八ピース目~そして、本当の幕があがる~
「あぁ、お、俺と同じ学年だったんですね」
「そうみたいね。学校で見たことがあるから同じ学校の人だとは思ってたけども」
ファミレス内、俺はとても緊張した様子で見知らぬ女子高生と合席している。
とりあえず、同じ学年だと言うことは分かった。
他にも聞きたいことがあるけど……。
な、なんて聞けばいいんだーーー⁉
「えっと、自己紹介がまだでしたね」
「えっ、あ、まだ俺は事故にはあってないんで、しょ、紹介するものが無いです‼」
「それ、事故紹介じゃなくて?」
「うわぁーーー⁉」
一人で勝手に自己嫌悪ループに入っていた。
そんな俺に呆れて、向こうから自己紹介を始めた。
「あたしは高崎玲花。 一年四組ね。特技はサイコメトリーよ」
「最後のはおかしいだろ‼」
……彼女はふふふ。と上品に笑い、俺を見据えた。
「あなたは、ノリのいい異性なら緊張しなくて済むのかしら?」
「あ……」
なんだろう……。彼女は人を観察する能力に長けているのだろうか?
自然と、高崎と打ち解けてきた気がする。
「えっと、ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
高崎は自己紹介をお願いしますね、と言って自己紹介を促した。
「俺は黒夜志貴。一年三組だから、隣のクラスだね」
「あら、隣のクラスだったの」
そこまでは知らなかったようだ。
あ、まだ聞いてないことがあったな。
「そういえば、どうしてご飯を一緒にだなんて俺に言ったんだ?」
高崎は少し考えた後に理由を説明した。
「今、家出中なの」
「……本当?」
高崎はため息をついた。
「心外ね。あたしが家出をしてないように見えるのかしら?」
「見た目だけじゃ判断のしようがないだろ……」
「そうね。それが一番正しい意見なのかもしれないわ。だって、あたしは家出なんてしてないもの」
「ややこしいわ‼」
必要以上に体力をつかう奴だった。
「で、本当のところはどうなんだよ?」
「あなたのことが……好きなのよ」
「…………え?」
…………。えっと、突然の告白ってやつですか?
俺がどう対応していいものか困っていると、高崎は口を開いた。
「嘘だけど」
「ややこしいわ‼」
「同じセリフの使い回しね……」
どこかでデジャヴを感じるセリフだった。
高崎はちゃんと話すわね、と一言置いて話した。
「家出しているのよ」
「…………」
「あら、疑っているのね」
「さっきと同じ展開が目に見えているからな」
「大丈夫、本当だから」
「ややこしいわ‼」
「三回目よ、そのセリフ……」
情報過多でパンク寸前なのかもしれない。
とりあえず、話を戻す。
「なるほど……。それで見かけた俺に声をかけたと」
「えぇ、それと、ここの代金もお願いしていいかしら?」
もちろん後で返すわよ、と一言添えた。
俺も服を買う金がないにしても、ファミレスで二人分の代金を払うくらいの金ならある。
「あぁ、いいよ。でも、この後どうするんだ?」
「うーん、そうね……」
高崎はしばらく思考モードに入った。
そして、俺をしばらく見つめた後に言った。
「今晩はあなたの家に泊めてもらえるかしら?」
「…………。えぇーーーーー⁉」
こうして、俺は今日知り合ったばかりの同級生を家に泊めることになった。
※
「……意外と綺麗な部屋ね」
香奈が荷物整理を手伝ってくれたおかげだろうか。まさか、香奈意外の女の子をこの家にあげることになるとはなぁ……。
「えっと……黒夜君、だっけ?」
「あぁ、そうだよ」
「そう、『黒夜君』君ね」
「おい、君が一つ多いぞ」
「だってあなた、『黒夜君』っていう名前なんでしょ?」
「そんなのさっきの会話から分かるかよ‼」
非常に喋るのが億劫になる女子だった。
一番最初に家にあげた女子がこいつなのもどうなんだろうか……。
見た目は大人っぽくて素敵な感じなんだけど、喋ると残念な感じがするなぁ。
「ところで、黒夜君。変えの服って何か無いかしら」
「んー、流石に女子ものの服は無いから香奈から借りるか」
「……逆にあったら引くわ。その香奈っていう子は?」
「あぁ、俺の幼馴染で、隣の家に住んでるんだ」
隣の家を指差す。
そういえば、香奈は帰ってきているんだろうか?
「そう、幼馴染……ね。仲が良いのね」
「まぁ、幼馴染だし」
本当に仲が良いよな、俺と香奈は。
いつ頃から仲良くなったっけー
「うっ⁉」
「どうしたの、黒夜君⁉」
「ず、頭痛が……」
「横になってて、ハンカチを濡らしてくる‼」
高崎の言う通りに横になった。
高崎は水道水で自分のハンカチを濡らし、俺に手渡してくれた。
「痛むところに当てておきなさい」
「あ、ありがとう……」
それでも、痛みは引かない。
その状況を見て、高崎は不思議そうな顔をする。
「おかしいわね、ここまで強い頭痛なんてあるのかしら」
「さ、さぁな……。だけど、中学生の時くらいからなんだ……」
「…………」
高崎は考え込んでしまった。
「……。知られたくない過去ってある?」
「?なんだよ、突然」
「サイコメトリーであなたの過去を見て原因を調べてみるわ」
…………。こいつ、冗談がうまくないな。
「おいおい、頭痛に悩んでいるのに、余計頭痛になるようなこと言わないでくれよ」
「冗談じゃないわ。ちょっと、頭触るわね」
高崎は俺の頭の上に手のひらを乗せた。
しばらく、高崎はじっと目を瞑ったまま動かなかった。
「……高崎?」
俺が声をかけると同時に、高崎が目を開けた。
そして、衝撃……。というか、理解ができないことを言いだしたのだ。
「あなた……。誰かに記憶を食べられてるわよ」
…………。なんだそれ?
鼻で笑ってやりたかった。それで、そんな馬鹿なって、言ってやりたかった。そもそも、サイコメトリー自体できてないんじゃないかと思ってた。
でも、次の一言で半分くらいは、信用することができたのだ。
「あなたのご両親が何故いないか、理由を憶えてる?」
俺は、憶えていないのだ。
俺の両親はいない。生きているか、亡くなってるのかさえ分からない。そのことを香奈に聞いても全く答えてくれなかった。
いなかったのは中学生くらいだと思う。
そんな忘れている場所をピンポイントで、初対面の高崎は聞いてきたのだ。
サイコメトリーが使える……。
俺の記憶が食われている……。
どちらも本当だというのだろうか?
もし本当なら、俺の無くなった記憶は誰に食べられてしまったのだろうか……。
高崎の冗談めいた、「嘘よ」という言葉を待ったが、幾ら経ってもそんな言葉は吐かなかった。