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バスケ経験者の戯言(2) ~組織をまとめるということ~

 特にターゲットにする読者層を決めず徒然なるがままに筆を走らせる、このエッセイ。

 今回は「組織をまとめるということ」を御題目にすえてみた。

 といっても、会社組織での話ではない。

 学生時代に所属していたバスケ部での出来事である。

 社会人が学生時代の話しをするのは適当ではないかもしれないが、会社の話しは色々触れる可能性があるのと、分かりやすい例が学生時代に丁度あったので許してほしい。


 僕が所属していたバスケ部はそれなりに強い部である。それは過去においても現在においても。地域最強であり、県内有数の強豪校、まれに全国大会に出場できるというレベルだと言えば、どの程度かは予想が出来るのではないだろうか。

 とにかく練習は相当厳しかった。

 毎年、憧れと期待を抱いて30~40人程度入部してくるのだが、一度目の夏の合宿を超えられるのは半分以下、卒業まで残るのは10人程度。

 選手になるのが難しくて退部するのではない、練習の辛さに耐えられず退部していくのだ。

 才能だけでいえば僕よりも数段上だろう。

 なにせ、退部しても僕より上手いのだから。

 まあ、僕はセンターだからリング下で強ければいいので、途中はある程度弱くても問題にならないのだが。

 いや、これは言い訳か。


 前置きはこのくらいにしておこう。

 母校の状況はある程度想像出来たのではないだろうか。

 僕が入学したときは特に強く、県内放送ではあったがTVで決勝戦が放送され、そして見事に勝利した。二つ上の先輩達は強くて尊敬できる、本当に偉大な存在だった。

 そう、二つ上の先輩達は。


 問題なのが一つ上の先輩達だった。

 彼等は才能溢れる人達であり、逆に言えば才能だけで勝負していた。練習にまるで来ないが試合では勝つ。凄まじく質が悪い例である。馬鹿みたいに練習すれば勝てるとは言わないが、才能で劣る者達は練習するしかない。後輩にとってまるで手本にならない存在が、一つ上の先輩達だった。

 才能がある人達はコツが覚えるのが早い、つまり覚えるまでの過程がショートカットできるのだと思う。誤解をして欲しくないのだが、そういう人達を否定するのではない。個人競技であれば全く問題ないのだ。バスケは集団競技であるため練習にはある程度数が必要である。少ない人数で出来る練習もあるが、やはり限界がある。なにより一定のレベルの人間と一緒に練習した方が上達は早い。練習とは個人のためというだけではなく、他人のための手本となる面もあるのだ。それが先輩の役割だと思うのだが、一つ上の先輩達にはその考えは理解出来なかったようだ。出来る人間には出来ない人間の考えなど理解出来ないのだろう。

 これ以上、彼等について語るのは止そう。

 言葉を重ねれば重ねるほど批判することになってしまう。

 そのような行為は、体育会系の人間である僕には余り受け入れられないのだ。


 一つ上の先輩達の最終成績は、県ベスト4だった。

 あの練習態度でこの結果。まともに練習していたら全国を狙えた人達だったと今でも思う。


 そして、僕達の時代がやってきた。

 そう、やって来てしまったのだ。

 一つ上の先輩達を一年間見てきた僕達がどのように感じ、その後どのような行動を取るか想像してほしい。

 ……予想とおりの事態が起きた。

 素晴らしいくらいにレギュラー陣のほとんどが練習に来なかった。

 前例を見ているのだ、同じ行動を取るのはある意味必然だろう。


 馬鹿みたいに律儀に練習をしていた僕は、特に注意するでもなく、彼らの行動を黙って見ていた。

 何故注意しなかったのか?

 僕はキャプテンでも、優れたプレイヤーでもないのだ。そんな奴の意見を誰が聞くだろうか。少なくとも僕の認識では出来る奴に発言力があり、出来ない奴には発言力が無い。つまり、僕の発言力はほぼゼロ。正論を吐くのは好きだが、無駄な正論を吐くのは嫌いなのだ。そう、どうせ誰も耳を貸さないのなら無駄な労力はしないに限る。

 彼等の行動を見ていて気付いたのだが、彼等は自分以外の連中も誘って遊びに行くのだ。自分一人ではつまらないという面もあるのだろうが、多分、後ろめたさもあるから誰かを巻き込みたかったのだろう。迷惑極まりない行為である。遊びに行きたければ一人で行けばいいのだ。

 他校の事情は知らないが、僕の学校は年がら年中合宿所生活ではなかったのも影響したのだろう。家という逃げ場があるのだから、どうにでもなる。

 質が悪いのは、出来る人が率先して遊びに行く点だ。これも一つ上の先輩達の影響だろう、出来る奴は自分でどうにでもやれると思っていたのかもしれない。個々人の考えを悪いとまでは言えないが、バスケはあくまで集団競技なのだ。数が揃わなければ不可能な練習は多い。


 それが問題なのだ。


 そんなかんなで二度目の夏がきた。あの地獄のような合宿が始まる。文字通り体力の限界を試すかのような日々。さらなる振るいが行われ数人の脱落者が出た結果、僕の世代で残ったのは13人である。技量云々を別にして、これまでの日々を耐えきったという意味では精鋭と言える。

 熱血スポコン漫画なら、これで解決しただろう。

 だが、現実はそうは甘くなかった。合宿を終えてチームがまとまれば御の字なのだが、そうは問屋は降ろさない。人の本質は虎の穴に入れられようとも簡単に変わらないのだ。



 当時の状況は相当に悲惨であった。

 練習に二年生が2、3人で1年生が10人前後。

 一年性が練習に来ているだけマシだが、手本となるべき二年生がこれでは、去年とまるで同じ状況である。

 歴史は再び繰り返そうとしているのか?

 伝統ある部がこのままでいいのだろうか?

 このような状況はどう考えても正常ではない。組織として狂っている。

 来年の高校総体まで残り9か月を切ろうとしていた、ある日。とうとう僕は大ナタを振るわざるを得ないと判断した。現状を分析した上で顧問に対策を直訴したのだ。出来るけれど練習をさぼり、他の部員を巻き込む人達を追放したほうがよいと。

 そんな事をすれば弱くなるだけではない、多分、僕の世代は散々な結果になるだろう。が、どこかで断ち切らなければ後の世代にも影響は続くことになる。どこかで誰かがやらなければいけない。それも、出来るだけ早いうちに。


 僕は部員の誰にも相談しなかった。

 相談するだけ無駄だと判断したのもある。話合えば分かってもらえると思う人もいるかもしれないが、僕は人の本質は変わらないと認識している人なのだ。第一、練習に二年生が2、3人で1年生が10人前後という状況でなにも感じない人間に、どんな言葉をかければいいのだ。現実は言葉以上に重みがあった。

 僕は熱血スポコンのような展開に淡い幻想は抱かない。どうせ同じことは繰り返されるだろうし、事実、僕の預かり知らぬところで説得はされていたようだった。

 言いたくはないが、組織が甦るためには腐ったミカンは捨てなければいけないのだ。

 三国志やら孫子やら五輪の書、君子論を読んでいたのも、判断に影響した面は確かにあったのだろう。


 顧問は黙って僕の話を聞いていた。

 正確には僕が狙ったのは彼等を直接追放するのではなく――そこまですれば修復不可能な溝が発生しかなねなかった――彼らが出て行こうとするのを止めないことにしたのだ。顧問にも彼等に余計な声はかけず、彼等を構わないように依頼した。

 去る者は追わない。

 まして、それが僕等に都合の良い人物達ならば尚更だ。


 彼等は相変わらずほとんど練習に来なかったが、徐々に部室にも近付かなくなっていった。予想通り、彼等に誘導されて遊びに付いて行った二年生も練習に来るようになる。望ましい変化だ。一ヶ月ほどで好循環が生まれ始めたとき、察しの良い友人が方針転換に気付いたようだった。

「ここまで残ったのだから、皆で最後までやろう」

 奇麗な言葉である。

 これでどうにかなるなら、とうに問題は解決していたのだ。どうにもならないから、僕が強制介入をしたのを友人は知らないのだろうか。いや、それとなく理解した上で、友人は発言したのだろう。根が優しい奴なのだ。

 だが、その意見は適当に受け流して無視した。

 組織が正常な状態になるには、心を鬼にしなければいけない。いまは手綱を緩めるときではないのだ。


 3カ月後、正月休み合宿終了後も全員練習に来るようになる。

 しかし、僕達がまとまるのは、やはり遅すぎた。

 高校総体はベスト8止まりに終わる。

 それでも、半年前は地方大会で準優勝止まり――いいじゃないかと誤解されるかもしれないが、我が部は5年以上負けたことがなかった。この程度は勝つのが当たり前だと理解されているチームなのだ――だったことを考慮するれば大きな進歩だろう。



 冬のある日。

 ようやく部が一つにまとまったと確信したころ、顧問が僕にこんな言葉をかけたのを今でも忘れない。

「お前は虎の子だよ」と


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