わかってないのは君の方。
「あなたにはわかっているはず」
思わせぶりなセリフだ。
しかし、今はキメ顔して言う場面ではない。
「まあ、判ってるけど」
炬燵の天板には表を向いたカードが二枚一組ずつ散乱している。
向かい合う少年と少女の手にはカードがあり、どこからでも来い、と堂々と差し出す彼女の二枚のカードの内一枚は僅かにせり上がっている。
明らかにそれを引いて欲しそうだが、これは果たして誘導なのか、裏をかいた罠なのか。
少年はそのカードに手を伸ばし、ポーカーフェイスを見つつ僅かに引っ込んだカードへと指先を動かす。
カードを持つ少女の指が僅かに震えた。
少年は迷わず其方を引く。
「ハイ、上がり」
「くっ……!」
少年が一対のカードを放った炬燵の上に、呻いた少女は突っ伏す。
「ジョーカー、貴様は私に恋でもしているのか? 何故すり寄ってくる? 何故離れて行かんのだ?」
ジョーカーを睨み、ぐぬぬと唸りながら少女は真面目に問い詰めた。ジョーカーはケラケラと笑った様なかおで沈黙するのみ。ただのカードなので当たり前だが。
「恋なんじゃない?」
少年はお茶を啜りながら適当な相づちを打つ。判りやす過ぎるんだよ、とは言わない。
表情筋が死滅した様なポーカーフェイスでも、目は口ほどに物を言うし、先ほどの様に一々挙動に出るのだ。
「もう一勝負だ! 今度はジジ抜きだ! ジョーカー、貴様の顔は見飽きた! 当分見たくないぞ!」
どちらにしろ勝てず、手に残ったカードが解せぬと少女がぐぬぬと唸る事になり、「恋なんじゃない? モテモテだね」と少年は茶をしばきつつ適当な相づちを打った。