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七ピース目~交際~

「俺と香奈って、側から見たらどんな関係に見えるんだろうな」


「んー?そうだね……」


とある放課後の教室、親友の長浜は突拍子もない俺の発言に少し考え込んでいて、真剣に考えてくれている証拠だろう。


面倒見が良いと周りから評判なだけはあるな、と親友の評価を誇らしくも思う。


長浜が考え込む時は必ず、顎を右手の親指の先と人差し指の第二関節の辺りで挟むようなポーズをとる。


今回もその例に漏れず、考え込むポーズを取って熟考している。……いや、長くないか?


「そんなに難しい質問だったか?長浜の思うことをスッと言ってくれるだけでいいんだが」


「いや、違うんだ。俺の発言した内容によって、今後与えうる影響を考えているんだ」


この男、学校の成績はそこそこなのだが、その枠組みから外れたところであるIQなるものは高いらしい。


彼曰く、勉強は「ただ覚えるだけだから面白くはない」と馬鹿ともとれる発言をしていたのを覚えている。


高校生から頑張ると言っていたが、「明日やろうは馬鹿野郎」という言葉もあるので疑わしい。


そんな彼が最終的に発言した言葉は、以下の通りであった。


「うん、お前と香奈は客観的に見ても兄妹だ」


「なるほど……。兄妹か、いい表現だな」


ただの幼馴染であると認識していたが、兄妹とはなるほど。俺と香奈の関係性を分かりやすく表現しているようにも思えた。


ちなみにだが、俺の方が誕生日が早く、数か月後に香奈の誕生日なので俺の方が上になる。


「俗っぽい噂をされているのか?大変だね、お前たちも」


長浜は何も聞かずにこちらの事情を理解しているようだった。察しが速いというか、賢いというか。


「大変なんだ、毎回誤解を解くのもさ」


あまりに間違われるので最近は面倒にもなってきているが、事実と異なる解釈をされるのはあまりいい気がしない。


「変なこと言っている奴らがいたらさ、『兄妹』っていう事で訂正しておいてくれないか?」


「見かけたらな。俺は今までそんなこと言っている奴らを知りもしなかったよ」


肩を竦めて知らなかった、と体言語でも表現する。


わざとっぽいリアクションだけど、発言を信じるのなら本当に知らないみたいだな……。


「志貴ー!!!帰るよー!!!!」


不意にスピーカーの音量を最大にしてしまったのかと勘違いするような音がする。


音源の正体は、教室の扉を開きながら大きな声で声をかけてくる香奈だった。


あの声量を浴びせられるのが、俺と長浜しかいなくてよかった。


「そんな大きな声出さなくても聞こえているよ……」


「いやー、ごめんごめん。授業が終わったのが嬉しくて嬉しくて」


「花咲は学生の本分を疎かにしていないか……?」


「そ、そんなことないよ!『学生の本分とは、勉強することである』だよね?いまから家に帰ってテレビを見ることも、テレビ業界を勉強することの一つ!」


「そんなわけないだろ」


勉強をする気のない香奈に対して、冷静に突っ込まさせていただく。そもそもテレビ業界の勉強なんかしてどうするんだ。


香奈は何か思い出したかのようにはっ、と声を上げる。


「そうだ、今日は見たい番組があるんだった。早く帰ろう!」


ぐいぐいと俺の腕を引っ張る香奈。力が強い、本気で帰りたいのが伝わる。


「わかった、わかった。じゃあ帰るか」


「俺も特にやることはないし、帰るか」


「よーし、昇降口まで競争!ビリが鞄持ちね!」


一人で走り去っていく香奈を俺と長浜が見届ける。


「さて、じゃじゃ馬を追いかけるか」


「『兄妹』ならしっかり手綱を握ってほしいね」


「やめてくれよ……。手に負えない」


教室から出て香奈を追いかける。とは言っても、走るわけではなく、歩いてだ。


香奈の見たい番組とやらは、まだ始まるまでは時間がある。


まだ、生き急いでいないんだ、俺たちは。


日が落ちてきた様子を廊下の窓から感じ取りつつも、歩みを速めることはなかった。









「ナイハー、この服似合うかな?」


「あぁ、似合うな。こっちもいいんじゃないか?」


黒夜志貴くろや しき、十五歳。初めてデートと呼べるようなデートをしている気がする。


香奈とは……。なんていうか、兄妹と遊んでいる感覚なのだ。


えむるは子供らしすぎるところはあれど、年頃の男女で出かけているという気分になる。


「おぉー!ナイハーは服を選ぶセンスがあるのだ♯」


服を選ぶセンスは香奈とのデートで鍛えられているらしく、えむるにも通用するようだ。


香奈は大人し目の服装を好むのだが、えむるは動きやすさ重視の服が好みのようだ。


スポーティーな見た目で、大胆に動き回るえむるにはとても似合っている。


しかし、服の値段を見てみると高校生にはとてもではないが、高すぎる値札がついていた。


「この服、結構高いぞ?」


「金銭面なら大丈夫なのだ¥」


と言って、財布から数枚の万札を取り出す。


「んな!?どこからそんな大金が……」


「財布からなのだ☆」


「そんな物理的な意味じゃなくて!!えむるはバイトとかしてるのか?」


失礼な話かもしれないが、接客とかをやっている様子が全然想像できない。


砕けたノリが許されるような職場なら、重宝されそうな性格ではあるが。


「やってないのだ。お小遣いが少し多い方なのだ¥」


「へぇー、幾らくらいもらってるんだ?」


「一万円なのだ¥」


「一万かぁ……。一ヶ月が三十一日だとしたら一日に約三百円使える計算だな」


高校生にしてはお小遣いとして貰える額が大きいことに動揺し、変な計算をしてしまう……。


「それ、計算間違ってるのだ×」


「へ?一万割る三十一だろ?だから……」


「週に一万もらうのだ☆」


「週に一万!?」


月に四、五万貰ってるだと!?


「パパもママも、なかなかお偉いさんだから収入がいいのだ¥」


「そうだったのか……」


考えたことも無いけど、えむるの両親ってどんな感じなのだろうか。


えむると似ている感じの大人って想像できない……。


「それじゃあ、選んで貰った服、全部買ってくるのだ☆」


「はぁ……。金持ちは違うな」


えむるは両手一杯に服を持っていたので、レジに運ぶのを手伝うことにした。


「持つの手伝うよ」


「ありがとうなのだ☆」


服だけでこんな重量になるのかと、女の子に持たせるには随分と重たい量だ。


アドバイスした服はひとつ残らず買ってくれているみたいだし、悪い気はしないけども。


……そのまま一緒について行って、会計額が凄まじいことになっているのを見たのは、少し先のお話。





「今日でコーディネイトの幅が広がったのだ☆」


「これだけ買えば、しばらくは着る服に困らないな」


えむるの家の近くまで洋服を持って行くのを手伝っていたのだが、ご贔屓にしているファミレスの前まででいいとのことだった。


折角なら、どんな豪邸に住んでいるのかを見てみたかったものだが……。いや、豪邸かどうかは分からないけれども。


「そういえば、ナイハーの買い物に付き合ってなかったのだ♭」


「大丈夫だよ。どうせ俺、金無かったし」


えむるにお金があったからよかったものの、えむるもお金がなかったら買い物にいくという提案は結構無謀だったのでは……。


えむるなら、ウインドウショッピングでも楽しんでくれるかもしれないが。


「それじゃあ、また明日なのだ☆彡」


大きく右手を空に挙げ、さよならのポーズを取っていた。


「あぁ、また明日」


俺は小さくではあるが手を挙げ、お互いに手を振って反対方向を向く。


「さて、帰るかな」


空はすでに暮れかかっている。香奈も早ければもう家に帰っているかもしれない。


そんなことを考えている最中、ポケットの中で携帯が振動した。……これは、通話の振動だ。


携帯をポケットから引っ張り上げ、なんとなく察している通話相手を思い浮かべながら通話に応じる。


「もしもし?」


『あー、志貴?今日夜ご飯までには間に合わないから一人で食べてくれる?』


案の定、香奈だった。そして、今日の夜飯は無いことが決まってしまった。


「あー、わかった。丁度いつものファミレスの近くにいるから、そこで食べてくるよ」


『無駄遣いしなければそれでも良いよ』


お前はおかんか。という突っ込みが喉まで出ていたが、言わないでおく。


「七百円……前後には収められると思うよ」


『それならヨシ!』


香奈の確認も入ったことだし、さっさと食べて帰ろう。


通話を切り、財布の中身を確認してからファミレスの方は赴く。


…………。デートの後ってこんなに寂しいものなのか。


次もこんな楽しい時間を過ごすことができるのだろうか、というワクワクの様なものが込み上げてくる。






と、同時にまた携帯が振動した。


「今度はなんだ?」


えむるからだった。


ついさっきまでいたのに、何か言い忘れたことでもあったのだろうか?と思い、メールを読む。


「……『今日は本当にありがとうなのだ☆さっきも言ってたけど、デートは初めてだったから楽しかったのだ♫今度は練習なんて言わず、普通に誘って欲しいのだ♡ではでは~( ´ ▽ ` )ノ』……」


なんか、すごく嬉しい内容だった。ディナーでも食いながらメールを返信しなきゃな。


ファミレスに向かって歩いていると、突然後ろから声をかけられた。


「あの、すみません」


後ろに振り返って見ると、同じ高校の制服を着た女子だった。


……そう、女子だった。


「あ、えっと、その、な、何でしょうか?」


自分でも分かるくらい挙動不審だった。


香奈とえむると接してて自分でも忘れてたくらいだけど、女子とはうまく喋れないスキル(?)を持っているのだ。


その女子高生は俺の対応に構わず続ける。




「夕食を一緒に食べていただけませんか?」




「…………。は、はい?」


一人ディナーでは無くなったらしいが、初対面の女子と突然というのは……。ギャルゲー的展開だな。


……いや、ギャルゲーやったことないんだけど。すごい固定観念だけど。


「だめ、ですか?」


…………。そ、そんな目で見られると俺も困るなぁ。


うーん、と考えているとお腹がなってしまった。


「……じゃあ、とりあえず……。そ、そこのファミレスに行きませんか?」


ど、どうしよう‼全然慣れてないこの状況にどうすればいいのか皆目検討がつかない‼今のセリフで良かったのか⁉俺の家できゅうりバーの方が良かったか⁉


「すいません、そうしましょう」


「え、き、きゅうりバーですか⁉」


「は、はい?」


この後、困難が幾つもあったが……。


それはまた少し先のお話。


そして、この女子高生が俺の人生を大きく動かしたのだった。


それもまた先の話……。

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