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百魔の主  作者: 葵大和
第十六幕 【百魔の主】
261/267

257話 「舞い降りし、その名を」

 声が、聞こえた。


「――」


 次に感じたのは、風。

 自分の頭上を、なにかが高速で()った。

 天魔の視覚がその存在を追う。


 ――白い、竜。


 たしかに竜だった。

 遠くに見える同じ天の竜と比べて、一回り大きな巨躯を持つ天竜。

 その竜が翼で大気を打つたびに、空気がどしんと震えた。


「あ――」


 大空を高速で舞う竜の背に、視線が吸い込まれる。

 その竜には、人が乗っていた。


「っ……!」


 身に雷。

 背に六翼。

 今、その人物が天を指さす。


『全部撃ち落とす。――〈クルティスタ〉』

『ああ』


 瞬きの狭間に空に数えきれないほど展開された術式陣。

 同時、趣の違う巨大な術式陣が後を追うように展開。

 即座にそれぞれの術式陣から黒光と雷光が放たれ、仲間たちを薙ぎ払おうとしていた竜の砲撃を――撃ち落とした。


◆◆◆


 その日、その瞬間、その場にいた者たちのすべてが、空を見上げた。

 そして彼らは口々に言葉をこぼした。


『おせぇんだよ』


 ある者は苦笑と共に。


『時は金なりと言うでしょう。この遅刻は高くつきますよ』


 ある者は肩をすくめて。


『――(たくま)しくなったね』


 そしてある者は、嬉しさと申し訳なさと、そして抑えきれない喜びをその表情にたたえて。


 誰かが言った。


「〈魔神〉――」

「〈白神〉――」


 その名を。


「――〈メレア=メア〉」


 かの魔王は、白い天竜の背に乗って戦場に舞い降りた。


◆◆◆


 ――ああ……。


 メレアはその戦場を天から眺めてみずからを戒めた。


 ――くそ……。


 自分を殴りたい気分だった。


「メレア、後悔はあとにしろ。先にやることがあるだろう」

「……うん、わかってる」


 下から白い天竜に言われ、気持ちを切り替える。


「――〈四門封解〉」


 みずからの中の上限(リミッター)を解除。

 その髪が黒く染まり、そして――その赤い眼が金色に輝きだす。


「〈白風(アルフ・エウロス)〉――」


 そしてメレアは、術式を展開した。

 メレアの周囲に白い風が舞いだす。


 ――ムーゼッグ兵の、人体式を。


 さらにメレアは世界の式を通して戦場を俯瞰(ふかん)する。

 黒い鎧をまとった人間の内部式を解析。

 そこに共通する式を見定めると、それのみに干渉する構造式を術式に書き加える。

 それが人種を規定する式なのか、それとも敵意の方向性を規定する式なのか、詳しいことはわからなかったが、メレアには確信があった。


「俺の仲間たちから離れろ。――〈聖ヘテロクロイスセント・ヘテロクロイスの進門〉」


 それはアイオースで〈風神〉ヴァン=エスターが使った太古の聖人の名を冠する広域戦略術式。

 荒ぶる風の壁が瞬く間に戦場を両端を覆い、そして――

 山脈にも等しい巨大な風の壁が、すべての敵を薙ぎ払いながら大地を削り進んだ。


◆◆◆


 味方も、敵も、すべてが唖然として、ひっくり返された戦場を眺めていた。

 そんな中、その状況を作り出したメレアだけは、金色に輝く双眼で遠くを見ていた。


「……」


 金色の双眼で見定めた景色の果て。

 相対する天竜たちの下方に、本隊とおぼしき黒鎧の軍勢を見る。

 そしてその中央に、ひときわ屈強な兵士を引き連れる、一人の男がいた。

 フランダーと同じ灰色の髪。

 前と違う深い青の眼。

 その男もまた、たしかにこちらを見ていた。

 視線が交差する。

 そのとき男の口が、動いた。


◆◆◆


()()()()()、メレア=メア』


◆◆◆


 怒りと喜び。

 その男の顔には、宿敵を前にして高揚する残忍な笑みが浮かんでいた。

 メレアはその射殺すような視線を真っ向から受け止め、竜の上でこう返した。


「――()()()()()、セリアス=ブラッド=ムーゼッグ」


 メレアもまた、身にためた怒りをその金色の双眼に乗せて。

 

 時代を動かそうとする二人の男が、再び戦場でまみえた。

いつも読んでいただいてありがとうございます。

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マンガ、原作小説ともに良い感じになれば、なにかが起こるかもしれない(願望)

あと、良かったら周りの人にも薦めてみてね(平伏&読者頼り)

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