短冊の絆
「なぁ、紅葉、七夕って知ってるか?」
俺に親しそうに話しかけるのは、親友の椿である。
「知ってるけど?」
俺はだからどうしたと聞き返す。
椿は「よしよし」と言いながらうなずいて訳を話し始める。
「七夕の日に願い事を短冊に書いて竹につるすと、願いが叶うって言うだろ?」
「ああ、そうらしいな」
「だから、願い事を書いてみた」
椿はカバンから一枚の短冊を出しながら俺に、自分が七夕と言う祭りに参加している旨を伝える。
「あっそ」
別に興味は無かったので俺は適当に答えると、どういうわけか椿は俺に、こう問いかけてきた。
「聞きたいか?」
「いや、別に」
即答で答えると――
「うん、聞きたい」
さっきまで黙って横に居た樫雄が笑顔で答えた。
樫雄とは、お祭りで仲良くなって以来ずっと俺たちと三人で行動するようになっていた。
「お前はいらんことを・・・・・・」
小声で樫雄に言うと、笑顔で「まぁいいじゃないですか」と言われる。
「そうかそうか、じゃあ聞かせてやろう」
「・・・・・・」
なんとなく予想できていた俺は、言葉をなくして眉をひそめた。
「わくわくしますね」
なぜかたのしそうな樫雄は俺に問いかけてくるが、俺は引きつった顔で黙り込んでしまう。
「えっとな、――『彼女を作ること』だ!!」
やはりと言うかなんと言うか、椿らしい内容である。
「・・・・・・がんばれ」
「・・・・・・」
俺は一言だけ応援の言葉を述べて、隣の樫雄は笑顔で固まってしまう。
「なんだーそりゃ、つめてーなー」
つまらなさそうに椿は口を尖らせて愚痴を言った。
仕方ないなと思い俺は訳を話してやろうと思って口を開く。
「知ってるか?」
「何を?」
「あのな」
「おぅおぅ」
「お前、毎年同じ事言ってるんだぜ!」
俺は当然の事を言うように椿に言い放つと――
「そーれーはーおーどーろーきーだー!」
あほみたいな棒読みで椿は驚きを表した。
「はぁ~・・・・・・」
あまりのアホさ加減に、俺はついつい呆れてしまう。
「まぁまぁ」
そんな二人を、気を取り直した樫雄が仲裁するかのように声をかける。
「まぁ、いいじゃないか、今年はお前が先に彼女作っちまったし。 今度は俺達の番だな」
「ああ、がんばれ」
それを言われると、どうしようもないので俺は素直に応援の言葉を述べた。
「がんばってくださいね」
「いやいや、樫雄もだぞ」
俺に習って応援した樫雄に、椿は当然だろと言うような表情で振り向いて言った。
「えええええ!?」
樫雄は驚きのあまり叫びながら立ち上がって、再び固まってしまう。
「お前も彼女いないだろ?」
「・・・・・・た、確かに居ませんね」
椿の問いに、ためらいながらも答える。
「モテそうなのにな」
即座に俺は思ったことを言った。
「いえいえ、そんなことはありませんよ」
それに対して謙遜する樫雄は、顔の前で両手を数回交差させた。
「じゃあ、そういうことで今日はカラオケな!」
「じゃあの意味がわからない」
唐突に訳のわからない事を言った椿に、俺はすぐにツッコんだ。
そのツッコみにめげることなく椿は、自分の思いを宣言する。
「七夕に願ってるだけじゃダメなんだよ。 自分で行動あるのみだ!」
椿は言い切った満足感を漂わせる表情で、ポーズを決めている。
「なになに!? あんたらカラオケいくの?」
唐突に会話に入ってきたのは――
「ぬお!? 出たな怪人くしのん!!」
「なんだーてめー!!」
口の悪いお嬢さんこと、椿の天敵、櫛乃であった。
「まぁまぁ、お二人とも」
仲裁をするのが樫雄で、俺はそれを楽しみながら眺めている。
唐突に俺は何かに気付いて「あっ!そうか」と言うと――
「どうしました?」
と、仲裁していた樫雄が振り向いて、聞いてきた。
「お前ら付き合えばいいんじゃね?」
「それはいい事ですわね」
俺のとんでもない発言に、即座に賛成したのは桜音だった。
「「はあ~!?」」
先ほどまで喧嘩していた椿と櫛乃は、同時に振り向いて変な顔で変な声をもらした。
「息もぴったりですね」
二人の反応に桜音は笑顔で思ったことを言う。
「あ、ああ、ありえねーっつーの!!なぁ?」
桜音の言葉を椿はすぐに否定して、なぜか櫛乃に問いかけた。
「そうよそうよ! なんでこんなやつと!?」
その椿の問いに賛成して、さらに文句を言う。
端から見てると仲良しにしか見えないと俺は思ってしまった。
「よし、じゃあ今日はカラオケ行くか」
「はい」
そして俺はいい案を思いついて話題を戻すと、それを察した桜音がすぐに返事をしてくれた。
「じゃあ、樺音さんも誘いますね」
さらに俺の作戦に気付いた樫雄が、お祭りの班分けのもう一人のメンバーを誘うと言うので「おぅ、頼んだ」と、まかせることにした。
樺音は自分からは特に行動を共にしないが、誘えば大抵文句も言わずに付いて来てくれる、意外と優しい娘なんです。
「勝手に話を進めるなー!!」
すでに諦めた椿をよそに、納得していない櫛乃は激しく手を動かして怒鳴った。
「まぁ、いいじゃないか」
「いいですわね」
俺と桜音の言葉に反抗心は薄れ、「ぐぅ~・・・・・・」と唸って落ち着いた。
そして二人は顔を見合わせて「「フン」」と言って顔を背けた。
聖雨祭を共に回った仲間でカラオケに行くことになりました。
夏休みという最大級のイベント期間が間近に迫る7月初旬。
まずは最初のイベント『七夕』へ向けての一歩が踏み出されました。
本当は一気に夏休みまで行く予定でしたが、あえてここで椿と櫛乃の物語はさみました!!
って言うか更新遅くなってごめんなさい!