始まりの夢
「なぁなぁ紅葉、やっぱり桜音ちゃんはモテモテだよな~」
「あぁ、そうだな」
俺を心配して言ってくれているのだろうが、あえて気の無い返事で返した。
「お前、心配じゃないのかよ!!」
椿は立ち上がり、机に両手をつけて怒鳴り散らした。
「まぁ、落ち着け」
興奮している椿を落ち着かせ、座らせてから小声で訳を話した。
「まぁ、あれだ、高校生活始めの友達作りの期間に、俺たちが邪魔してたら彼女のためにならないだろう? だからここは信じて見守る方がいいのさ」
訳を話しても納得しない椿に、恥ずかしながら本音を語ることにした。
「それに・・・・・・俺と彼女は『特別』だから、きっと大丈夫だと思う」
「――ハハーン♪ お前、彼女とは運命の赤い糸で結ばれてるって言いたいのか?」
バカにしたような目を俺に向けて言い、必死に笑いをこらえている。
不意に、第三者がその話題に入ってきた。
「赤い糸ってなんの話?」
そこにいたのは、話題の中心である桜音だった。
椿はニヤリと不適な笑みを浮かべて、さっきの事を語り始める。
「このバカが、『桜音ちゃんと俺は『特別』だ』って言うんだぜ」
「うわーバカ!この!!」
俺が椿の口をふさごうとしたが、それを軽やかによけて最後まで言い切った。
「それで赤い糸って訳なのね?」
彼女は確認するように言い、俺に微笑みかけた。
俺は恥ずかしさのあまり、目をそむけてしまう。
それを見て、彼女はさらに話しを続ける。
「でも、それは違うわ。 だって、私たちは『千年桜の誓い』で結ばれているのよ?」
その発言に、クラスの全員が総立ちして、彼女に視線を集める。
驚きのあまり、顔を背けていた俺も彼女に向き直っていた。
「桜音ちゃん・・・・・・本気で言ってるの?」
クラスの全員が聞きたいことを、椿が代表して聞いた。
「えぇ、本気よ♪」
彼女は、一点の曇りも無い瞳で椿に言い、俺に視線を移して微笑んだ。
それから周囲を見回した彼女は、誰一人動かずに固まっている事を不思議そうな顔で首をかしげる。
とんでもないことを言っている彼女に、それを教えようと、俺が口を開いた。
「お、お前、それって告白してるようなものだぞ?」
俺の言葉を受けて、少し考えるようにつぶやいた。
「告白?・・・・・・そうね、そうかもしれないわね♪」
彼女の顔からは迷いは消え、さらにとんでもないことを言い出す。
「でも、告白ならすでに千年桜の前でしたはずよ?」
思わぬ発言に全員が「「ええぇぇぇえ」」と、同時に叫んだ。
「あら、始業式の朝に『私たちの出会いは、偶然ではないかもしれませんね。 これからも宜しくお願いします』って言ったはずよね?」
どうやらあれが彼女なりの告白だったのだと、今始めて気付いた俺だった。
「それじゃあ、俺の『こちらこそよろしくお願いします』はOKの言葉ってことなのか?」
「えぇ、もちろんよ♪」
その問いかけに精一杯の笑顔で答えた彼女を、俺は愛しく思えた。
「ハハ・・・・・・じゃあ、俺たちってあの日から付き合ってたんだ」
再度確認するように彼女に向かって言うと「ちがうの?」と、残念そうな顔に変わる。
その表情を見て咄嗟に「いやいや、ちがわないよ」と、否定すると、いつもの笑顔に戻った。
「てか、桜音ちゃんはコイツのどこが気に入ったの?」
全員が、椿のその問いかけを待っていたと言わんばかりに聞き耳を立てた。
「んー、一目惚れになるのかな?」
誰かに問いかけるように言ってから、話を続けた。
「あの日、千年桜の前で、たまたま私の見た夢と同じ言葉をつぶやく人がいたの」
その言葉に、自分の似た体験を思い出した。
「その人についつい声をかけてしまい、話をしているうちに『運命』を感じたみたいなの」
彼女はあの日を思い返すように、顔を上げて目を閉じて笑顔と共に頬が赤くなった。
「千年桜の前で誓いを立てた二人が寄り添い眠りに付く夢のことか?」
不意に俺が言った夢の内容に、彼女は目を見開いて興奮した様子で顔を近づけてくる。
「どうして知ってるの? もしかして同じ夢みたの!?」
いつもより顔を近づけてくる彼女を「まぁまぁ」と、なだめてから答える。
「あぁ、俺もその夢をその日の朝に見たんだよ。 だから、桜音がその女性に似ていたから驚いてたんだ」
その回答に満足したのであろう彼女は、いつもの大人っぽさを忘れさせるほど子供のように飛び跳ねて喜びを表した。
「やったー♪やったー♪ やっぱり私の直感は間違って無かったわ」
クラスの全員がただ呆然としている中で、一人だけテンションをあげて喜ぶ桜音を見て、誰からとも無く笑い始める。
ほぼ全員が笑い、彼女を中心にクラスが一つになった気がした。
彼女の思い込んだら一直線な性格が、このクラスに、そして俺と桜音にあらたな『絆』を作り出していくのであった。
お互いが『運命の日』に見た『始まりの夢』によって、出会い。
お互いの夢の話で、絆が深まった。
二人を結ぶ『千年桜の誓い』はこれから先もどんな影響を与えていくのだろうか――。
なんか、この作品が一番気に入りました。
同時に5本作ってみたけど、一番かいてて楽しいです。