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一ピース目~別れ~

ロストピース


「おとう……さん?」


ここは家の中だ。だからといって、そんな大の字になって寝ることが許されるのか?



……腹部を、血塗れに、しながら。



「おかあ……さん?」



そろそろ昼飯の時間だ。食事を作っているのは分かる。だけど、今作っている料理は食べる気が失せるよ。



……自分の、臓器を、飛び散らさないでくれ。



俺がこの状況を惨劇だと思った直後、玄関のドアが開く音がした。


「何これ……!!」


隣の家に住む香奈かなの声だった。俺は声だけを聞き、振り返りはしなかった。香奈は後ろから俺を抱きしめた。


「酷い……。どうして……。こんなこと……」


ただ呆然と立ち尽くしている俺の代わりに、香奈は涙を流しながら、俺の側にずっと居てくれたーー





「今まで、ありがとうございました」


俺は香奈の両親にもう一度頭を下げた。この人たちにはどんな言葉を並べてもお礼し足りないだろう。

 

志貴しき君、一人でも頑張ってね」


香奈の母親が少し悲しそうに言った。

我が子同然のように育ててきてもらったから、家から俺がいなくなるのは悲しいことなのかもしれない。


しかし、俺は隣にいる奴を見やった。


「大丈夫です。いざという時には、香奈もいますし」


「あ、そうやって自立できないのは良くないと思うよ?」


隣にいる香奈が膝を突きながら叱る。香奈は幼稚園からの幼馴染だ。


長い黒髪がとても綺麗で、風に靡いた時により際立つ。


笑うと細くなると感じる目は、普段は大きな目をしている証拠である。


身長は俺のほうが大きいが、あまり大差が無い。


俺は男子の平均くらいあるので、香奈の発達がいいというべきだろう。


「まぁ、一人暮らしするところからここまではそう遠くはないんだから、たまには遊びに来いよ」


香奈のお父さんが二カッと笑う。


「はい。是非」


俺と香奈は今まで住んでいた家に別れを告げると、大掛かりな荷物を引っ提げて駅まで歩いた。


「ねぇ、志貴」


香奈が少し寂しそうに声を出す。きっと、別れって辛いね的なことを言い出すのだろう。


あえて違う話題を振ってみる。


「なんだ、寄りたいところでもあるのか?」


「ううん、違うよ。ただ……。別れって……辛いね」


…………。一字も違わない返答がきてしまった。幼稚園からずっと一緒にいるから分からないことなどないのかもしれない。


冷静に返答をすることにしよう。


「そうだな。でも遠くはないんだから、会おうと思えばいつでも会えるじゃないか」


「……志貴にしてはまともなこと言うね」


普段の俺はまともなことを言わないらしい。この様な小言はいつものことなので特に気には留めないが。

 

そうこうしている間に、香奈の両親の家から徒歩三十分のところにある駅に着いた。ここから五駅離れたところに住むことになる。


少し、寂しくはあるか……。


香奈の前では少しだけ強気だった俺も、センチメンタルな気分になる。


ホームの中に入る前に、駅前からの街の眺めを脳裏に焼き付けた。ここは自然が多くて、空気が美味しくて、中途半端に発展していて……。


「志貴?」


「……あぁ、今行く」


香奈に呼ばれ、駅のホームへと向かう。


……俺が育ったこの街に、一旦別れを告げた。

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