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百魔の主  作者: 葵大和
第五幕 【東空は朱に染まる】
51/267

51話 「激動」

 ――硬い。


 メレアは猛烈な速度で地竜の周囲を飛び回り、動き出しに牽制の打撃を入れながら、その鱗の硬さを実感していた。


 ――かなり強く撃たないとダメだ。


 地竜の方は東へ駆け抜けていくエルマたちの方に気を取られ、結果的にどっちつかずな動きになっている。

 迷っているのは地竜か、それともその背に乗る指示役の竜騎兵の方か。

 ともあれメレアにとってその反応は半分嬉しく、そして半分不満でもあった。


 ――こちらを向け。


 当然、可能であればこの場で地竜をしとめておきたい。

 しかし、隙あらばほかの二頭を(おとり)にしてでもエルマたちの方へ駆けて行こうとする彼らを、同時に処理する隙がなかなか見当たらない。

 一頭すら逃がすわけにはいかないのだ。


 ――ほら、こっちだ。


 そんな中で、メレアはある好機を待っていた。

 予想があった。

 

 三頭の意識がすべて自分に向いたとき、おそらくこちらも思い切った攻勢に転じることができる。


 エルマたちを追うことを一旦(いったん)あきらめて、まず近場を飛び回る小うるさい(はえ)を叩き落とそうと決めた瞬間。

 ほかを囮にして一気に距離を離そうという考えが彼らの脳裏から(はじ)き出される。

 そうして生まれたたったの数秒で、


 ――落とす。


「小うるさいやつだなッ!」


 と、地竜の背に乗っていた竜騎兵の声がメレアの耳を穿っていた。

 フルフェイスの黒兜の中からの声なのでいくらか音がこもっているが、そこに苛立たしげな色があるのを冷静に捉える。


 ――もう少し。


 メレアは可能な範囲でかぎりなく小うるさく目の前をかすめて見せながら、そのときを待った。


 ――来い。


 すると、何度目かの叩き伏せを行った直後。

 叩き伏せた地竜の右方にいた一頭が――


 その竜眼をメレアに向けていた。


 もうエルマたちの方を見ていなかった。


 ――来た。


 さらに、今度は轟音を耳が捉える。

 風ごと空間をぶち割るような異様な速度と圧力で、視界の右端から赤黒い丸太のようなものが飛んできていた。

 地竜の――尻尾だ。

 メレアは空中にいる。


「さっきからぶんぶんと……ッ! ――そんなに死にたければ先に死ねッ!!」


 右方の地竜に乗っていた竜騎兵が、ついに感情を爆発させるように叫んでいた。

 それを聞いた頃には地竜の尻尾がメレアのわずか数メートル脇にまで迫っていて、


 ――避けろ。


 メレアもまた動いていた。

 大気を翼で叩くというより、背で暴風を爆発させるようなやり方で、身体を下方へ弾かせる。

 一転して意図の違う動き。

 メレアの頭上すれすれを死神の鎌のごとき地竜の尾が飛んでいくが、メレアは目もくれない。

 地上へ移動しながら、すぐさまほかの二頭へ観察の視線を飛ばし、


 ――ここだ。


 確信した。

 竜騎兵たちがその手で意味ありげに地竜の首裏を叩いていたのをメレアは見逃さなかった。

 直後、示し合わせたように――


 三頭の地竜の眼が、完全にメレアの方を向いた。


 その瞬間を、メレアは待っていた。

 よどみなく身体は動いた。

 

 さきほどの流れで急降下しながら、さらに風翼を使って着地地点を微調整する。

 蠅のように落ち着きなく飛び回っていた状態から一転、まっすぐな動きで一頭の地竜の足元に着地する。

 同時、


「術式展開――」


 メレアは妙な構えを見せた。

 ――左脇構え。

 まるで左脇に差した刀剣の鞘から、その刀身を抜刀するかのような体勢だ。

 武器を携行(けいこう)していないはずのメレアの左腰に、一瞬本物の刀鞘を幻視しそうな光景だった。


 メレアは抜刀寸前の構えのまま、わずかに動きを止める。

 その背から風の翼がふっと消え、さらに白雷までもが消失した。

 しかし、すぐに――


「〈水神(セウラ=エウラス)の麗刀〉」


 別の変化が起こった。

 左腰のあたりに構えた右手の中に、


 蒼に(きら)めく『麗刀(れいとう)』が現出した。


 鋭い片刃の刀剣を(かたど)ったそれは、優にメレアの体躯三つ分ほどの長大な刀身をたたえ、刀身内部に光を放つ美しい気泡を浮かばせていた。

 淡い蒼の光に包まれた――水の刀。

 それが、次の瞬間、


「一刀――」


 一瞬すらを切り裂きながら振るわれた。

 居合抜くような動作だった。

 空間に蒼色が舞い、残像が軌跡となる。

 そしてその蒼は地竜の足を貫通し、


「――」


 悲鳴が鳴った。

 地竜の片足が、異様なまでに(なめ)らかな切断面を残し――割断(かつだん)されていた。

 巨躯(きょく)が一本の支えを失ってバランスを崩し、横に傾く。

 

 しかし、メレアの動きはまだ止まらない。

 横に傾いた地竜の身体が地面に落ちるより早く、すでに『二頭目』へと疾走している。

 竜騎兵たちはなにが起こったかまだ理解できていない。

 だが、メレアが向かった二頭目の地竜本体の方は、同胞がなんらかの方法で傷を負ったことを先に察し、さらにそんな傷を負わせた敵が自分に向かってくることに気づいていた。


 あれは天敵だ。


 動物的な勘で、地竜はメレアをそう断定していた。


◆◆◆


 メレアは先ほどの一撃のあとにふっと消えてしまった麗刀を、再度走りながらで手中に装填(そうてん)した。

 その間に、(ふところ)にもぐりこまれることを忌避してか、地竜が前右腕と長い尾を振るってくるのを見る。

 薙ぎ払い。

 メレアはそれをいっそ優美とさえ形容できるぎりぎりの身のこなしで避けきり、走り抜けざま――


「二刀――」


 麗刀を振るった。

 メレアの耳を、竜の悲鳴がつんざいた。

 

 その音にまぎれてわずかに頭の中が軋んだ音を聴くが、メレアは構わずに次の一歩を踏む。

 三頭目が――残っている。


 メレアが視線を向けたとき、三頭目の地竜は竜騎兵ともども状況を察したらしく、メレアから視線を外してほかの魔王たちの方へと駆けだそうとしていた。

 メレアが駆けだしたのと、地竜が疾走に備えて身を低くしたのはほぼ同時。


 ――逃がすか……!


 メレアは自分の生身の疾走では地竜に追いつけそうにないことを察した。

 それとと同時、三本目の麗刀の召喚を中断して術式を転換する。

 拍手(かしわで)

 決して飾りではないその動作を起こし、白雷を呼び起こす。

 さらに二度目の乾いた音が鳴って、風翼。

 メレアは己の使える術式の中で『最速』を象徴する複合術式形態を身体に再装填し、身を弾いた。


◆◆◆

 

 一瞬のうちにメレアは二頭の地竜の足を両断し、その機動力を完全に削いだ。

 常人には割ることすら容易ではないといわれる地竜の鱗を、バターを切るかのようなたやすさで割断した二撃。

 巷間(こうかん)で話してもあるいは「冗談だろ」で済ませられてしまうようなことをこなしながら、まだメレアは満足しない。

 しかし、


 この一連の流れが、実はメレアのある弱点を如実に表していた。


 勘の良い者がこの流れを見ていたら、あるいはメレアの行動に違和感を覚えたかもしれない。

 それに気づいたところで、『あんなものどうしようもない』というのも一理であったが、(こと)、『とある男』にとってはそのかぎりではなかった。


 その男は、その時点でまだ交戦部から遠い場所を走っていた。


 駿馬で数十分はかかるであろうという距離の向こう側だ。

 それでも、男は確実に交戦部に近づいていた。

 まるで戦場の匂いに惹きつけられるように、猛烈な速度で――。


 ――まだその姿は見えない。


◆◆◆


 アイズはエルマの背にしがみつきながら、前方を見る『普通視覚』を完全に意識の外に飛ばしていた。

 アイズの脳裏に映るのは、周辺を俯瞰(ふかん)で見極める『天魔の視覚』である。


「右……っ!」

「次はッ!!」

「すぐに斜め左に! 切り抜け、て!」


 そこはまるで地獄であった。


 周りが、敵だらけだった。

 敵軍と――衝突したのだ。


 アイズが普通視覚でもって自分の周囲を見ていたら、さすがに身体を強張(こわば)らせたかもしれない。

 それくらい近い位置を、馬が抜けている。


 衝突直後の態勢は、魔王たちの方に分があった。

 加速術式を使ってまで最速を重視して突っ込んできたムーゼッグ騎兵の一隊は、直前でわずかに隊列に乱れがあった。

 それでもやはり、ムーゼッグ側はムーゼッグ側で回り込みがぎりぎりであることを予測していたのだろう。乱れた隊列に躊躇した様子もなく、手に持った槍をがちりと構えながら、鬼気を発しつつ突撃してきた。


 対し、魔王たちはそれを迎撃する。

 ムーゼッグ騎兵が突撃してくる方向に術式系の魔王が固まり、壁を作るように術式を紡ぎながら、騎兵軍を押し返した。

 相手の数はこちらの何倍にも上り、それが津波のように突っ込んでくるが、魔王たちは魔王たちで退かない。

 統一された術式群ではないにしろ、それぞれ高い能力を持つ術式が壁のように密集して放たれれば、ひとまず突撃をいなすくらいの効果はあった。

 打っても打っても次から次へと人の波がやってくるが、魔王たちも確実に前へ突き進んでいる。


 この場合、問題となるのはむしろ先頭部の方だった。

 つまり、エルマがいる位置だ。


 乱戦というほどではないにしろ、エルマの前にもムーゼッグ騎兵はすべり込んできた。

 凸型で駆け抜ける魔王一行は、回り込まれればどうしても道を『切り開かねば』ならない。

 その役割を担うのは、横で騎兵の侵入を防いでいる術式系の魔王ではなく、まさしく先頭で敵陣を切り裂いていくエルマだ。


「――っ!」


 そして、その先頭部の様子を天魔の視点で見ていたアイズは――


 ――すごい。


 驚愕せずにはいられなかった。

 おそるべきは、先頭を突っ切る〈剣帝〉エルマの馬上戦闘力であった。

 魔剣クリシューラをすさまじい速度で振り回し、的確に必要な敵だけを切り裂いていく。

 相手は長物を持っているにも関わらず、エルマはそれをものともしない。

 空間ごと切り裂くかのような剣圧で魔剣を打ち付け、突きこまれる槍の刀身をすべて弾いていた。

 しかも、アイズの方を気遣いながらである。


「魔剣の錆びになりたくなければそこをどけッ!!」


 エルマは戦神のごとき雄叫びをあげた。

 威圧と鼓舞の声。

 また、その後ろからはサルマーンやほかの魔王たちの大声(たいせい)が聞こえる。

 

「もう少し……!」


 アイズは天魔の俯瞰視点で、後方の魔王たちが無事であるのを確認していた。

 サルマーンが馬から身を乗り出して、不思議な紫色の粒子をまとった拳をムーゼッグ騎兵に打ちつけている。

 マリーザが曲芸じみた動きで、騎兵の鎧の隙間へ短剣をすべり込ませている。

 二人が並の実力者ではないことはもともと予想していたが、実際に戦闘を間近で見るとその迫力に気圧された。


 また、この乱戦の中で地味ながら効いていたのはザイードが手配してくれた馬の力だった。

 駿馬であり、かつ『戦馬』であった。

 さすがに地竜と相対したときは身を跳ねさせたが、それでも逃げ出さなかったことからもわかるとおり、戦場で物怖じしないのだ。

 それどころか、寄ってくるムーゼッグ騎兵側の騎馬をその身体で打ち()えていた。

 自分の方が強靭であることを見せつけるように、上に乗る人間たちとはまた別の野生染みた方法で、敵にみずからの強さを知らしめる。


 当然、傷を負った馬はいた。

 だが落ちなかった。

 馬が落ちれば魔王たちも死ぬ。

 それを馬もわかってか、目に見えるほどの鬼気を身体にまとい、敵軍を突き抜けようとしていた。


「もう少しだよ……!」


 エルマに方向を指示しながら、アイズはついに敵の包囲網の突破を予感した。

 馬の足で、あと十秒もあれば。

 ――いける。

 そう思った。


 しかし――

 一瞬の、意識の切れ間。

 その間隙(かんげき)を縫うように、魔王たちに一つの悲劇が起こる。


 アイズは天魔の魔眼の副作用とも言える目の倦怠感(けんたいかん)に、思わず一度だけ瞬きをした。

 それまで瞬き一つしていなかったのは、たぐいまれなアイズの精神力あってのことだったが、身体の生理現象としてさすがに一度の瞬きを身体が欲した。

 別に、その瞬き自体は悲劇の原因ではなかった。

 だが、その瞬きのあとに再びアイズが天魔の俯瞰視覚を復帰させたときには、悲劇の幕が上がっていた。


「えっ――」


 アイズの俯瞰視覚には、この突破する馬群から引き離され、周りをムーゼッグ兵に囲まれている――


 サルマーンの姿が映っていた。

 

 直後、後方から悲鳴があがった。


「待って! サル!」「お兄ちゃん!!」


 双子の悲鳴だった。

 そこでアイズは気づいた。

 双子は馬に乗っているが、サルマーンは馬に乗っていない。

 ひときわ大きな身体の馬に相乗りして、サルマーンの背に二人してつかまりながら術式で敵を迎撃をしていたはずの双子は、まだ馬に乗っている。

 だが、肝心のサルマーンが馬から降りている。


 たぶん、わざと降りたのだ。


 もし不意の落馬であったら、双子も一緒に落ちているだろう。

 しかし双子の乗る馬は傷も少なく、また双子自体にも傷が無い。

 おそらくあれは、


 ――メレアくんと、同じ……!


 自分の身を――(えさ)にしたのだ。


◆◆◆


「――やっちまった。柄にもねえこと、しちまったぜ」


 サルマーンは周囲をムーゼッグ兵に囲まれていた。

 両の拳から煙のようにあふれる紫の粒子をほとばしらせ、可能なかぎりただごとではないふうを(よそお)っているが、さすがのサルマーンもこの状況を一人で切り抜けられるとは思わなかった。

 かろうじてこのハッタリともいえる威嚇のおかげで、ムーゼッグ兵たちの槍をまぬがれている。

 といっても本人としては、むしろこの威嚇のみでムーゼッグ兵を押し留めていられるのが不思議でもあった。


「あー……、もしかしてあれか、――俺の『魔拳』を狙ってるからか。まあたしかに、身体に癒着してるタイプの魔王の力は扱いづれえからな。ムーゼッグは俺の魔拳を収集したいけど、その実どう処理していいかわかんねえんだろ」


 その答えが合っているかはわからなかった。

 ただ、わざとらしくそう言って見せると、またムーゼッグ兵に緊張が走ったようだった。

 案外当たっているのかもしれない。


「そうだ、忠告しておいてやる。うまく処理しねえと、魔拳は効力を失うぞ」


 もはやサルマーンの命は風前の灯火だった。

 されど、そんなふうに抽象的なハッタリを効かせておいて、なんとか時間を稼ぐ。

 少なくとも、自分にこうして戦力が寄っているうちは、多少なりと言えど『向こう側』が楽になるはずだ。


 ――死ぬにしても、最後まで足掻(あが)いてやる。


 そんな気迫が、サルマーンの身体から噴出していた。


「――俺の魔拳が欲しけりゃ、ちゃんとした適応者を連れてくるんだな」


 サルマーンが皮肉っぽい笑みを浮かべ、肩をすくめた。

 すると、


「はっ、効力がなければないで、別にかまわん。逃がすよりはマシだ」


 そんな言葉とともに、ムーゼッグ兵の中から一人の(おごそ)かな装いの鎧兵が出てくる。

 黒兜の中から響いて来るくぐもった声は、どことない嘲笑の色を含んでいた。

 だがその黒鎧の騎兵は、槍の切っ先をサルマーンの方に突きつけ、隙一つ見せない手練れの様相を見せている。

 あざけってはいても、(あなど)ってはいないようだった。

 サルマーンはその一連の仕草から黒鎧の力量を推し量りつつ、嘆息する。


「そうかい。――そうなると、やっぱりお前らのは『狩り』って言葉が似合うな。まだ三ツ国みてえに頭下げて『力を貸してください』って言ってくるやつらの方がマシだ」

「そうしつつも、三ツ国は結局魔王を死なせた。――変わらん、死なせればどれも同じだ」

「いや、ちげえよ。結果だけ見てっからそうなるんだ。俺たち『魔王』からすれば、そういう過程だって大きな差異だ。――差異なんだよ。『そっち側』にいるお前らにはわからねえだろうがな」


 サルマーンはやれやれと肩をすくめて言いながらも、言葉を紡ぐことで徐々に感情が高ぶってきたことにも気づいた。

 そんな轟々(ごうごう)とした感情に押し出されるように、言葉が続く。


「なんでもかんでも結果と合理性だけで割り切れると思うなよ」

「はっ、わからんさ、貴様らの胸中などな。――だがわかる必要もない。なぜならこの関係性が覆ることはないのだから」

「傲慢だ。変わらないものなんかない」


 なんなら俺が変えて見せる――と、本当は言いたかった。

 でもサルマーンは言えなかった。

 たぶん自分は、


 ここで死ぬから。


 そんな思いが、とっさに言葉の頭を押し止めてしまっていた。


「……はぁ、昔だったらこうはならなかったはずなんだがな。変に丸くなりすぎちまった。……そうだな、なら――」


 サルマーンはふと、一人の男の姿を脳裏に浮かべていた。

 紡げなかった自分の言葉、その願いを――もしかしたら叶えてくれるかもしれない男の姿を。


 ――最後まであいつに願いごとか。……ハハ、ごめんな、メレア。また肩の荷が増えちまうな。


 でも、最後のわがままだから、その言葉を世界に(のこ)させて欲しかった。

 自分で変えるという言葉は、遺せなかったから。


「俺たちの(あるじ)にそれを変えてもらうってのも――悪くねえかもな」


 サルマーンはそう言い切って、空を見上げた。

 周りを囲まれていてメレアの様子など(うかが)えない。

 エルマたちも見えないし、双子もなおさらだ。

 ならせめて、憎たらしいムーゼッグ兵の姿を見ないようにと、空を見上げた。

 そして、


「さあ、そろそろ死ね。この場にセリアス殿下が間に合えば生かしておいても良かったが、どうやらやってきそうにない」

「なんだよ、せっかくだからもうちょい待っとけって。あと一分もすれば来るさ」

「時間稼ぎはおしまいなんだよ、魔王」

「その名で俺を呼ぶな。『お前ら』にそう呼ばれるのはかなり頭に来るんだ。

 そうやって俺を呼んでいいのは――同じ魔王だけなんだよ……!!」


 サルマーンは最後の激昂の声をあげる。

 それは死を覚悟した雄叫びだった。

 サルマーンは前へ出る。

 みずから、無数の槍の前へと――

 

 ―――

 ――

 ― 



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『やあ、葵です。』(作者ブログ)
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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王狩りの被害者を救っていくという設定は他ではあまり見かけず、面白いと思います。 [気になる点] 場面転換のためによく使われる◆◆◆ですが連続した場面なのに頻繁に使われているので違和感を感…
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