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先輩が好きです……!

作者: 紫聖

憧れの制服も少しだけ体に馴染んだ。三階の教室から見える景色も見慣れたものになった。まだ入学してから二週間だけど。

「えっ!?マネージャー試験があるの!?」

心優(みゆ)知らなかったの?」

知らない、知らない!今話しているのはずっと一緒の親友の里佳(りか)。さばさばしてて美人。合格点ぎりぎりのあたしと違って、頭もいい。

「野球のルールとかだよね?」

「実技あるんだって。心優は可哀想だけど、無理だよ♪」

あの、満面の笑みで残酷なことを言わないで下さい。

あたしはドジだ。よく転ぶし、頭によく物が当たる。ひっくり返したらいけない物をひっくり返すことも多い。お弁当とか、コップ。一番嫌な思い出はバケツ…。

服がびしょびしょになって………う゛〜、思い出したくない!

「諦めて青空下校部にしようよ。それか料理部。心優ってドジなのに、料理だけできるでしょ?」

失礼な。でも、あたしの中の七不思議がそれだ。同じ家庭科でも裁縫はかなり血を見ることになるのに。

「今から練習するんだから…!」

「スコアの付け方もだよ?」

「それは無理だよ……。」

「それに夏は暑苦しいんだから。」

「里佳、ひどい!」

「ごめんって。言い過ぎた。あ、チャイム。」

里佳のいう通り午後の授業を始まりを知らせる音が鳴り出した。

授業はついつい上の空になる。

せっかく、秀岳館に入れたのに…。


野球の名門、秀岳館高校。甲子園の常連校で、過去数回の全国制覇の経験もある。貴重な春夏連覇もあったらしくて。

高校野球好きの父親の影響か、小さい頃から夏休みはテレビの前から離れなかった。甲子園の中の選手のプレーを見ないと、夏じゃない気さえした。

小学生になって、野球したくて。でも、近くの少年団は男の子ばっかりで入れなかった。今、入団してる弟が羨ましい。誰か女の子がいれば、多分入れた。

これは言い訳かも……。

中学生になって女子ソフトボール部に入部。

でも同じ学年は人数が多いし、あたし自身のドジさも手伝ってずっと補欠。

ベンチで声出し頑張ってた。ずっと、ずっと。居場所が無くて、肩身が狭くて。

普通科はちょっとレベルが高かったけど、なんとか合格したのに。マネージャー試験!?

あたしは野球の試合を観たいだけなのに。

確かに全校応援だってあるけど、+αで県予選(初戦から全部)の試合だって見逃せない。

マネージャーになったら堂々と観戦・応援ができるのに!

野球留学の人が多い秀岳館。そのせい?か、かっこいい人が多い。

だからマネージャーには女子が群がるらしい。

これは知らなかったけど。ルールは分かる。タッチアップの説明だって、エンドランの説明だってできる。でも、スコアは付けられない。

わけわかんないんだもんね!


「矢野原、次問4。」

当てられた。

あ、大丈夫。なんとか……ね。









「本気?」

「もちろん!」

「来週だよ?」

「マネージャーにならないと、秀岳館に入った意味がないんだもん。」

「まぁ、頑張ってね〜」

「里佳、応援する気ないでしょ。」

左側を見れば、野球部専用グラウンドだ。練習してる……。ノックだ。

どの選手も声が出てて、動きに無駄がない。なめらかで力強い。

「………ショート綺麗。」

心優の口から思わず、感嘆のため息が漏れた。

4-6-3のゲッツーはショートとセカンドの呼吸が重なってる。

「きゃー!!」

耳に飛び込んできたのは、黄色い声。

「うわ、噂の追っかけだね。SBFCって言うらしいけど。」

「何それ?」

「Syugakukan Baseball Fan Clubの略。野球部のファンクラブ。創立者は不明。抜け駆け禁止、野球部員はみんなのもの。っていう暇人よ?」

「里佳、聞こえるよ?」

「王子様方に夢中で、気づいてないわよ。」

親友が腕を組みながら言うのに苦笑いをする。

あ、まただ。やっぱりショートの人が一番綺麗。ずっと見てたいかも。

「あなた達、会員かしら?」

出た!巻き髪のお姉さま!!お化粧ばっちり。睫毛がバサバサ。

何より纏っているオーラが怖いです。睨まないでくださいな。

「すいませーん!もう帰ります。さよならー!」

里佳に手を引っ張られて、再び歩き出した。

こういう時、里佳は頼りになる。

「ありがと……。」

「いえいえ。」

並んでおしゃべり。何気ないものだけど、大切な時間。

「心優、乙女だわ。」

えっ?この子は何を言い出すんだ!?

「違うってば!」

「無自覚でよろしい。」

さっぱりわかんない。

里佳は教えて、って言っても教えてくれない。ずっと笑ってる。



(さっきのショートのべた褒め、口に出てたの気づいてないみたいだし。初恋もまだの心優にはわかんないかな。あ〜、楽しみ♪)





ファンクラブのお姉さま方が怖くて、いつも野球部の練習を見ることは叶わなかった。それでも、帰り道が楽しみだった。

目で追うその人はいつも同じ。野球の神様に愛された人だと思う。

羨ましい〜!あたしは嫌われてるのに!(正しくはソフトボールの神様に。野球とソフトボールを同じだとするのは、賛成しかねる。)

スポーツ科2年、小野寺(おのでら) (しゅん)先輩。

野球雑誌にも取り上げられたこともある凄い人。

気さくで話し安くて、人気がある。

ちなみに、この情報は全部由希菜(ゆきな)ちゃんからですよ。あたしが調べたことではないんです……!

由希菜ちゃんは新しくできた友達の内の一人。

マネージャーになりたかったらしく、でも無理だと悟り諦めたんだって。(あたしのマネージャー試験はぎりぎり不合格だった…………。)

「毎日下校中に練習見るのが楽しみなの?」

「…うん。」

「小野寺先輩と他の部員の違いとかある?」

「あるかも。」

「じゃあ、今先輩のこと考えてみて。」

「?」

由希菜ちゃんの言うことに疑問を感じながら、素直に従う。

やっぱり素敵なプレーばっかり思い出す。凄くかっこよくて、練習用ユニフォームの汚れだって計算されてるみたいで。

「里佳ちゃん、もう決まりなんだけど。完璧だよ?」

「由希菜もそう思うでしょ?」

あの、さっきから二人の言ってることがわかんない。

わかんないまま二人の言葉を待ってみるけど。

「やっぱり本人に気づいてもらった方がよくない?」

今のは里佳。

「ずっとこのままだったらどうするの?」

次のが由希菜ちゃん。欲しい答えをください!






そして、わざわざ場所移動。中庭のベンチ。周りには誰もいない。

「つまり要約すると、心優は恋しちゃったのよ♪」

「……………。ちっがぁぁう!」

「吠えないでよ。SBFCにバレたらうるさいんだから。」

ずっと黙っていた由希菜ちゃんに助けを求めてみる、が納得してる。何で?

「あたしは一選手として、尊敬してるだけだよ!?あんな選手他に居ないから…!」

「心優ちゃんはさっき正しく“恋する乙女”だったよ〜♪」

「ぜえったぁぁい、ちっがぁぁう!」

「お互い頑張ろ!心優ちゃんは「だめ。本名は。どこで誰が聞いてるか、わかんないんだから。」里佳さん、恐いのですが。正直。

「だよね……。じゃあ、ミニテンプラにするね。」

「由希菜ちゃん、ミニテンプラって何?」

今度こそ答えを!

「あたしは・・先輩の彼女になる為に頑張るからね!」

ああ、またくれなかった…………。

って誰の!?声が小さすぎて聞こえない。

今野(こんの)圭斗(けいと)先輩だよ!」

注、小声。

「本当にかっこよくてね、渋い感じが。正捕手じゃないけど、白尾先輩も油断したらその座が危ないっていうくらいの人で。通いらしいけど、猫飼ってるんだって!マスク♂とミット♀っていう名前の二匹。あたしギャップある人がいいんだぁ(はあと)」

眩しいー!本当に好きなんだ、今野先輩のこと。

先輩の話をする由希菜ちゃんは本当にきらきらしてて。いつもより可愛く見える。恋をすると綺麗になるというのは嘘ではないんですね!

てか、マスクとミットって。ペットにまで野球用品の名前ですか!?






それから、放課後練習する先輩を見る目はだんだん変わっていくのが自分でもわかった。

小さな憧れは少しずつ大きくなり、これが恋なのだろうかと意識する。普段の学校生活でも遠くからつい探してしまうくらい。

「瞬ー!」

SBFCの人たちが口々に名前を呼んだ。そんな人たちがほんの少し羨ましくて。でも、堂々と応援できる代わりに自由がないのは嫌だな。

今日の練習はフリーバッティングだ。

スウィングは綺麗だし、何より思い切りがいい。

ボールがフェンスに勢い良く刺さるような打球。

他の選手もガンガン打ってる。外野の三方向を順々に打ちわける人も。

あっ、由希菜ちゃんの好きな人が今から打つみたい。由希菜ちゃんは渋いって言うけど、なんていうか強面でゴツい……!

ちょっと怖い、かも。

あんまり理解できない……。



今日の夜ご飯何にしよう。昨日はハンバーグで洋食だったから、和食で煮物とかがいいかな。

(りく)は今日少年団の練習かぁ。

ご飯の準備よりお風呂を先にしよう。

あ、飛行機雲。夕焼け色の画用紙に白いクレヨン。










いつの間にか夏が来ていた。

普段の登校でも少し汗ばむ。

いつも通りの日常が出来ていた。

学校で眠気をこらえて授業を受けて、里佳と由希菜ちゃんとのお喋りを楽しんで。結局、部活にも入っていない。

いつもと違うのは、学年週番の仕事があること。

生活委員は当番が回ってきたら、1年生の教室の戸締まり、消灯を確認。

それから学年週番日誌を記入。仕事内容を確認せずに委員になったあたしがダメなんだけど……。


本音を言えば………めんどくさいぜ、こんにゃろう!

「もう、あたしカルシウム足りてないの!?」

独り言にあたしって痛い子だわ〜、と廊下の窓を閉めた。

「独り言って寿命短くなるんだっけ……。」

ちなみにこれも独り言だったりする。

唸りながら、日誌を書いて先生に提出。

やっと、帰れる〜♪

浮き足立って、帰り路につく。今日は一軍はオフらしく。(ちなみにこれも由希菜ちゃん情報。)

でも、関係ないとばかりに選手は自主練習している。バッティングフォームの確認の素振り。ティーバッティング……その他諸々。

転がってきたボールが植え込みに隠れた。

ボールの管理は大切だ。野球はボールと野球用品が無いと出来ないんだから…!鞄をかわいたアスファルトに置いて手を伸ばした。

もうちょっと、あと少し。手が届かない。

植え込みさん、失礼します。

軽く枝を掻き分けて、やっと手が届いた。

立ち上がった瞬間、目の前にいたのはあの人で。

息が止まってしまった。

「ん、ボールありがとな。」

柔らかな笑顔と言葉。

赤くなってないか、すごく心配しながら、ボールを手渡した。

あたしは秀岳館高校の一女生徒なわけで。由希菜ちゃんみたいに積極的に話しに行くことも出来ないわけで。

つまりはチャンスはもうこれきりなわけで。

ダメでもいいから、とにかく伝えたら、何か変わる気がするから…。

女神様がくれた好機を無駄にしないんだから………!








「あの、先輩が好きです……!」








あたしの青くて、急ぎ過ぎにも急いだ、人生初告白。

思いつき短編です。

初恋にすごく不器用な女の子を書きたくて、書かせていただきました(^O^)

最初、考えていた方向とはちょっと異なります。

30度くらいでしょうか……?


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