岐路への挑戦
タナバタパーティーで桜音が倒れこんでしまったあの日から、俺は知らない記憶を夢で見ることが何度もあった。
「なあ紅葉、さっきはいきなりどうしたんだ? 桜音ちゃんの様子もおかしいし、なんなら保健室で休んだらどうだ?」
椿が心配そうな表情をしている。俺は一体全体どうなってしまったんだろうか。
「大丈夫だ。俺の心配より、お前が気にかけるべきは櫛乃だ」
俺は自分の口にしたことに驚き、ハッとして顔を上げた。
「な、なな――何いってやがんだ!!」
目の前の椿は顔を赤らめて大声を上げた。あまりに大きな声だったから、クラス中の人間がこちらに振り返っていた。
「うっさいわね!! あんたのその騒がしいところはどうやっても治らないようね!!」
怒りをあらわにした表情で椿の方へと向かってくる櫛乃。
「てめぇこそうるさいだろうが! さっさとあっちいけ、シッシ」
そっぽ向いて右手で掃き出すしぐさをしている椿。
「全く、二人は本当に仲がいいわね」
二人が言い合っているのを横から楽しそうに眺めていた俺は、その背後からもう一人が言葉を発したことでその存在に気付いて振り返ると、そこには桜音が居た。
「そうだな、いずれはきっと二人も恋仲だな」
動揺から言葉も出ない二人が面白くて、俺は何の気なしに冗談を言ったつもりだった。
「ふふふっ、もうすでに――かもしれませんね」
桜音は口元に手を当てて楽しそうに笑っている。
「それではこの次は彼らの交際スタートを記念するパーティーをしなければなりませんね」
さらに椿と櫛乃を追い込む言葉を樫雄がニコニコ笑顔で言いながら近づいてきた。
「――!?」
二人は言葉にならないほどの動揺を見せている。
もう訳が分からない動きをしながら、なぜか櫛乃が一方的に椿を殴り始めた。
「激しい愛情表現ね」
とどめの一撃とでもいうべきだろうか、その一言を聞いた櫛乃は「わあああああああ――」と叫びながら教室を出て行った。
「なあ紅葉」
いつの間にか椿はいつもとは違う真剣な表情をしている。
俺が桜音と樫雄に視線を送ると、それを理解したかのように二人は一度だけ頷いてこの場を離れた。
「なんだ?」
俺が改めて聞き直すと、椿は自分の気持ちについて語り始めた。
「お前と桜音ちゃんを見ていると俺はうらやましいって思う。だけど……だからと言って俺はお前たちのような仲になりたいっていうわけじゃない。今やっと気が付いたんだ。俺は櫛乃と口喧嘩するのが楽しいって……。変かな?」
椿がこんなことを俺に話すなんて思ってもみなかった。
俺は自分の物じゃない記憶が脳裏をよぎりながらも、必死に言葉を探した。
「変だな」
しまったと思った時には、時すでに遅しだ。
「ちぇっ、真面目に相談すればこれだよ。これだから全くお前ってやつは――」
口を尖がらせてつぶやく椿に俺は桜音の優しい笑顔を思い出しながらこう告げる。
「大切にしてあげろよな」
椿が視線を泳がせながら下唇を噛みしめて頷いてくれた。
「話はまとまったようね? これから作戦会議を始めましょう」
俺達の様子をうかがっていた桜音が割って入る。
「櫛乃さんが相手だと、なかなか大変かもしれませんけどがんばりましょうね」
同時に樫雄も入って小さな作戦会議が始まった。
俺は何としてもこの二人のために出来うる限りのことをしなければならない。
それが俺達に告げられた未来を変える可能性ならなおさらのことだ。
あのフライトだけは絶対に阻止してみせる――!!!
自分の想いを口にした椿と、彼らの行く末を案じる紅葉達。
彼らの物語が過去と同じ道をたどらないようにと、桜音と紅葉は変える努力を心に誓った。
久しぶりの投稿となります。
なので、書き方や人物像、設定などに若干の違和感を感じるかもしれませんが、もしおかしいなって思う部分があったら教えていただけると嬉しいなって思います。
この物語を書いていて思うのが、やっぱり学生生活は男女含めたグループで恋愛を抜きにしても楽しく行動できるメンバーがいることが大切だと思いました。
かくいう私も、中学時代は男女気にせず友達が居ましたが高校生になってからは男子としか行動しなくなりました。
もしこの作品を見て、学生生活っていいなって思える人が居てくれたならば、少し手を広げてグループ行動できるような友達を探してみるのもいいものかもしれませんね。