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百魔の主  作者: 葵大和
第三幕 【動乱の予感】
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37話 「牙のない怪物」

 セリアス=ブラッド=ムーゼッグはちょうどリンドホルム霊山を下り、ムーゼッグ兵たちが集合するのを待っていた。

 すでにいくつかの兵団には指示を出し、本国にも報告を飛ばしてある。

 セリアスは今、威力偵察の役割を言い渡して先に行かせたあのムーゼッグ術式兵団の帰りを待っていた。


「手ひどくやられたらしいな」

「はっ、面目ありません」

「やられたのはお前ではないだろう」


 セリアスの呟くような言葉に、近衛兵の一人が答えていた。

 若い男だ。


「ミハイ、お前は今年で何歳になる?」

「はっ。……は? あっ、いえ、わたくしは今年で十九であります」


 セリアスの唐突な質問に、その若い近衛兵は素っ頓狂な声をあげたあと、焦ったように襟を正して答えた。

 絹のような金髪が動きに合わせて左右に揺れて、若い近衛兵の慌てぶりを象徴する。

 セリアスはそれを見ながらおもしろそうに笑っていた。


「ふむ、若いな。その若さで私の近衛兵とは」


 わざとらしく演技ぶって、セリアスが言う。

 するとその言葉に若い近衛兵――ミハイが、


「セリアス様、わたくしを選抜したのはセリアス様ですよ……? わたくし、セリアス様の従者であればそれだけで良かったのですが……。たしかに戦場までご一緒できるのは本望ですが、これではほかの軍人さんたちが居た(たま)れないんじゃないかって……」


 ミハイが困ったふうに言った。

 ミハイはもともとセリアスの専属従者だった。

 セリアスよりも年下でありながら、幼いころに一つ二つきっかけがあって、それからずっと身の回りを世話をしていたのだ。

 しかし、そんな戦場とはかけ離れた場所で仕事に従事していたミハイを、セリアスは近頃自分の近衛兵に抜擢(ばってき)した。

 理由は明解だった。


「お前にたぐいまれな剣の才があったからだ。ほかの兵もそう悪いことは言わないだろう。少なくともムーゼッグでは、国家に属するかぎり、強い者は尊重される。

 ――それに、お前の剣の腕はすでにほかの者たちに見せただろう?」

「で、でも……」


 ミハイは、その一見すれば女と見まがうまでの美貌を困り顔に歪め、視線を地に落としていた。


「そんなに心配なのか。――まあ、なにかあったら私に言え」

「このような私事でセリアス様の手を(わずら)わせるわけにはいきません。そのときはなんとかします」

「弱気なのか強気なのかよくわからんな、お前は」


 セリアスはそう言ってまた笑った。


◆◆◆


 しばらくして、ようやく術式兵団の兵長が(ふもと)まで戻ってきた。

 黒服に身を包み、さらに肌のそこかしこに黒く変色した血痕をつけて戻ってきた兵長を、セリアスはまずねぎらった。


「ご苦労だった」

「いえ、面目もございません。どんな罰をも甘んじて受けるつもりです」

「気が早いな。――生きているのだ、そうみずから命を投げ出すものでもあるまい。ムーゼッグは使えるものは使う。お前もまだ命があるのなら、それをムーゼッグのために使え」

「はっ……! そのご慈悲に次こそ必ずや、報いてまいります」

「ああ」


 目の前で片膝をついて跪く兵長とそんなやり取りをして、しかしすぐにセリアスは本題に移った。


「顔をあげろ、兵長。報告を聞こう」

「……はっ」


 セリアスはその兵長の顔が、斥候に出す前と比べていくぶん老いたように見えたのが気がかりだった。


「……ま、魔神です、殿下。リンドホルム霊山の山頂には魔神が住みついておりました」

「――魔神」


 セリアスの脳裏に、あのとき自分の〈地王の剛鎚〉を吹き飛ばした雪白髪の男が映り込んだ。


「白い髪を宿した男か」

「っ! そうです、その男です!」


 いうやいなや、兵長が身を震わせる。

 わかりやすく恐怖におびえる様相だった。


「あの男、我らの白光砲術式を一瞬で真似て、あろうことか相殺させたのです」

「……なに?」


 術式を真似て、相殺。

 セリアスはその一連の動作に、ある男を想像してしまっていた。

 かつての話だ。ずっと前、自分が生まれる前の話。

 だが、とても近くに感じる話。


「――まるで反転術式だな」


 あの〈術神〉フランダー=クロウの得意とした術式手法そのままである。

 正確には、あれは真似て撃っているだけの術式ではない。むしろもっと驚異的なものだ。

 相手の術式を一瞬で読み取って、それに対応する術式を自分で編みあげているのだ。

 術式の形が似るのは対応式がえてしてもとの術式に似通っているためで、実際のところ、ただ真似るよりずっと複雑なことをしている。

 あんなことをできるのは術式事象を見ることに特化した魔眼の持ち主であり、なによりも、


「フランダー=クロウほどの術式創造能力を持つ者がこの時代にいるのか」


 術式全般の創造、処理能力に優れた者だけである。


 才気煥発(さいきかんぱつ)御業(みわざ)


 あの手法ほどそんな言葉が似合うものはない。

 魔眼はたしかに術式の性質を見抜かれるという点で脅威だが、術神が術神たりえた理由は個人の術式能力が異様に高かったためだ。

 むしろ魔眼なくしても、相手の術式発動が遅ければ、編んでいる時点で相手の術式を予測し、それに対応する反転術式を『先に編んで』撃ったような男である。


「しかも白光砲術式が完成するよりも先に、それを撃たれました……」

「ああ……」


 なるほど、とセリアスは思った。

 兵長の声はその事実を述べる際に、もっとも大きく揺らいでいた。

 『それ』で自信を(くじ)かれたのだ。


「あれは怪物です、殿下」


 話が本当ならば、あながちウソでもあるまいな、と思った。


 ――まさか本当に、フランダー=クロウとレイラス=リフ=レミューゼの息子なのでは。


 時間的な辻褄(つじつま)が合わないのは承知の上で、そう思わずにはいられなかった。

 

「……ともすると、本当に霊でもいたか」


 唯一、その自分の予想に無理やり根拠を持たせるならば、あの『山頂』に何かがあったとするしかない。

 

「――山頂にあの魔王たち以外の人影はあったか?」

「いえ」

「霊体は?」

「山頂には一つもありませんでした。ただ――」

「ただ?」

「無数の墓石のようなものが。なにか文字が刻まれているようでしたが、さすがに読んでいる時間はありませんでした。傷ついた部下を急いで麓まで下ろす必要がございましたので」

「――ふむ」


 セリアスは麓から山頂を見上げる。

 白い(かすみ)がかかって山頂までは視線が届かない。

 今となってはもう一度登るわけにもいくまい。

 そこに墓石しかないとの証言があるのではなおさらだ。

 しかし、個人的願望を言えば、その墓石のことも気になる。

 今は時間がないが、いずれ調査に来てもいいかもしれない。


「――わかった。報告ご苦労。さて、ほかの兵長の部下たちからも話を聞きたく思うが、いいか?」

「もちろんでございます」

「よし」


 セリアスは、本国に送った伝令に対する答えが返ってくるのを待っていた。

 すでにいくつかの兵団を東へ走らせ、魔王たちを追わせている。

 自分も追うつもりであったが、しかしほかの部下たちとは多少方法が異なっていた。

 その少し異端な方法の鍵となるものを待ちつつ、セリアスは部下たちから引きだせるだけの情報を引きだすことにする。


 そうしてセリアスは、ほかの部下たちの様相から、ある重大な事実を見抜いた。

 それは戦乱の時代の寵児と呼ばれる由縁、おそろしいまでに鋭い敵に対する観察眼が見抜いた、ある事実であった。


◆◆◆


 セリアスは傷ついた術式兵団の兵たちに一人一人ねぎらいの言葉をかけながら、くわしく話を聞いた。

 特に、『まともではない傷』がついている者から、それをどのようにしてつけられたかを入念に聞いた。


「――両断されている者は大方即死した、と」


 この場にいる『生者』には、あまり切り傷を受けている者がいない。

 切り傷を受けた者はほとんどが山頂で絶命したらしい。

 ほかの負傷者を霊山から下ろす際に、死体は荷物になると思い、兵長がその死体たちを置いていくことを決めたため、その場には死体がなかった。


「兵長の判断は正しい。彼らの(とむら)いは、いずれ、私みずから」


 セリアスはやや沈んだ表情を浮かべてそう言った。

 セリアスは基本的に憮然(ぶぜん)とした表情を崩さないが、そのときはたしかな悲しみの色を顔に浮かべていた。

 近場にいた術式兵団の兵長にとっては、自分たちの崇敬するセリアスがこうして部下のために悲しんでくれたことだけでも、十分救いだった。

 死んでいった者たちにとってもそうであればと彼は祈った。


 セリアスはしばらくして、また顔にいつもの(おごそ)かな表情を戻すと、再び審問(しんもん)へと戻っていった。


「切り傷とするならば、〈剣帝〉か」

「はい。〈剣帝〉エルイーザ家の末裔たるあの女も、かなりの使い手でした。術式もろごと魔剣で切り刻まれるので、近接されると厄介で……」

「そもそも近接させずに遠距離から制圧するために術式兵団を送ったが、ほかの魔王のせいでそううまくはいかなかったか」


 顎のあたりを不自然に黒く染めた一人の術師に話を聞きながら、セリアスは唸った。


「やはり欲しいな。魔剣は使い手に持たせるとたった一振りで大きな働きをする。事象割断を使いこなせばいったいどれほどの戦力になるか。――その上、〈七帝器〉にはもっと大きな、隠された能力があると言われているしな」


 一昔前の戦乱の時代、一時期そういう魔武器のたぐいが世に蔓延(はびこ)ったことがあった。

 人間個人の戦闘力、戦略、集団戦術、そういったものがいくところまで隆盛(りゅうせい)し、行き渡り、その部分だけでは明確な力量差が表れにくくなったとき、戦争先進国は新たな差異を作り出そうと『武器』に凝りはじめた。


 いうなれば、戦争の進化のパターンが周流(しゅうりゅう)したのだ。


 拳から棍棒に、棍棒から矢じりに、矢じりから剣に。戦いに際して真っ先に人類が進化させた武器という要素に、再び戦人の意識が向けられた。

 そのときに隆盛したのが特殊な能力を付与した魔武器のたぐいで、魔剣を代々継ぐ〈剣帝〉の一族が生まれたのもそのあたりだった。

 中でも、〈七帝器〉と呼ばれる特にすぐれた武器を作り上げた一族は、時代を経て、事件を経て、翻弄(ほんろう)され――最終的には〈七武帝〉としてすべて魔王に認定された。


 現在ムーゼッグにおいて確認されているのは、〈剣帝〉エルイーザ家、〈槍帝〉カサリス家、〈(つい)帝〉ゴーズ家、〈(きゅう)帝〉シール家の四つだが、うち〈槍帝〉カサリス家はセリアスが潰した。

 いまだ七帝器それぞれの武器特性は完全に解明されたとは言えないが、総じて『事象干渉』をこなす点では類似している。

 魔剣は事象割断、魔槍は事象貫通、魔槌は事象打撃と、武器でありながら振るうだけで術式にも対抗しうるそれらは、『術式が隆盛すればするほど』、比例的に貴重なものになっていった。


「あれがどうやって作られたのかにも興味があるが、今私が持っている魔槍でさえも事象貫通以外の使い方がわからんからな……」


 セリアスは槍帝を殺したときにその魔槍を奪い取った。

 ときおり使うが、まだ事象貫通以外の能力に関しては使い方がわからなかった。

 前述のとおり、ほかにも能力があることは知っていた。

 そういう文献が多数存在するのだ。

 だが、そのどれもが抽象的な表現をしていて、七帝器の全容を明らかにするにはいまいち役に立っていなかった。


「槍帝も最後まで口を割らなかったしな。――まあ、そこはおいておこう。今はじっくりと調べている時間がない」


 そういってセリアスは思考を切り替える。

 と、そのあたりでセリアスは目の前の術師の顎の黒さがふと気になった。

 まるで焼け焦げたような痕だ。


「その傷は?」

「あの白い魔神に……」

「……」


 セリアスはそこで違和感を得た。

 これまで聞いた話によると、あの白い魔神は相当の術式能力者だ。

 自分の〈地王の剛鎚〉を止めて見せたことに加え、聞いた話では雷化までしてみせたらしい。

 その上、近接戦でもきわめてすぐれた体捌(たいさば)きを見せた、と。

 そんな情報を思い出したとき、セリアスの口から飛び跳ねるように、とある言葉が出てきていた。

 

「お前――」


 それは純粋な疑問調であった。


「――なぜ生きているんだ?」


◆◆◆


 術師の方はぽかんと口を開けて、セリアスの言葉を鈍くかみしめているようだった。


「え、あ……いや、その……」


 もしや何かセリアスの気に障ることを言ってしまったのだろうか。

 術師はまっさきにそう勘ぐった。

 セリアスの言葉は特に非難もなにもない、本当に純粋な疑問の色だけが含まれた言葉だったが、術師はそうは受け取らなかった。

 『どうしてそんな醜態をさらして生きて帰ってきたのか』、と、今になってセリアスの中に部下の不甲斐なさに対する怒りが湧いてきてしまったのではないだろうかと勘繰ってしまった。

 セリアスが厳かな表情を崩さず、また本人は意識していないものの、普段から物言わぬ威圧感を背中から発しているのが原因でもあった。

 セリアスの美しい造形の仏頂面(ぶっちょうづら)は、この際術師たちの恐怖を駆り立てるのに一役も二役も買っていた。


「あ、ああ、殿下、こいつは打撃を受けたあとにすぐに私が間に入って――」


 すると兵長が、慌てて間をとりなすようにセリアスに言った。

 

「――そうか」


 セリアスは顎を指で撫でて、まだ釈然としない様子だった。

 しかしすぐに視線が外れ、今度は別の術師に向かう。

 セリアスの目は、この術師と同じく焼け焦げたような傷跡を持つ術師を探していた。

 ほかの術師たちがビクつきながらセリアスをちらちらと(うかが)う中、セリアスはすぐに意中の相手を見つける。


「――お前、なんで生きている?」


 また同じ言葉だった。

 セリアスが指差したのは、首のあたりに焼け焦げたあとをつけている一人の術師だった。

 そこへまたもや兵長がやってきて、


「で、殿下――」

「待て、これだけはおかしい。――『ありえない』」


 セリアスにあらためてそう言われては、さすがに兵長もそれ以上の言葉を紡げなかった。

 指を差された術師はビクビクと(おび)え、セリアスの言葉を固唾(かたず)を呑んで待っている。

 その様相は蛇に睨まれた蛙のようだった。


「顎の一撃はまだ兵長の言い分を信じよう。あるいは、顎への一撃は二撃目の致命打を叩きこむための前置きだったのかもしれん。だが、それはどうだ。――『首』だぞ? 首を握ったような(あと)だ。それは一撃で致命たりうる。雷化を使えるような怪物に首をつかまれて、なのに――『生きている』」


 首を握ったような(あと)

 雷化したという話から推測し、おそらくその白い魔神が雷化した手でつけた傷だろう。


「お前、その魔神に首をつかまれたな?」

「は、はい……」


 案の定だ。


「し、しかし、すぐに味方に助けられて――」


 その言葉はすでにセリアスの耳には入っていなかった。

 たとえ入っていても、「ありえない」と一笑に()しただろう。

 首をつかまれた瞬間に、『潰されていてしかるべき』なのだ。

 そこにはもはや助けに入る余地などない。数瞬で事足りる。話に聞く魔神ならば、それくらいできるはずだ。

 そうなると、助けに入れたというのは、その時点でどこかがおかしい。


 セリアスはぐるりとほかの術師を見回し、同じく、『その部分を攻撃されれば致命足りうる傷』が複数人についていることを目ざとく見つけた。

 瞬間、セリアスの脳裏に一つの答えが浮かびあがる。


「まさか――」


 黒い傷痕が多すぎる。

 それだけ一人で多数を相手取っていたという脅威性の証明でもあるが、セリアスにとっては別の事実の証明になっていた。


 死体は置いてきた。

 本来、それほどの男の一撃ならば、ほとんどが死につながり、この場に生きて存在することは少ないはずなのだ。

 だが、どうやら自分以外はそれを不思議に思っていないらしい。

 おそらく、そういうものよりも魔神の圧倒的な戦闘力を(じか)に見てしまった衝撃が、まだ胸中で勝っているのだろう。

 しかし、セリアスは見定めた。


「こいつ――」


 セリアスの口角がいつの間にか上がっていた。

 それは笑みの形をしていた。

 兵長を含め、その場にいた術師たちは、セリアスの残忍な笑みをたしかに見た。


◆◆◆


「殺せないのか……!」


◆◆◆


 獣の眼光であった。

 敵対者の弱みを見つけ、勝気が先行した笑み。

 おそろしい笑みだった。

 さきほどまで部下をねぎらっていた男の笑みではない。

 そこに乗っていた笑みは、『戦人の笑み』だった。


「この怪物には、『牙』がない。

 ――ハハハッ! 『牙のない怪物』か……ッ! ハハ、ハハハハ!」


 戦乱の時代の寵児と呼ばれる由縁を、再び部下たちはその顔にたしかめていた。

 

「ハ――」


 そうやってひとしきり哄笑(こうしょう)をあげたセリアスだったが、ふとその笑いが止まる。


「――いや、待て。逆に考えると、手加減ができるほど力の差があったということでもあるか」


 セリアスは、人間の動物としての生存本能を、しげく信奉している方であった。

 つまるところ、『人間とて追い詰められれば牙を剥く』。そう思っていた。

 だからこうして、怪物に牙がないことに気づくと同時、その怪物が力の階層のどのあたりに君臨しているかがなんとなく予想された。


 ――上層だ。『かなり上の階層』にいる。


 精鋭本隊ではないにしても、自分の手駒の中でたしかに優秀だと思っていた術式兵団の一部隊相手に、こんなことをしてしまえる。

 この術式兵団では、その怪物に牙を()かせることすらできなかったのだ。


「……」


 もしその怪物を追いこんだら、怪物はその牙を剥くのだろうか。

 剥いたとしたら、一体どれほど巨大な牙を見せつけるのだろうか。


 想像が――つかない。


「――(あや)ういな」


 有利を見つけたと思ったセリアスは、いつのまにか絶対に触れてはならない地雷を見つけたような気分になっていた。


「殿下、来ました」


 と、セリアスが一人思考に終始していると、ふとミハイの声が耳元で鳴った。

 どうやら待っていたモノがやってきたらしい。


「ああ、今行く」


 ――あとは、実際に見てからだな。


 セリアスは追いつくつもりでいる。

 東に逃げていったあの魔王たちに、当然のごとく追いつくつもりでいた。

 その算段はつけている。

 あとは、どちらが戦略上で上回るかだが、


「たかだか二十の魔王が、我がムーゼッグ王国に対抗できると思うなよ」


 魔神の得体の知れなさにほんの少し畏怖を抱いたが、セリアスはそれを勝気で相殺した。

 たとえそれが魔神でも、怪物でも、真っ向から戦って負けるつもりはない。


 ――私は、国家を背負っているのだ。


 それがセリアスの戦人としての自負であり、そして王子としての自負でもあった。

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