキュラムは恐れ多いよ」


「私が個人的に調べました」


 会話が弾んだせいか、気づいたら疲労感は消えていた。ゼエゼエいながら抱き合って会話していたら誤解を招きそうだな。

 で、いつ彼女は腹に巻いた腕を離してくれるのだろうか?

 俺は彼女の手をダブルタップして話すように指示する。


「少し待って下さいね」


「いきなり甘えてんじゃねーよ。調子狂うだろ」


「ギャップ萌えです」


「ああ。今言えば納得行くわ。で、離して。さっき汗がベトベトするって言ったが、俺の汗も服に染み付いて気持ち悪いんだ」


 俺はそれを言うと、環奈は笑顔を見せた。


「無痛無汗症って言ってませんでした?汗掻かないんですよね?」


「そこは魔力治療で治したんだよ」


 しばらくして、彼女は腕の巻きつける力を強めた。俺は離すようにダブルタップしたが、彼女はお構いなしに笑顔を作る。


「いい加減にしてくれ」


「――先輩。私と付き合って下さい」


「また唐突な」


 明流と幸地は実際のところ交際はしていない。


『甘いモノは好きですが、それで釣るような人は嫌いです。でも、甘い人は大好きです。片葉さんみたいな』


 これが彼女の言葉だ。俺は甘いのだろうか?その言葉が引っ掛かり、環奈に少し冷たく接してしまった。


 で、現在、俺は仰向けの状態になり、隣に環奈が巻き付いているのだ。10秒ほど前に告白…いや、交際を申し込まれ断ろうと口を開いたその瞬間だった。


「片葉…さん?」


 先まで“運動”していい汗を掻いたのに、突然冷や汗が出てきた。俺の下の名前をさん付けで呼ぶのは明流と真希奈くらいだ。その声の主が真希奈なら問題も実害もない。しかし……透き通った声質は明流以外誰のものでもない。


「明流」


 声の方向に頭を向けると彼女は駆け出し、逃げていった。

 下手に言い訳をするとかえって怪しい。かと言って何も言わないと誤解されたまま過ごしてしまいそうだった。俺は環奈を振り払い立がり、駆け出す。振り払う際、思ったより抵抗されなかった。俺は一瞬、明流を追いかけようと考えたのだが、行って何をすればいいのか分からないのでそのまま逆方向に走り出し、生徒会室に取り付けてある窓まで近づいた。


「すまん。火狩開けて」


 俺は窓をノックすると火狩が近づいてきた。


「なんでこんなところにいるんだよ」


 彼は文句を言いながらも窓を開けてくれる。


「ありがと」


 俺は足を上げて中に入る。


「水鳥とどんなことを話してきたんだ?」


「虫の話しだよ」


「は?」


 火狩は首を傾けるが、俺はそれを無視してテーブルに座る。


「土屋、火狩。学戦のトーナメントはどうなった?」


「なんだ?体は暑そうな汗を掻いているのに、言葉は冷めているな。まぁ、関係ないか。決まったよ。全部で16個のステージを用意する。基礎防衛学部は1500人以上いるから1ステージ95人前後。これでも多いくらいだが、この学校にある市街地ステージは8つしか無いから、2回に分けてこれで執り行う。これでどうだろうか?」


「午前と午後に分けるんだ」


 土屋、火狩の説明を受け、俺は頷く。


「で、本番は。学戦はいつやるんだ?」


「6月下旬。期末テストの後だ」


「なるほどね」


 テスト。ただでさえ冷めているのにその言葉を聞いて更に俺の周りに冷ややかな風が吹き荒れる。


「サドンデスは極力成績上位者が同じ場所に当たらないように心がける」


 土屋は16人の生徒の名前を書いた紙を俺に見せる。


「出来レースになるけどこのメンバーは絶対に同じブロックには組み込まない」


 俺を含む、生徒会のメンバー7人の名前が入っていた。それ以外の人は知らない名前だったが、問題は無いだろう。


「で、月宮、凩に頼んで専用神器を作ることを勧める」


「神器ね。コアグリップ嵩張る重装備は嫌なんだよな」


 俺は土屋が座ってる椅子の下においてある大剣を見つめて言う。


「いや、俺は魔力値が他人より低いから燃費を重視してこの武装を選んだんだ」


 まぁ、適材適所ということだろう。俺の場合は威力を殺して軽量化に務めるしか無いと感じた。




 後日、真希奈と一緒に神器相談室に行き、俺の神器の選択を頼んだ。


「敵を知り己を知れば百戦危うからず。片葉さん、武装を選ぶ前に人の装備を確認しましょう」


「わかった」


 真希奈はパソコンを開く。俺はそれを横から覗き込み中腰になる。


「では、まず、訊きたい神器やコアグリップはありませんか?」


「んー?まずは鈴乃先輩かな。元火消し部って言っていたし、皆が認める実力者。その上、生徒会長だ」


「買いかぶりすぎだと思います。あの人が使うコアグリップは一般推奨のものですよ」


「一般推奨?」


 彼女は画面に鈴乃の装備のデータが載ったファイルを開く。


「サーベルのコアグリップにシングルとホーミングのバレットのプログラム。すごく一般的ですが、シングルのバレットの特権である【キュアリングブレード】を使います」


 キュアリングブレード。シングルの特性である結合能力の強化をブレードに当てはめる物だ。ダガーを作り出し、投げナイフの様に応用も出来るので、勝手が良いと言う。どうやらシングルを装備している人は自動オートで発動しているらしい。


「次、他に訊きたいこと有ります?」


 彼女は笑顔で聞いてくるのだが、恐らく説明したいのだろう。


「誰が面白い神器を持っている?」


「火狩さんですね」


 そう言ってページを開いて、出てきた画像は以前に見たことがある槍。


「これを作ったのは私なんです。火狩さんの猪突猛進な性格を考慮して【ショット】バレットに見合うバレルを中央に付け、外側は魔力で覆えるように出来ています。そして、火狩さんの特殊体質は魔力障壁を他の神使よりも厚く張れるというもので、サーベルも装備しています。装備した姿はまるで西洋の騎士。その盾は【グレネード】の爆発も防ぐ程です」


「君が作ったから見せたかったのか」


 画面には火狩のフル装備が写されている。戦闘中のものをそのまま使ったため、荒い画像だったが、火狩の鋭い剣幕と体の動かし方が強さを語る。


「火狩さんのサーベルは障壁の奥からグレネードを作り出せるように改造しました。ですのでタックルと同時に爆発を起こして攻撃をしたり、爆風で移動して回避することも出来ます」


 つまり、火狩は近接戦に置いて汎用性が高いということになるが、同じ近接型の神使なので、出来れば同じ部隊に配属されたくないものだ。


「補足ですが、彼の使う槍は【グングニル】と名付けられ、その槍から火狩さんは【左目のあるオーディン】とまで呼ばれる様になっています。と、すみません。椅子を持ってきて座って下さい」


 俺は彼女の気遣いを受け、言われたとおりの行動に移る。中腰だったため、脊髄がバキバキと音を立てる。骨折と似たような音なので正直怖い。魔力治療で怪我などは理解できる程度にはなったが、一向に“音”に慣れることはない。


「他に訊きたい人は居ます?」


「そうだな。土屋かな?あいつ、大剣らしきものを持っていたような記憶がある。『俺には魔力値が少ない』みたいなことを言っていたが、どういう意味だ?」


「“魔力値”なんて言葉は存在しません。彼はつまり『自分で強弱の調整が出来ない』のです」


 俺は首を傾げる。


「判りづらい」


「煎じ詰めたつもりですがね。片葉さんは魔力を“1から100まで”自在に操作出来ますが、土屋さんの場合、“0か100か”でしか使えないのです」


「調整が出来ないってそういう意味か。理解理解」


「こればかりは単純に才能ですよ。で、彼の神器は【フロッティ】という名前です」


 と言って彼女はタッチパネルをなぞりマウスを動かし、大剣の画像ページを映し出す。大剣は諸刃で刀背がなく、中央にある樋はくり抜かれたように無かった。


「この剣はとてつもなく軽いという特徴以外アドバンテージがありませんね」


「寧ろ、刀剣に限ってはなんの利点も関係なくその人の技量に依って全部変わるからね」


「そうですね。そう言えば、ブレードコアばかりでバレルコアの説明をしていませんでしたね」


 彼女は気を使って俺を見る。俺は首を横に振る。


「いや要らない。銃の良さとか知らないから宝の持ち腐れもいいところだ。神使になってばかりのときの訓練では射撃の腕はくそったれだったからな。持たない方がいいよ、うん」


「そうですね。片葉さんに説明するだけ骨折り損のくたびれ儲けもいいところです」


 嫌味とも捉えられるその言葉、俺は目を細めて言い返す。


「あれ?言い草酷くない?」


「冗談ですよ。片葉さんはどんな神器は欲しいですか?」


 スピーディーに話を切り替えられ、俺は困惑した様子を見せつけてから言葉する。


「遥の【タナトス】みたいに付属効果のある神器を使いたいな」


「なるほど。付属効果ですか……。足で魔力を形成させることが出来るとかであれば素敵ですね」


 俺はつい、頷いてしまった。魔力というものは粘土のように形成する必要がある。その為、掌からしか作り出せない。


「やあ、遅くなったね」


 扉の開く音と同時に魚止森さんのやる気を打ちのめしたような声が聞こえる。


「月宮君の肉体のスペックと戦い方を考慮して私と凩ちゃんは神器を設計してみた」


 この声を聞いていると、肩に何かが伸し掛かったように体が怠くなる。


「肉体のスペックかぁ。機械みたいに言われたな。まぁ、いいや。何を設計したんですか?」


「まず、君の戦い方は時間を掛けて質も量も底上げするもの。だから君の【バレットチャージ】を円滑に行うための指ぬきグローブ。脚でバレットのプログラムを撃ちだす為の膝当て。全身から魔力障壁を出すためのネックアーマー。この3点セットでどうだい?」


 俺は格闘をする際、得意の脚技は使わずに掌打のみに力を入れてきた。だが、それではワンパターンだ。もしも全身から魔力障壁が作り出せたのなら、手数バリエーションが増え、少し動きやすくなる。


「はい。ではそれでお願いします」


「約7900ポイントだ」


 その言葉を聞いて愕然とした。今の所持ポイントの約4倍の量だ。


「どうやって稼げばいいんですかね?」


「神使高校は定期的に防衛学部の生徒に実技試験を提供している。その試験ではポイントを稼ぐことが可能だ」


 と言って、魚止森さんは机の下からアタッシュケースを出しながら答える。


「これは?」


「君の神器、3点セットだ」


「俺の神器?俺未だ金払ってませんよ?」


「金じゃなくてポイントだ。と言っても、3週間前から君の体に会うよう拵えたものなんだ。支払いはいつでもいい。ああ、君の性格を知っている私だから敢えて言おう。返さなくてもいい」


 俺は目を細めてそのケースを受け取った。


「神器の名前は【ケラウノス】だ。ゼウスの杖から取ったものだ。君が使うファイヤとリコシェのチャージを見た時、多くの生徒が君を【雷霆】と呼んだ。それがこの武器の由来なんだけどね」


「本人の知らないところで勝手にあざなが決っている!?」


 低血圧な口調で助かった。初めて会ったときはイレギュラーなテンションだったのだろうか?


「神話から引用してると、他人と被りそうですね」


「ああ、事実、ケラノウスという名前の神器は無数にある」






『君の性格を知っている私だから敢えて言おう。返さなくてもいい』


 それを言われると本来、低いはずのプライドが突然肥大化し、いきなり自己顕示を初める。これもまた【月宮片名の洗脳】のせいなのだろう。

 実技の授業は週に1回ある。その時に高成績を残せば荒稼ぎができる。

 俺は取り敢えず稼ぐ手段の知っている生徒会室に向かい、脚を進める。途中、黄緑色の何かが見えたので、俺は曲がり角を使い、態々遠回りをして目的地に向かう。


「昨日の一件で明流の顔がまともに見れない」


 俺は独り言を漏らし廊下の歩行を再開する。生徒会室まで後わずかというところで、俺は何者かに声を掛けられた。


「どうした?こそこそして」


 後ろから音が発生している。俺は体を前に投げ出し距離を取った。


「うわ!おいおい月宮、そんなに警戒することないだろ?もしかしてお前、何か背徳感を抱えるような行動でもしたのか?」


 博識なセリフと物静かな喋り方で声の主は土屋だということがわかり、俺は安堵した。


「背徳感かぁ。今の俺に一番ぴったりな表現だよ」


 俺は警戒を解いて、前にあるきだす。


「生徒会室に誰がいる?」


「鈴乃先輩と沙弓、それから水鳥」


「そっか。面倒だしここで話を済ませるよ」


 俺はグローブと膝当てをポケットから出し、土屋に見せた。


「これ、専用神器」


「なるほど、これを作ったせいでポイントの残りが少ないと?」


「鋭い。そして強ち間違いじゃない。簡潔に言うと借金だ」


 俺はそれをポケットにしまう。


「質問も簡潔に済まそう。荒稼ぎ実技はいつある?」


「荒稼ぎ実技って人聞き悪いな。大人が俺達学生に投資してくれているんだぞ?」


「投資?」


「神器を作るのには金が掛かる。でも、金のないやつも神使になる。そこで考案されたのがポイント制だ。このポイントは実力で手に入れるものだ。この制度は将来人類のために貢献してくれる人を見極めるのには最適だろ?」


 彼の忠義を無下にする単語だったか。今度から言葉に気をつけなくては。


「その実技授業(?)は…」


「サービスカリキュラムな」


 俺の言葉を遮り、土屋は正しい言葉を教えてくれた。


「SCとも略される。これは週1で行われていて、毎週金曜の午後に行う。日に日に違う訓練が出される」


「金曜日?明日じゃん」


「ああ。明日だな。登録は当日にも出来るから焦ることはない」


 説明に慣れているのか、彼の言葉に合点が行った。


「ああ。ありがとう土屋」


 俺は教室に置きっぱなしの鞄を取りにあるき出したが、土屋は呼び止めた。


「待て月宮。お前、暫く捕獲した魔人デヴィルに会っていないだろ?」


「ん?あぁー。そうだな」


 俺の声は低域に落ちる。


「それにも罪悪感が有ったのか。見かけによらず考えるより先に手が出るんだな?」


 耳に音が入った瞬間、俺は駆け出し、地下牢に行った。




 別に考えていないわけではない。

 小さい頃の教育というのはものすごく根深く残り、将来、成熟してからその心を蝕む。


「あ、地下牢に付いた」


 俺は呼吸を整え、扉を開く。


「レーラ?」


「片葉!」


 彼女は思いの外、待っていたかのような態度を見せた。


「最近片葉が来なくてつまらなかった。色々尋問されたけど、言う気になれないから応えてない」


 所有者である俺以外が尋問することってありえるのか。俺はそこに関心しながらも、彼女の高揚した態度に笑顔で返す。


「何を訊かれたんだ?」


「セイルと呼ばれている魔人デヴィルがいるって事と、その魔人デヴィルの写真を見せられた」


「天使…」


 俺は彼女が言っていた言い方で聞き返す。


「うん。あなた達人間は魔人デヴィルって呼んでいるみたいだからそれに合わせるよ」


 腰を下ろし、疲れた脚を休ませる。


「レーラ。その、セイルって呼ばれているの。どれくらい知ってる?例えば、本名とか?」


「えっと、彼女の名前はルチア。魔法は血液凝固を促したり、また、その逆をしたりするもの。後は知らない。ルチアさんとは全く交流ないから」


 交流がない。魔人デヴィルも人間社会と同じく社会性が作られているんだろう。


「ねえ、レーラ達天使は両親はいるの?」


「天使じゃなくていいよ?うん。いるよ」


 以前彼女に会ったときより言葉の角が完全に削れている。


「そうだよね。生殖器を含め、肉体の構造は人間と何一つ変わらないって言うからね。で、お父さんとお母さんは?」


「未だ城にいると思う」


「城?」


「2人とも騎士だから」


「騎士?城?俺の知らない単語が2つも出てきたな。それについて説明してくれると嬉しいものだな」


 彼女は額にシワを寄せ考える素振りを見せた。


「そうだね。こっちの言葉で言うなら、城は拠点で騎士は防衛軍ってところかな?」


 キリストじみた言葉を日本語に訳したような使い方だ。


「なんでそんなしょうもない事を訊くの?」


「しょうもないかな?君の両親は、君の行方が知らない事を不安に思っていたりとかしないのかな?」


「多分無いと思う。てん…魔人デヴィルの文化は血筋よりも実力を重んじるからね。私は父、母に当たる人達よりも優れていたから、もっと上に立つことが出来たの」


 確かに、俺達人間、もとい神使の文化は親を重んじ、敬って、技術を受け継ぐ。確かに、種の存続を重視しているのなら劣者は切り捨て優れた者を上に置いたほうがが合理的だ。

 人間という“物”は私情で動く生き物だ、他人に優しくするのはあくまで保身のため。奴ら天使の場合、私情(保身)なく、ただ強いものが上に立ち、弱者を虐げ喰らっていく。個人的には天使のほうが俺は好みだ。勿論、自分の実力を過信しているわけではない。自然と成り上がる上下社会カーストに目を背けて生きる人類に対し、止め処無く嫌悪を感じているのだ。


「訊かせてほしいな。片葉の親はどういう育て方をしたのか」


 彼女は人間の親というもののあり方に興味を示したようで、言葉を投げかける。


「多分参考にならない。だって俺は人間の“愚劣な本質”が孕んだ夾雑なんだから」


 卑屈に対応すると、彼女は今にも泣きそうな目を向ける。


「そんなに自分を悪く言わないで」


 掠れた声で、泣いている事が理解できる。


「片葉は優しくしてくれた。それは誰にでも出来ることじゃない」


「そうだね。それが出来る人間には愛情が溢れている。俺にはそれがない。ただ、俺がそうして欲しいから……概念は保身と殆ど変わらないんだよ」


 彼女は四つん這いになって座っている俺に近づき、腰に手を回し、腹に顔を埋めた。

 そして彼女は大声で泣き出した。俺はその埋まった脳天に手を乗せて前後する。妹に何度もしたことがある。俺がしてもらいたいから……。



             ――9.神器 完――

 こんにちは。

 堕罪勝愚。初めてこの作品で後書きを書かせていただきます。3点だけ。

 まずはこの作品を見ていただきありがとうございます。メインキャラクター7人が全員登場したと思うので、まずは裏設定をします。ご察しの方もいるでしょうが、7人の苗字の1文字目は「曜日」です。

 続いて謝罪をさせて下さい。勝手に私の趣味の話を長々と書いてしまって申し訳ありません。私、堕罪は生物学が大好きです。

 最後に今後とも、片葉君の活躍にご期待下さい!よろしくお願いします。

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