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百魔の主  作者: 葵大和
序幕 【英霊と魔王】 (第一部)
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5話 「術神の魔眼」

 メレアが転生して一年が過ぎた。

 メレアにとっては生まれ直してから息つく暇もなく、なんだかんだと英霊たちの猛特訓に追われ、駆け抜けてきた感があった。


「えーっと、こっちの術式がこうで、この術式が変数式で組み合わさって……んあああっ! なんで図形に文字が組み合わさってるんだよ!! 誰だっ! これ考えたの!」


 その日、メレアは三人の女英霊に囲まれて、石造りの机に刻まれた複雑怪奇な紋様(もんよう)を見ていた。

 指でそれをなぞり、ブツブツ言いながらときおり頭を抱える。

 対して、それを見ながらニヤニヤしている美女三人が、次々にこう言った。


「はい、そこ違う。その事象式だめー。それじゃあ炎は生まれません」

「はあ……ホントに誰だよ、これ作ったの」

「さあ? 神様じゃない? 〈術式〉ってあくまでこの世の現象を表している式でしかないから、突き詰めると『そういうものだからそうなる』って答えになるでしょ。光がなぜその速さになったかに理由を探すバカはいないわ」

「それはわかる、それはわかるんだが、それこそバカみたいに複雑だから思わずツバを吐きかけたくなる」


 メレアはその日、〈魔術〉に関しての講義を受けていた。

 魔術というのは、世の事象を表す特殊な計算式――通称〈術式〉――に、〈魔力〉と呼ばれる体内燃料を通して実際にその効果を発揮させる技術のことをいう。

 言葉にすると案外単純だが、実際はその〈術式〉に使われる図形や文字の体系が複雑で、『そういうものである』とする術式言語に慣れるのにメレアはたいそう苦労した。


「一年でこれって筋が良いんだから頑張んなさいよ。あたしたちから見て筋が良いって、結構すごいことだと思うけどね」

「じゃあ今日の晩飯は……」

「え? それとこれは別よ。ちゃんとできなければ筋が良くても晩飯は抜きよ?」

「た、楽しげに微笑(ほほえ)みやがってえ……!」

「はーい、次はこっちの事象式を読解。反転術式も組みなさい」

「あー……頭痛い……、これ、そんな(きわ)めないとダメなことなの?」

「あんた、フランダー=クロウの魔眼を持ってるんだから術式に関する知識だけはめちゃくちゃつけないとダメ。宝の持ち腐れになるから」


 メレアはそう言われ、石テーブルの上に置いておいた水瓶の中を覗き込んだ。

 瓶の中の水面に自分の顔が映る。

 雪白(せっぱく)の髪に、赤い瞳。 

 この赤い瞳は、あのフランダーの因子らしい。


 ――〈術神(フランダー=クロウ)の魔眼〉。


 そう呼ばれている。


 ――確かに、この眼のおかげで構成術式が一目でわかるのは大きいけど……。


 〈術神の魔眼〉は、あらゆる術式の式を見破る。

 大半の術式は、それが事象となったあとにその中に内包されて見えなくなるが、〈術神の魔眼〉はそんな事象の外側からでも構成式を見抜く。

 そして相手の術式が読めれば、それに対応する反転術式を当てることで、術式を無効化することができるのだ。

 単純に、相手の術式を上回る強い効果の術式を当てても()り勝つことはできるのだが、そういう手法の場合、相手の術式が力学的なものでない場合にどうしようもなくなる。

 それこそ、相手の術式を吸収する術式やら、相手の術式を反射する術式やら、そういうものである場合には力技が通用しづらい。

 モノに刻み付けて作用する刻印式の術式や、生物に制約や制限を与える呪印のようなものが相手のときにも言えたことだ。


 その点、反転術式はそういうものにも対応できる。

 的確に反転された術式は、式の効力を相殺するからだ。

 だからメレアはひたすらに英霊たちによって術式理論を叩きこまれた。


「理想は反射レベルよ。相手の術式を〈術神の魔眼〉で読み取った瞬間に、反射で反転術式を当てるの。それくらいのレベルになってようやく合格よ」

「反射って……」

「つべこべ言わずにやる」

「はい……」


 訓練時以外は優しかった英霊たちだが、男も女も訓練になるとひどくスパルタだった。


◆◆◆


 メレアが〈術神(フランダー=クロウ)の魔眼〉を使用し、そうして幾人(いくにん)かの英霊たちの術式を読み取り、さらにそこから反転術式を導出、編み切るまで、最初は――


「んぐぐが……!」

「はい、一分。――おっそ」

「うっせ!」


 一分掛かった。

 

「一分じゃ死んでるなぁ」

「知ってます……」


 読み取る。図形、文字、数字の組み合わせによる術式の理論を理解し、構成による最終的な効力を見切る。

 今度はそれを逆算(よう)に直し、反転術式を組む。必ずしも図形を反対にしたり、文字を反対にするのみでは反転術式は生まれない。同じ図形でも、鏡図形にした途端にまったく違う効力を発揮したりすることがあるからだ。


「頭が破裂しそうだ……」


 だからメレアは様々な術式理論を叩きこまれた。

 一般的な術式理論から、地方の辺境地に土着するような秘儀的な術式理論まで。

 英霊たちの出身地も様々で、生前に術師だった英霊の中でも、それぞれの術式手法は結構違っていた。

 そうして叩き込まれた理論を取捨選択し、いくつかの反転術式の候補を脳内に作り、一番適したと思えるものを使う。

 プロセスは膨大だ。時間が掛かるのも無理はない。


「まずは障壁系の反転術式でいいけど、のちのち攻性反転術式とかもやらせたいのよね」

「攻性って?」


 メレアは首をかしげた。


「防御じゃなくて、相手の術式を反転させて攻撃術式に転換するの。たとえばあたしの黒炎術式だったら反転させると白炎術式になるから、それを反射で読み取って、反射で編み上げて、()()()()。これが究極系じゃないかしら」

「術式を編んだ本人より先に撃つって……」

「術式は編んでから事象に()るまでに時間的な開きがあるからね。熟達した使い手ほど式を描写してからの発動が早いけど、先に式が描写されるのは確実よ。〈術神(フランダー=クロウ)〉は魔眼を使わなくてもその先行する術式を見て反射的に反転術式が組めたらしいわよ。まあそこまで化物じみてなくても、優秀な術師なら先行術式を見て効力を推定するくらいはやるけど」

「今化物って言った! 俺化物と同じことやらされてる!!」

「大丈夫よ、〈術神の魔眼〉と〈戦神の剛体〉と、その他いろいろ、英霊の特質を身体に宿せてしまうあんたはすでにまともな人間じゃないから」

「何が『大丈夫』なんだ……!」

「魂の器が大きかったのかしら。そのへんはよく分からないけど。術神(フランダー=クロウ)なら分かるかしら」


 そう言いながらも、女英霊が不意打ちとばかりに術式を生成する。

 彼女の眼前に広がった術式陣を見て、メレアは頬を引くつかせながらも、すぐに反転術式の作成に勤しむことにした。


◆◆◆


 そうしてさまざまな英雄による訓練が続いて、およそ三年。

 (またた)く間にメレアは成長していく。


「じゃあ、最後は三発同時ね」


 その日、メレアは三人の女英霊を前に、腕を軽く開いて身構えていた。

 そんな臨戦態勢のメレアに対し、女英霊たちはそれぞれが手を前にかざして、


「炎槍」

「雷槍」

「水槍」


 魔術を放つ。

 一瞬構成術式が手の前に描き出されるが、それはすぐさま炎、雷、水に変容し、見えなくなった。

 彼女たちの術式が事象に成るまでのラグはほとんどない。

 それは彼女たちが優秀な術師である証だ。


 しかし、メレアの眼にはそれらに内包されている構成式が見えていた。


 瞬間、メレアはそれぞれの方向に別々の式を編み出す。

 メレアの手のひらから術式言語と図形によって形成された術式陣が広がり、まるで盾のように立ちはだかった。

 そのメレアの術式障壁に対してそれぞれの槍が突き進む。

 そうして――


「――うん、及第点ね。まあよしとしましょう」


 障壁に衝突した槍が、一瞬にして消え去った。

 反転した式を持つ術式障壁に衝突し、『中和』されたのだ。


「やっとかあ! 三年掛かったあああ!!」

「僕は五年掛かったけどね。君は僕よりも才能があるようだ。不思議だね。術式なんかない世界から来たのに」


 メレアの隣にやってきて、嬉しげに笑いながらその頭を()でるのはフランダー=クロウだった。


「フランダーにそう言ってもらえると嬉しいよ。でもフランダーは全部独学でなんとかしたんだろう?」

「まあ、そうだね」

先達(せんだつ)がいるからこうして効率よく学べるんだと思うよ」

「そう言ってもらえると、きっと彼女たちも喜ぶよ」


 そう言ってフランダーが三人の女英霊たちの方を指差す。

 釣られるようにそちらを見たメレアが、そこで――


「……え?」


 絶句した。

 女英霊たちの姿が、今にも消えそうなほどに薄くなっていた。


「っ」


 メレアは嫌な予感がして女英霊たちに駆け寄る。

 対する女英霊たちは穏やかな笑みを浮かべていた。


「――そう。私たちの未練もここで燃料切れってわけね。……なんだろう、レイラスの気持ちがちょっとわかったわ」

「肝心のレイラスは子供が生まれた喜びで昇天しちゃったけどね。あの子どんだけ嬉しかったのよ」

「レイラスは若く死んじまったからねえ」


「み、みんな――」


 メレアは不安げな顔を見せた。

 しかし彼女たちはそんなメレアの頭をそれぞれ二度ずつ撫でて、


「平和ボケしたってことよ、私たちも。もっと派手に未練晴らしてやろうって思ってたけど、あんたのこと育ててたら満足しちゃった。私も生前子どもがいなかったから、きっとそうなったのね。ホント、母性って厄介なものよ」

「メレア、最初はあんたのことを英雄に仕立てて、あたしたちを裏切った奴らに復讐を、とか思ってたけど、今はそれをあんたに背負わせるが嫌だわ。子どもの自由を縛るのって、結構心にクるものね」

「そういうことだから、好きに生きなよ、メレア。ただ、せめて自分が守りたいものは守れるように、男なんだから、それくらいの強さは常に持ち続けなさい」


 三つの声が優しく響いて――

 彼女たちは消えた。


「――これでまた霊山が寂しくなるね」


 メレアの隣にいたフランダーが空を見上げ、ふと、そんなことを呟いた。

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