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百魔の主  作者: 葵大和
第十六幕 【百魔の主】
266/267

262話 「声」

【あれが君の〈未練となりうるもの〉か】


「黙れ」

「セリアス様?」


 セリアスの不意の言葉にミハイが不安げな顔を向けた。


「また〈声〉が聞こえるのですか?」

「死にぞこないの戯言(ざれごと)だ。あるいは〈拳帝〉の〈魔拳〉とやらもこんな感じだったのかもな」


 セリアスが悪神アニムスの右腕を身に宿してから、その声は聞こえるようになった。

 頭の内側、しかも無視できないその中心から、脳全体を揺さぶるように聞こえてくるその声は、アニムスのものであるということをセリアスは疑っていない。


「どうやったら貴様は世界から完全に消え失せるんだろうな」


 悪神アニムス。

 その男の力は、現代の論理化された魔術とはいささか態様が異なる。


「〈人体式〉というやつか」


 生まれたときから、あるいはどこかのタイミングで、肉体そのものを構成する式が変容した。

 その結果、悪神アニムスは、けっして滅びることがなくなったと言われている。


 ――〈存在〉。


 アニムスを象徴する言葉。

 アニムスは絶対的に存在し続ける。

 生命的に死ぬだとか、そういう次元の話ではない。

 世界が、アニムスが存在し続けることを定義している。


 ――そういう『もの』。


 摂理に近い。


 ――それだけであればよかったものを。


「この摂理を持ちうるものが、路傍の石ころであれば〈悪神〉などと呼ばれることもなかっただろう」


 ただ、アニムスは『人』だった。

 それも、かなり厄介なたぐいの。


【人は、死ぬ間際に抱く未練に、その生の目的が表れる。……僕には生きる意味がわからない。目的もない】


 ――ならばそのまま路傍の石としてじっとしていろ。


【だから、それを探している】


 アニムスは自分の生きる意味や目的を、最初こそ自分の中に探したが、あるときからそれを自分の外に探すようになった。


【誰かが持って行ってしまったのかもしれない。だから、探してみようと思った】


「それで手始めに兄を殺したのか」

「っ、セリアス様! その声と対話してはなりません!」


 ミハイに鋭い声で制され、セリアスはハっと我に返った。


「……案ずるな、ミハイ。戯れだ」


【君が死ぬ間際に抱く未練は、どっちなのだろうね】


◆◆◆


「なぜ、我々は霊体としてリンドホルム霊山にさまようことができたのでしょう。我々は各々の時代でたしかに死んだ。生命としての終わりを迎えた。本来であればそのあと、魂とやらはあの天の海に還るはずだった」


 〈土神〉クリア=リリスはメレアに支えられたままおもむろにそう言った。


「でも、我々の魂は還らなかった。あのリンドホルム霊山の山頂に留まり、あろうことか魂のままで、時に実体を持ち、現世に干渉できた。こんな話を、リンドホルム霊山以外で聞いたことがありますか?」


 そう問われ、周囲にいた者たちは沈黙した。


「それこそが〈悪神〉アニムスの力の証明なのでしょう」


 クリアは告げる。


「あの霊山に封印されていたアニムスの断片が――その『存在』を司る力が、我々消えゆくものに摂理に反して存在性を与えていたのです」


 最古の悪徳の魔王は、皮肉にものちの時代の魔王たちに希望を遺した。


「メレアがやってくるまで、我々はもう少し世間一般でいうところの悪霊らしかった。未練に囚われ、その解消に躍起になっていました。私はあのころ、よくこんな声を聞いていました」


 ――『きみの未練を教えてほしい』


 それは不思議と魅惑的な声であった。


「なぜだかはわかりませんし、理解したくもないというのが本音ですが、アニムスは常に、他者の未練を求めていました」

「なぜ、それを我々に教えてくれなかったのですか?」


 ふとフランダーがクリアに訊ねる。


「教えたところで不安の種にしかならないからです。アニムスの存在に勘づいていた英霊たち――わたしやフラムや聖人の末裔であるヴァン――でも、どうすることもできないことがわかっていたからです。どうにもならないなら、いっそ教えないほうがいい。それが我々の当初の共通見解でした」


 しかし、リンドホルム霊山にとある英霊が新しく囚われてから、徐々に考えが変わりはじめていた。


「――〈白帝〉レイラス=リフ=レミューゼがあの霊山にやって来るまでは」

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