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con-tract  作者: 桐識 陽
4:Con-Tract
28/36

7、共に(con)引き合う(tract) 上

この物語はフィクションです



 7、共に(con)引き合う(tract) 



 その衝撃の凄まじさに、容赦なく私の体は弾き飛ばされた。

 「きゃぁッ!!!??」

 進とミノタウロスの拮抗で起きていた力の衝突からの余波も凄まじかったが、これほどまでなかったはずだ。アレが暴風だとしたら、今のは一瞬の竜巻。

 しがみ付いていた倉庫の外壁と共に飛ばされ、地面に引き倒された私は生きていることが奇跡だと思いながら、冷たいコンクリートに張り付きながら、目線を上げる。

 なにがあったの? 未だ轟音が反響する世界で呟くが、小さな声では未だ反響するあの一撃の残音にかき消されてしまう。

 そう、一撃だ。

 一撃で、あのミノタウロスが倒された。

 誰に? 

 進だ。彼しかいない。

 進・カーネルが、神格ミノタウロスを倒した。あれほどまでの劣勢があったのにも関わらず、その確信的とも思える一撃による勝利の瞬間だけは垣間見えた。

 ただ……

 (一体、なにが……)

 ただでさえ、常識外れの力場と力のぶつかり合いが起こす圧力下であったため視覚情報に脳がついていけなかった。その上、それを遥かに上回る衝撃の正体など正確につかむことができるはずもない。

 私の視力で唯一理解できたのは、ミノタウロスが進に切り裂かれ、とんでもない速度で後へ吹き飛ばされた姿。つまり確実に把握したのは結果だけ。なにが起きて、ああなったのかが、わからない。

 たった一度の衝撃に、目に見える世界はガラリと変わってしまっている。衝撃波の影響で、視界を濃い粉塵が覆い、何も見えないでいる

 (進は……?)

 視界を塞ぐ粉塵の中を目を細めて、彼の姿を探す。

 不安を拭いたくて、赤子のように、あの紅い目を……。

 そして、始めに

 

 

 「GURUUUUU」

 


 粉塵の中に写る巨大な影と低い唸り声をとらえて“しまった”。 

 「―――――ッ、――――ッ、―――――ッ」 

 それはいた。

 確かにいた。

 思考に焼けつくほどの巨大な恐怖がソコにはある。

 (なに――――、アレ――――)

 それを見た瞬間、突発的に声を出すことを必死になって止めた。怖いモノ見たさなどで正体を確かめようと思うことすら憚られる存在だと人間の本能と心臓の鼓動が警告してくる。

 手で口元を押さえた。目も伏せたかった。でも、できない。

 怖かったのだ。目を逸らすこと、瞬きの音ですら聞かれたらどうしよう、そう思ったらどうすることもできなくなった。

 身動き一つするな、と魂が発狂する。

 アレは、危険だ。人が、いや生態系の頂点であっても、アレに近付く事は死を意味すると直感的、強制的に悟らされる。食物連鎖のシステムを、人間が作った基礎概念など無視して、アレは均等に魂さえも喰らい殺す存在だと、脳が、魂が理解してしまったがために、私は恐怖で身動きが取れない。 

 「GURURURURU」

 唸り声が聞こえる。それを耳に入れるだけで、涙がこぼれ落ちそうになったがせき止めた。呼吸も止めているため体が酸素を求めているが我慢した。本当は鼓動を打つ心臓も止めたいのに、それだけは止められない。

 矛盾しているが、生きるために、今は死にたかった。

 私はアノ巨大な存在に気付かれることを恐れながら、気絶するプロセスを実感する。

 アレは怖くて意識を無くすのではない。死の恐怖から精神を守る行為なのだ。だが、死に慣れてしまった私は気絶することができない。つまり、ただひたすらに耐えるしかない。

 気付かれれば、私はあの巨大な胴をもつ影の大剣のような刃が揃い生える巨大な(アギト)に、あの大地を踏みしめる足に、爪に、背から生える翼に容易く殺されてしまう。

 影だけでこれなのだ。姿を見ようものなら、私は――――死ぬ。

 そんな死の恐怖にさらされながら、影を改めて見上げた私は

 「……GUURURN」

 影が笑った。

 「え?」

 そんな気がした、その時――――

 ――――透き通った日の光と共に、朝の海風が吹く。

 粉塵を吹き飛ばすほどの強い風。

 風は粉塵を、影を吹き飛ばした。

 その影が居たはずの中央で、(たたず)むのは……

 


 影を作り出した本体(死の恐怖)の姿はない。

 そこには……ただ、一人。“無傷”の男が立っていた。

 「……(シン)


 

 「…………」

 あれほど重傷だった左腕は元の形をとり戻し、体中から噴き出してた血の跡も、かすり傷すら、無く……もちろん翼など、生えてない。

 回復という言葉では済まされない、タイムスリップでもしてきたかのような治り様だった。

 (あんな……あんなに重傷だったのに……)

 彼の体にはさして変化はない。ただ衣服はズボンはかろうじて原型を留めているが、それから上、シャツはもう無いに等しいほどズタボロ。

 だが、進の剣であるイザナミにはこれまでにない変化があった。

 剣の表面よりも奥。刀身の内部に、細い揺らめく光の筋が一本通っている。壊れかけている印象はなく、今にも消えてしまいそうなのに、力強く暗い青色の光がある。まるで剣の底から光が漏れている様であり――――あの太い刀身が扉であり、その奥にある世界から光が漏れ出ようとしている、ようにも見えた。

 「…………」

 そんな息を呑むような変化を理解できているのだろうか? 当人の進は真っすぐに前を見つめるだけ。

 その先にはミノタウロス……ではなく。

 「(マコト)君」

 立花(たちばな) (マコト)が倉庫の外壁にめり込むように、背中をあずける姿があった。あの白い猛牛の神格ミノタウロスの姿は影も形もなくなり、代わりにイザナミの中にある暗い青色と同じ色の光の燐光を纏っている。

 「……ふむ」

 考えるような鼻息を出したのは進。進は右手に握るイザナミを持ち上げ、コンコンと左手でノック。剣の中央を貫く暗い青色と信の周囲に漂う光を見比べる。しかし、光を拒絶するような黒色の大剣はなんの反応も示さず、進は諦めたようにイザナミをダラリと下げた。

 改めて、信へと向き直る進は、無表情のまま。

 「クソガキ。もう、いいか?」

 「なにが……だよ」

 対する信は息も絶え絶えながらに返事を返す。

 「答えだよ。見つかったかって聞いてんだ」

 「あぁ……無理だったよ」

 目をつぶる信。絶望にも似た諦めがそこにはあった。

 「あんたの、言う通りだよ。俺は何も考えてなかったんだと思う……いや、答えから逃げてたんだ。俺は、なんのために生きてるのか、意味、が、ほしかっただけなんだ」

 「それを答えとは、言わないのか?」

 進はゆっくりと信へと近づく。

 「違うだろ。きっと違う。こんな力に意味なんかない。あんただって言ってたろ……」

 「言ったな」

 一歩。

 「だろ? おれは、おれはただ。何かに必要とされたかったんだ」

 「スッキリしたか?」

 また一歩と近づき。

 「したよ。だから、もういい。――――殺せよ」

 「ああ」

 最後、二人の声は冷たさを持っていた。



 次の瞬間、ゆっくりとした歩みとは対照的な速度で進はイザナミを信の胸へと突き刺したのを、真横から目撃する。


 

 「ッガッ、ハァ」

 真横から見たから突き刺さっているように錯覚している、などでは決してない。完全にイザナミが信に食い込み、彼の口から血を吐きだされる。

 私は驚きで声が出ない。ついでに言うなら信も同じような心境なのか、目を丸く見開いてる。

 「たしかに殺したぜ」

 進だけが冷静だった。その進が冷徹な目と表情のままにイザナミを引き抜く。

 


 血のりがまったく“付いていない”イザナミが引き抜かれ、その後、バキンと何かが砕け散る音が周囲に響きわたる。



 それは聞きなれた音。イザナミが魔術を拒絶する音色に似た響きであった。

 「オマエの暴力(ミノタウロス)を、な」

 彼の言葉にハッとなる。

 「――――傷が」

 「ない」

 未だ冷静なままなのは進だけ。私と信は連続する驚きに動揺するばかり。

 なぜだ。剣先はたしかに彼の体にもぐり込んでいたのに。

 「ハッ、なんだぁ、そのアホ面は?」

 口が開きっぱなしの私たちが面白いのか、進がいつもの人を馬鹿にしているような笑みが戻っていたが、すぐに無表情にもどる。

 「……殺した、とは言ったが、力の源泉ごと断ち切れたわけじゃねぇ。薬と同じ。一時の対症療法に近い。いずれまた、オマエの中にある暴力(モン)は、暴れ出すだろうぜ」

 「なんで――――」

 「あぁ?」

 「なんで、俺を助けるゥブラッ!!?」

 信の疑問が言い終える前に語尾が変化したのは、進が刀身の平らに、信の頭をブッ叩いたからである。

 彼の当然の疑問に、進がコミカルな怒りを浮かべた表情そのままに、なんども信の頭をバンバン叩く。

 「なんで? おぉい、本気(マジ)で言ってんのか? あれか? 頭の中が空なのか? そうなのか、あぁ?」

 「や、やめっ」

 バン、バンの音が次第に、ガン、ガンになっていく。

 「最近のガキはアレか? 自殺願望でもあるのか? 明日が見えないから、楽しい日々のまま死にたいとかですかぁ? 生意気ですか? サムライ気どりですか? テメェら、若い世代がそんなんだから、未だに諸外国の日本におけるイメージが、ハラキリ、サムライ、スシ、スキヤキ~のままなんだよ。いつまでたっても萌え、薄い本、エロゲが加わらねじゃねぇか」

 最後の一部は加わらなくていい気もする。

 ガン、ガンが遂に、ズドンになりかけた。

 「いい加減にしろ!!」

 信がイザナミを振り払うように、腕を投げやりに突き出す。拳が当たったイザナミは、その衝撃から宙へと飛ぶ。突然のことで進の手からスッポ抜けたのではない。確実に信の膂力(りょりょく)によるものだった。

 「力はまだ、あるの……かよ……?」

 「どこ聞いてた、クソガキ。俺は暴力(ミノタウロス)を切ったつったろが。馬鹿力を残るだろうな。ただ、理不尽は使えないぞ」

 そんなに器用なことができるのか? 

 いや、出来る様になったのか。

 あの陽炎のような変化を得たイザナミの力。あの得体のしれない光を灯す黒の大剣には未知なる何かが潜んでいるのかもしれない。正体不明は進の体だけではないということだ。

 神格の領域へ簡単に介入できる異常の塊共に、信は開いた口が戻せなくなっている。そんな彼を置き去りに進はイザナミを拾い上げに背を向けて、ゆっくり歩き出す。

 「何故助けたか、だ? 助けてねぇだろう。俺は誰かを助けるなんてマネできない。俺はただ、俺の我を通しただけ。たすけてほしけりゃ、どこぞの騎士様にでも頼めよ」

 進は背中で語る。いや、向けて語る。

 「俺はオマエを助けない。助けた気もなけりゃ、その気もない。ただ、どうしても俺に助けてほしけりゃ、また斬ってやるよ……有料でな」

 地面に突き立つイザナミの柄を掴み、強引に引き抜き、また背に収め、振り返る進。その表情はいつもの皮肉げに曲がる笑みをつけていた。

 「どうして……」

 「まだ言うのかよ……。俺も青春を生きる心根やさしい青少年だからな……あんだぁ、その面は? ……まぁ、アレだ。……ただの礼だよ。オマエはどうかしらんが、俺は答えを見つけた。答えを出すには、俺はまだガキで、人生の結論を付けるには早すぎるって、そんな答えを、な」

 若い十代は悩みが多い。将来、今、過去。それぞれの軸で悩み、答えを見つけようとする。悩むのはいい。ただ、人生の答えまで考えなくてもいいと、私は思う。

 そこまで人生経験がないから、ではない。たった十数年で人生を決めるには、あまりにも“()しい”からだ。

 「勉強して、バイトして、友達(ダチ)とくだらない遊びしてでもいい。年と経験を重ねて人生の幅を少しでも広げてから、人生哲学してみろよ。自分中心の悩みなんてくだらねぇと思えるようになるまでな。そこで、ようやくだ。そこまで、俺達は行ってるか? 進んでるか? まだだ。そうだろ?」

 誰かが言った――――“十代の頃の努力で自分の人生の大半が決まる”。

 確かに一理あるのだろう。だが、人生の十分の一程度で大半が決まってしまうのなら、それ以降の人生は意味がないということになってしまわないか。

 「たしかにテメェの場合は特別枠だ。神格(ミノタウロス)なんざ体に入れて、人間とは違うと嫌でも自覚させられて来たんだろう。わかるよ、俺もだ。だけどよ、迷ってる間にも時間は過ぎてく。何もしてないと同じだ。だったら行動してたほうがお得だぜ」

 学歴、知識、対応および適応能力と思考、身体能力を重視し生きれるのは、たしかに十代の頃。しかし、人生は続く。上記の言葉を私に言った人間はまるで、十代以降の人生はクソだと言うように、その言葉を使っていた。そこから始る八倍はある人生に絶望すらしていた。

 それはあまりに悲しく、惜しい。あの言葉を間違った意味で使ってしまった彼は、自分の人生に意味を見いだせなかったようなものだから。

 「オマエは動いちゃいたが、一心不乱に暴れ回ってただけ。俺はそれが見苦しく、ウザかった。だから殴り付けて止めた。ただ、それだけの話だ。行動の結果を恐れてる暇があるなら、最悪の結末を回避することに悩んで的確に行動しろ。不安が貯まって動けなくなるなら、自分を殴りつけてでも移動しろ。戦場でポカンと立ち止まってる馬鹿は、流れ弾に当たって死ぬだけだ。……そんな新兵みたいなオマエにゃ自分が何のために生きてるなんて命題に取り掛かるのは――――」

 ――――“十代の頃の努力で自分の人生の大半が決まる”。これは正しい。だけど、結論(こたえ)ではない。ただの正解に過ぎない。

 人生の意味(こたえ)は、それら数多の正解と、それ以上あるであろう不正解を多く取り入れた自分なりの公式に当てはめ作り出す定義。十代を含めた人生すべてで作り出す、自分だけの大計算なのだ。

 “(すすんで)”、“(なくして)”、“×(のりこえ)”、“÷(わけあう)”など多くの過程を経て、時折“(イコール)と言う名の途中結果(ふしめ)、もしくは最終結論()をむかえる。

 例え、不幸(マイナス)が始めから、後から人生の中にあっても結論を急いで、絶望するのは間違い。それ以降にマイナスが続いたとしてもそれは、絶望のイコールではない。

 私がそうだった。亡くして、失くして、無くして……絶望のイコールに至るところで、彼と出会った。私がこれから経験する人生で、たぶん最高値の存在(プラス)に。

 この世の人間すべてにそんな奇跡が起こることはないだろう。それでも、私は言いたい。もったいない。惜しいではないか?  答え(イコール)には――――

 「――――まだ、早いんじゃねぇか?」

 私の心と、進の言葉が重なる。

 進はこの話は終わり、というように信の前から去るように歩き出す。

 「その暴力の抜けた頭でもう一度、世界を見て、動いてから考え直せよ。その上で、もし答えが出たら教えろ。それが今回のオマエが俺に払う依頼(てうち)料だ」

 「ま、待てよ!? 俺は……」

 「待たねぇよ。言ったろ、オマエは“ついで”なんだ。まぁ、落ち着いたら事務所にでも来い。苦いコーヒーぐらいは出して、世間話程度は付き合ってやるよ。さて……」

 歩む。彼は歩む。

 こちらに向かって。

 ジャリ、と靴をならして。

 「待たせたな、撫子」

 「進……」

 そうして彼は、座りこむ私の目の前に立った。

 


 視点変更 1



 「ええいっ!! しつこいですわよ!!」

 港の入口であるフェンスを背に、涎を垂らしてのしかかってくる男の顔面を、槍の柄でぶん殴ってやった。

 「まったく……もう太陽は上がってますわよ。これじゃぁ、間に合わないじゃない……」

 自分、ローザ・E・レーリスはあまり人に言えない日課があった。

 「……なにか約束でもしてたの?」

 背後、フェンスの向こう側から尋ねる声。木の種……寄生体から救えた数少ない二人。宗太とミズさん? が心配そうにこちらの大立ち回りを、互いを庇い合う形で見ていた。

 「ええ、ソドムのパン屋が使わないパンの耳セットをタダでくれる列に……いえ、ソドムにおける血を見る争奪戦必至の貴重資源の無料配布に間に合わなかっただけですわ」

 無理に言い直したため、声にドスが利いてしまったようで、宗太はヒィィッ、と怯え、事情が大体わかったような水さん? は、あぁ、と苦笑した。

 イライラがさらに募る。

 どこぞのゾンビ映画のようにワラワラと現れる寄生体共の数はみるみる増える。

 引き換え、こちらは不殺を貫いてやっているのだ。

 始めは錬金術で作った素材を使っていたが、30を叩いた所で私的の経済状況は赤字になることは明白と判断。物理攻撃に切り替えたしだいであった……

 されど寄生体どもは叩いても、叩いても、うめき声をあげて立ち上がってくる。

 まるで、パンの耳を得ようとするあまり毎回戦闘に行為に突入するソドムの低所得者たち並みのタフネス。

 「金髪のねぇちゃん! 下がったほうがイイって! また段々増えてきたよ!」

 宗太が叫ぶ。彼の言う通りだ。フェンスに背をかけ、あたりを見回せば、(わたくし)を取り囲むようにゾロゾロと虚ろな目をして体から植物を生やす異端共がむらがっている。

 「ですが、ここで退くわけには……」

 この後のフェンスを超えれば、ある程度の自由はある。ただし、私が引けば彼らは必ずこの金網の策を数で押し倒し、街の方へと拡散する。

 逃がさぬことなど簡単だ。だが、このフェンスを越えさせたくなかった。 

 (このフェンスは私にとって物理的な境界線上というより、心理的な一線ッッ……)

 この防衛を始めた当初から……この策を越えられるようであれば、一体残らずその寄生体を殺そうと、決心していたのだ。

 殺すことに躊躇いを持っている訳ではないが――――

 (進に頼まれたのだからッ!)

 任せた、としか彼は言わなかったが、(わたくし)自身がそんな失敗に等しき怠惰を許すことができない。やるからには、最善の結果を残す。それが今自分ができる彼に向ける最高のアピール。

 「ここは絶対に死守しますわッッ!!」

 「ねぇちゃんッ!!?」

 その声に不安を憶えて背後を振り返る。

 それは安否の声色ではなかったのだ。

 それは動揺の色濃い悲鳴。

 (なにがっ……!?)

 振り返った先に、居たのはくだんの二人、と黒づくめに、ハエの様なマスク。

 どこぞの特殊部隊に似た、格好の武装“集団”がそこに―――― 

 「ナァァァアアアッ!!」

 「っ!? しまっ」

 それを見た私の隙をつくように、寄生体の一体が私に跳びかかってきていた。

 間に合わない。そう直感の暗算が完了した瞬間―――――



 ドォォッッッ、と、“聞き慣れてしまっていた”銃の音が響き渡り、私の真横を駆けぬけた銃弾が跳びかかってきた寄生体の肩から飛び出る木へと突きささった。


 

 銃弾の風圧に顔が痛む。もし髪が巻き込まれたと思うとゾッとする、あの威力。

 そして、あの鈍く銀に輝くバレル。

 間逆の方向へ吹き飛んだ寄生体の彼は、宙を跳び、仲間たちを巻き込んで対角線上の建物に叩きつけられた。

 ピクピクと痙攣する寄生体を唖然と見た私はすぐには我には返れなかった。

 「威力は十分すぎる。なのに安定感が予想以上にある。もともと、パーツに分解されていただけなのだから、当然といえば当然だろうが、それでもアイツのカスタムを完全再現……さすがは製作者、か」

 その“シルバーモデルのデザートイーグル”を両手で握り、一人呟く男はスラリとした長身の体に高級感が出ている白地のスーツをきっちり着こみ、頭髪は見事に揃えわけられた頭髪をしている二十代にも散十代にも見える男性。

 その整えられ過ぎた風貌に、だらしないアホ毛ピョンと出ているのが笑いを誘うが、彼の握る銃が、あまりにも“失われた彼の相棒(じゅう)”に似ていたために声を無くしていた。

 男は、スーツの中にその銃を仕舞った。一瞬であるがチラリと私は見た。あのドラゴンのエンブレムがはめ込まれたグリップを。

 (やっぱり、アレは……)

 奪い取るという選択肢が頭に浮かんだ瞬間、黒ずくめを引き連れるスーツの男は、鋭い目つきでこちらを……いや、寄生体たちを睨みつける。

 「此処に居るのは、“逃げてきた”2割程度の逃走兵……後の残りは、敗者の肉を喰らいに行ったというところか? 敗北したのが、あのクソガキの方なら見逃してもよかったが……まぁ、いい。そこのクズ共、さっさと道を開けろ。今日の私は気分が悪い」

 寄生体たちは怯む。

 私たちも怯む。

 「なんだ、この呆れかえるような蒼い空は? まるで、アイツがあそこにいるようじゃないか」

 まるで始めからそこにあったとでも言う様に、一大隊規模の戦闘部隊がヌルリと突然に現れたから。



 視点変更 2 

 

 

 見つめ合う二人は、未だに何も語ろうとしない。

 地面に座り込んだままの九重(ここのえ) 撫子(なでしこ)

 彼女の前に立ち、ただ見下ろす(シン)・カーネル。

 それを離れた位置から黙って見つめる俺、立花(たちばな) (マコト)

 何もしらぬ第三者であっても、逃げ出したい空気が二人の間からこちらにまで流れてくる。受けたダメージが未だに抜けないため、倉庫の壁にもたれかかる姿勢から動けないでいる俺はそれを見つめるしかない。

 「撫子」

 「……はい」

 始めに口を開いたのは進。それに応える撫子の声は不安に満ちていた。だが、同時に覚悟に近いものを感じたのは決して気のせいではないだろう。

 「俺はこういう生き物だ。武器をもって、敵がいて、おまけに人間の形をしているだけの化物だ」

 「はい」

 「今さら、俺は武器を捨てられない。平和な生活なんてものを求められる立場じゃ、もうない。いずれ、どこぞで朽ち果てるだろうよ」

 「はい」

 両の手を広げ、撫子に“自分を”見せつける進。彼の言葉を素直に聞く撫子は晴れず、俯き気味。

 「……だが、オマエは違う」

 撫子の顎が少し上がる。

 「オマエは、幸せを求められる。人を見捨てたとか、死者がどうなんてどうでもいい。すべてを忘れて、幸せを掴める人間に、オマエはまだ戻れる立場にある」

 「…………」

 「だが、俺と一緒にいれば、かならずオマエは自分の異常性に否応なく苛まれることになる。悩み、苦しみ、痛みを受けることも必ずあるだろう」

 「…………」

 「今なら、まだ間に合うんじゃねぇか?」

 「…………」

 「俺の元から、あの事務所から、ソドムから出て行けよ。今のオマエには本気で心配してくれる親友(ダチ)たちがいる。頼れる奴も少なからず増えたろ。昔とは違う。誰にも頼れないなんてことはないんだ」

 「…………」

 「普通、になってもいいんじゃないか?」

 進は語る。撫子は黙って聞き続ける。まるで人形のように動かなくなってしまった撫子に、進は提案し続ける。

 それは聞いているだけの人間には、まるで別れ話に聞こえた。別の幸せを、別の所で。それが両方にとって最善だ、と。

 それは確かに正解なのだ。第三者から見ても撫子は戦火に飛び込み、死を量産する進という存在から離れるべきだとは思う。戦後とは言え日本は比較的平和な状況だ。温和な空気に戻り、ゆっくりと日常に適応していくことが、死をあまりに見過ぎてしまった彼女の心を落ちつかせ、正常に戻すには一番の道なのだろう。

 それでも

 「……私は」

 「…………ッ」

 撫子は真っすぐに進を見据える。進は何かに驚く様に小さく震えた。

 「――――私は、生きたいです」

 それでも、一番の道が、最善が、その人間にとって最高とは限らない。

 瞳に、俺より、進よりも強い光を宿した女子高校生が、あの紅い瞳を睨みつけ、はっきりと“選択”する。

 「それが、進との、あなたと私の契約です。勝手に破棄しないで。自分勝手でいい、と言ってくれたのは進です。もう一度、言います。私は、生きたい。見殺しにしてきた命がどれだけ私を呪おうとも、生きたい。この意思だけは、もう捨てません。もう偽ったりしない。だから、私を守って。あなたが、あなたの傍で、完璧に守ってください」 

 かつて吸血鬼に完璧を求められた女は、他者にそれを求める。完璧などというありもしないことがわかっているはずのモノを、魔王がいたら、などと人から恐れられる守る行為にもっともふさわしくない戦人(いくさびと)に、少女はこの世界でたった一人に求めている。

 「……別に離れていようが

 「できますか、進? 離れて完璧に守ってくれます? 完璧ですよ? 100%ですよ? 傍にいずにできますか? 私、これでも自分の不幸ぶりにだけは自信がありますよ? 一か月に一回は厄介事に巻き込まれますよ?」

 意地悪するような口調と上目使いで、変な脅迫をされる進は否定できない事実に顔が引きつる。

 「進・カーネル様」

 手が伸ばされる。撫子の手が、進に向けて一直線に。その手を唖然と見下ろす進に、撫子はやわらかに願う。

 「私を、生かして。あなたの傍で」

 それは愛の告白に似ていた。たった一人の男を選んだ女の告白。彼らの間には未だに愛のような感情はない。ただ、それと似て非なる強く、硬い、“契約”の告白じみた提案。

 その伸ばされた手を、進は見つめる。少しして、口を開いた進には若干の躊躇(ためら)いがあった。

 「……オマエは……俺は、オマエを泣かせた。そんな俺でいいのか?」

 「あんな進じゃ、嫌です」

 きっぱりと断じた撫子の表情は硬い。

 「私からお願いしてはいますが、要望ぐらいはさせてください。あんな、大切な物を奪われて、泣きじゃくるような弱い進じゃ、嫌です。|他者の意思と悪意に汚されない《つよい》進がいいです。彼方らしい、あなたが良いです」

 進が撫子の言葉に何かを悟った様に、小さな驚きに身を振るわせる。数秒間そのまま止まったが、なるほどな、と小さく理解を示し、目をつぶる。口元には自傷じみた笑み。

 「そうか……そうだな」

 「どうですか?」

 俺はこの二人の間に何があったのかを詳しくはしらない。ただ――――

 「改めて了解した、我が契約者。ただ、この約束に――――」

 今までの弱弱しく別れの提案をしていた進は、若干、困った顔でも、力強い笑みをとり戻した。

 「――――後悔なんてありません」

 そうかい、と呟く進に、伸ばしていた手を掴んで、立たされる撫子には、一切不安のない朗らかな笑みがあった。

 俺はこの二人の間に何があったのかを詳しくはしらない。ただ――――彼は答えを見つけたことだけはわかる。人生の、などと大きな問題ではなく。この一瞬、この刹那に出すべき、正しい答えを、彼らは共に得たのだ。

 俺はそれを羨ましくも、なんとも貧乏くじをひかされた気分で二人を見つめた。

 やや和解へのテンポが早すぎるように感じるのには、どこか互いがこれまで悩み続けた成果が表れている。俺はそれの後押しをさせられていたのかもしれないとさえ、思ってしまう。

 朝日が昇り始めにしてはやけに蒼い空。

 二人はその雲ひとつない蒼空の下で、見つめ合う。互いの意思を確認するように。撫子はこの空のような笑顔。

 (あぁ、ちくしょう……羨ましいな)

 進は俺に無いモノを持っていると思っていた。

 だが、違う。彼は、今、得たのだ。守るべきモノを。己の中にあるべき気位を。

 そして――――

 進は意思をはっきりと固めた男がする力強い笑みをしながら―――



 「それもそうだな。オマエの借金もついに“億”の位に突入したしな。後悔されても困ったところだ」

 なんか、すべてを台無しにするような言葉を吐きだした。

 


 世界がピシッと音をたてて、固まる。この場にいる、今の言葉を聞いた全員の視界が一瞬、白黒に変わった気がしたほどの静寂がきた。

 ドラマなどでは互いに顔を近づけ合って、キスでもしそうだった雰囲気はブチ壊されてしまった。

 「……しん、なんですって?」

 撫子は笑顔のままにカタコトコトバ。

 いや、突然過ぎる進の発言に思考がついていけず、表情筋が痙攣をおこしているように見える。

 そんな彼女に、ジト目で冷笑に顔を作り替えた進は、ただ淡々と語る。

 「オマエへの通算請求金額が一億を突破したっつったんだよ」

 「ど、どうし

 「どうして、とか口走ろうとしてるんじゃねぇだろうな、このポンコツッ()? 契約料金だよ、料金。テメ、タダで守ってもらってたと思ってたか?」

 進の声色が、口から言葉を吐くたびに怒り色に染め上げられていく。

 「ドレイクの件(はじめ)からがなくなると思ったか? オマエ、いままで何回俺が死にかけてると思ってやがんだ? オマエのせいで俺がどれだけ行きたくもない死地に足をむけてんだと思ってんだ? あれですか? 死にたくないけど、冒険したい若者精神ですか? ふざけてんですか?」

 「べ、べつに私から行ってるわけじゃないです!! ほ、ほら魔剣のときは別にさらわれてません! 偶然、被害者になっちゃっただけで……」

 「なに一つの例引き合いにだしてイイ子ちゃんぶってやがる!! ドレイク、ハンターの件ならまだしも、今度は神だぞ、神!! 大怪我しながら、神話の牛人間と戦わさせられたんだぞッ!! そりゃ、請求額も跳ね上がるわ!!」

 正論という名の後光に照らされ怒る進に、いい雰囲気をぶち壊された撫子がついに逆ギレした。

 「別に怪我とかしてないじゃないですか!! 治ってんじゃないですか!!?」

 「治ってませんん~~!! 見えないところでスっごい痛ぇんだよ。オマエには見えないズボンの当たりが、はれ上がってんですぅ~」

 「なに苦しまぎれに下のネタ使ってんですか!! キャラじゃないです!!」

 「るっせぇな。ぃいんだよ。とにかく払え。さっさと、せっせと事務所のどれ……従業員となって返すんだな」

 「今、さりげなく奴隷(どれい)って言いかけましたよね!!? 言いましたよねッ!? 嫌です!!! 億なんて払えるわけないじゃないですか!! 動きません!! 帰りません!! 絶対ここから離れない!! 永住するゥゥ~~!!」

 「あ、テメェ! なに残骸にしがみついてやがる! とっとと帰るんだよ! テメェが帰らないと依頼が……」

 「ハッ! 依頼!? そういえば、そんなこと言ってた様な……。返せ! 返してください!! 感動を返せ! そんでもって、請求額の半額化を請求します!!」

 「なに被疑者ぶってやがる!! 帰るったら、カエルゾ!!  さっさと地べたから離れやがれッッ!! くんぬぅぁっぁぁっ!!!」

 「いぃやぁぁにゃっにょぉぉぉぉっ!!!」

 「クソが!! マジで離れねぇっ!!?」

 知る人すべてに、世界が平和であるようにと見離され地獄に送られた少女は今、暴力と拒絶と破壊を引っ提げて彼女を救った男に両足を捕まれながら、ある種の返済地獄に引きずりこまれようとしていた。

 「……なに、やってるんダ?」

 同意見な感想を、呆れと安心と混同させた溜息をつく声の主はボロボロの姿で現れた。

 ボロボロとは言っても、それは衣服だけのようだ。

 赤と金が入り混じったストロベリーブロンドの髪は海風にさらされボサボサになっているが、それさえも歴戦の戦士のように見えるのが不思議な、アルバインと呼ばれていた男が右手に剣を握りながら立っていた。

 「っ、いいところに来たアルバイン!! 手伝えっ、このポンコツを引き抜くぞ!!」

 「いや、シン? カブじゃないんだからサ……。それよりも“二人”とも、こっちを手伝ってくれるかナ?」

 彼が指さしたのは背後。

 そこには、ゾロゾロと近寄ってくる集団があった。

 類似性があるとすれば、全員が白目をむいて生気をなくし、体のいずれから木を連想させる枝を生やしているところか。

 「ありゃ……」

 「残飯喰らい……一番大きな魔力が消えて、そこに残った最高の苗床に集まってきていル。ってところかもネ」

 そういって、俺に意識を向けたアルバイン。

 なるほど。あいつらの狙いは俺か。奴らの状態を見て、俺はなんとなく理解した。

 ミノタウロスが消えた今、俺はたしかに弱っている。なにかしようというなら絶好の機会だ。

 始めから目的はこれだったのかもしれない。小山に呼ばれ、ここに集まるようになっていたが、逆。俺の強すぎる生命力に、奴らがむらがっていたのだろう。

 改めて集団を凝視すれば、ちらほら見た顔がある。皆、能力と言う名のギフトを得たと勘違いしていた連中だったモノタチだろう。

 アルバインは確か、“二人”ともと言ったはず。二人の意味範囲に撫子は入らないはず。だとしたら……

 「下がってろ……俺がやる」

 「(まこと)くん……?」

 撫子が不安をむきだしにして、立ち上がってアルバインの前に出た俺の名を呼ぶ。

 「やれるかイ?」 

 「これは、俺の……俺が招いた問題だ。それぐらい、自分が落とし前をつける」

 カッコをつけたつもりだった。だが、予想外に俺の体は限界だったようで、意識が一瞬飛び、前のめりに倒れる。

 「阿呆が。ポンコツ2号になりたいのか?」

 そんな倒れかけた俺の首根っこを掴み、後へ、アルバインの元へとぶつけるように助け起こしたのは、いつの間にかに距離を詰めていた進・カーネル。

 「待てよ、俺は……」

 「なに弱弱しい反骨精神剥きだしにしてやがる。アルバイン、その馬鹿抑えてろ」

 進は眼前に広がる生気をなくして、生命を求めてむらがる死者のごとき軍勢の元へと、自らが向かってゆっくりと歩み寄る。

 「待て!! あんただって、限界のはずだろ!」

 俺には解る。歩幅からでも容易く逆算できる。あれは完全に不調だ。どんな原理かしらないが、体に出来た傷が治っているように見えても、内部や、まして精神的な疲労が取り切っていないのだろう。

 なのに、あの男は歩みを止めない。人ひとりの重みはあるはずの大剣を、片手にぶら下げて、自信が満ちる歩みを止めない。

 「限界? んなもん、とっくに迎えてる。だがよ、出来る“気がする”。そうだろ、“イザナミ”?」

 進が語りかけたのは、この場の誰でもない。無機物のはずである己の武器。

 ユラリ、と右手に握りしめたイザナミを真横に持ち上げる。

 「骨伝導か、それとも精神感応(テレパス)か、それとも未知の伝達技術か……そこんとこは、わからんが。イザナミ(こいつ)が“言ってる”ことを信じれば――――」

 気合いを(つるぎ)に込めるように、無骨な黒の大剣を強く握りしめる。

 進は魔術を、魔力を使えない。その情報は得ていた。だが、これは――――

 イザナミの刀身を縦に裂く様に、暗い青色が走る。その光、その剣から出る光子から炎とも霧とも、はたまた煙とも形容しがたい黒とも青とも判別しにくい色をした闇と言うには薄く、蒼穹というにはあまりに禍禍しさを秘めた“ナニカ”。

 全てを呪ってしまう、そんな印象をもたらせるナニカ。それは神秘的かつ中毒性を秘めた存在――――魔術に見えた。

 その光景に、誰もが見惚れ、呆れ、何が起きたかわからんと目を見開き、口を解放し続けた。

 「――――なんとか、なるだろ?」

 さらに、口を開く角度をあけてしまった俺など眼中になく、進は慄くすべてを見下す様に、さらに前へと進む。

 「できなかったら、悪かった」

 何と無責任な、魔樹に心を支配されていなかったら寄生された彼らはそう叫んだろうか?

 イザナミを後へ引く進は、次に起きる光景に若干のわくわくと緊張を込めた笑顔で暗い青を纏った剣を左肩に引きしぼり――――



 「――――愛せ(のろえ)、イザナミ」


 

 横薙ぎに堕ちた女神(イザナミ)は、呪文と共に振り切られる。

 黄泉平坂(ヨモツヒラサカ)と現世を隔てる境界で怒り狂った女神が、同じく神である己の夫に送った最後の愛の言葉(のろい)

 ただ単純に無神経な夫への怒りから世界を破壊するという感情のみだったのか、もしくは(のろ)う、という言の葉の下に仄かな感情を隠していたのか。それは定かではないが、女神の名を冠する黒の剣を振るう男の言葉には、その下には少なくとも愛があるような気がした。

 邪魔する奴は呪いで優しくぶっ叩てやるぜ正常にしてやる、的なかなり歪んだ愛を体現するように、横薙ぎに軽く(はら)われた剣を沿う様に、暗い青色の陽炎は爆発後の衝撃波のような速度で前方へ広がり、寄生体の軍勢を丸ごと飲み込み、そして――――

 通り過ぎ、陽炎が空気に拡散し消え果たその瞬間には、寄生体は誰ひとり残っていなかった。

 「…………」

 


 体から木を生やし、生気を無くしていた人間は消失し、ただただごく普通の人間だけがその場に残っていた。



 別に、もう元に戻らない人間を殺して、というわけではない。現に、目の前に広がっていた軍勢の数が減った印象はまったくない。居るのは、ただ何がおこったのかわからないために、キョトンとした顔で突っ立つ“元”寄生体たちだけ。

 「寄生していた魔虫だけを(はら)っタ……そんな、馬鹿ナ……」

 信じられない感情を剥きだしに、アルバインは呻く。

 トンデモない事が起きたのはだけは俺にもわかる。アレらは本来助けられなかった連中のはずだったのだ。アルバインが纏っていた雰囲気をみれば、殺さねばならない事態だったことは明らかだった。俺もその覚悟で前に出たはずだったのに。

 そんなもう助けられないレベルの深度まで侵蝕されていた人間たちを助けた男は、剣の陽炎を振り払い、背に戻す(あれ? 鞘もないのにどうして背中に戻せるんだ? ……まぁ、もう、いいか……)とフランクに肩を上げて、こちらに尋ねてくる。

 「で、どうする? この状況」

 「あんたが作ったんだろうが」

 「もうキミがどうにかしてくレ……ボクは頭が痛いから無理」

 「無理じゃねぇよ。あ、アイタタタタ……俺も傷が開いた~ような気がする~。撫子、後は任したからな」

 「えぇっ!? 嫌ですよ! あ、そうだ。私も、え~、私も股関節あたりが痛いかな~なんて~」

 その瞬間、進とアルバインが俺の胸倉を同時に掴んで絞めあげてきた。

 地面から爪先が離れるほど、持ち上げられ常人なら直視はできない死線(めせん)二つが俺を睨めつけてくる。

 「オイ、テメぇ……うちの奴隷になんてことしてくれたんだぁ、えぇ?」

 「キミ……この作品にはR-18タグは付けていないんだヨ。それにヒロイン傷モノにしていいとおもってんのかぁ、アァッ!?」

 「してねぇよっ!!? させなかったよっ!!? おれ頑張ってそこらへんは守ってましたからぁァグエェェェッ!!!」

 く、苦しい。やばい、落ちる。堕ちるッ!! つか、作品とか言うんじゃねぇ……

 そんな三流コントを遠くから、そして、状況を理解していなくても周囲の破壊痕や、片手、背中に武器ぶら下げた奴らがいるために、本能的にここはヤバいと理解し始めた元寄生体たちが挙動不審になりはじめる。

 逃げよう。ヤバいって……、そんな言葉を交わし合う元寄生体たちは、一斉に挙動不審で同じ境遇の周囲の人間に目配せをはじめるが、勘違いバカ二人に首絞められ、生存さえ危うい俺にはどうしようもない。

 それに、彼らの中から完全に魔樹の種子が取り除かれたのかどうかが定かでないのだ。

 もし能力を残し、ほぼ統率を失った彼らが今後どうするのかなど明白。力のままに暴れ、そして、再び苗床を探す寄生体として行動し始めることだろう。一つにまとまっていた今だからいい。これが拡散すれば事態の収拾は困難になる。

 だが、もう遅い。広く拡散した不安が爆発するように、一斉に足が動く音がし――――



 「この場の全員、動かないでください」



 聞く者すべてに、落ちつきある春の木漏れ日のような滑らかな美声が、拡声器を通してその場の全員の耳に浸透した。

 ピタリと時が止まった様に誰もが硬直する。優しげに言われているようで、どこか脅迫されているとも感じられる通告の主は元寄生体たちの後ろに立っていた。

 自然と割れた人垣を通り、黒ずくめの集団を後に引き連れ佇む小さな影に、百に届くであろう人数の視線が突き刺さる。

 年はいくつほどだろうか? 身長と外見から判断するならば中学生程度。白い肌に色素が薄いようで艶と美しさを失わない長い黒髪をツインテールに束ねた清楚な少女だった。

 「我々は、“国家直属”の“専門機関”です。貴方方が“感染した細菌”の“駆除”に参りました」

 声に相応しい美しい少女。だが、年齢と外観の問題から綺麗と表現するより可愛いといったほうが表現的にしっくりくる少女の言葉に誰もが眉をひそめた。

 国家直属、聞こえはいいが、どこの部署だろうか? 専門機関、なんの? 細菌、だぶん魔樹のことをしっている。その上で隠語じみた単語を代わりに使った。なにより、駆除という言葉に害意を感じる。

 それは完全に“なにも聞かずに従え”という意味が込められた脅迫。

 可愛い言葉で言われても、不安感と敵意をワザと煽って正常な判断を奪い、抵抗するなら“駆除(コロス)”と、背後の連中が両手に抱える重そうなアサルトライフルが代弁しているので、ドスを聞かせたヤクザよりもタチが悪い。

 脅しだ、撃てっこない、そう気を張る自信がこの場の誰もが持てない。

 だから、誰もが動けなかった。平和の国、日本にあるまじき異常性の塊に。なにより、軍服のように改造された巫女服を纏う少女に。

 「みなさん、各担当者の指示に従い行動してくださるならば我ら”外異管理対策部”は、皆々様方の安全と命を保障するしだい……なので、手早くお願いし~す」

 折り目正しい綺麗な頭の下げると同時に、背後の黒ずくめたちは規律の取れた軍隊のように一斉に銃を構えた。

 

 

 視点変更 3



 「ふ、ふざんけんじゃねぇぞっ!!」

 どこからか、当たり前の声があがる。

 騎士として、大勢とともに戦うことが多い自分から言わせれば、脅迫して、ハイ、従いますとテンポよくいくことはまずない。

 アルバイン・セイクから見て、外異管理対策部とやらがいう駆除がスムーズに成功するとは思えなかった。

 元、寄生体たちの年齢層はほとんどが十代前後。抑圧に対する敵意が強い世代だ。そんな彼らに一方的な命令は逆効果。そして、

 「は~い、一列でお願いします~」

 あの()だ。あの黒ずくめの武装集団の先陣に立つ彼女がイケナイ。あの外見からカリスマ性があろうとも、人間は外見と年齢で対応を変える生き物なのだ。この場にいる元寄生体たちは彼女よりも年齢が上、つまり彼女は年下。年下に命令されても良いというのはよく出来た人間。だが、世の中が良く出来た人間ばかりでないことは明らかだ。だから、小さく惨めなプライドから、反抗的かつ罵声を上げて抗議する声が上がる。

 「聞いてんのか、クソチビッ!!」

 「あ、ダメですよ~。順番は守ってくださ~い」 

 群衆から出てきたのは元寄生体の中でも威圧感のある体格の男。肥満気味の体中にピアスを差し込み、頭はモヒカンヘアー。どこの時代の不良だ……

 そんな子供なら見ただけで泣き出しそうな風貌に、顔をブルドックのようにしかめながらあの娘に向かってズンズン近寄る。

 マズイな、と思い、剣を握りしめる僕。

 「ぁあ、止めとけよ、アルバイン」

 「シン? なんで、止めル? あの子が危険ダ。それ以上に、このままだと寄生体たちが逃げだすゾ」

 ブルドック顔の男の行動に、元寄生体たちの間に広がってた不安感に、かすかな怒りが含まれようとしていた。人間は他人数集まると集団的な心理で、突飛な行動に出やすい。このまま、一斉に逃げられでもしたら厄介なのだ。

 それだというのに、進は落ちついた……というより、困った様な苦笑を浮かべて、事態を傍観する気が満々だった。

 「とにかく、止めとけよ。オマエ、泣きたくなるぞ」

 「ハ?」

 「進っ、撫子!! あ、それとアルバイン……」

 「オイ、キミ。それとって、なんだイ。それとっテ」

 黒ずくめと寄生体たちの集団を回り込むように現れたローザは、駆け足でかけより、そのまま撫子へ跳び付いた。

 「あわっ!? ローザっ」

 「撫子!! あぁ、撫子!! よく、よく無事でぅ!!」

 心配だったことを隠さず涙目で抱きつくローザに、顔を赤めて抱きしめ返す撫子。なんだかんだで、一番心配していたのはローザだったのかもしれない。

 「舐めてんじゃねぇぞ!!」

 そんなことがあったために、完全に出遅れた。振り返った時にはもう遅し。ブルドック顔が乱雑に拳を振り下ろしていた。

 もう中間にすべりことは不可能。あの小さな顔を、大きな拳が弾き飛ばす。



 その瞬間は、大きな巨体を容易く地面に叩きつけている少女の姿に変化した。



 ビタァンッ、と耳に入れただけで痛い音が、コンクリートに背中を打ちつけたブルドック顔から響き渡る。

 一瞬の出来事に誰もが理解が遅れる。ただし黒ずくめの武装集団と、僕の後で頭が痛そうにしている進だけは予想の範囲内だったらしく、意味ありげな一息を吐いている。

 あの軍服のような巫女服の少女が使ったのは裏当てに近い……いや、合気道の一種だ。

 こめた力をたやすく利用され地面に仰向けにさせられたブルドック顔は何が起きたのかを理解する前に、背の痛みに苦悶しかけたが、少女の手が己の額に添えられ――――そのまま、押し付ける。

 ……再度地面へと押し付けられ、果てには巫女服の袖から出てきた小型拳銃、俗に言うデリンジャーが飛び出し、有無なしで数発ブルドック顔の頭を沿うようにして放たれた。

 ショックが大きすぎたのか、ブルドック顔はガクリと意識を失ったようだ。

 動揺が走る。不信感、と恐怖がいきなり続いたのだ。怒りの声を挙げようとした者。逃げるべく行動を開始しかけた者、それぞれいたが



 「――――ガタガタ騒ぎ出してんじゃねぇぞォッ、この○○○○(ピィーーーー)共ォォォッ!!!」

 あまりに汚い言葉なので、伏せさせていただく。



 拡声器を使ってもいないのに、それを超える音量の汚い罵声が放たれ、世界が硬直した。

 あの春の木漏れ日のような声が一転、ツンドラの寒さを帯びた鋭く冷たい声色に激変したために、驚きと、なんか激しいギャップに襲われ、ホントに動けない……ただ後で「あぁ~ぁ」とマイッタ感じの声を出した進は違うようだ。

 罵声は続く。 

 「どいつも、こいつも遅ぇんだよ!! ガチで○○○○(ピィィィ!)なのか、オイ。○○○○○(ティィィン!!)共ぉよォ!!? 助けてやるっってんだろうが!! ボクの○○○(ビィィィ!!)どこに入れていいかわかんない、とかホザク、うぶな男の子に、ここよって教えてやる年上のおねぇさんみたいに優しく体内から種引き抜いてやるっつってんだッ!! だから、早く並べ、整列。騒ぐなよ、駆けるなよ? したら撃ち殺すぞ」

 「このぉ、アマァ……よくも」

 あ、ブルドック顔が最悪のタイミングで起きたようだ。しかも、直前の記憶を失って。

 「ア゛ぁ?」

 ドスを利かせた怒気が巫女服の少女の口から漏れ――――



 ――――現在、とても表現することが際どい一方的な光景が10秒間続く様です。

 誠に申し訳ございませんが、どうか頭の中で、ナイスなボートを池に浮かべ、優雅な光景が生まれる様に動かしながら、お待ちくださ――――



 そんなお見せできない光景が終わった現場。

 「うぅ……ゴメンなさい。ゴメンなさい……起動中の○ボックス3○6を横から縦にちゃってごめんなさぁい……う、ぅぅう、できごころだっらんですぅ」

 などと、赤子のように泣きじゃくりながら過去の懺悔をうわ言のように語るブルドック顔は、顔を手で覆う様にして、恐怖の形相をした少女に足くび掴まれてズルズルと引きずられていく。

 「はぁい、皆さん。各先導者の指示に従って行動してくださ~い」

 シーン、と静まり返っていた場に、無理に明るくした黒ずくめの男の一人が空気を変えようと声を張り上げる。

 その声に従い、元寄生体たちは迅速に、かつ静かに行動を始める。

 逆らう者はいなかった。憮然とした表情の者は残っているが、皆、アアはなりたくなかったのだろう。僕も嫌だ。あんな仕打ちを受けたら、男として、二度と立ち“上げる”気力を無くすことだろう。行かなくてよかった、助けなくてよかったと不謹慎な思いが否定できない。そして、なんとなく泣きたくなった。日本女性のイメージが粉砕された気分だった。

 それよりも、あの不思議な巫女服の少女には妙なデジャブがあった。どこか、背後で本気でなにかに後悔している困った顔の進と、どこか被る気がする。撫子とローザのみならず、信ですら、進の方を凝視する。

 なにがあったのか、僕にはわからない。ただ、この魔王(シン)に、あの娘の精神的な成長に多大な歪みをを与えられてしまったことは明白らしい。

 「進兄様(あにさま)っ!」

 そんな話題の彼女が、服の袖と黒髪のツインテールを揺らしてかけ足でこちらに向かい、進の“飛びついた”。

 「「「「アニさまッ!?」」」」

 「違ぇよ。ただの知り合いだ」

 「酷いです! ただの、なんて! あんなに私の中に熱い感情をくれたのに、ただの何て酷いです」

 とんでもないことを甘えるように言い放つ少女は、進の胸に顔をうずめて、スリスリスリ。進は、若干困りつつも、まんざらでもないのか、少女の頭を撫でてやる。

 その光景は、仲の良い兄弟に見えたが、進の言葉通り他人ならば、見た目ただのバカップル。

 そんな姿に、進の背後に立つ女性二人の瞳孔が開き、コンクリートで固めたような平坦な表情のまま、胸中の言葉を紡ぐ。

 「……シスロリコン」

 「……変態魔王」

 「黙れ、貧乏錬金術師に億越借金娘」

 「兄様? この方達は?」

 「一つ屋根のしたで暮らす、豪華っぽい貧乏、完璧になれなかったポンコツ、主人公っぽいのに、ほぼギャグ担当だ」

 僕を含めた全員の意思が怒り色に染め上げられ、抗議の声をあげる準備を始める前に、巫女服の少女は進からソッと離れて、腰をこちらに向けて折る。

 「失礼いたしました。私は日本の対魔機関、外異管理および対策を任される一門に所属する、(スメラギ)御園(みその)と申します。お会いできて光栄です“英国の小英雄”、“魔窟の女王の姫君”」

 英国の小英雄とは、僕のことだろう。ある事件を解決した結果、そう呼ばれることがあった。

 だが、魔窟の女王の姫君とは何だ? たぶん、ローザの事だろう。彼女の目が嫌悪に歪み、舌を打ったから。

 「……(わたくし)はローザ・E・レーリス。そんな二つ名、認め憶えはなくてよ」

 「失礼いたしました、ローザ様。あの……」

 「ボクの事は、アルバインでいいヨ。位の高い人間じゃないからネ」

 「ありがとうございます、アルバイン様」

 「で、なんでこんな所にまで出張ってきてる、御園?」

 ぶっきらぼうに問う進。そんな進に頬を膨らませて、なぜ当たり前のことを聞くのか、とムくれる御園。

 「進兄様。私たちは、この国の守護を任されている身ですよ? ただの暴動ならともかく、魔術が絡んでいるのなら、対処するのが当たり前なのです! なのに、進兄様たちがバンバン解決するから、我々の仕事がなくなるんです!! 今回は事前の情報提供があったから、迅速な対応ができましたけど」

 「迅速?」

 進の目が細まる。ミノタウロスや魔樹のことを早期に確認できていたという事。なら、なぜ早めの対処がなかったのか? ミノタウロスはともかく、魔樹になら出来ていたはず。それに対する怒りが進の中に渦巻いていた……のかとも、思ったが違う。

 彼が目を細めたワードは、“事前の情報提供”だ。たぶん、ハジ。彼が外異管理対策部に知らせたとみてまず間違いない。つまり、彼は始めから全て知っていた。犠牲になる人間を助けることができたのだ。進や外異管理対策部などのツテもある彼が何もできなかったはずは――――

 「で、そちらの方は、どなた様ですか?」

 尋ねたのは御園。視線を受けているのは、九重 撫子。

 「? 九重 撫子だぞ?」

 進も不思議な顔して、素直に答えてやる。こいつ、この子にはやけに甘い気がする。

 「ここの……ぁあ、ノスフェラ候の……。御義父上(おちちうえ)様の不幸、残念でございました」

 「え?」

 撫子さえも驚愕する。国内での混乱を防ぐために、あえて秘匿されている部署とはいえ、魔道を知る者を束ねる人間が、吸血鬼ドレイクのことを知らぬとは。たしかに若いとはいえ、無知が過ぎる気がする。

 そんな本人はキョトンとして、僕らの口が一斉に開いたことに小首を傾げる。

 「無駄話は止めて、静かにしてもらえますか?」

 そこへ、鋭く、そして、“御園に対して”余計な情報を与えるな、と言う様な言葉が割り込む。

 その男はブランドモノのスーツをきっちり着込んだ、見事に整えられた正装の男がゆっくりと歩み寄ってくる。 

 「横路(ヨコミチ)兄様……」

 「呼び捨てで結構ですよ、御園。貴方は、私の上司。そして、私は貴方の秘書官という立ち場なのですから」

 朗らかな笑顔と丁寧な言葉。まるで孫娘でも見るような慈愛に満ちた男の眼差しが、やや切れ目すぎる目元に柔らかな印象を与える。

 その顔の形のまま、こちらに顔を向け、一礼する姿が御園とどこか似た印象を与える。

 「私の名は横路。外異管理・対策部、御園様付きをさせて頂いている者です」

 直感的に、この人が御園に撫子の情報を意図的に教えていないのだろう、とわかった。

 たぶん、御園は正義感と責任感が強い。そんな彼女が十数年間、吸血鬼に囚われていた少女のことを知って、ただで済むはずがない。その上、事情を知るすべての人間に半公認されていたなどしれば、なおさらだ。

 「このたびは、我々対応の遅さに多大なご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。本当に申しわけありませんでした」

 下げた頭は今回だけに限らず、撫子の件も加えてのものだっただったのか、とても深い礼だった。

 そして、この横路という男はさらに苦労人らしい。彼女の責任を一人で負う覚悟があるのだろう。頭を下げるその姿は、そう物語ってい

 「……だが、オマエに謝罪するつもりはないぞ、糞餓鬼(クソガキ)

 ……る、ん?

 顔を上げた横路の目はある一点を、進・カーネルのみを、睨めつける。

 笑顔の菩薩が、いきなり夜叉になったのに対して僕らは驚き固まる。

 進と御園だけは驚かない。進は苦笑、御園はガクリと肩を落とす。

 「おいおい、それが功労者に対する言葉かよ……」

 「黙れ、糞餓鬼。オマエにくれてやる言葉など見つけたくもないわ」

 「お兄様! 言い過ぎです!! 今回は進兄様は――――」

 「御園? 本来のお仕事は忘れてはいけませんよ?」 

 「クソオニイサマ? ホンライのお仕事ってなんですか~?」

 「おい、クソガキ。今のが御園の声真似のつもりだったら、撃ち殺すぞ……」

 「わかってんだよ~、お兄様ぁ~」

 「あぁ、もうダメですよ御園。あんな男の真似などしては――――」

 「え、なんのことですか、お兄様?」

 「なっ!? あそこまでクオリティまでマネできるだとぉぉぉぃぉ!?」

 「「ゴメン、ウソ」」

 「オォッイ!!! 誰か、RPG持ってこぉぉぉい!!! この糞餓鬼の口の中にゼロ距離で射撃してやんぜぇェェァアッ!!!」 

 それぞれに対する対応の違いが、二重人格じみている横路で遊ぶ進と御園。なんとなく、この三人の関係性がわかってきた。それをわかっているのは黒づくめ達も同じようで、誰もRPGは持ってこない。

 ゼェ、ゼェと息を荒げる横路は、気を取り直すように背広を整え直して、ゴホンと咳きをはく。

 「……本題に戻そう」

 「そうそう、戻そうぜオニイサマ」

 「保留にしてやるが、いつか殺すからな。 …………立花 信。我々と一緒に来てもらおうか」

 「はい」

 とても素早く、そして従順に反応したのは当人だった。そんな気はしていたのだろう。彼は手早く両手を前へと差し出す。

 そんな彼に横路は、(てのひら)を前にかざして、静止させた。

 「我々は国家公安委員会の参下にあるわけではありません。ですから、キミに手縄や手錠を付けたりはしない。君の意思が、その行為をさせるに至るモノで在り続ければ、ですがね」

 「……ありがとう、ございます」

 「あ、あのっ」

 躊躇いがちに、それでも、と声を上げた撫子は、懇願するように横路の前に立つ。

 「ま、信君は、その……」

 「安心してください九重嬢。我々は彼の自由意思を尊重するつもりです。しかし現状、彼の存在はあまりに大きすぎる。そのために我々の御所にて保護するつもりです……それで、いいな糞餓鬼」

 「俺はな……ホントにいいのか、信? 別にオマエは今回、責任を負う必要はないんだぞ」

 それも、そうだ。彼は魔樹の種子に操られる一団の中にいたものの、別段人を襲ったことはないはずだ。あえていえば施設の破壊などだが、破壊されたビルや、この廃港も元々撤去予定であったものの様だからそこまでの罪ではない。

 「責任とか、じゃないんだよ」

 その声はどこか、疲れた印象を残している。

 「俺は、あんたの言った通り、答えを探すフリばかいで、現状から逃げてただけだ。だから、今度こそ探すよ」

 魔術世界においても、神格というのは異常の存在だ。対処法などは古く錆びれた文献や寝物語にしかなく、それが真実かも定かでない未知の領域。だから、かならずどうこう出来る保証をもつ人間はこの世のどこにもいない。

 それでも、と少年は顔を上げて、模索の道を決意していた。

 「俺はもう辞めようと思うんだ。ミノタウロス(じぶん)から、未来(こたえ)から逃げるのはもうやめるよ。この人たちと行けば解決するとは思ってないけど、諦めずに、そっち側に飛び込んででも見つけてみせるよ」

 だが、その表情は照れつつも、決意した男の顔。僕らと初めて会った時に影はそこにはなく、ただ前を向く少年がそこには居た。

 たぶん、彼は見つけたのだ。答え、という完結的なものではないが、答えに繋がる始めの道を。

 そんな彼に魔術(そっち)側の二人は笑顔で応える。

 「我々も、出来る限りのことはいたしますし、それに保護といっても今回の事件解決は成されたも同じですので、早くに社会復帰支援は可能です」

 「情報提供などは随時おこないますし、必要とあれば面会も可能にしておきます。それでどうですか、九重嬢?」 

 「あ、は――――」

 撫子は頷こうとしたのだろう。ただ、その声は途切れてしまう。

 


 彼女の体に一瞬で絡まったツタに似た“緑色の触手”が、彼女を後へ連れ去っていったからだ。

 


 「ナデシコッ!?」 

 誰も気がつかなかった。いや、すべて終わったと思いこんでいた自分の不甲斐無さを悔やむ。

 撫子が引きずられる先には一つの影。

 「ガァヒィイイイイイィィイヒィィヒィッッッ」

 見憶えはあった。たしか倉庫街に来た時、始めに進に喧嘩を売って逆に容易く沈められた、刈り込んだ髪を金髪に色染めした中肉中背の男だったモノがそこには居た。

 名前はたしか、オヤマとか言ったか?

 だが、彼はもはや、彼ではない。

 「ィィッヒィッヒィィィグィ、シンカ~~ネルゥゥミィツケタァァン!!」

 壊れたような声で、進の名を叫ぶ。

 目から下は人間のモノ。ただし、眉から上に巨大なジャガイモのような気味悪い頭になっている。脳まで届いた魔樹の種が肥大化し、肉体を変化させたのだろう。そこから生える枝のような触手が撫子を連れ去ろうとしている正体だった。

 あれが寄生体の末の姿なのか? その醜悪極まりない姿に僕らの背後で検査の名目で、調べられていた元、寄生体たちが上ずった悲鳴を上げる。それがじぶんたちの仲間であったオヤマであるとわかったからだろう。自分たちもああなっていたかもしれないと理解し、戦慄を隠せないほどの恐怖が生まれている。

 末端機関9本を唸らせ、撫子を自分の手元に持ってきたオヤマ。

 「しん、シンシンシンシン!! ミツケタミツケタミツケタァァァァァ!!」

 「…………」

 叫ぶオヤマ。黙り込んで、ただただ睨めつける進。

 僕らもどうにか撫子をとり戻そうと構えるが、遠い。

 「オレハッ!! テメェヲコロス!! アノトキノアノトキノフクシュウニャ!! キニイラレネェヤツハミンナコロス! コロシテヤッタゾ!」

 うわ言のように叫ぶ男と僕らの距離は軽く100メートルはある。触手は少なくともそれだけの行動範囲と、油断があったとはいえ、僕らの意表をつける程度の速度を持っているはず。ただでさえ、こちらは手負いばかりで、さらに撫子を人質に取られている。

 状況は圧倒的不利。せめて、あの触手を“撃ち落とせる遠距離武器”があれば――――

 「糞餓鬼」

 横路がふと、声を出す。

 「なんだ、今忙し…」 

 進が、睨む視線は変えずに返事をした。

 「受け取れ。今回の、オマエへの報酬だ」

 報酬という言葉を疑う様に進はついに振り返る。

 進が目にしたのは、ぶっきらぼうに横路は懐から取り出したソレを、放り投げる瞬間だったはず。

 放物線を描いて寄こされるソレは夏の太陽光に当たり、“白銀”に鈍く輝く。

 反射光が目に入った進は、目を細めるどころか、逆に見開く。それもそうだろう。なにせ、アレは二週間前に失われた “銃”なのだから。

 「試射は、してある」

 どうするかなど、知れたこと。

 進は、宙に漂うドラゴンのシンボルマークが彫られたグリップを掴み、音が後から聞こえてくるようなコッキング、セーフーティーを慣れた仕草で外すと、振り向きざまに、当然のように片腕で連射した。

 デザート・イーグル 50.AE〈カスタム〉は進の怪力と絶妙な反動流しで、まるで無反動であるかのように叩き出された7+1発は撫子を掴んでいた触手を含む8本を正確に抉り壊す。

 インジェクションポートから空莢が地面に落ちる前に、進は前傾に体を低くし、キン、と金属の着地音を合図に、その身を突風と化した。

 スタートダッシュの余波がボクらを襲い、僕以外の全員が目をつぶるはめになった一瞬が生まれた。そんな抗議の声がでないほどの一瞬で、進は距離を半ばまで縮めている。 

 常人なら何が起きたかわからぬレベルの速度に、何とオヤマは、ニヤリと笑う瞬間を目撃。

 寄生体として完成した彼の反射速度は僕をも上回っていたのかもしれない。そんな予想を閃いたが、もう遅い。彼は触手ではなく、風の刃を、愚直にも真っすぐ走る進へと一閃、飛ばした。

 速度が速度であり、絶妙なタイミングで放たれた風の刃は、荒くも魔力で作られた攻撃。物理法則を超えた切れ味で、いかに進の体といえど、ただでは済まない。

 風の刃は進の体に吸い込まれ―――――

 「ッ!!」



 邪魔だ、と言わんばかりに進の拳が振るわれ、鈍い音を発てて、風の刃は“暴力”的に破壊された。



 (なッ!!? アレは――――)

 目が一瞬、奇跡を捉えた。

 風と言う物理現象に変化させた以上、可能だということは解る。だが、しかし、あの現象を間近で見た人間であるなら、連想するのはただ一つ――――

 イザナミの拒絶を使わず、拳一つの“暴力”で魔術を破壊した男は、さらなる一瞬で、オヤマの懐に狭ると、いきなり急制動をかけたように、背を見せた。

 ただし、進は止まってはいない。神の奇跡を見せた右腕で地面の落ちる寸前の撫子を抱えると、さらに体を旋回させ

 「―――――ッ!!」

 無言の気合いを入れた回し蹴りを、オヤマの腹部に放つ。

 トラックの突撃を受けたような音とともに、オヤマがくの字に体を曲げて吹き飛んでいく。

 「どこに行く――――」

 オマエの蹴りで後へ流星のように吹き飛ぶんだ、など長いツッコミを入れられない速度で飛んでいこうとしたオヤマの頭に残された触手を進は空いている左腕で掴みとり―――――そのまま、円を描くように振り回す。

 「――――んだぁっ」

 周囲の建物はすべて半壊状態のために、衝突することはなかったが、空気抵抗が半端でないために、客観的に見るとオヤマの体が潰されているように見える。

 「―――――コラァッッ!!!」

 その勢いのまま流れるように、地面に引き戻し、叩き着けた。手榴弾が破裂したような激震。コンクリート製の地面を揺るがし、亀裂と破壊痕がこちらにまで届く。

 ただ視界を曇らすほどの粉塵が生まれることはなかった。

 「アァ、アァアァ……ァァア――――」

 体が下へめり込んだオヤマが視点をブレさせながら、嗚咽を漏らし

 「きゃあぅ!?」

 あ、抱えられていた撫子が、乱雑に落とされた。

 そして―――――

 「………ハっ」

 嘲笑う様に、踏みにじる様に、つまらな過ぎて楽しくて仕方ないと失笑する様な“魔王”の皮肉げに歪む頬笑みと共に、暗い青色を灯した黒の大剣が、倒れるオヤマの腹部を深く刺し貫いた。

 「ゲェアッ!!!?」

 「く、クククカカカ」

 苦悶の表情をするオヤマと、笑う進。対照的な二人を見る者すべてにどよめきと悲鳴の衝動が生まれる。上から押し付けるように突き刺さるイザナミは、完全にオヤマの体を貫通し、地面へ深く突き立っていた。

 「ア、アァ、アア……、あ、俺は……」

 だというのに、オヤマの体は逆に血色を取り戻し、頭に出来ていたジャガイモ形の浮腫はミルミル小さくなり、触手も空気に溶けるように消えていく。まるで、化物が逆再生するように人間に戻っていくようであった。

 「拒絶……、破壊? 再生? 吸収? 分解でもない。アレは何ですの……」

 傍らで、見ているものが信じられないとローザが呻く。無論、あれが何なのかは僕にもわからない。ただ言えることは

 「ぐっ!? ぎぃゃャアアアアアアアアアアアアアッッ!!!?」

 あの剣は持ち主と同じ、ドSだということ。

 耳を塞ぎたくなるうるさい悲鳴を、オヤマは口から吐き続ける。同じく僕の背後にいる信は“俺、アレ一瞬ぐらいだったけど、すごい痛かったんだよな”と同情するように呟いている。それは真実らしく、オヤマは発狂しそうなぐらい泣き叫ぶ。

 そんな彼に低く、しかし、ずいぶん楽しそうに優しく問い掛ける男が一人。

 「く、くかかかかっ……痛ぇか? おう、痛いのかぁ?」

 「痛い、イダイ、いてぇんだよぉっ!!」

 「そうか」

 進は痛い、と言ってるオヤマをさらに剣を捻じ込んだ。

 「ヒグィアアアアアアアアッッ!!!」

 「そうか、そうか、そうかい……そりゃ、また結構じゃぁねぇか、カッカッカッ!!!」

 グリグリと回す進の顔は笑顔。さわやかさ皆無、やさしさは見果てぬ夢、そこにあるのは、テメェのせいで今回どれだけメンドクサイことやらされと思ってんだ、アァ? と私怨にまみれた汚ねぇ笑み。 

 剣を引き抜き、天へと掲げる進。ただオヤマは突き刺さったまま。

 「うぅぐぎぃぃぃっっ!!」

 「そぉらっ、どした、どうした、ドシッタテンデスカァァッ!! 叫びが足りネェゾォ!!! おら、ほらぁ、うらぁっ!!」

 どういう原理かわからぬが、イザナミが突き刺さった個所は暗い青色が漏れるだけで血が噴き出ていない。

 「ぃぃぃぃいぃぃっぃぃいぃぃぃっぃぃぃぃいぎぃあああああああああああああああああああああっ」

 それでも、とんでもなく痛いらしい。オヤマのHPはもうゼロだろう。もう白目をむいて、ただ叫ぶ。涎を涙を垂れ流し、どこか後悔しているような断末魔の叫びを上げ続ける。

 そんなことお構いなし。テンションが上がりに上がる進は、歓喜に吼える。

 「そうだっ、もっとだ! クフハッハアハハハッ!! なんとなく忘れてたが、これだぁ! コレェ!! これが、俺だ! そう、俺はこんなキャラだったろうがぁッハッハッハァァ!!! よしゃぁぁああああ、チーシが上がってきたぜぇ。なぁ! おいっ! テメェも上がってきただろう!!? もっと高ぶろうぜぇっ!! なぁ、おい、名前わすれたけど誰かァッ!!」

 「オオオオオオオヤマアアアアアアアッ!!!!!!!!!」

 なんか変なテンションに入った進は、自分の名前に似た悲鳴を上げるオヤマへイザナミをごと振り回す。

 「……あぁ、いつもの進に……」

 地面の落とされていた撫子がトボトボとこちら自力で歩いて帰ってくると、なにか嘆く様に呟いた。

 「あぁ、進兄様……やっぱり、カッコイイ」

 カッコイイかい? ……アレ。

 「(ポーーーー)」

 惚けるなよ、ローザ。ホント、キミの未来が心配だ。

 そんな正常な判断意識が抜けおちている女性陣はもう使い物にならないだろう。

 俺達がなんとかするしかない。そう僕、横路、信の三人は互いの意思が合わさっていたことを確認し合うように、視合って頷く。

 さぁ、あのバカ魔王を止めよう。

 俺達の戦いはこれからだ、と僕らは溜息ついて一歩を踏み出した。


 

 視点変更 4


 

 「……んだよ、もう少しでイイとこだったのによぉ」

 「ああ、もう少しで、彼の未来はなくなっていただろうヨ、シン。あと、とりあえずボクに謝レ」

 拗ねたような進に、彼の隣に座るなんかさらにボロボロになったアルバインは助手席からバックミラー越しに非難の目線(ジト目)を送る。

 そんな彼らを見ていた私の名を美しいソプラノの美声が紡いだ。

 「撫子? 本当に体はなんともありませんの?」

 「大丈夫ですよ、ローザ。ホントに何もされませんでしたし」

 心配してくれるローザに、なんだかありがたみを感じてしまう。

 今は朝の八時ごろ。車内のナビがその時間をデジタル形式に表示している。

 「それよりもローザ、車に乗らないですか? せっかく送ってくれるって言ってくれるのに……」

 私は気づかいに、気づかいで返すような目くばせで、この6人なら悠々と乗り込める車の主であり運転席に座る彼を見る。

 「心配しなくても待っててやるから、用があるなら行ってきな、“嬢ちゃん”」

 「感謝しますわ。あと、嬢ちゃん、ではなくローザと呼んでくださいますかしら“オジサマ”?」

 「わかったよ、ローザ嬢ちゃん。俺のことは、明智(あけち) 草十朗(そうじゅうろう)と呼んでくれ」

 「わかりましたわ、明智オジサマ」

 そう互いに強気に挨拶を交わすと、ローザは誰かを探す様に歩き出してしまった。

 「……なんか、すいません明智警部」

 「ん? 気にすんなよ撫子嬢ちゃん。別にいいのさ、除菌の手伝いなんぞさせられてる金田一の馬鹿みたいの真面目じゃねぇんでな。運転手の方が気楽でいいのさ」

 「なんだ、明智さん今度はタクシー会社に転職かよ? 波乱の人生だねぇ~」

 「……できたら転職してぇよ、まったく。それよりも驚いたぞ、進。オマエのところに撫子嬢ちゃんがいるとはな!」

 「俺は、あんたと撫子が面識あったことに驚きだよ」

 ポンポン、と私の頭を叩く進。別に嫌ではなかったので、上目な目線だけおくっていると、ふいに進が真面目な顔になって、私を、私の頭を見つめてきた。

 「な、なんですか?」

 あまりに真面目な顔なので、なんだかドキマギしかけた。

 「……用事を思い出した。ローザが戻ってきたらソドムまで送ってやってくれ」

 「お、おいっ、進! ……行っちまったよ。どうしたんだ、あいつ?」

 本当にどうしたというんだろ? 理由がわからず、誰に尋ねていいのかもわからず視線をさまよわせていると、フロントガラスにアルバインの微笑んだ顔が写った。

 


 視点変更 5



 「お待ちになって」

 静止の声がかけられた。

 武装集団の用意してくれたのは大型トラックを改造したような護送車。外観はよく見るトラック。中には端と端にズラリと座席が取り付けられ、そこに詰めるように元寄生体たちが不安げに、そして疲れたように俯いて座っている。

 私も、その例に倣う様に乗り込もうとした直前だったのだ。

 私に並ぶように付いてきていた黒づくめの一人は空気を呼んだかのように、立ち止まった私に、「数分程度ね」と言うと、道を開けてくれた。

 「ローザ……さん」

 「さん、と言われましても、たぶん(わたくし)の方が年下でしてよ?」

 困った顔で首を傾げる金髪の美少女はこちらへ歩み寄ってくる。年もそうだが、身長も私の方が高いために、上目使いになる彼女。たぶん魔樹の種に寄生されていた頃の私ならば、くびり殺したくなるほどの可愛さ。

 「それで、これからどうするおつもりですの?」

 その可愛さが嘘に思えるような真摯さで、問うローザ。

 私は戸惑った。どうするか、など聞かれても困る。これから何をされるのか、だけは黒ずくめの人達のやけに丁寧すぎる説明を受けていた。

 汚染者(たぶん、寄生体を体に残しているかもしれない者達)である可能性をみるべく、専門の機関へ搬送され、そこで一日ほどの簡単な検査を受ける。それだけなら、早く家に帰れるらしいのだが、私たちには都内で起きていた事件に関わっていた疑いがかかっているので、警察に引き渡され事情聴取があるらしい。

 それも犯行をおこなったような供述(絶叫)をした小山に目処がたっており、私たちも自称リーダーをうたい誘拐や自慢げに誰かを倒したことを語っていたことを全て偽りなく話すつもりでいる。そのため、私たちの解放は比較的早いとのこと。

 だけど、解放されてどうすればいいのだろうか? 

 また、元の閉じこもる生活に戻るのか? それなら、憎しみの感情を増幅されていた寄生状態であった時の方がまだ人間らしかったとも言える。だけれど、私には――――

 「まだ、わからないの。もう、嫌になるわよね。私、ほんとうに“自分が”なかったのよ」

 愛していた男のためにと綺麗さを追求した。だが、捨てられたことで、その必要もなくなった。

 そしたら、どうだ? ない。何もない。なにをしていいのか、わからない。自分のために、なにかをすることがない。あの誰かのために、と輝いていた日々がどれだけ大切かわかるほどに何もないのだ。

 「何かをする気力とかがないわけじゃない。でも、何をしていいのか、わからない。行く先が見えないし、また無意味にされたら、なんて思うと尻込みしちゃうの」

 あぁ、なんと惨めで醜い私。そんな舞台のようなセリフを吐き散らしたくてたまらない自分がいる。

 「そうなんですの?――――」

 そんな俳優気分の私に、さらに舞台映えしそうなローザが不思議そうに顎に指を添えて、小首を傾げた。

 「また、美しさを磨けばいいじゃありませんの?」 

 「はっ?」

 なにをいっているのさいしょはわからなかった。私のすべてに等しい過去を打ち明け、伝えたのが無駄だったのだろうか?

 「疑問なのは私の方ですのよ。それだけ、他人から認められる美しさを持ち合わせるに至った人間が、なにを悩む必要がありますの」 

 「だっ、だって私……綺麗だから捨てられて」

 「そうでしたわね。でも、捨てられたかといって、否定されたからといって関わるすべてを捨てる必要がありまして?」

 「それは……」

 鏡を視るのが嫌だった。鏡に映る自分を見ていると、幸せだけだった日々が呼び起された。それが苦痛で苦痛で仕方ない。

 「嫌な記憶もあるでしょう。でも、何かのためにと、磨いた貴女の美しさは本物ですわ。それを捨てるのはあまりに惜しいし……なんとなく、損でしょう?」

 それでも、と目の前の少女は言うのだ。

 「今までは誰かのために、これからは自分と他人のために、その美しさを使いませんか?」

 「自分と、他人?」

 「そうですわ。貴女、スカウトされたって言ってましたわね。それ、もう一度受けてみたらいかが?」

 「そ、それは……」

 「怖い? でしょうね。でも、イイ機会では? スカウトの目に止まったという時点で、芽はあるということ。でも、そんなに甘い世界ではないというのは、事実」

 あれは、ただそういう話があったというだけのこと。本気で受ける気なんてなかった。自分と他人。美しさを得、そして、他人に魅せること。それはどれだけ甘美で、かつ恐怖がある。

 「いかに美しくとも、生き続ける事が困難な世界。役者にしろ、芸能にしろ、それは変わらない。自分のもつキャパシティを他人に認めさせ、魅了しなくてはいけない厳しい世界」

 「そんな世界、私には……」

 「無理ですの? 私には可能かと思いますが? なにせ、貴女は自分の美しさの中にある醜さを吐露し理解出来た人間なのですから」

 ローザに背負われていた時に吐き出す様に呟いた言葉に、ハッとなる。たしかあの時、彼女はなにかを言いかけていた。その言葉の続きが今ココに。

 「美しいだけの人間など五万といますが、自分の中にある醜悪を口から本当の理解をもって吐きだせる人間は少ない。綺麗なダイヤモンドの心などとホザク輩がいるが、そんなものは醜悪の黒点をしらぬただの透けてるビーダマだ――――これ、私の師匠の言葉ですの。貴女はたしかにまだダイヤとまでは行きませんが、その素養は間違いなくありますわ。それでもまだ不安があるというなら、もう何もいいませんわ。私のはただの提言。忘れていただいて結構ですわ。ただ、これだけは忘れないで、貴女は、捨てられる痛みと、大切な人間を傷つける苦痛を知って、他人のために泣ける人間ですわ」

 涙が自然と零れた。あの日、私は彼を怨むことができた。でも、私は自分の美しさを憎んで嫌った。そして、彼の気持ちを理解できなかったことになにより傷ついた。意味はないのだと思っていた。馬鹿にされるとわかっていた。そんな私の最後の美しさ(彼へのきもち)を、この彼女は、私の魂の形として認めてくれたのが、嬉しかったのだ。

 「ねぇ? 貴女のお名前を聞かせていただけません?」

 そんな彼女は、私の名を問う。そういえば、教えていなかった。

 「ミズキ……水城(みずき) 静流(しずる)。私、もう一度、ガンバッてみる。貴女のように、認めてくれる人に出会えるように。ねぇ、あなたの名前を聞かせてくれる」

 心に刻むために、こちらをも知りたかった。彼女はほほを赤らめさせ、何処か誇らしげに口を開く。

 「私はローザ。――――ローザ・“エレメント()”・レーリス。親愛なる我が父がつけてくれた名前ですわ」

  


 視点変更 6


 

 「すみません、お待たせしました立花様」

 「……いえ、大丈夫です」

 ホントに急いできたのか、荒い息と汗を出す軍服のような巫女服を着た少女、御園は俺に対しても敬語を忘れないので、年上である俺も敬語で返してしまう。

 今、俺は検査を受けている寄生体たちとは違う車に一人乗せられている。黒塗りの車の内装はかなり意匠に富んでおり、かなりの特別車であることがうかがえる。

 そんな一般人である俺では恐縮して後部座席で座るしかないほどの雰囲気は、この少女にとって日常的なものらしい。

 「出してください」

 「はい、お嬢様」

 慣れた声で運転手に命令する御園。その声を当たり前のように優しく返す老齢の燕尾服を着た老人はスムーズに車を発進させる。

 「さて、立花様」

 振動の少なさに驚いていた俺は、真横から真剣な顔で俺を見ていることに気がつくことに遅れた。

 「(わたくし)どもは、彼方をずっと探しておりました」

 「俺を……?」

 「ええ。新潟の園長様から、彼方のことをお伺いしましたので」

 「園長?」

 思いだされるのは、あの杖をついた弱弱しい姿。最後にあったのは、上京した日。それから連絡一つしていない。

 「はい。園長さまと我々の上司にして外異管理対策部の室長とは、懇意の間柄でした。園長様が亡くなる直前――――」

 「亡くなったッッ!!?」

 俺はあまりの驚きで車内で立ち上がりかけた。知らなかったのか、と御園も驚く。唯一驚いていないのは運転する老人のみ。

 「は、はい。園長様は今年の春を超えた頃に。肺にガンを患ってらしたようで……」

 知らなかった。

 あの別れが、本当に最後の別れになるとは。後悔が胸を痛めつけてくる。なんで、俺はもっと……

 「やはり、ご存じなかったのですね。住所も孤児院の方に残されてなかったらしく。彼方への連絡が遅れていると報告がありました」 

 「……そうか」

 あの場から逃げ出すように出てきたのだ。住所など残していたはずもない。それが恩師の死にさえも立ち会えなぬことになろうとは。

 「因果応報ってか。馬鹿みてぇだな」

 自虐の呟きを漏らす俺に、御園は封筒を差し出す。

 「これは?」

 「園長様から、彼方様へのお手紙です」

 「!!」

 「我々もまた園長様の死に目には間に合いませんでしたが、室長宛てに郵送されてきたお手紙で彼方様のことを知り、彼方様を探しておりました。これは同封されていた彼方宛てのお手紙です。中身はまだ見ていません、保証します」

 「俺、宛て……」

 俺は震える手で、封筒の口を開く。なにがかかれているのだろうか? 罵倒か? 嫌みか? なんにせよ、見たかった。聞きたかった。

 だって、あの人は――――



 視点変更 7 

 

 

 元気かい?

 私はもうすぐ死んでしまうらしい。まぁ、元々覚悟もしていたし、いいんだけどね。

 ただ心残りがあるんだ。

 君のことだよ。

 君は自分の力にいつも悩んでいた。だけど、私たちにはどうすることもできなかった。本当にスマナイと思っているが、もう一つ君に伝えておきたかったことがある。

 それは君の本当の親について、だ。

 私はもうすぐ死んでしまう。死ぬとわかってやっと伝える勇気が持てた哀れな私をどうか許してほしい。

 あれは嵐の晩だった。第三次世界大戦が終わったのだと、誰もが安心しかけていた頃だ。

 酷い嵐でね。孤児院が壊れないか心配で見回りをしていた私は、正門のドアが叩かれる音を聞いた。

 最初は風かとも思ったが違う。何度も、そして懸命さがあったその音に私はドアを開けた。

 そこに何かを庇うように、うつ伏せに倒れた牛がいた。

 正確には、牛の頭を持った人間。それは荒い呼吸をしながら、何度も「助けて」と呟いた。驚きに腰を抜かした私はそれを数回呆然と聞いていた。すると、その牛は懐に大事そうに抱えていた小さなソレを私に差し出してきた。

 「――――この子を」

 それを最後の一言にした牛は、動かなくなった。ミルミル体が変化していくと、人の、それも女性の姿に変わった。裸同然の彼女の体には見るも絶えない深い切り傷や火傷の痕が体中に残っていたから、そのまま放置もできずに孤児院の中へと運び入れた。

 「夜分、遅くに申し訳ない」

 その直後だ。またドアを叩く音。今度は男の声。低く、どこか外国のなまりを感じる日本語だった。私はすんなりドアを開けてしまった。驚きの連続で思考がぐちゃぐちゃだったんだ。

 そこに立っていたのは白いフード付きのレインコートを着た二メートル近い大男。

 「ココを、誰か尋ねなかったか?」

 私を見下ろす目線の中には、真偽を問う意思よりも、何かの覚悟を秘めた瞳をしていた。

 私は。

 「来たな?」

 私は―――――

 「――――はい」

 私は、彼女の骸を彼に引き渡した。

 怖かった。その男の瞳が恐ろしかったのだ。袋に死体を丁寧に詰めていく男はさらに聞いてくる。

 「彼女は何か持っていなかったか?」

 持っていた。彼女はそれを私に確かに渡してきた。

 「いいえ」

 嘘をついた。私はそれだけは即座に応えた。この男はあの子を必ず殺す気がしたから。

 子供を助けて、という彼女の遺志が私を突き動かしたのかもしれない。

 男は、そうか、と呟くと何も言わず、死体袋を背負って出て行った。

 ――――これが、キミと私の出会いだよ、信。

 私は君の親を知っていた。だけど、怖くて教えられなかった。

 君がただの人間でないことも始めから知っていた。だけど、君が絶望するのが怖くて教えられなかった。

 始めは懺悔のつもりだった。あの男にすべて嘘をついてでも、君の母親の骸を守らなかったのだから。

 でもね、年月がたつたびに、君は私にとって特別な子供になっていった。孤児院を経営する者として一人の子供を特別視するなどイケナイことだとわかっていてもね、どうしても私が預かった子のように思えてしまった。

 君が五歳の時、近所のワルガキが孤児院の子供を苛めているのを見つけて、殺しかけてしまったあの日も。

 実は、その子のご家族が抗議に来たんだが、君のことを悪く言われて、両方殴ってしまった。

 9歳の時、君の一番仲の良かった友達が酷いあざを作って帰ってきた時、怒りにまかせてその里親の家族、住んでいた家を殴り壊したね。

 実は、正直もっとやれ、とおもってた。

 14歳になると、気持ちが不安定で、向かってきたケンカ全部を相手どって帰ってきた君を、院の小さな子が君を言ったのを見て、その子にどっちも悪いと、説教してしまったよ。アハハハ

 私は妻は早くに無くして、子もいなかった。孤児院も親の後を継ぐ形だった。もちろん院の子は全員、私の子供だとも。

 それでも、君は私の特別だ。

 今もそれは変わりない。どんなにヤンチャでも、どんなに人間と違っても、それでも私の長男だ。

 だからこそ、私には心残りがあるんだ。

 君は、親から愛されていなかったと言ったね。

 それは違う。君は愛されていたとも。君の母親は自分の死よりも、君を助けてくれと言った。君がなにより大事だったのさ。父親の方には会うことはできなかったが、それでも同じように、君を愛していたはずだ。

 たとえ、そうでなかったとしてもだ。私が君の父親のよりも君を愛している自信がある。

 だから、どうか、愛されていなかったなど勘違いしないでいくれ。君は生きてくれ、と望まれて生きているのだから。

 願うなら、君に対してこんな死に際まで真実を語れなかった私を許してほしい

 ――――生きてくれ、信。君に幸があることを信じ、そして、いつまでも、私は君のことを――――


 

 視点変更 8



 その続きは読めなくなった。

 ポタポタと水滴が落ち、今時珍しいインクでの筆記だったので、文章が(にじ)んだ。

 俺は、生まれる前から生きていいと言われていた。意味があったのだ。始めから、生きていい意味を貰っていた。

 俺は幸せものだったのだ。自分は世界で最高に不幸だと、勘違いしていたのが馬鹿みたいじゃないか。

 俺は。俺は人とは違っていたのだ。

 だって、あの人は――――

 「――――とうさん――――」

 まぎれもなくあの人は俺の父だ。

 俺は、二人も父親を持っていた。どこの、誰もよりも、俺は愛された男だったのだ。

 涙がとまらず、手紙はさらに滲んでいった。それでも、一言一句見逃さぬようにずっと、ずっと見続けた。

 「――――おとうさん」


 

 視点変更 9



 「なんだ糞餓鬼? 一人か?」

 「アンタもな、アホ毛」

 面倒な男と鉢合わせした。俺を進・カーネルという名では呼ばない、きっちりスーツの男、横路は埠頭から海を眺めていた。俺は後を通り過ぎようとしただけなんだけどな。

 「やることはやった。もう我々には彼らを送り届けることぐらいしかない」

 「寄生体は大丈夫なのかよ? 残ってて、あら、大変とかなったら大変だぜ~」

 「なったら、なったらでいいだろう。それこそ、警察の責任問題として、我々がイイとこ取りしてみせる。それに、あの様子なら大丈夫だろう。……オマエ、一体なにをした? 俺は、あれほど完璧な広範囲徐霊魔術をしらん。報告によれば外部まで逃げだしていた寄生体たちにまで届いたそうだ」

 「俺もしらん。イザナミ(こいつ)ができると言ったからやっただけだ」

 こつん、と背中の大剣の腹を小突く。反応はない。だが、あの時は確かに聞こえたんだ“振り、祓え”と。

 横路は探る様な視線を二秒したが、すぐに諦めたように、視線を“空”へと戻した。

 「もういい。行け」

 「止めたのはアンタだろうが……、丁度いい。聞きたいことがあったんだ。アンタ、どうしてあの“銃”を直せた?」

 「なんだ? (ジン)から聞いて無かったのか。アレを作ったのは、私の友人なのだ」

 初耳だった。それがバレたのだろ。この大人びていても、大人げない男はニヤリと笑った。

 「なんだ糞餓鬼? もしかして壊されて、無くしたと思いこんで怒り狂ったか? そうか、そうかソレは実に結構」

 「他人の不幸を笑うなよ」

 「笑えるものか」

 ニヤケが一瞬に怒気に満ちた顔に変わる。

 「製作者からの苦言だ、“二度と壊すな。スペア部品が残ってたから組み立て直せたが、次は無い。それはワン・オブ・サウザンド物の中でも曰く付きのデザート・イーグルを、陣用にカスタムした本来、復元などできない大業物なんだからな”とのことだ。彼女もそうだが、私も怒り狂った。ハジ殿から頼まれなければ、お前をまず殺しに行ったぞ」

 「……スナマイ」

 それだけは、素直に謝った。これが壊れたのは俺が油断していたからだ。もう油断しない。もう手ばなさない。これは、俺が預かった彼の遺品なのだから。

 「素直に謝るな。気持ち悪い。もういい、オマエとなど話たくもない。行け」 

 「わかったよ、あほ毛」

 「アホ毛じゃない、アートだ」

 めんどくさ、と思い背を向け歩き出す。さて、どう行くか。いや、その前に袋だ。剣を隠さなきゃいかん。そもそも、俺はアイツらの住所を――――

 「お前を見ているとイライラする。この空といい、まったく“妬ましい”。まるで蒼塵――――陣之助とお前は似すぎだ」

 悔しげな声が遠くの方から聞こえた。振り返ってもそこには誰もいないだろう。だが、こちらも届かぬとわかっていて呟かずにはいられない。

 「馬鹿言えよ、俺はあの人の9割にも届いちゃいない」

 俺にとって最強の姿はあの人だ。それは俺だけではないらしい。そのため出会えば互いに口喧嘩するような関係になってしまったのだが、こんな関係も悪くないと、俺は思っている。

 「――――進。乗ってくかな?」

 そんな軽口が聞こえたのは、その時。俺は不思議とできていた笑みを素早く消して、前を見つめ直す。

 そこには、どこぞの生徒会長様が、悟りきった感じで車にもたれ掛かっていた。

 今の俺は、そのムカつく顔も許せるぐらい絶好調だった。

 「ハッ! 初乗り代金はいくらだ、極道タクシー?」

 「800円。ただし今日はどこに“立ち寄っても”値段の変動がないサービスデイ」

 「最高。途中、二人追加してほしい。そうすりゃ、感動の再会を見せてやる」

 「それは結構。じゃ、行こうか――――我が盟友(とも)

 吸い込まれるように乗り込んだ車はすぐに発進した。夏の陽炎を突っ切るように、一直線に閑散とした道を突き進む。

 今は迷いなどない。俺は、俺の契約を果たすだけ。

 俺は約束は、守れる人間なのだと、誇るために、あの二人を迎えに行こう。

 カチューシャの回収はその後だ。


 

                                    次話へ




 

 


 おはようございます。桐識 陽です。



 桜も散った今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

 私は生まれて初めてフィギュアを買ってしまいました……気持ちの悪い私を許してください。

 つーか、ちょー可愛いな、すーぱーそに子。やべぇ、ゲーム買ってこようかなぁ。けど、フィギュア一万円したんだよな……しかも、今度でる1万8千円ぐらいの予約しちゃったしな~

 ……みたいな、生活をしています。

 


 今回は上です。そいまそん、上です。あと、ラスト1みたいなこと言ってましたけど、上です。

 だって、しゃ~ないやん!! 最近8万字くらいになってしまうんやから!

 次こそ、四章のラストです。

 あ、別にcon-tract自体が完結するわけではないです。


 



           ここまで読んでくださった方々に、感謝を。


                        桐識 陽



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