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歴史に残る春

 ピンポーン!――『はい、どちらさまでしょうか?』

 インターホンからは、60歳くらいの男性の声が聞こえてきた。

「え、えと、こ、こちらは、は『春乃咲はるのさき 桜音おうね』さんの、お、お宅でございますでしょうか?」

 俺はぎこちない喋り方で、インターホンに語りかける。

『はい、そうでございますが、どちらさまでしょうか?』

 男性は改めて聞きなおしたので、一度謝ってから答えた。

「えと、あ、すみません、ど、同級生の『夜月詠やつきよみ 紅葉こうよう』だ・・・・・・です!」

 ついつい緊張してしまい、喋り方がまたおかしくなってしまう――それも仕方が無いだろう。

 俺は彼女の家に行くなんてことは、初めての事であった。

 さらに、今まで同じ町にこんな豪邸があることを知らなかったので、それだけでも十分に驚くのに、それが彼女の実家だって言われれば、普通以上に緊張してしまうのは当たり前である。

『失礼いたしました夜月詠さま。 ただいまお迎えにあがりますので、その場でお待ちくださいませ』

 俺が来ることを知っていたのであろう男性は、名前を確認してすぐにそう言った。

 しばらくして大きな門が開き、先ほどの男性だと思われる60歳くらいの、タキシードで身を固めた紳士な人が出てきて「こちらへどうぞ」と、門の中を指し示す。

 紳士な男性に案内されて門をくぐり中に入ると、大きくて整った庭の先に噴水があり、その先に大きな建物が建っている。

 男性の後ろについて、その庭を歩いて行き、噴水を迂回して、建物の前に到着する。

 すぐに玄関が開いて、一人の女性が現れた。

「いらっしゃいませ―― 紅葉」

 女性は深々とお辞儀をし、俺の名前を呼んでから、微笑む。

 その微笑みが魅力的な女性は、俺の彼女である――桜音だった。

杵月きねづき、ありがとう。 彼は私がお連れするわ」

 彼女は60歳くらいの男性に、そう伝えた。

「それでは、失礼いたします」

 それを聞いた杵月さんは、俺と彼女に一礼してから屋敷の中へと入っていった。

「さぁ、お父様がお待ちよ♪ 行きましょう、紅葉♪」

 彼女に誘導されるまま、屋敷の中へ入っていく。

 屋敷の内装は、ドラマやアニメなどでしか見たことがないような洋風の造りで、いろいろな絵画や彫像が飾られていた。

 入ってすぐの階段を上がり、屋敷の右手側へと進んで行く。

 ――いくつかの部屋を通り過ぎて一つの部屋の前に到着した。

「ここがお父様の書斎よ。 じゃあ入るわね」

「・・・・・・あ、あぁ」

 正直、緊張で心臓が鳴り止まず、すぐにも逃げ出したいと思っている俺は、頼りない返事を返すので精一杯だった。

「ふふふ、そんなに硬くならなくても、きっと大丈夫よ♪」

 そんな俺に気が付いた彼女は、笑顔で心配ないと言ってくれた。

 コンコン――『入りなさい』

 彼女がドアをノックすると、中から男性の声が聞こえてくる。

「失礼します」と、彼女はドアを開けて中に入り、俺も続いた。

 中に入ると、部屋の奥に机があり、そこに一人の男性が座っている。

「お待たせいたしました、お父様」

 彼女が入るなりそう言うと、男性は立ち上がり「うむ」と言って腰の後ろで手を組んだ。

 その男性あらため彼女の父親は、がっちり体系に紳士的な服装で、口ひげが印象的な凛々しい顔立ちをしている。

「こちらがこの間お話しました、紅葉さんです」

「は、はじめまして、夜月詠 紅葉です。 よ、よろしくお、おねがいします」

 緊張のせいで、何を言えばいいか分からなくなり、とりあえず挨拶をした。

「ん~? な・に・が、よろしくなのかね?」

 彼女の父が俺の言葉にひっかかり、一気に近寄ってきて顔を寄せてにらみながら言う。

「ひぃ~、い、いえ、ごめんなさい、ごめんなさい」

 あまりの表情についつい恐れてしまい、数歩下がって謝った。

 俺の必死の謝罪を見て、唐突に――

「――ぷっ、くぷぷっ、アーッハッハッハ」

 なぜか笑われた。

「へ?」

 訳が分からず、ついつい変な声をもらすと――

「――くす、くっ、ふふふ」

 隣に居た彼女も、顔を背けて笑いをこらえている。

「あれ?」

 二人の不可解な行動に戸惑い、目線を何度も往復させてしまう。

 不意に彼女の父がそれに気が付いて、落ち着けるように大きく深呼吸をする。

「いやーすまんすまん、ちょっとからかってみただけだ、すまんかったな」

 落ち着いた彼女の父は、俺に向かって片手を立てて謝り、子供じみたことを言った。 

「は、はぁ・・・・・・」

 あまりに突拍子もないことに、ちょっと呆れたような返事をしてしまう。

「どう? お父様。 私が言った通り、紅葉さんはおもしろい方でしょう?」

 先ほどまでずっと笑いをこらえていた彼女が、不意に自慢するように問いかけた。

「うむ、すごくおもしろいやつだな。 ハーッハッハッハ」

 それを聞いて満足そうな顔で、俺の肩を数回叩いて大きく笑った。

 いまだに状況を理解できない俺は――

「どういうこと?」

 と、二人を交互に見やって問いかけた。

 ほうけた顔を見た彼女は「くすっ」と笑い、説明を始めた。

「それはね、紅葉の事をお父様に話すと、どうしてもやってみたいことがあると言うの。 だから、私もお手伝いしたのよ♪」

 彼女は、私も楽しみました♪と言いたげな笑顔で、言い切った。

「うむ、なかなか楽しかったぞ、紅葉君」

 彼女が説明し終えてすぐに、彼女の父はもう一度俺の肩を叩いて言う。

「お父様も、紅葉が気に入った様子でよかったわ」

 不愉快な意味で気に入られた気がするが、ある意味喜ぶべきなのかもしれない。

「――まぁ、いっか」

 俺は彼女の笑顔に満足して、全てをいい方向に考えることにした。

 気を緩めたのもつかのま、彼女は父親に本題のための前振りをする。

「それでは改めて――紅葉からお父様にお話があるの」

 この前振りで、俺はまた緊張してしまう。

「うむ、なにかね?」

 先ほどまで笑いで緩んでいた顔が引き締められ、最初に会ったときの表情で問いかけてくる。

「えっと、2週間後の日曜日に夜7時からの聖雨祭せいうさいにクラス全員で行くので、桜音さんを連れて行ってもよろしいでしょうか?」

 緊張はしていたものの、さっきのやり取りで彼女の父が実は優しい人だと思い込み、詰まることなく最後まで言い終えることが出来た。

「ダメジャー!!!」

 思いもよらぬ回答に一瞬、時が止まってしまう。

 しばらく誰一人動かずに沈黙してしまい、たぶん数十秒経った後に――

「ええぇぇぇえ!?」

 と、俺は大声で驚きをあらわにしてしまう。

 その後もしばらく沈黙は続き、彼女の父は一度背を向けて口を開く。

「本音を言いたまえ」

 まるで分かっているかのように、俺の本心を問いかける。

「え、えぇ?」

 訳が分からずに言葉にならない声をだして、彼女に視線を移すと――

「紅葉、がんばって♪」

 と、両手を胸の前で構え、拳をこちらに向けて可愛いしぐさで応援していた。

「よ、よし」

 それを見て、何かを決心したように気合いを入れ、一歩前に出てから、口を開いた。

「俺は! 桜音と二人で聖雨祭に行きたいです!!!」

 精一杯の想いを言葉にして、背を向けた彼女の父に力強く言い放った。

 俺の、心からの本音を全力でぶつける事で、たとえ嫌われたとしても悔いは無いと覚悟を決めた言葉に、予想すら出来なかった言葉が返ってきた。

「いーよ♪」

 その父親は軽やかに振り向いて、笑顔で楽しそうに言った。

 またしても沈黙の時間が生まれた・・・・・・。

「は、はい?」

 あまりにも状況がコロコロと変化していくので、聞き間違えたのかと思い、聞き返してしまう。

「紅葉君に桜音を預けよう―― 楽しんできなさい」

 またしても俺の肩を叩いて、笑顔で言ってくれた内容に、俺は心から喜び一度彼女に視線を移してから――

「は、はい! ありがとうございます」

 と、お礼を伝えて深くお辞儀をした。

「よかったわね、紅葉♪」

 彼女も、うれしそうに笑顔で称えてくれた。

「おぅ♪」

 そんな彼女の笑顔と言葉にさらに気持ちが高まり、俺も笑顔で返事をした。

「さて、せっかく来たのだから、みんなで食事でもしようではないか」

 父親はそういって、二人を同時に抱きしめてくる。

 その笑顔を見て、やはり思ったとおりの優しい人なんだと、心から思えた。

「そうね、お母様も会いたがっていますもの――とりあえず私の部屋に行きましょう」

 書斎を出てすぐに彼女はそう言って、来た道を引き返し、最初の階段を反対側へ進んで歩いていく。


 この父親にこの娘あり――とは言えないものの、やはりちょっと変わった人であることは間違いないだろう。

 このあとの夕食会もどうなることやらと、考えたものの、まぁいいかと、前向きに考えることにした。

ついつい熱がこもっちゃって長くなっちゃいました。

この続きもまだまだ長いですから、ゆっくり読んでくださいね♪

まだまだヘタクソですが、がんばって書いているので読んで感想いただければ幸いです。

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