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百魔の主  作者: 葵大和
第十六幕 【百魔の主】
263/267

259話 「天竜クルティスタ」

 左から右へ。

 光線となったクルティスタの砲撃が空間を薙ぎ払う。

 遠方の天竜たちはとっさに高度を変えてその砲撃を避けようとしたが、うち五体が回避しそこねてその一撃で大地へと沈んでいくのをメレアは見た。

 被弾した天竜たちもとっさに防御術式を展開していたようだが、クルティスタの一撃はそれをガラスかなにかのようにたやすく割っていた。

 同じ天竜。

 しかしクルティスタの力は、あきらかにほかの天竜とは一線を画しているようだった。


「……怯えるくらいなら(はな)から前に出てくるな、若造が」


 仲間の天竜が墜落していくのを見てさらに数体が腰を引く。

 しかしクルティスタは止まらない。

 向こう、即座に高速飛翔して的を絞らせまいとした数体の天竜を追うように、クルティスタもまた翼を羽ばたかせる。

 その羽ばたき一つですら大気をぶち割るような威力をたたえていて、メレアはとっさに両手をクルティスタの首についた。


「煽ったのはお前だ。加減はせんぞ」

「わかってるよ……!」


 鼻で笑ったクルティスタにメレアは少し感情を込めて返す。

 アイオースからの道行の途中、リンドホルム霊山で待ち受けていたクルティスタに出会い、そこからこのサイサリスまでその背に乗ってやってきた。

 だが、その道中の飛翔は風こそすさまじかったが基本的に軌道は直線で、メレアもそこまで大きな労苦なく耐えることができていた。

 しかし、いざ三次元での戦闘になると話が違う。


 ――昔だってこんな飛び方してなかったじゃないか……!


 まだ霊山の山頂で英霊たちと暮らしていたころ。

 クルティスタの背に乗せてもらったことがあった。

 あのときはなんとなく想像していた竜の飛び方となんら相違はなくて、だからこそ普通に背に乗っていることができた。


「直角に、曲がってるんだけど……!」


 戦闘に際してのクルティスタの飛び方は、もはや生物の動きをしていなかった。

 直線の飛翔速度もさることながら、その途中途中で文字通り直角に曲がる。

 その大きな翼で大気を叩き潰し、同時に術式で慣性を制御。

 おそらくそのエネルギーを次の飛翔への推進力へ転換し、まったくスピードを緩めずに思いもよらない方向に曲がる。

 曲がるたびに空気がどしんと震え、もはや星そのものが鳴いているかのようだった。


 ――これはクルティスタだけか……!


 揺れる視界の中でかろうじて捉えた敵方の天竜は、見れば速度こそあるものの飛び方は普通だ。

 それを見たメレアは、クルティスタが天竜の中でも異端であることを改めて確信した。


『無様な飛び方だ。親から戦場における天竜の正しい飛び方を学んでこなかったのか?』


 と、うち一体の天竜に隣接したクルティスタが竜語で言う。


『ッ、老害が……!』

『口だけは達者なようだな』


 敵の天竜が振り向きざまに口から竜炎を放つ。

 しかしクルティスタはまたもや神速とも呼べる速さで逆側面へ回り込み、尾でその竜を叩き落した。


『あと七体。……存外早く終わりそうだな』


 竜語で少し残念そうにクルティスタが言った直後。


「っ」


 メレアが地上から術素の波動を感じた。

 目を向ける。


「セリアス……‼」


 大軍団の中央に陣取っていた一人の男が、見たことのない大きな黒い手を背後に召喚し、その指先から術式を放とうとしていた。


 ――白光砲。


 メレアの〈術神の魔眼〉が即座に術式を解読する。

 同時、条件反射のように反転術式を編もうとしたところでクルティスタが言った。


「――相殺しようとするな、メレア!」


 直後、白光砲が放たれた。


◆◆◆


 白光砲が実体となって放たれる直前まで、それはなんらおかしなところのないいつもの白光砲の術式だった。

 しかし、それが光となって放たれた直後、メレアの眼はそこに内包される構成術式の変化に気づく。


「ッ」


 クルティスタの警告が耳に届いた瞬間にメレアは迎撃術式を切り替えた。

 〈氷魔(システィ・ルース)の双盾〉。

 追尾するように軌道を変えて迫る白い光の砲撃を、その盾は斜めに逸らすように弾く。


 ――なんだ、今のは。


 だが、メレアは持ち前の術式生成の速度で、八割方編み終えていた反転術式を氷の盾の前にあえて残していた。

 本来であれば、セリアスの放った白光砲はその反転術式でほぼほぼ相殺され、氷の盾にたいした傷をつけることなく消え失せるはずだった。


 ――反転術式の影響を受けていない?


 セリアスの白光砲は編まれた反転術式を()()した。


「――〈悪神(アニムス)〉の左腕か。……なるほど、たしかに時代は巡ったようだ」


 ふとクルティスタが言った。

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