聖雨祭の導き
ここから聖雨祭編になります。
「お待たせしました、紅葉♪」
その声に振り向くと、彼女が笑顔で居る。
「おぅ――」
彼女のいつもと違う雰囲気に、返事をしてから魅入ってしまう。
「――どうしたの?」
目を見開いて固まる俺に、心配そうに語りかけるように問いかける。
「い、いや、その、――似合ってるよ浴衣」
照れるように顔を背けて、彼女の格好をほめた。
「ありがとう」
魅力的な微笑みを見せる彼女の名前は、春乃咲桜音。
俺と、『千年桜の誓い』で結ばれた――婚約者だ。
「じゃあ、いこうか――みんなが待ってる」
顔を背けたまま、彼女に声をかけて、待ち合わせ場所へと歩き出す。
「はい」
一言返事をして、寄り添うように隣を歩きはじめる。
しばらく歩いていくと、集合場所に大勢のクラスメイトが待っていた。
「おーぃ紅葉!桜音ちゃん! こっちこっち~」
その中の一人が大きく手を振りながら、俺たちを呼んだ。
「おぅ」
俺は返事をして、その集団に近づいていく。
「こんばんわ」
ある程度近づいてから、彼女が挨拶をした。
「ばんわ~ばんわ~♪」
その挨拶に、一際変な挨拶を返しているのが、親友の椿である。
「今日は、よろしくお願いします」
深くお辞儀をして、笑顔で挨拶をする彼女に――
「よろしく~♪」
と、軽く挨拶を返す椿であった。
さらに続けて――
「って、桜音ちゃん、浴衣かわいいね~♪」
と、彼女の姿を楽しそうにほめ始める。
「ありがとう」
それに対して彼女は、笑顔でお礼をする。
「このこの、紅葉がうらやましすぎるぜ」
椿は即座に俺の横に移動して、肩を組み、わき腹を小突きながらニヤついた顔で言う。
「う、うるせぇ」
俺は、照れ隠しの言葉を返す。
「ぷぷっ、何その微妙な強気♪」
それが面白かったのか、さらにからかってくる。
「う、うるさい・・・・・・なぁ」
今度は力なく言う俺に――
「なぁ紅葉、この間、彼女の家に行くって言ってたよな?」
と、この間の一件について聞いてくる。
椿には、カラオケの後の出来事について無理やり聞き出され、彼女の家に行くことになった経緯のみ話してあったのだ。
「・・・・・・あぁ」
少し不安を抱きつつも、言葉を返す。
「んで、桜音ちゃんが来てるって事は、うまくいったってことだよな?」
分かっていると言う様に確認してくる椿。
「・・・・・・あぁ」
徐々に不安が募っていくが、それを確証することが出来なかったので、とりあえず返事をする。
「お前・・・・・・何か隠してるな♪」
椿はニヤつき、悪役のような顔に変わって、俺の微妙な変化に気付き不適な笑みを見せる。
「な、――何も隠してねーよ」
心を見透かされて一瞬驚き、知らない振りをして顔を背ける。
「ふっふっふ、間違いなく何か隠してるな」
その言動と行動から確証を得た椿は、その表情のまま俺を横目に見て――
「お前は隠し事が出来ないからな・・・・・・あとでゆっくり話してくれよな♪」
と、楽しそうに笑顔で言い終える。
「――あ、あぁ・・・・・・いつか・・・・・・な」」
俺は言葉を濁しつつ、適当に返事をした。
「へへへ、じゃあ今日は楽しもうぜ♪」
彼は笑顔でそう言って、この場は一旦納まった。
「椿!紅葉! そろそろいくぞ!」
不意にクラスのまとめ役、哲が俺たちを呼ぶ。
「「おぅ」」
俺と椿は同時に返事をして、みんなの所へ歩いていく。
「じゃあ、今日の聖雨祭、楽しも~♪」
さらに哲がみんなに向かって、確認するように号令をかける。
「「おー!」」
対して、クラスが一丸となり高く手を掲げて、同時に声を上げる。
それからすぐに聖雨祭の会場となる時乃軌神社に向かう。
この町唯一の大きな神社で、古くからの伝統行事を数多く持っている。
その一つがこの『聖雨祭』である。
クラス全員で向かう『聖雨祭』
このお祭りと千年桜の伝説の関係が、今明らかになっていく――たぶん。
全体的に長くなるつもりなので、一話ずつ短く区切ってあげて行きたいと思ってます。
どうか、最後までよろしくお願いします。