表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百魔の主  作者: 葵大和
第十六幕 【百魔の主】
259/267

255話 「見上げた先」

 ――あれが術機か。


 フランダーは遠視の魔術を使って西の丘陵地に設置された術機大砲を目視した。

 同時、その内部に刻まれた術式を魔眼で捕捉。


 ――反転するより普通に叩いたほうが早いな。


 そう決断するや否や、腕を軽く一振り。

 一瞬のうちに展開された発光砲の術式陣から、白い閃光がほとばしる。


 ――クリア様は……。


 フランダーの周りには、無数のムーゼッグ兵がいた。

 しかし、その誰もが、フランダーに手を出せずにいた。


「――舞え、〈麗刀演舞(れいとうえんぶ)〉」


 フランダーが追加で術式を発動する。

 空中に現れるはかの〈水神〉の麗刀だ。

 それが計二十本ほど。

 その麗刀は現れるや否やフランダーの周りを縦横無尽に舞い、近づくすべてのものを切り裂いた。


 ――あそこか。


 と同時、ムーゼッグの本軍へ深く切り込んだ場所にクリアの姿を見つける。


「〈雷神の黒雷〉」


 ぱん、と手を合わせ術式を発動。

 一直線にその場所へ向かう。


 ――この戦いは、長引けば不利になる。


 三ツ国の援軍があった。サイサリスを味方につけ、後方からその軍勢が支えに来ている節もある。

 しかし、それでもなお――


「クリア様!」

「来ましたか、フランダー」


 〈土神〉クリア・リリスはその怪物の尾を模した術式で敵を打ち据え続けている。

 本人にはまだ疲れの色は見えないが、表情は冴えない。


「フラム様は⁉」

「まだ姿を見せていません。嫌な予感がしますね」


 〈炎神〉フラム・ブランドは、みずからの思うところによってムーゼッグ軍の中へと姿を眩ませた。

 理由はわかっている。


 ――〈悪徳の魔王〉として、死ぬため。


 その役目をみずからに課した。

 そして役目のために命を賭ける覚悟が、彼にはある。


「出てこないところを見ると、ここはまだ死線ではないと判断したのかもしれません」


 この場だけを見れば、戦いは拮抗している。

 ムーゼッグの無限とも思える兵の物量こそあるものの、それを自分やクリアの力で押し返すくらいには戦えているからだ。

 まだムーゼッグ側からは、英霊や魔王に匹敵する強大な個が出てきていない。


「どう見ますか、フランダー」


 クリアが術式で壁を作り、時間を稼ぐ態勢を取りながら言った。


「なにか、策があるのかもしれません。もしくは……なにかを待っているか」


 いずれにせよムーゼッグ軍側に焦りの色はない。

 これだけ前線で力の差を見せても、彼らはひるむこともなければ取り乱すこともない。

 主への狂信もあるだろうが、それ以上に、自分たちは負けないということに絶対的な自負を抱いているかのようにも思えた。


「少し、前の方を見てきます」


 クリアにそう告げ、フランダーはさらにムーゼッグの大軍の奥へと切り込むことを決意する。

 いまだ全容の見えないムーゼッグ。


 ――僕の自国に対する嫌な予感は、悲しいことによく当たる。


 かつて、自分の体に毒を盛られたときのことを、フランダーはふと思い出した。


◆◆◆


 ムーゼッグ軍が形成していた戦線をさらにいくつか抜け、やがてフランダーはその場所に出た。


 ――なんだ、この空白地帯は。


 最後のムーゼッグ軍を黒雷をまとって切り抜けた先。

 そこは、後方支援の軍勢どころか、補給線さえ見て取れない空白地帯であった。

 まるで意図してそこを開けているかのような不自然な陣形に不気味さを覚える。


 ――本隊ではない。それは間違いない。


 いずれにせよ、やはり今戦火を交えているムーゼッグ軍は本隊ではない。

 指揮官らしき人物はいたにはいたが、さして階級の高い者たちではないだろう。


 ――じゃあ、本隊はどこに……


 そう思った直後。

 フランダーは空白地帯のさらに奥の方に気配を感じて、遠視の魔術を発動する。

 荒野を越え、川を越え、そして――


「っ」


 それを捉えた。


「〈地竜(レイルノート)〉か……!」


 それは、砂塵を巻き上げてこちらへ向かってくる地竜の軍勢だった。


 ――さすがにあの数は厄介だな。


 たった一頭が騎兵数百体に匹敵する地上の生態系の王。

 それが数百頭、列をなしてこちらへ進んできている。


 ――跳ぶ。


 そんな地竜の軍勢が足に力込め、跳躍の姿勢を取ったのをフランダーは目視した。


「させない」


 即座に白光砲術式を多重展開する。

 それは瞬く間に砲撃となって地竜の軍勢へ発射された。

 そして――


「……なに?」


 発射された白い光の砲撃は、突如として天空から落ちてきた別の砲撃によってもれなく相殺される。

 まるでそれは炎の砲撃のようだった。

 フランダーはその炎の砲撃が白光砲をかき消す直前、その術式に込められた異常なまでの術素を感知する。

 だから、なんとなく――()()()()()()()と勘づいていた。

 フランダーは上空を見上げる。


「――」


 そしてそこに、あってはならない光景を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『やあ、葵です。』(作者ブログ)
・外伝作品や特別SSの掲載
・お知らせ/活動報告
・創作話&オススメ作品あれこれ など


◆◇◆ 書籍1巻~6巻 発売中!! ◆◇◆
(電子書籍版あり)

百魔の主







― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ