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国際情勢を適当に分析してみる(6) ~2019年イギリス総選挙(下)~ 

 では、外れた予想についても語っていこう。


 離脱賛成派と反対派の比率は、およそ6対4。

 労働党がEU残留を強く主張しない以上、EU残留派を強く主張する他の政党が票を伸ばすことになる。事前世論調査の数値は、保守党支持42%、労働党36%、自由民主党とスコットランド国民党は12、3%。僕は労働党が持つ支持率のうち、6%程度は自由民主党の支持に回るのではないかと考えた。

 自由民主党は自由党の流れを組む名門政党であり、EU残留を強く主張してきた。同様の主張をスコットランド国民党も強く主張しているが、あれは所詮地域政党にすぎない。

 イングランド在住でEU残留を望む住民の選択肢たりえるのは、労働党以外では自由民主党ということになる。


 議席を予想するうえで参考になる選挙は、労働党は敗北し、保守党が過半数を得た年が適当であろう。

 つまり、2015年のイギリス総選挙である。

 今に至るまで続く混乱は、この年から始まったのだ。

 2015年の選挙は、全ての元凶―――もとい時の英国首相デーヴィッド・キャメロン氏が、選挙で勝てば2017年まで期限を設けて、イギリス国内で「EU離脱の賛否」を問うと主張していた。2017年もメイ氏が似たような争点を持ち出したが、僕の予想は労働党の敗北なので、保守党が勝利した2015年を比較データとして用いるのが相応しいだろう。


 2015年の結果は、

 保守党:331

 労働党:232

 スコットランド国民党:57

 自由民主党:8

 である。

 自由民主党の獲得議席は8議席しかないが、これは49議席も失う大敗北したためである。


 僕は労働党が20~30議席程度が失い、その分が自由民主党に加増されると予想した。

 結果は御存じの通り、大間違いである。


 自由民主党の議席は11議席止まりで、野党第三党であった。

 最初に断っておくが、得票率が予想通りに増加しなかったわけではない。自由民主党の得票率は、2017年も7.37%から4%増加の11.5%であった。その意味では予想通りの結果なのだが、自由民主党は二桁の得票率だったにもかかわらず、何故か11議席にとどまった。

 ならば野党第二党の方が得票率が高かったと思うかもしれない。

 だが、それはちがう。

 野党第二党となったスコットランド国民党は48議席も獲得したが、得票率は3.9%にすぎない。


 予想もしなかった結果を前にして、僕は混乱した。

 自由民主党の躍進を予想したのは僕だけではないらしく、マスメディアにも同様の予想をした方がいたらしい。その方は予想が外れたこと自体を記事にしている。商魂たくましいが、そこは流石マスメディアというべきであろう。


 何故このような結果が発生したかだが、それを知るには、イギリスの選挙制度を理解する必要性がある。


 ◇


 選挙制度は、その国を形造る重要な要素だ。

 一票の格差や価値はいうまでもなく、どの意見が抽出されやすいを決定しているのが選挙制度。

 2019年イギリス総選挙は、単純小選挙区制で行われた。

 単純小選挙区制は多数の候補から一つの候補を選ぶ方法であり、謂わば勝者の総取りである。地域特有の問題に焦点を絞った政党は、一点集中が効くので議席を得やすいと言えなくもない。スコットランド国民党やシン・フェイン党、あるいはプライド・カムリのような逆立ちしても全国規模になりえない政党が、少なくない議席を得てしまうのは良い例である。

 一方で自由民主党は規模においては三番目に位置するが、なまじ規模が大きいため全国で二大政党と渡り合わなければならない。大企業と真っ向から激突するため新興企業といったところで、規模の格差に押しつぶされて死票になりやすいのだ。

 これが単純小選挙区制というシステムである。


 自由民主党にとって不運なのは、イギリス議会選挙において比例代表制は採用していないことに尽きる。

 TVやネットなどで自分達の意見が反映されていない! と主張する人達を見かけるが、彼らは結果を受け入れられず我が儘を口にしているのではなく、投票数が思うように議席に反映されていない面もある。

 僕達には馴染み深い小選挙区比例代表並立制や、合理主義の権化であるドイツさんが採用する小選挙区比例代表併用制――比例代表のみで投票する制度――を採用していれば、自由民主党は躍進しただろう。

 だが、現実は違うのだ。


 尚この話題を深く掘り下げていくと、選挙区割りの問題に行きつくのだが、話しが大きく脱線するので割愛させてほしい。


 ◇


 自由民主党の結果を理解するには、同党が過去にどこで勝利を収めていたかを理解する必要がある。

 僕はこの点を見逃していたため、予想が外れたのだ。

 

 では、自由民主党が勝利した年はいつなのだろう?


 2001年 自由民主党52議席、スコットランド国民党5議席

 2005年 自由民主党62議席、スコットランド国民党6議席

 2010年 自由民主党57議席、スコットランド国民党6議席

 2015年 自由民主党8議席、スコットランド国民党56議席

 2017年 自由民主党12議席、スコットランド国民党35議席

 2019年 自由民主党11議席、スコットランド国民党48議席


 もうお分かりだと思うが、自由民主党とスコットランド国民党の議席は反比例の関係にある。


 自由民主党はウェールズ、イングランド南部、ロンドン、なによりスコットランドで多くの議席を獲得してきた政党である。だがEU離脱の議論以降、ウェールズとスコットランドにおいて、EU残留とイングランドからの独立を求める地域政党が台頭してきた。特にスコットランド国民党の躍進は、自由民主党に破壊的と言えるほどの影響を与えてしまう。


 イギリスの置かれた政治状況を鑑みると、極端な主張を唱える地域政党を推す声は暫く止まないだろう。国民が平静を取り戻すまでは、自由民主党の再生は難しいと言わざるを得ない。

 数字は冷酷なまでに、そのように方向性を示しているのだ。


 ◇


 結論に移ろう。


 繰り返しになるが、投票日前日に示された事前世論調査の数値は、保守党支持42%、労働党36%、自由民主党とスコットランド国民党は12、3%である。

 ここまでくれば、この数字がなにを意味していたかはお気付きであろう。

 スコットランド国民党が12、3%も支持を受けているということは、スコットランドにおいて自由民主党は勝てないのだ。故に、自由民主党の敗北は選挙前日にはある程度予想することが可能だった、と僕は解釈する。


 各政党にはそれぞれが票田とする地域があり、その地域において競合する政党が存在する。国政レベルでは必ずしもライバルとはいえないが、選挙においては倶に天を戴かずといえる程のライバル政党。それが自由民主党とスコットランド国民党なのである。

 

 世論調査の数値は、政党ごとの事情や選挙制度のもつ意味を反映していない。

 どこそこの政党が優勢とマスメディアは伝えるが、何故優勢なのかは読み取るしかないのだ。


 2019年イギリス総選挙は、選挙の持つ奥の深さを、嫌というほど僕に突き付けたのだった。

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