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手紙の抜粋より

作者: C・ハオリム

以前、別の場所に書いたものです。

暫くの間お付き合い頂ければ幸いです。

1998年12月11日(金)に発生した画商変死事件の際に押収された手紙


今更ながらと思うが、こんな古風な方法での連絡を許してもらいたい。

アレが電子化され、無限にコピーされ、ネットの海を泳ぎまわることを考えるとどうしてもこんな手段に頼らざるを無いのだ。


君から頼まれていたF氏の未発表の作品であるが、彼が家族もろとも失踪した後、彼のアトリエから殆んど言っていいほど彼の作品が姿を消していた。

(残っているのは今までの焼き直しや君も既に知っているものばかりだ)

また、彼の蔵書も殆んど見当たらなくなっていた。

(あの大きな書棚が殆んど空になっていた)

彼の親族に尋ねてもその行方は知れない。アトリエの近所の住人によればあの事件後警察らしき人々が

アトリエから大量にナニかを運び出すのを目撃しているが、所轄の警察に確認した所、そのような事実は無いとの回答があった。

(彼らが何者であったにせよ、僕は彼らに感謝している。)


しかし、彼が■■■地方の民宿を定宿として使用していたことは彼の身の回りでもごく少数しかいなかったようで、彼の定宿としていた民宿に確認を取ったところ、F氏のスケッチブックがそのまま残されていることを確認した。

早速、僕はそのスケッチブックを手に入れるためにその宿に向かい、何とかそれを入手した。


できれば、これを君の元に送り届けたいと思ったが、あのスケッチブックに描かれたものを見た時、僕はその気をなくしてしまった。

あんなもの、誰の目にも触れさせちゃいけない。ましてや、あれを商売に使おうなんてとんでもない話だ。


宿の主人もアレを厄介払いできたとほっとした様子だったが、僕にはこれは荷が重過ぎる。

こんなモノが存在するなんて…。


スケッチブックの中の作品は、確かに彼の筆致らしく、実にリアリズムに溢れた作品であるが、モチーフは常に一つ、

アレとアレにまつわる様々な紋様、もし僕にオカルトの知識があればアレがナニを召喚する魔方陣か分かったかもしれないが、

逆に知識が無いことや分からないことが僕を正気の世界になんとか踏みとどまらせてくれていると思っている。


F氏の妄想の産物だと君は思うかもしれないが、実際僕もそう思っていた。

アンナもの存在するわけ無い、いてたまるか…


スケッチブックに挟まれた写真を見るまで僕はそう思っていた。

アレは存在するんだ。確実に、それもつい最近のことじゃない、ずっと昔からいたんだ。


■■■地方に伝わる「山の神」の伝説や民話を紐解くと朧げなイメージはつかめると思う。

アレは、伝説や民話じゃなくて現実にあったことなんだ。


これを読んで君は僕の精神が普通じゃないと思うかもしれない。

これが全て僕の妄想だったらどれだけ救われるか…。

君の商売の事は良く分かっているが、F氏についてこれ以上関わっちゃいけない、これは友人としての忠告だ。

知らなくていいことを知る必要はないんだ。


もし、君がF氏のスケッチブックにまだ興味があるようなら、〇〇銀行の△△支店の貸し金庫に保管してある。

鍵は君も良く知っている人物に預けている。(彼にはナニが保管されているかは知らしていない。)


アレは、心強き人たちにしかるべき手順を持って処分してもらいたい。

僕では歯がたたない、多分君でも無理だと思う。

たかが絵と写真じゃないんだ、それ以上に危険なんだ。

燃やしたとしてもアレの灰があちこちにばら撒かれたり、空気中に溶け込んだりするのを想像するだけで恐怖に襲われる。


多分、警察みたいな連中が押収した作品はアレを描いたモノだったんだろう。誰がやったにせよ、それは正しい事だ。


もう一度言う、破滅を意識したくなければF氏については一切忘れるんだ。


もし、君がこれを読んでいたなら既に僕はこの世にはいないだろう。(うまくいけばだが…)

僕は、アンなモノの存在を知って生きていけるほどタフにできていないんだ。


君の目が真実を見つけないことを祈るだけだ。

出来れば、この手紙も償却してもらえれば幸いである。

読んで頂いて、少しでも、退屈な気分が晴れたなら

何よりの幸いです。

ここまで読んで頂き、感謝します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 短編はとても難しいと聞いておりますが、脱帽です。 いえ、脱ぐほどの帽子もないんですが・・・・・長い作品しか書けないもので。 二つの作品に出会えたことは幸運でした。 ありがとうございます。
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