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con-tract  作者: 桐識 陽
3:守ると吠える月の銀狼
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7、魔弾VS魔王



 視点去来 



 「キミはどうしてここまでするんダ?」

 撫子や銀狼、ハンターがいるであろう高層ビルの屋上。いざ、飛び込もうとする数分前。

 僕は、アルバイン・F・セイクはどうしても目の前でガチャガチャと突入用のワイヤーとベルトを念入りに調節する進・カーネルに聞きたかった。

 命を救う理由は確かにある。それをおこなう大義もある。

 それでも魔王などと悪名をもつ進という男がどんな思いでここにいるのか、その理由が聞きたかったのかもしれない。

 「あん?」

 漠然とし過ぎている問いかけのためか、怪訝そうに顔を歪めて進は考える素ぶりをした。頭をかくその仕草に、もしかしたら変な下ネタでも考えているじゃないだろうか心配になったが、答えは簡潔に返ってきた。

 「別に理由なんて無い」

 「理由が、なイ?」

 「じゃあ、理由がなくちゃいけないのか?」

 「それハ……」

 「どっちかっていうと、どうして他人のために命はれんのか、って言いたげそうな(ツラ)してるぜ?」

 ドキリと鼓動が強く高鳴り、もしかしたら表情に出ていたかと思い片手で顔を抑える。そんな僕の仕草に苦笑いする進は遠くを見つめる。視界には三百六十度遮る物がない東京の夜景が広がり、高さを知らせるネオンが目に痛い。

 「戦う理由……ねぇ」

 進は広がる眼下の街光から目を反らし、コートの下から彼が愛用する銀色の銃をスッと抜き出し、銃身を握り、グリップ部分に埋め込まれた西洋の龍(ドラゴン)のエンブレムと向き合う。

 「“俺は、もし目の前で“俺の心”がイラつくことが起ころうとするなら、俺は後悔しない行動を選ぶ”」

 「……誰の言葉だイ?」

 そのあまりの片言具合と進の遠くを見るような目が、ここにはいないまったく別の誰かの言葉であることを理解させた。

 「コイツの“元”持ち主の言葉だよ」

 コイツ、といって軽く持ち上げられたデザートイーグル。進の武器の一つにして、ハンドキャノンの異名を持つ自動拳銃。

 進は自分のことを語らたがらないため、彼という人間のことをほとんど知らないのだが、あの銃だけは本当に大切に扱っていた。

 手入れを毎日おこたらず、剣の雑さとは違い、大切に保管もしていたのを見ていたので、よほど思い入れがあるのだろうとわかっていた。譲り受けたモノだったのか……

 「俺は大層な理由なんて持っちゃいない。だけど、あの金銀兄妹がこのままハンターの野郎にどうにかされるのを黙って見逃したら、きっと……」

 「きっと……」

 「……ば、晩飯がまずくなる、と思ったんだ……」

 自分がいつの間にか、熱く語っていたことをようやく理解したのであろう進の苦々しい答え。それを聞いた瞬間に、不思議と笑いがこぼれ出た。いつぞやの時からわかってはいた。進という男が以外に他人に心を見られることを恥ずかしいと感じるシャイな奴だということは。

 「……なに笑ってやがる」

 「く、ふふ。いや、そういえば進ってボクと同い年だったことを思い出してネ」

 「お待たせ致しましたわ。ようやくビルの素材を把握できましたわ」

 男二人が語らう空間に、凛としたソプラノの美声が介入してくる。白金の髪をビル屋上に吹き荒れる風から守るように頭を押さえる仕草すら栄える美女、ローザ・E・レーリスは優雅にこちらへ近づいてくる。

 「なにを語らっていましたの?」

 「アルバインがローザのパンツを見たってさ」

 誤解を解く以前に、抗議する声を出そうとした瞬間に、ローザが鋭く思いビンタを僕へ放った。

 「フブッ!?」

 その威力たるや、それなりに体重があるはずの僕を倒し、地面へ叩きつけるほど。もし、とっさに体を捻らなければ、確実に意識を無くしていただろう。

 「変態騎士ぃ! よもや見ただけに飽き足らず、他者にしゃべるとはイイ度胸ですわね」

 「ごっ、誤解ダ! 誰にもしゃべってないヨ!」

 「誰にもっ!? つまり、あの時やっぱりキチンと見たんですわねっ!!」

 「し、しまっ!? グフォアっっ!? 痛イ! イタイっ! 蹴らないデ! お腹はヤメテッ! 地味に痛いかラ!」

 「いや~、青春してますねぇ」

 団子虫のように丸まり、般若の形相で蹴りを入れてくるローザの攻撃を耐えていると、背後から楽しげな声が聞こえた。

 今日は緑色のニット帽を目深くかぶり、半笑いするハジの顔がすぐに浮かんだ。

 彼のよりもたらされた場所は新東京都にある高層ビルの上層階。建設が終わったばかりでビルの所有権はすべて咲那会の本城という異例の速さで出世した男が権利を得ているという。

 そんな敵の巣窟であろうビルの屋上までやってくることができたのはハジだ。潜入はハジが操縦する、なぜか僕らを廃屋で襲撃した最新鋭ステルスヘリのおかげで容易に達成された。

 「よし、じゃあ用意はいいな」

 「よくなイっ! ボクはまったくよくないゾ! イタっ!? あ、スイマセン!! お、憶えてろヨ、シン! いえ、綺麗な白いパンツのことではな……グハッ!?」」

 「くはッはははッ、憶えてやらねぇよ。じゃ、先に行ってんぞ」

 進は屋上から勢いよく飛び出した。

 心もとないワイヤー一本だけで。

 それだけで高層ビルの屋上から飛び降りることにまったく躊躇もなく。

 どれだけの勇気がいるのだろう? すぐに姿が見えなくなった男の後姿を想う。

 理由なんてない、だた助けたいという感情のみで、敵の憎しみと、己の命をかける進。 

 ボクは、そんな進の…………



 7、魔弾VS魔王



 「…き…ゅ…り……ょう」

 八島が指向性のあるオゾンを圧縮させた腕をこちらに向けようとしたまま、ピタリと止まっていた。

 「なんだぁ? 今のバカでかい声……」

 もはや勝利を疑っていないのか、八島は私たちが落ちてきた大穴を見上げて呆けている。

 同じく(わたくし)も彼の怒声にほうけていた。いや(ほう)けていた。

 「きゅう、りょう」

 彼の声の中の一言が頭にひどく残る。エコーがかかって脳に染みいる言葉が死にかけていた私に活力を与える。

 もう一度、声に出して言ってみよう。

 「お、きゅう料」

 「あぁ? 今なんか言っ…」

 呟く私を怪訝に思ったのか、顔をこちらに向けた。

 その瞬間、スパッと音を立てて、八島の掌が横に裂かれた。

 「へ……っ!! 痛ったぁぁぁ!!」

 ブシュ、っと掌から血が傷口から吹き出したことを視認したと同時に悲鳴を上げる八島。

 その一瞬の隙で、体に喝を無言で入れ、数回のバク転で八島から距離を取る。

 部屋の中央で止まり、私は叫ぶ。



 「お給料ォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!!!」


 

 力一杯、限界突破する勢いで、部屋の中央で叫んだ。

 「……やべぇな、オゾンが頭に回って狂ったか……?」

 「心配無用。すこしフラフラしますが、意識もはっきりしていますし……なによりお給料がでるのでしたらこんな所で寝てなんていられませんもの」

 虚勢だった。

 実際、目を開き、立っているだけでもつらい。頭痛が酷いため、吐き気すらしている始末だ。

 だが、それでも口元に笑みが浮かぶのが止められない。

 いや、どうして止めることなどできよう? 眼前の給料日直前は誰だって嬉しくなってしまうだろう?

 どんなに体調が悪かろうが、頑張ってしまうだろう?

 私に関してはここでお給料が入れば、とても助かる。否、救われる。

 「あんた、怖いぐらい綺麗な(ツラ)して守銭奴なのかよ」

 「守銭奴とは聞き捨てなりませんわね。私はお金を溜めて使わない人間ではありません……使わないと生きていけない人間。つまり言うなれば“攻”銭奴!!」

 「そんな日本語はねぇ! 馬鹿かっ! あんた、頭よさそうな(ツラ)して馬鹿なんだな」

 「なんとでもおっしゃいな、楽して手にした力に酔うおぼっちゃん?」

 「ぁあっ!?」

 才能や力がないため家を追い出された八島は私の“思った通り”、怒りを露わにさらにディバイドを稼働させ、オゾンを生成させる。

 「怒っていますの? けれど、本当のことでしょう? それに、貴方は捨てられたから、奴らが悪いと言っていますが、本当は捨てられたときに肩の荷が下りてホッとしたのではなくて?」

 「なにをっ!?」

 「家族からの蔑みや、落胆。それらの重みから、家から追い出された貴方は確実に自由の身であったはず。そこからいくらでも新しい人生の始め方があった。ですが家から、安定した生活から、いきなり外の世界に放りだされ、右も左もわからず、貴方は腐った」

 「……だまれよ」

 予想していた、とは言わないがいくらか的を射ているらしい。徐々に八島の表情が暗い闇を纏ってきていた。

 「そんな貴方を救ったのが、その本城という男。ですが、彼は貴方のことをあらかじめ知っていたのではありませんの? 日本の魔術家系はそれほど多くはありませんし、落第者が現れれば少なからず親族間から情報が漏れますの。運命のいたずらで魔力を動力源にする兵器を手に入れたその方は、家を排出されたはぐれ魔術師を欲した」

 「だから、どうしたってんだよ……いいじゃねぇか! 結果、俺はあの人に助けられたんだ!!」

 「そうして、貴方は都合よく手に入れた並みの魔術師以上の力を手に入れ復讐ともいえない八つ当たりに走った。それまで貴方は復讐など一切考えたこともなかったのではありませんの!? 自分よりも強い彼らに勝てる、そう思わせるだけの力を手に入れたことで復讐に走ったというのは、力に溺れて酔ったことと同義!」

 「あいつらがいけねぇんだよっ! 全部ッ! アニキを殺そうとした!」

 彼が怒りに震えるたびに、彼の背負ったディバイドが稼働音をたて、圧力にも似た空気の重さを溢れだす。

 もう一手、必要だ。本来、人の傷口広げる趣味はないが、彼に怒りにまかせ全力でディバイドを使わせるためには少し揺さぶりが足りない。

 そうして、彼の話の最中に聞いたある疑問を使うことにした。

 「どうして力を手に入れた貴方ではなく、そのアニキという男性を狙ったのかしら?」

 「そっ……れは」

 「きっと貴方の一族は、不安定な心を持った貴方が大きすぎる力を手に入れたことを危惧した以上に、貴方が自主性ももたず、そのアニキという男のなすがままに力を振う危険性を危ぶんだのですわ」

 グッ、と息をのんで後ずさる八島を見て直感した。この男はその事件の顛末をしらない。いや、聞かされていないのではなく、本城という男の言葉と報告を疑いもせずに聞き、言われるがままに実行したのだ。

 長年にかけて脆弱性を後ろ指さされ、周囲から抑圧を受けていたことに恨みや暗い感情を持つことを悪いこと、と断ずることは私にはできない。

 しかし、この八島という男が自分が弱い存在だと認識しているのにも関わらず、自分を見下してきた者達よりも強くなったことにより優越感から家族を虐殺し、自分よりも低い立場だからと己の呼び出した式神を平気で使い捨てにした。

 自分を世界の中心とし他者の意思をないがしろにする自己中心的な思考を“認識すること”を放棄した男であることが、なによりそんな男が“あの方”の芸術品を使い、悦に浸っていることが許せない。

 「人を電池としか思わない男に拾われたことを、助けられたとは言いませんわっ!」

 「あの人はそんな人じゃねぇっ!!」

 「なら、どうしてその男がどこにもいませんの! 貴方の言う人を助けようと思う器をもつ男は、十分以上の時間がありながら、誰ひとり貴方に助けを寄こすことすらしませんの!」

 「ッ!! ぅるせえぇぇえよぉぉっぉぉぉっ!!! ぶっ殺してぇぇやんよぉぉぉぉぉぉっ!!」」

 八島は動揺に震える怒りの怒号を吐き、両手を思いきり振るう。

 自分の力を信じているから、救援が寄こせない状況だ、など言い分もあっただろう。だが、彼にも思う節があったのかもしれない。いや、私に言われて初めて考えたのか……

 急激な空気のよどみと動きを肌に感じ、私の思惑どおりの展開になったことを確信した。

 負けるわけにはいかないのだ。

 私が受け取るはずだった“作品”を己が暴力のためだけに使う男に、負ける訳にはいかない!

 なにより、お給料のためにも、負ける訳にはいかない!

 だから使う、勝つために。

 「これを、タダで目撃できることを喜びなさいっ!」

 着ていたコートを掴み、引きちぎるように脱ぎ、大きく宙へと広げる。

 摩訶不思議なことに、袖から腕を抜くことなくはぎ取る様にそれは容易く体から“離れる”。

 装飾の欠片もない地味なコートのような黒い布は、その色をさらに深くさせて翻る。

 こちらへ放たれた指向性をもつオゾンの濁流はどこまで迫っているのかわからない。だが、それでも恐怖を押し込め、余裕と優雅さを忘れずに部屋に響かせるように高らかに“命じる”。

 「我が名と声に、開けっ! 大いなる道の通過点エメラルド・タブレットシリーズ、ディバイド“九つ目の基盤(イエソド)”!!」


 

 視点変更2


 

 うすら笑いをうかべながら、魔王が背後から迫ってくる。

 「クソッ!!」

 私は口から悪態を突く前に引き金を引く。柱が定期的に立つフロアを並走する男へ向かう弾丸は直進するが、標的の残像へ流れるだけで本体へは全く届かない。

 「フハハハハハハハァッ!!」

 同時に耳障りな嘲笑が私、ジェイムズ・ハンターには許せなかった。

 標的となる獲物は常に私を視認すれば、恐怖や焦燥、もしくは絶望に顔色を変える。狙撃する際も、撃ちこむ前にはいつ撃たれるかもわからぬ恐怖がスコープ越しに見え、撃ちこんだ後の一瞬の断末魔の表情を見せてくれるのが常だった。

 それを見るとどうしようもない感覚に囚われる。

 快楽にも似た優越感が私を満たしてくれる。

 それが見たくて暗殺をしていると言っても過言はないだろう。

 なのに――――この男。 

 この男は、なんだ……

 「お前は一体、何だっ!!?」

 「会う奴はそればっかり聞いてくるよな……」

 頭に響き渡り続ける嘲笑を撃ち消さんと、落ちていたサブマシンガンを拾い上げ、走り抜きながら言いようのない不安と敵を水平に構えた銃を薙ぐように連射する。

 タタタッタタッ、と小気味の良い音と、壁を破壊する着弾音と多少の粉塵がおこる。

 だが、奴には着弾しなかった。それどころか、視界から消え失せた。柱の影に入るところまでは目視できていた。つまり、柱の陰に……

 カンッ

 と不気味なほど乾いた音が“足元”から聞こえてきた。無垢な子供がおもちゃ硬い床へ落としてしまったかのような、その音を発したモノ。

 それは俗に、手榴弾とよばれるモノだった。

 (っ!!)

 声を出す暇すら惜しまれ、真横へ飛び跳ねる様に逃げる。咄嗟の防衛本能からおこされたアクションには気品はおろか、次におこるであろう攻撃を想定するような余裕の一切がない崩れた体勢であった。

 その姿勢からそのことに気がついた私は、戦慄したと同時に、羞恥に怒りに覚えた。

 私を爆発に巻き込むはずだったであろう、その手榴弾。

 ピンが抜けていない。

 「ッ! ッ! 小僧、キサァァマァァァッ!!」

 「言っている暇が、あんのかぁい!?」

 地面へ転げたのと同時に私は周囲へ向かって叫んだが、返答は以外な所から聞こえてきた。

 どうやったのか、どこから、どのようにはわからないが、男は、進と呼ばれたカーネルの血族の声は上から聞こえてきた。

 それは獲物をいたぶって楽しむ悪魔のような表情で、不吉が顕現したような黒いコートをなびかせて天井に着“地”していたのだ。

 その魔王が己の銃の照準をこちらへむける瞬間を、見た。

 私は持てる全力で体を転がし、上質なスーツが汚れることをいとわず、天から放たれた二発の凶悪な銃弾を避けた。

 怒りに我を忘れる気分だった。無理やり理性を叩かせ、体を転げ上げさせ、片膝をついて右手でサブマシンガンを構える。狙うは天井から落ちてきた瞬間。いくら奴といえど、それほど天井に張り付いてはいられまい。もし、奴が空でも飛べるとしたら、絶望的ではあるが……

 だが、天は私に味方した。

 進が5メートル程度はある天井から落下を始め、足を床へと着いた瞬間。

 構えた銃の弾倉を空にする勢いで、トリガーを引き絞る。

 弾丸は奴を貫こうと、直進する。自然と笑みを浮かべていることに気がついた。

 私ではない……奴がだ。

 ドスンと、天から分厚い何かが落ち、弾丸の行き先を妨げる。

 それは奴が先ほどまで足を着けていた天井。

 「天井をくり抜いただとっ!!?」

 「不正解だ。“蹴り砕いた”んだ、よっ!」

 声が聞こえた瞬間、その分厚い天井だったのコンクリートの塊が私へ向かって飛んできた。

 (ぐっ、ペッ!!?)

 突然の衝突と、その威力に不細工極まりない悲鳴とともに、数メートルの距離を吹き飛ばされた。その最中、前蹴りの姿勢から回復する進を見た。あの男、どんな脚力をしているんだ。

 ゾォンッ、と私が壁と塊に押しつぶされた音が凄まじい衝突音となってフロアに響き渡る。

 その粉塵が視界を遮る中を、よろめきながら私は立ち上がる。口の中に広がった血の味を噛締め、目線の先に居るであろう傲慢な小僧を睨む。

 (クソ、クソククソクソクソクオクソォォォ!! 殺すっ! 絶対に蜂巣にしてやるッ)

 激憎にのまれつつも、頭は非常に冷静(クール)だ。この視界さえも塞ぐ、粉塵の中で声を出せば位置を知らせてしまうことも忘れていない。

 (まずは、奴を惨たらしく殺すために必要な準備をまずせねばなるまい。奴はただ殺すだけではたりな……)


 

 そんな思考を中断させるように、私の左肩に衝撃が、弾丸が私の左肩をえぐった。



 「っぁッ!! アアアアアガァっ!! ウッ、ああああっっ!!??」

 「なに立ち止まってやがんだよ。そんな暇があるのかよぉ、おいぃ? さすが、貴族様っ! すばらしい思考をお持ちダぁっハハハハッ」

 進の頭にくる嘲笑う声はたしかに聞こえてきたが、それ以上にこの濃い粉塵の中でどうして私の居場所を把握している理由の方が数倍恐怖だったので気にしている暇がない。当てずっぽうの運任せでないことだけはわかった。なにせ、アイツは言ったではないか“なに立ち止まっている”のだと。

 奴には見えている。私の位置が。

 (そ、それよりも、逃げなければ。ここにいては……いては殺され……殺されるだと?)

 私が、この貴族の男とよばれた私が、魔弾の射手と恐れられたジェイムズ・ハンターが“恐れている”というのか?

 私が、幾人もの力もないくせに人の上にたつ愚者たちを恐れさせてきた私が?

 この私が、こんな小僧に、屈する?

 ふざけるな。

 そんなこと、私のプライドが許さない。

 「たかだか、極東の小僧風情が図に乗るなァッ!!」

 感情の発露とともに、体中に魔力が溢れだし、纏わりついてた粉塵が一気に消し飛ぶ。

 クリアになった世界で忌々しい小僧が、薄ら笑いを浮かべて堂々と仁王立ちしていた。

 お前など、すぐに殺せる。そう言われているようで、さらに私の怒りを掻き立てた。

 「良いだろうッ! そこまで死にたいというならば、見せてやるっ! 我が、魔術の奥義をなぁっ!!」

 「ハッ! そんなもんがあるなら、とっとと出してろ! もしつまらねぇ曲芸だったら、爆笑してやるよ!」

 互いに悪意を瞳に込めて睨みあい、魔弾と魔王は同時に銃口を相手へ向けた。



 視点変更3

 

 

 「この魔力……ハンターか? ここまで不安定な魔力の波長がここまで流れてくるということは……劣勢に置かれているようだな」

 本来、依頼主が危機的状況に置かれている場合には焦りが生まれるはずであるのだが、この男ジョゼット・ホーキンスはただただ淡々と上層階の戦闘状況を論じた。

 彼が悠然と立つ、数メートル離れたフロアの床に無様に這いつくばっている自分にも感じる荒々しい怒りの感情がふんだんに錬り込まれているであろう魔力の波長。

 魔力は大気中に存在している“かもしれない”虚空素を体内に取り込んで生み出すものだと言われている。だからこそ、強い感情下で魔力を錬ると不安定な精神状況のためか、感情の波が伝わってくることがあるのだ。

 しかし、大抵の魔術師たちはソレを嫌う。なぜなら感情の波長が漏れ出るということは精神に穴がある、未熟な証であるとしたからだ。心と技術で秘術を扱う者達でるからこそ、純然たる不動の精神を崇高としたのだ。

 それは現代の魔術師たちも同様の考え方だが、戦闘特化された魔術を行使するものたちは魔力の波長を攻撃や隙を生みだす術としてあえて放出する者たちもいる。

 だが、流れてきた波長には単純な怒りと殺意しか伝わってこない。己の中にある焦りと不安を押し流すためだけに生み出された魔力なのだと、すぐにわかった。

 「上の階での戦いは佳境をむかえているようだ。アルバイン、私はすぐにでも依頼人を援護しにいかなくてはならないんだ……だから、いい加減に立ち上がるのはやめておけ」

 嘆息まじりの呆れた声に逆らうように僕は、アルバイン・セイクは立ち上がる。

 五体満足ではあるのだが、服のあちこちは焦げあとや切り傷ですでにボロボロ。左腕に装備された盾はもはや使い物にならないほど半損している。

 「そう、ですネ。もうこのまま休みたいくらいですヨ」

 心も挫けそう。なにせ相手は格上の中のさらに格上。ついでに言えば、僕の中にある強さの象徴になっている人。裏切ったという事実を理解している今でもそれは揺らがないほどに。

 「だけど、ボクがここで倒れれば、彼方は必ず上に……ハンターと進の戦場にいくはずダ」

 「……無論だ」

 そんな状況であっても、右腕に握りしめられた剣と自分の瞳に力が戻る。

 いくら、進といえどホーキンスに勝つことはできない。いくら彼に異常な力があっても、勝てはしないことが直感ではなく経験側で判断せずともわかっている。

 「行かせなイ。アナタはボクが止め――」

 「られる、とでも思えたのか」

 驚く暇もなく視覚することすらできない速さで距離をゼロにされ、痛みの知覚が遅れて現れるほどの速度でボクの胸部に掌底が叩き込まれる。

 ゴキゴキ、と聞きたくもない音が体内から聞こえ、体のすべてを螺旋の力を破壊力に変化された威力を受け、僕の体は数十メートルは裕に滑空し



 バリィ、容易く、厚いはずのガラスが砕ける音とともに、僕の体はビルの外へと投げ出された。



 あぁ、と事実が頭の中に去来し、仰向けに吹き飛ばされたために都会のネオンに汚された星空が目に入る。

 あぁ、とゆったりとした思考と、一秒が数分間にすら思えるほどの濃い時間に投げ出され、ゆっくりと体が重力の荒波にもまれ、落下を始めていくのがわかる。

 そのまま、頭が下になっていき、眼下に街の風景が目にぶつかる。

 入ってきた視覚情報に朦朧としていた思考だけが急速に加速を得る。その高さと暴力的なまでのコンクリートの街の硬さと世界の広さを肌で感じた。

 (っ!?)

 恐怖だ。そこには恐怖しかなかった。

 高層ビルの上層階から下界を見下ろす時、そこには感動があるのかもしれない。人をゴミに例えて、王様気分もできるだろう。

 だが、ここにはそれがない。見下ろす際の足場がなく、この身ひとつで空に投げ出されている恐怖だけ。たった数メートルだけ安全なフロアから離れただけのココには、自らの死という概念以外を感じることはできない。たとえ、魔術を扱う騎士とはいえ、高層のビルの40階付近から落ちれば、即死だ。

 (……あぁ、なんてこっタ)

 同時に、己の危機感をおいてけぼりにして、死の恐怖以上の事実が頭の中をいっぱいにさせる。

 (彼は……アイツは、進はこんなところを。あんなに簡単に飛び降りたっていうのカ……)

 それは数十分前のこと。僕が進にどうして他人のために命をかけるのか問いただしていた少し前に、実は僕は屋上の縁から眼下の世界を見下ろしていた。

 その時、僕はこの感覚を、恐怖を理解していた。

 心の隅で生まれた恐怖を持ってしまった僕は、後ろでの会話を聞いてしまった。ここから飛び降りて不意打ちを食らわす、と悪者のようにクツクツと笑う魔王の言葉を。

 ――――なにが“どうして、キミはそこまでするんだ”、だ。

 嘘だ。嘘だったのだ。純粋に人を助けたいのか、そうでないのか? 違う。僕はただ、この冗談みたいな高さの恐怖を感じてしまった。だから自分と同じ気持ちをもっているはずの同士を増やしたかっただけだ。

 軽々と、己の感情のみで他者を救うと言ったあの魔王のような男に負けたと感じたくなかった無意識の強がりが、あの問いの正体だ。

 自分の羞恥に気がついた瞬間、世界が加速した。

 ゆっくりとした時間は終わり、自由落下の拘束力が徐々に不可視の鎖と化す。

 視界の隅で、ビルの内部を見る。ホーキンスは戦いが終わった、とでも言うように身を翻し、上の階へと向おうとしている。

 その後姿に抗議しようと声を上げようとするも失敗する。もはや運命は決したとでもいうように、重力が下へ引っ張り、その強さに声もだせない。

 未だフロアとは水平の位置にあるとはいえ、ここからフロアの縁まで二十メートルほど。

 そこで誰もが諦めるだろう。だが、僕にはそこまで到達する技がある。

 ただし、それには命のリスクがある。このまま落下すれば死ぬというのに、助かる可能性があると理解した瞬間、リスクのことが脳裏を占領しはじめ、失敗したらという感情に体が硬くなる。

 死と生の狭間で、繊細な行動が求められるというのは、ここまでの重圧なのか。

 だとしても……



 僕の剣の二倍以上ある大剣を背負い、これ以上の落下速度の中を。狙ったフロアへの突入という寸分も狂いも許されない作戦をこなした進にくらべれば、どんなに安易なことだというんだ。



 「ッ! セットォォ!!! フゥレイムゥゥッ!!!!」

 目をカッと見開き、吹き荒れる狂風に負けじと己の剣に叫ぶ。

 その声が聞こえたのか、剣が火を噴き上げるが風により、うまく点火ができないライターのようなありさまだ。

 虚しくも、落下が始まりホーキンスがいる階が遠くなっていく。

 このままでは、奴は進とハンターの戦いに介入するだろう。そうなれば進は負ける。

 あれが負ける。それは嫌だ。アレの強い意思がねじ伏せられることが堪らなく嫌だと感じた。

 「加速せよっ(アクセルッ)!!!」

 剣が高熱を帯びたかのように、黄金色へと変化する。けれど剣の鉄は溶けず、さらにその存在感を高めた。

 「装填(ロード)ッ!」

 騎士の流技(キャバリー・アーツ)には三つの異なる変化派生がある。一つの属性を付与させる第一派生。異なる属性を付与させる複合派生。そして、一つの属性を加速変化させて、さらに同じ変化属性を重ねて加える加速派生。

 剣から先ほどとは比べようもない炎が噴き出す。その瞬間を目撃した者がいるとしたら、突然、人が爆発で吹き飛んだと思ったはずだ。

 一瞬で、元の階へ水平の高さまで舞い上がると、剣を背後へ回し、水平に構える。

 その時、ホーキンスが僕に気がついたかのように再び振り返ろうとした瞬間


 

 もう遅いと言わんばかりに、剣が爆発し、寸時にホーキンスとの距離は瞬きの間になくった。



 「ッ!? アル…」

 振り返る間がないことを経験則から把握し、ファルシオンを右に振り抜き、爆発により加速した僕の剣と衝突させ、攻撃を防いだ。

 防いだが、ホーキンスの横顔は驚愕に満ちていた。

 それもそのはず。

 なにせ、この技。おの男ですら発動を躊躇う技なのだから

 「()ぜロっ! 騎士の流技(キャバルリーアーツ)、エクスプロードッ!!」

 防がれもなお、横殴りの剣線を止めることなく薙ぎ払い。同時に剣が爆発する。

 小規模ながら、耳の鼓膜を破らんばかりの爆音と熱波がフロアに伝播し、薄暗闇が赤色に染めあがる。

 その赤の部屋を爆発の力を受け、弾け飛んだホーキンスはフロアを横断し、唯一のオブジェでもある円柱にぶつかり停止するが、すぐさま飛び上がり、剣を構える。

 その瞬間に、剣と剣が噛みあう。

 ほぼ本能のままに、ホーキンスへ追い打ちをかけた僕はすぐさま、爆発を発動させるが、彼は発動の瞬間を見抜き、左へ踏み込み、直撃をさける。

 避けられた剣は地面へと到達し、めり込む。視界の隅では、流れる様に横へでたホーキンスが僕の胴を目がけ横払いの剣を振り抜こうとしていた。

 「ォォオオオオオオオオオッ!!」

 咆哮を上げて、地面を抉りとり、勢いのままに相手の剣めがけて抜き放つ。

 体がねじれ、骨が軋むが、剣は見事にファルシオンを撃墜する。僕はその勢いのまま、回転切りを放つ。

 「ホーキンスゥッ!!!」

 とにかく斬ろう、それしか今は頭にない。

 撃ち払われた体勢からすぐさま剣を正眼に構えたホーキンスは、それでも前へと踏み込み剣と剣を衝突させる。

 刃と刃が交差し、視線と視線がぶつかり合う。

 一方、相手の狂気に触れ正気かどうかを確かめようとする目。

 一方は、覚悟を決めて、爆破を命令した。

 爆ぜる剣が互いの間を裂くように開けさせ、同時に剣に亀裂が生まれる。

 「! ゴハッ!?」

 ヒビが走ったのはもちろん僕の剣。直撃もないにもかかわらず、吐血した僕をホーキンスは哀れな存在にむける視線。

 「お前は自分がなにをしているのかわかっているのか? そのエクスプロードがどれだけ、自爆の剣だということが」

 爆発させる技は、他にもある。だが、騎士の流技では剣で切った切り傷を対象とするのが常だ。なにせ、剣自体に爆発の付与をあせれば、衝撃を受けた剣が破損する可能性が高いからだ。

 僕は剣の周囲に薄い膜のような魔力を張って、そこを爆発の起点とさせているが、十分なコントロールがなければ爆発の威力はすぐに膜を破り、剣へと衝撃を伝え、剣は破損する。

 技を開発したホーキンスですら、危険の烙印を押して、禁じ手とした技がこれなのだ。

 口元に血を残しながら、僕は剣を構える。爆発の属性をさらに高めて。

 「正気サ。それに、かなり痛いし、怖いヨ」

 「どうして、お前はそこまでする」

 驚いたことに、僕が進にした質問が、僕に問われるとは思ってもみなかった。

 ホーキンスの鋭い眼光。昔は向けられるだけで怖かったソレが、今はそう思ったほど驚異に感じなかった。

 理由。あるヨ。当たり前じゃないカ。僕は彼じゃなイ。

 「ボクはたぶん、憧れたんだヨ」

 「憧れた?」

 「そうサ。ボクの剣の二倍は重い大剣を背負って、あの高さから躊躇なく飛び降りた……いや、ちょと違うな。あんなに簡単に自分の心に従って人を助けにいけた進に、ボクは憧れたんダ」

 呆れられたのか、または馬鹿にされたのかはわからないが、ホーキンスが息をのむように目を開く。

 「それにネ」

 「?」

 「今の話を……ボクが憧れてるなんて、彼が聞いたら確実に馬鹿にされて爆笑されるからネ。本音を暴露されたらたまらないから、あなたを上の階に行かせることはできないんダ」

 自虐するような笑みが自然とほころび、羞恥心に沸き立つかのように小金色に輝く剣がさらなる光を放つ。

 まいったな、素直じゃないところは、憧れてないのに。


 

 視点変更4



 それぞれが激闘を繰り広げる中、ここでもある少女が緊張の中で戦っていた。

 「…………」

 額に流れる汗を拭いとることすら許されない戦い。極限の緊張状態に精神が裂けんばかりだ。

 少女の名は、九重(ここのえ) 撫子(なでしこ)。花も恥じらう17歳の女子高校生。

 なにを間違ってか、今こんなところにいるのだろうとか、考えてる余裕はなかった。

 高僧が何年もの修行の果てに得るはずの無我の境地を、実戦で使いこなしていた。

 これを使い、この激闘を生き抜いてこれた。

 さて、そろそろ思うだろう。

 実はこの少女、戦闘能力など微塵もない。

 頭はよく回り、身体能力も常人よりも上に育て上げられた(作られた)ので、それなりに修行すれば良い線まではいくはずなのだが、そんなこともしていないので弱い。

 ならば、一体なにと戦っているというのか?

 それは……

 「……これは、自分との戦いです」

 自分にいいきかせるように……いや、実際この場には自分以外誰もいない。

 あの部屋から大穴に突き落とされてから、この場に到着するまでは数十秒もかからなかった。

 床には到着し、それほどの高さもなかったので負傷はない。

 ただし、場所が問題だった。

 グラっ

 「おっ、わわわあわっ!!?」

 体位を変更し、バランスを取る。ぐらぐらと揺れる床はなんとかバランスをとり戻し、安定する。

 また体勢が崩れぬ程度に溜息をつき、何かに呪われているのではと本気で考えはじめる。

 実は現在、私は不安定な場所にいる。

 第三者が私を傍観できるとしたら、見えるのだろう。この高層ビルの鉄骨の上にフロアの床の平面な塊がのっかり、その上でぐらぐらする不幸な少女の姿が。

 あの魔王のような男が今の状況を発見すれば、大爆笑され、十五分間は傍観されるだろうそんな状況。

 かれこれ、数十分。私はここでグラグラしていた。

 どうして逃げないのか、と聞かれるかもしれないが、私は絶叫して無理だと言うだろう。

 この足場となる床の塊の下は、底が見えない闇がぽっかりと開いており、横を見ても、自分の跳躍量ではどうしようもない距離がある。

 最初の頃は、集中力の助けもあって割と安定していたが、現在は数秒間に何度もぐらついている。

 それに数分前から嫌がらせのように、頭上から薬莢が落ちてくる。

 もう限界だった。

 頭の中もぐ~、と情けない音を奏でるお腹も。

 (お腹、すいたな~。コンビニのツナマヨおにぎりが食べたいな。……ツナサラダもいいな、ツナ缶を買ってきてパスタにするのもいいな。いいな、いいな、いいな、いいな、いいな、いいな、いいな、いいないな、ツナマヨ、ツナマヨ、ツナマヨ、ツナマヨ、ツナマヨ、ツナツナツナツナツナツナツナツナ……)

 精神的に限界だった。死の淵に立たされた状態と半日歩き回り、半日連れ去られたことで疲労度もピークに達していた。

 そして……



 一番最初に限界を迎えたのは、私ではなく破損寸前であった床の塊のほうだった。



 「っぅひっ!? き、キャァァァァッァァァっ!!?」

 地面という安心できる足場を想え、とでも言いたげな重力が私をすぐさま落下へと誘う。

 浮遊感などと生易しいものではなく、引っ張られる印象がつよい抗いようもない力を受けながら、私が向かうであろう先である下を見る。

 下には瓦礫と、垂直に突き刺さっている鉄骨の剣山を視界に収めた。

 空腹の因果か、やきとりが頭に浮かんだ自分を呪いつつ、きりもみしながら落下する私は、上空から“銀色”の閃光が落ちてくるのを見た。

 銀色の閃光は、光の尾を流しながら、大穴の外壁を“疾走”し、稲妻のように壁面から壁面へと跳躍する。その稲妻は私へと降り注ぎ、さらに下へと向う。

 衝撃など一切なく、むしろ柔らかな“モサモサ”に包まれ、そのモサモサの隙間から、“彼”が宙で体を捻り、下に突き立っていた鉄骨を蹴りつけ、真横へ“回避”した瞬間を目撃した。

 ドン、と鈍い音と、数度の目の回るような回転運動を感じるが、意識を失うことはなかった。このモサモサが守ってくれたようだ。

 モサモサがムクりと動く。床に押し倒されるような形で、私は彼の顔を見上げた。

 「……え?」

 私を助けてくれたモサモサの持ち主は、狼だった。美しい銀色の体毛に包まれ、下半身を見れば人の足をもっている。

 人の形をした狼。人狼というのだろうか。

 一拍、声が出なかった。息をのむ美しさに悲鳴を忘れた、のではない。

 見下ろす形ではあるが、銀色の人狼が私を見る目が、時折“彼”が隠すように見せる“慈しむというよりは、申し訳なくて仕方がないとでも言いたげな悲しい目”とそっくりだったためだ。

 だから、こそ。こんな一声だった。

 「科布……会長?」

 「……やっぱり、君にはバレてしまうと思ってたよ」

 観念したかのように、光に包まれた人狼は、私がわりとよく知る男の人にすぐに変わった。

 彼は、科布(しなぬの) 永仕(エイジ)は苦笑いしながら、私を助け起こしてくれた。



 視点変更 5



 俺、八島(やしま) 三郎(さぶろう)の人生は割と平和であったようだ。

 生まれ方が歪であったこと。魔術を扱う家系であったこと。才能がなく、才能ある弟が出来てから家をゴミのように追い出され、ヤクザになったことを考えればそこまで平和でも幸せでもない。

 だが、平和ではあったようだ。争い事は尽きず、自分の周りの世界は荒れていた。

 それでも、と思う。

 なにせ自分は現在、すぐにでも逃げ出したいほど命の危険を肌で感じてやっと自分が楽な戦いをしてきたかを実感させられた。

 「我が名と声に、開けっ! 大いなる道の通過点エメラルド・タブレットシリーズ、ディバイド“九つ目の基盤(イエソド)”!!」

 高らかに宣言するかのように、俺が背負っているものと同じ機械と同系統だという“兵器”の存在を明らかにするこの女。

 新東京でもわりと有名な高校の制服を着ているところからみれば、たぶん女子高校生なのだろう。

 雑誌のグラビアアイドルではもう満足できなくなってしまうほどの容姿に緩いパーマがかかったロングヘアー金髪。しかも巨乳。思春期の男がこの女を目撃したら、確実に夜のオカズにするであろう美系の女。

 それだけでナンパ目的の男なら声をかけてしまうであろう女。

 だが、俺は絶対しない。

 というか、この女から出る殺気を感じた瞬間、どんな男であろうと逃げ出すにきまってる。

 (ちっきしょうっ!! 早く、早く、早く倒れろよぉ)

 俺の精神状態はまともでいられない。

 首筋にナイフを常に突き付けられているかのような殺意がこの戦いには常にある。

 こんな経験はなかった。ヤクザでの競り合いや、路地裏での乱闘でも、まして戦闘集団だと豪語していた実家である式神使いたちと戦った時も、ここまで濃厚な命の危機を感じることはなかった。

 それは、俺が背負う機械じかけの魔具がどんな窮地もねじ伏せることができる性能をもっていたから、など始めからわかっている。

 酸素を軽々と使役し、相手を容易く殺すことができる圧倒的な力。本城のアニキがくれた最強の力。

 その最強の定義が覆ろうとしている。

 そして、俺という存在をも、アニキへの忠誠心すらも馬鹿にし、否定しようとしてくるこの女は必ず殺さなければならない!

 「それがどうしたってんだよぉっ!! この部屋にはもう俺の武器がたらふくあんだっ! テメぇがなにしようと、状況はかわんねぇんだよぉぉぉぉぉっ!!」 

 部屋に生み出したオゾンの濃度は国が基準として、人間が一時間で生命危機を迎えると呼ばれる濃度(PPM)の三倍は生み出してある。それが確かな志向性をもって、おれの意思で動かせる。ただ限定された空間であることと、臭いだけはないように完全に空気の層で抑え込んでいる状態。目に見えるほどの濃さを得た雲のようなソレを宙で留め、放つ。

 普通であれば、ゆったりとした勢いではあるが、大抵の奴は怯えてそれを見る。

 普通であれば……

 「フッ!」

 女は、せまる死の雲を見もせずに鋭い呼気とともに、持っていた錬金術で出来た槍を投擲した。

 俺にではなく、それは明後日の方角へに……上へと、天井に深く突きささる。

 アホみたいな失敗を見て、俺は笑う。

 「あ、あひゃひゃひゃひゃ!! なにミスってんだよ。バカじゃねぇ」

 「……このビルは終戦後に作られたようですが、完成が近かったようですわね。きちんと」

 きちんと、と言った瞬間に天井が、なにかの圧力に負けて“破れた”。

 そう、これは。

 「水っ!? てめ、水道管をぶち抜いたのか!?」

 「ええ、まぁ、スプリンクラーも設置されていたようですし、大体の場所は始めに不意打ちの際に確認済みでしたから。内部状況なんて同じようなものでしょう?」

 偶然か、必然かはわからないが水道管は割と盛大に破壊されたようで部屋の中で豪雨を引き起こす。アイツらが不意打ちをこちらにした際に、このビルはかなりのダメージを負っているのかもしれない。

 そんなことより、水とは。なるほど、と思いつつコイツの馬鹿さに今度こそ笑いたくなった。

 たしかにオゾンは不安定な気体である。数十分もすれば水に戻ったり、バブリングという特殊な過程をふめば、水に溶け込ますこともできる。あとは、空気中の比率を狂わせ、オゾンを霧散させたかったとも考えられる。

 「だけど、俺のオゾンは厚い空気の層で閉じてある如何に水があろうとなかろうと……」

 「“E”の名が命ず、お帰りねがえっ!」

 なにを、と問う前に、結果が発現した。女の立つ位置にまで到達したオゾンと豪雨の如き水がまとめて、弾ける。

 不可視の力が働いたのではない。女が今まで掴んでいた黒い布がまるで命を持ったかのように動き、迫っていたモノすべてを薙ぎ払ったのだ。

 豪雨のような水漏れが止みはじめた。雨の猛威は、俺をずぶぬれにし、部屋中を水浸しにした。

 ただ一点を除いて。

 部屋の中央に立つ女と、何かの力にさせられるように女の背後に浮遊する黒い布の周囲は水滴ひとつなかった。

 「棚を開けよ。我望むは、青色の一番」

 女が右手を水平に延ばす。黒い布がそれに反応するように振動する。水面のように揺れる布の“中”から“光”が這い出てきた。

 「なっ、なんだそりゃ!? それコートじゃねぇのかよ!」

 「何を驚いていますの? 言いましてよ、これもソレ(ディバイド)ですと。それにこれは布のような外見と触感ですけれど……よく、考えれば何製かしら、コレ?」

 とんでも発言を聞いた気がした。

 だが、それどころではない。天井に突き刺さっていた槍が地面へと落ち、砕ける。

 オゾンはたしかに弾かれたが、なくなったわけではない。今も操作性をもって俺の支配下にある。あと、数秒もすれば元の大きさにまで戻せる。

 奴の攻撃はまだない。そんな素振りはあの兵器からは感じない。

 ニヤリ、とこちらがまだ有利だということにあのディバイドを見て安堵の笑みを浮かべてしまった俺に、女が不敵な笑みを浮かべ返した。

 「なにか、勘違いされているようですわね。このイエソド(ディバイド)は攻撃目的に作られた訳ではありませんわよ」

 「あ?」

 「この九つ目の基盤(イエソド)の“実験”目的は、不安定な存在の状態保持と活動時間継続のためのもの。言ってしまえば、特殊な素材を保管、そして使用しての錬成場。つまり“持ち運べる工房”ですわ。あの時、攻撃を防いだのは土足で家へ上がり込んだものを締め出しただけ、雨に至ってはただ屋根に当たってはじけただけ、だって家としては当然の機能でしょう?」

 嘲笑うかのように言う女の言葉にひどく耳と頭が痛くなった。どこにオゾンを吹き飛ばし、豪雨をものともせず浮遊していられる家があるというのか。攻撃機能はなくのだろうが、無敵に近い防衛能力は攻撃とほぼ変わらない。

 (ふざけんな、何が家だよ。ありゃ、家というか、要塞じゃねぇか!)

 待て、ではあのディバイドから取り出した“光”はなんだ?

 そう気がつき、目を凝らしたときにはもう遅かった。

 「そう、貴方が警戒すべきは、こちらでしたのに」

 可笑しい、とほくそ笑む女は光を片手で鷲掴み、その名を軽やかに紡ぐ。

 「()て“突”かせ。――氷鎖槍“南十字(サザンクロス)”――」

 


 ただ、それだけで、世界は白銀の世界へと。極寒の地に等しき氷の世界に変貌した。

 


 (な、なんだこりゃぁぁッ!?)

 一瞬だった。瞬きもできない、した記憶もない。その刹那の間で空気中の水分はすべて氷の塊となり、外壁や天井からしたたる水は氷柱(つらら)へと、地面のたまった水は硬い氷塊と化す。

 あまりのことと、寒さで驚きが声にならない。それ以前にガタガタと震える体を抱きかかえることもできない。

 吐く息が白くなり、冷たすぎる空気は吸い込むだけで痛い。

 そんな生き地獄のような世界で、ただ一人、この世界を作った本人だけが悠然と佇む。

 美しい魔女。透明な美しさで人を魅了する氷の世界すら彼女の前には敗北する。

 美しすぎる女は線の細い印象を受ける真っ白な槍で、白の世界を薙いで払う。

 その槍は見た目、殺傷能力がないように見えた。

 美しい装飾と雪の結晶のような繊細さをした十文字槍。

 一般人がみればただの装飾用とも見られるだろう、だが、魔術師が視ればおぞましいまでの魔力の波を放つその槍から目を背けるだろう。

 俺は目を背けたいが、体が寒さで固まりできない。そんな俺へと魔女は一方的に告げてくる。

 「貴方が視るべきはアレ、氷の“性質”を具現化させたもののほうでしたわね。……そうですわね、固有の名前は無いのですが“氷のエリクシール”とでも呼称しておきましょうか」

 適当な感じに名前を付けられたあの“エリクシール”という存在。その存在が奇跡の産物であることを魔術を多少なりとも知る自分は頭で理解する。

 魔術において属性関係の魔術はポピュラーのものである。そう思えばエリクシールは意外なモノではないように思えるがそれは違う。

 氷を発現させる、氷の分子をだす、雪を作るなどの事象の発動を世界に顕現させるのではなく、氷がもつ“冷たい”“寒い”“凍る”“熱量の低下”といった氷という存在が意味する“事象と属性”が一つの光の塊という存在として世界に安定してそこにあったということ。

 「普通なら性質を抜き出せば、総量に関係なく性質が暴走するか、器がないことで世界から一瞬で消える存在」

 それを|物事を支えるよりどころ《イエソド》と名付けられたあの機械仕掛けの魔具(ディバイド)は可能にさせる。

 「展開された薄い固有結界内限定で、“性質”や精神といった器をもたない不安定な存在を物体と同じように扱えるように具象化し、不安定な性質を物質と同様に錬成・形態変化させる工房を作り出すのがこのディバイド“イエソド”の能力」

 そうして錬成されたのが、あの氷の十字槍。氷の属性が付与された武器なでどはなく。純粋な氷結の性質がそのものが武器の形となった属性兵器。前者が一突きで相手を凍てつかせるなら、後者は一突きで、相手を分子レベルで細胞を凍て尽かし、砕く。

 「さぁ、参りますわ」

 そんな兵器を持った女は、一直線に駆けだす。

 身動きのとれない状況は変わっていない。このままでは、死ぬ。そんな恐怖に連動した上ずった声を上げる。

 「ヒッ。お、オゾンっ!! アイツを、あん女を殺せェェェェッ!!」

 自分の支配下であるはずの空気へ叫ぶ。本来、言葉にする必要はないがそんなことを考えている余裕すらない。

 未だ手元には酸素を操る感触がある。俺の魔力が酸素を操る“ナノマシン”と連結している証拠だ。まだ、俺には起死回生の……

 そう重い動かそうとしたが、なんの反応もない。いや、感触はある。なのに動かない。まるで何かに動きが絡め取らているかのように。

 「っ!? てめぇっ! ナノマシンを!?」

 フっ、と不敵な笑みを浮かべるだけで何も答えない女。それが答えだとでもいうように直進の速度をさらに増す。

 酸素分子という極小単位に働きかけるナノマシン群を生みだし、操るのが俺の持つディバイドの能力だ。目に見えないレベルの話なのでどう働きかけているのかはわからない。ただ、マシンもまた酸素と同じように宙を漂っていることだけはわかる。

 今この部屋はあの女によって水、水素が溢れ返り、部屋に充満していた。それをあの氷の槍で固め、部屋の空気を重くしたのだ。ただでさえ、水素分子と混ざり操作困難な状況と、冷気によって繊細な機械であるナノマシンは酸素を操ることができなくなったのだ。

 それは地に縛り付けた敵を踏みつぶすがごとく駆け抜けてくる女はもう眼前。

 「そうだっ、式神! 出ろ、そして、俺を守れぇ!!」

 しかし、言葉虚しくでない。なにも起きない。俺を見限るように出なかった上・中級はともかく、容易く呼び出せていた低級の付喪神までもがこない。

 「なんでぇ、なんでぇだよ!? お前らも、お前らまで俺を見捨てんのかっ!」

 「一つ、いいかしら?」

 冷気を引き連れた美しい雪女が、そこにいた。雪女は左足を前へと踏み込み、槍を構えた右腕を後へと回していた。腰を沈めたために上目使いに送られる嫌悪の眼差しを俺はたぶん一生忘れない。

 「私の魔力で作られた氷で覆われた空間に低級の付喪神が入ってこれるわけないでしょう? それに! 貴方が先に見捨てたくせに、今さら助けを請うな。甘えるのも大概にしろっ、この未熟者がっ!!」

 言いきるのと同時に、俺の腹に槍が叩きこまえる。

 突き抜けるような冷気の衝撃が背へと突き抜け、背後の壁をおも貫通して粉砕した瞬間を見た。



 視点変更 6



 「我が下僕に命ずる。回れ、回れ、回れ、回れ、回れ!!」

 体に満たした魔力を発散するかのように、使い魔たちの作成へと回す。

 ジェイムズ・ハンターの名とメルルの血につき従いし、浮遊する天使たち。もとい宙を舞うクラゲのようなものは、錬金術と対をなすゴーレム製作法にもとずき生まれた下等な使い魔だ。

 私の放つ銃弾を吸い込み、設定した標的へと威力をそのままに放つ能力しかもたぬこの使い魔を実は嫌悪していた。

 「お~、いーね。クラゲの博覧会かなにかか?」

 そう、この容姿である。機能を追求した結果うまれたはいいが、エレガントではないその形になんど私の品が疑われたことか。

 宙に浮かぶクラゲが10体同時に現れる。それをおもしろそうに眺める進・カーネルを見て、私は酷く気分がわるくなった。

 (こいつは私がなにをするか見ようとしている。それが勝機を失うこととまるで思ってもみてない)

 私という存在をこの男は見ていない。それが腹立たしくて仕方がない。

 つまり、私は舐められている。

 「精々そうして、そこで面白がっていろっ。これを見てもそう思えるかわからんがな!」

 スーツの内側から、万が一のために残してあったサブマシンガンを取り出し、乱射する。狙いなど付けなくてもいい、なにせ放った弾丸はすべてクラゲが自動的に拾うのだから。

 弾丸は吸い込まれるかのように始めの一体に打ちこまれ続ける。そうして……

 「あぁ?」

 弾丸はすべて相手へは“向かわず”、別のクラゲへと流れ、また次へと繋いでいく。

 「こいつは……」

 「そうだとも、哀れな囚人! これぞ我が奥義“|意地汚い狩犬の檻《バレット イン ケェジ》”だ!!」

 進・カーネルは見ている。彼を中央に10メートルを開け、宙を円形に並んだクラゲたちが合計50発程度の弾丸を受け渡しあうことで生まれる弾丸の檻を。

 弾丸の流れは規則的ではなく、時折無秩序な軌道を描き、流れ続ける。弾丸の速度はまるで停滞せず、むしろ速度を上げているようにすら思えてくる。

 クラゲからクラゲへ向かう時に、まるで猟犬が野原をかけるような音がなり響く。そこから付けた名にふさわしく、血に飢えた弾丸(りょうけん)たちが威嚇する檻を作り出す。

 「…………」

 進はなにを思ったか、無言で真横へ駆けだす。

 だが、弾丸が上から降り注ぎ、カーテンのように展開される。弾丸が地面を削りとったときに、飛んで後へさがる。

 「逃げることなどできないぞ。この弾丸の檻からはな。オートで君の動きを追尾し、範囲から逃げようとすれば、そこを撃ち抜く。脱出は不可能だ。そして……」

 進の足元に前触れもなく弾丸が撃ち込まれ、地面を抉る。そこでようやく進は理解したようだ。

 「まぁ、逃げなくても撃つんだろう?」

 「当たり前だ」

 私が手を上げる。それを契機に複数の弾丸が“四方”から発射される。

 進は後退する形で、奇跡的に弾丸を避ける……運が良い奴だ。

 それを切り返すように、銀色の銃を抜き出し、弾丸を放つ。

 「無駄だぁよぉぉ」

 嘲笑う私の予言どうり、進の弾丸は私へ向かう途中、厳密にいえばクラゲの包囲網を抜けようとした瞬間に軌道を変えてクラゲへ吸い込まれ、檻の一部となった。

 「……なるほどねぇ。俺の弾丸も吸収される仕組みに作り替えられたか。さっきのやり方じゃクラゲも破壊できそうにねぇな」

 「アハハハッハっ!! どうかね、どうかね、どうかね!? 困ったねぇ、困ったよねぇ? そうだろぉぉがぁっぁ!! 散々ナメくさってくれたことを後悔させてやるっ! タダじゃ、殺さないぉ~。私の指がもいでくれたように、少しずつなぶり殺してやろう!!」

 どこまでもコケにしてくれたこの小僧。私が人生で出会った中で一番殺したいと思った人間であると言ってもいいほど、殺したい男にしてやる。まずわ、その指から……

 そこで気がついた。コイツが

 「ハッ、貴族様メッキが剥がれてきてんぜぇい? もうちょっと、気品を大切にしなきゃな~」

 こいつが笑っていることに。

 (もういい。こいつは今すぐハチの巣にする)

 私の意思に反応したように、三百六十度すべての包囲からランダムに激しい弾丸の嵐が飛びぬけていく。

 ズダズダズダズダッ、と激しく降る弾丸の大雨。

 隙を与えぬ、絶え間なく続く雨の中を必死に逃げ惑う進。全身の関節を巧みに曲げて避け、それが不可能ならステップするように前後左右して距離をとる。

 その姿はまるで囲いの中を逃げ惑う哀れなウサギのよう。せっせと逃げるが猟犬は逃げ場をなくすがごとく疾風怒濤の勢いで距離をつめていく。

 弾丸を絶え間なく吐き続ける天に座すクラゲたち。弾丸が飛び交う、弾丸の聖域で逃げ惑う青年。そして、それを眺める猟犬(だんがん)たちの主である私。

 この場の支配者は誰が見ても明白。そう、私。

 そのはずなのに。

 どうしようもない、不快感と恐怖が私の心の胃袋を満たす。

 「ハッ」

 「!!?」

 そう、この吐き気のするような感情の原因はアレだ。

 無表情に絶え間なく体を動かしながら避けていく男が一人いる。

 目が絶え間なく縮動し、体をまるで弾丸の動きが見えるかのように首や膝などの関節を小刻みに動かし、荒々しい足さばきで檻の中を駆け巡る青年のあの目と口元。

 あれはまぎれもなく笑み。

 人のおこないを無駄だと嘲笑う、悪魔の笑み。

 それを見て、絶句するよりも先に、あの理解不能な生き物に怒りの咆哮を私は上げる。

 「っなんなんだっ! お前はぁ!!」

 「何だと聞かれても、おっと。ご近所でも有名な優しい、安い、早いが売りの進・カーネルお兄さんだ、ぜぇ! それよりもぉっ!」 

 なぜか、御託を並べた後、バク宙を決める進は、その最中に銃のカートリッジを抜きだし、懐から新たなカートリッジを取り出し、素早く入れ直す。

 着地の後も弾丸の嵐は続く。だが、その嵐が尽きようとしていた。五十発近くあった弾丸の礫がだ。

 「アンタ、魔弾の射手なんて言われてるみたいだが、本編(オペラ)を見たことは?」

 魔弾の射手とは、私の偉業をみた凡夫共が勝ってに付けていた通り名だ。だが、そのフレーズが気に入っていただけで、ドイツのオペラなど見たこともなかった。

 「実は、俺も実際、見たことがない」

 なに言ってるんだ、コイツ?

 私は奴の言葉を無視し、さらなる弾丸を補充すべくサブマシンガンを構える。

 この魔術の欠点は、一度クラゲに命令を下すと私が術式を解かないかぎり撃った弾丸のすべてを呑みこんでしまうところだろう。中と外からの攻撃ができれば、より早く敵を死に与えることなど容易い。しかし、敵が逃げ惑う姿に悦楽を憶えてしまった私はこの改善策を作ってはいなかった。

 「二人の男がいた。一人はお偉いさんのお嬢様と相思相愛な猟師。だが、この男はスランプ中、しかも自分たちの結婚に反対なオトウサマに良いとこみせなきゃいけない狙撃大会がまじかに控えてる。もう一人はそいつに自分の意のままに当たる魔法の弾丸のことを知っていると、ソイツに教える猟師仲間の男」

 ベラベラとしゃべり続ける進は、それでも動きによどみは見せない。弾丸の数をさらに倍、撃ちだされる数も倍にしているというのに。

 「一人はソイツと一緒に魔法の弾丸を作った。だが、もう一人にはある裏があったのさ。その魔法の弾は悪魔と契約して、製造法を教えてもらって作った弾でな。契約の対価に自分の命を使ってた。だから、もう一人は幸せ野郎の命を勝手に代償につかって悪魔との契約の継続を希望し、あたらしい弾を作ろうとしたのさ」

 次第に進がブレた。あまりの速さに目が錯覚を起こし始めたのだ。次第に焦りが生まれ、私は全身から汗を噴き出していた。

 「契約はなった。作られた魔弾は……おっと、ここからはネタバレだ。俺の口からはいえねぇな。ただ、ここで言えるとしたら。魔弾を作って一人を生贄に捧げようとしたクソ野郎は……」

 進は手にした銀色のデザートイーグルのトリガーガードにかけた指を軸にクルクルと銃を回転させる。手を開いた状態で、銃の側面を見せつけるように回された瞬間に竜を見た。

 グリップに嵌めこまれたエンブレムを。

 あの───―“魔皇”の証を。

 回る銃を止め、抜き放つように構えたデザートイーグルの照準が私へと向けられる。

 世界が遅くなった。

 そう感じた。集中の中心はもちろん奴。だが、同時に感じた違和感に目を見張る。

 銃口はまぎれもなくこちらを向いているのに、奴の紅い瞳は別の場所を見ていたのだ。

 視線の先、私から見て右斜め上にはクラゲがいた。クラゲは銃弾を呑みこみ、そして――――発射。 

 撃ちだされた弾丸は奴へめがけて飛ぶ。

 奴に、進と言われた男へ向かって。だが、私はたしかに幻視した。残像のように残る奴の背後に、ニンマリと笑う悪魔の姿を。

 その悪魔が別の形となる。それは忌まわしく、幾万回呪いをかけても殺しきれないと理解できてしまった過去の敵。私が初めて敗北の苦渋を呑んだ敵。憎らしい笑みを浮かべる姿なぞそっくりだった。

 

 過去が一瞬、無理やり頭の中を駆け巡る。第三次世界大戦中の“奴”を殺せと依頼を受けたある農村で、私は見ていた。

 同じ依頼を受けた仲間の死体に混じり、息をすることを止めて、されど涙が溢れるのを止められず、震える体にナイフを突き立て、無理やり死体のフリをして奴の目から逃れたあの日を。

 ───―戦場では場違いな黒いコートを羽織って奴は空を見ている。

 ───―奴の足元には、幾人もの敗者たちが死体の山となり。

 ――――その手に握る(ドラゴン)のエンブレムが嵌められた銃が銀色の鈍い輝きを放つ。

 あの日におきた悪夢を私は忘れようと努力する。噂話だと、鼻で笑ったあの男の話が現実として私に猛威を振るった日を。

 魔道協会から、魔“法”使いに匹敵する力を持ちながら、その暴虐武人、悪辣非道さが非常に目立ち、巨大組織でも制御不能とされ、悪名である“魔皇”の称号を与えられた。|生死を問わなず《デッド オア アライブ》のお尋ね者。

 

 ――――その男が通った後には、“蒼穹の空”と“塵”しか残らない。その男は、こう呼ばれた。

 「蒼塵(そうじん)っ!!」

 進は、高速のすり足で一歩分、滑るように後退する。残像に吸い込まれるように地面へと落ちていく弾丸。

 その“弾丸”へ、向けて悪魔は引き金を引く。

 放たれた弾丸は別方向へ向かおうとする弾丸の擦るようにかすり、徐々に軌道を変えていき……

 (クラゲには私が撃った弾と、奴が撃った弾を吸収するように命令(コマンド)していた。

 だが、“弾丸から放たれた”弾丸までは命じていな――――)

 軌道を私へと逸らされた弾丸は、同じく私が撃った弾であると認識したクラゲたちはまったく反応せず。

 なんの障害もなく、私の胸部へと着弾した。

 「……い」

 ゆっくりと、血を吐きながら後へ倒れていく私へ、手向(たむ)けの言葉が送られた。

 「悪魔と契約して作ったはずの弾丸に打たれて死ぬのさ」

 そうやって嘲笑う悪魔は、魔弾の射手の対価(いのち)を狩ったのだ。

 

 

 視点変更 7



 その背中は、思い出の中にひっそりと忘れないでいた父の背中に似ていた。

 父は中肉中背であったのに対し、こちらの彼は長身で、半裸の状態なので引き締まった体をしているのがわかる。

 記憶にある彼より髪が若干伸び、肩の高さまで伸びてしまっているが野性味の強さがあって似合っていた。

 「? どうしたのかな、九重さん?」

 「え? あ、いえ。その重くない、ですか?」

 「そうだね。地味に重いかな」

 私、九重 撫子は若干傷ついた。が、致し方ない。

 なにせ、彼は二人を一気におぶって歩いているのだから。

 科布 永仕は私と、私の背中におぶる形で彼の妹であるサヤを共に乗せている状態であった。ただ、重いとは言っているが、声は楽しげで疲労感など感じさせない。逆に、この重さが愛おしい、そう言ってるようにも聞こえる優しい声だった。

 階段を下りる小気味い揺れを感じながら、ここまでのことを軽く語る。

 あれから、銀色の人狼……永仕に助けられ、私は驚きと疲労感で腰を抜かしてしまった。歩けない哀れな少女に人間の姿となった永仕は手を差し伸べ、背負って歩いてくれた。

 忍び足ながら、追手の気配も、下のフロアに下りるごとに人の気配はなくなっていく。ヤクザの方々はもしかしたら上の階に行ってしまったのだろう。ヘリなどで逃げるつもりで。

 今、非常階段を降りつつ、下を目指す。

 途中、彼はここまでいろいろな話をしてくれた。

 自分が人ではないこと。

 神様と同じ力を持つ妹を守りながら、百年以上の歳月を生きてきたこと。

 今、上の階で戦う進たちのこと。

 そして――――私の父と母を見殺しにしまったことを。

 『怨んでほしい』

 言葉一つ一つに後悔と懺悔が錬り込まれた声で、昨日のことのように語る彼。

 それを黙って聞いていた私は、未だ答えを出せないでいる。

 彼は許しを請うことはなかった。むしろ、直接ではないとはいえ、怨んでほしいと言っているように聞こえていたくらいだ。

 その彼に、私は返答できないでいる。

 言ってしまえば、簡単に許してしまえる。なにせ自分も自分の命が大切で、多くの人を見捨てている。

 だけれど、簡単な、考えのない答えではきっと彼の人生をダメにしてしまう。それではきっとこの人は宙ぶらりんな後悔と責任を背負ってしまう。

 それは今も私の上で寝息を立てているサヤのこれからにも関わってくるはずだ。

 だから……

 「今の、私には……決められません」

 そっと、一人事のように呟くしかなかった。

 それを聞いてくれた永仕は、わかった、と頷いてくれた。だけど……

 「だけど……私のために、明日を、未来をダメにしないでください」

 こんどこそ、永仕がこちらを立ち止まって、振り向いた。

 目を見開き、今にも涙がこぼれて落ちてしまいそうな顔をして。

 「私よりも、私の父と母よりも、科布会長……いえ、永仕さんを大切に思ってくれている人たちのために」

 「でも、俺は……」

 「そうしてくれるなら、きっと。私は永仕さんたちを許していけると、思えるんです」

 父と母はどう思うだろう。怨んだろうか、呪ったろうか? わからない。 

 それでも、私はこの人たちが笑ってくれる方がいい。いつまでも私たちのことで泣いていてほしくはない。

 私は、いい人たちには良いことをした分だけ幸せになってほしいのだ。

 ついに涙の雫がこぼれ落ちた永仕は顔を隠すように、前をむいて歩き出す。

 「ありがとう、“撫子”」

 始めて名前を呼んでくれた永仕は、何かを誓う様に礼を言った。

 なぜかそれが嬉しくて、安心してしまい、瞼が次第に落ちていった。



 視点変更 8



 「あっ」

 意識が落ちていた。ローザ・E・レーリスにあるまじき醜態に反省しつつ当たりを見回す。

 白銀の世界、というよりは氷の洞穴といったほうがしっくりくる“部屋”。

 周囲に人の気配はなく。私ただ一人のようだ。

 意識が落ちる前と後はなにも変わっていない。部屋では無くなっているだけだ。

 四方の壁に囲まれる形であった部屋には、現在大きな風穴が開いていた。トンネルのようにビルを真横に突き抜ける形で生まれた氷の道は、間違いなく自分の錬成した槍の効力と威力で生み出したモノだろう。

 “余裕がなかった”とはいえ、全力で振りかぶった結果だろう。

 あの瞬間までは意識があった。私は槍の全能力を彼の体ではなく背中のディバイドを固定していた金具やベルトに狙いを定めた。一応は自分が作り出した“性質”ではあったので意識でのコントロールが上手くいった。が莫大なエネルギーには変わりはない。撃ちだしたエネルギーは彼の背後と周囲へ向かって発散されたために、この有馬様になったのだろう。

 (薄れゆく意識の中で、あの男が発狂したように叫びながら逃げ出したのを確認してから、無理をしすぎた反動が来て……までは覚えてますわ)

 別に八島の殺すことに躊躇したのではなかった。ただ、あのまま彼の胴を貫いていたら、確実にディバイドを破壊してしまっていた。それだけはなんとしても避けたかったのだ。

 その苦労して手に入れた戦利品は目の前に無造作に転がっていた。

 エメラルド・タブレット、その一つが。

 「ふぅ。なんとか無傷とはいかないも、無事に回収できましたわね」

 座り込み、壊れていないか確認する。機能は無事で、壊れた様子もないことを確認し、イエソドを大風呂敷のように広げ、包み込む。

 それだけで、イエソドはまるで手品のようにのみ込み、なんの普通のローブのような形に戻った。

 このイエソドは本来、形のない不安定な存在を格納しておくディバイドであるのだが、同じエメラルド・タブレットシリーズに限りしまうことができた。普通の物質も入れることはできるにはできるが、大抵の場合は原型を留めてはいられず破壊されるか、よびだしても出てこない。

 ようやく目的の品を手に入れたためか、魔力の消費が激しい性質素材の形態変化をおこなったためにヘタリと座り込んでしまう。

 「ようやく二つ。残るは八つ。それに“アレ”が幾つ集めているかわかりませんわね」

 前途多難だ。そう思い、肌寒い空間で熱く火照った体を冷やしていく。

 いろいろ反省点はあれど、敵は倒せたのだからお給料は出る。

 これで一か月は安泰の……はず。

 「そうですわね……お給料が入ったら、進たちにアイスでも買ってさしあげないと」

 普段の自分なら口がさけてもおごるなどとは言わない。だが、今回の勝因である氷のエリクシールは彼らによってもたらされたと言ってもいいのだ。

 食べている最中、ふと思いつきでやってみたら成功した。ただし、成功例は一つだけだったので奇跡の産物ではあったのだが……

 「まさか、百円のアイスクリームからエリクシールが取り出せるとは思いもしませんでしたわね」



 視点変更 9



 鈍い刃の輝きがまつ毛の先を擦り削り取っていく。

 研ぎ澄まされ“過ぎた”集中力が世界をスローモーション化させる。

 脳内の加速がかかり、頭を全力で捻ることで回避できた斬撃に心臓が高鳴る。

 歯を食いしばり、首の筋肉組織が千切れていく感覚を噛み殺し、相手の全体像をとらえる。

 次にくる攻撃は? 速度は? 威力は? 軌道は?

 脳みそと心と精神をすべてこの一瞬の殺陣に注ぎ込み。冷や汗がこぼれる落ちることにすら…

 「セァッ!」

 気合いの一閃が思考を中断させる。現在、自分は全力で自分自身の力の持てる限りで真横へ体を跳んで剣を避けている“最中”だ。

 その最中に驚異の速度とタイミングで切り返しが襲い掛かる。踏ん張る足も、防御に使う盾すらないこの状況。

 ただし、剣は使えない。なにせもう剣の耐久力は限界に近付いていた。

 あれから僕とホーキンスの戦いは佳境へと加速していった。

 剣と剣をぶつけ合い。己の対人術を駆使し、如何に相手の急所へ、または行動を刈り取る位置への攻撃が執拗なまでに繰り返され――――

 「終わりだっ」

 終わりを迎えようとしている。

 (いやダッッ!)

 終わりを、命の終わりを意識した瞬間、思考よりも早い何かが体を突き動かす。

 体が宙で真横に崩れた姿勢から何ができる。剣はなく、防ぐ盾も使えない。

 (だったら、これしかないだろうガッ!)

 無様に空をかける僕を、ホーキンスが斬り落そうと放った横一閃が襲い掛かる。

 その完全に洗礼され、理想的なフォームから紡がれる剣線はもはや匠の域。

 その剣を側面から“蹴り”あげる。

 「蹴っ…!?」

 「ォォッラァッ!!」

 狙い通りにファルシオンの側面へは当たったが、若干、刃に触れて右足の(スネ)が斬られたような熱を感じたが……

 「ソレが、どうしタっ」

 不安定な姿勢、落ちた時の衝撃と負傷、頭にダメージを負ったら?

 そんな感情を無視し、放った蹴りあげは見事に決まり、剣は空へと蹴り飛ばされ、天井へと上手く突きささる。

 持ち主であるホーキンスの腕もまた上げるかたちとなる。それはまさに片手万歳の姿勢。体位が崩れた、死に体の証。

 上質な水が体を潤したような感覚が走り、着地と同時に四つん這いから腕、足、体にすべてのバネを持ってそのわずかな隙へと、襲い掛かる。

 剣があろうと、無かろうと関係ない。ただただ、剣を相手の体へと捻じ込むことだけを考え、右肩口へむけての袈裟切り、切り返の斬り上げ、踏み込んでの上段からの兜割り。

 それらすべてをホーキンスは徒手空拳のままに、剣の側面へ肘、手首を当てて受け流し、最後の兜割りに至っては白刃取りをしつつ、その威力を全身をつかっていなし、体を後退させる力へと変換させる芸当を見せた。

 後へと流れたホーキンスは地面に落ちていた小石サイズの礫を拾い上げ、天井のファルシオンへと投げつける。魔力を付加させ投げられた小石は剣へと当たると衝撃で剣を落とした。

 それを当然のように掴みとり、ファルシオンを正眼に構える。

 あまりの華麗すぎる対応だったために、思考が後から行動の把握しはじめてしまう高速戦闘。

 いまだホーキンスには余裕がある。その姿はまさに騎士の姿。

 その姿に苛立ちを感じはしなかった。

 むしろ、強さの象徴であった彼を見て歓喜しているぐらいだ。

 そうだ、だから僕は彼に……

 「っ?」 

 そんな彼に動きがあった。動きと言うほどではないにしても、少し意識を逸らした。

 それは隙ともとれないほどの微細な変化。意識もこちらに向けられている。

 だけれども、今の僕にはそれが極上の獲物に見えて、食らいつくように全力で地面を疾駆した。 

 「オオオオオオッ!」

 咆哮を上げて駆け抜ける。距離は十メートル強。相手はもう“防御”の姿勢に入っている。右から来るであろう剣を防ぐ形。受けた後に相手の剣を払い、死に体にさせ討ちとる形。

 それ以前に、もう僕のロングソードは限界だった。最低で後二振りで砕け散るだろう。

 騎士の流技を使用している僕は剣が破壊されれば、剣と同じように負傷する。シンクロ率が高く、比較的幼少期から剣と契約したが故か、武器に発生する耐久度の向上効果のためかはわからないが、剣の破損から発生する負傷は低い。それでも粉砕されれば重傷は確実だろう。

 だから、こそ僕は、そのまま左から真横に剣を振り切った。

 受け止められる剣。相手が浮かべる失望の目線。

 そして、それを嘲笑う僕。

 「っアルバイン!?」

 「……エクスプロード」

 一瞬、剣から光が発する。光の中で交わりあった目と目は、続く爆炎と風圧で遠くへと突き放されていった。



 視点変更 10



 「わた、私が、ワタシイガ……」

 「ん? まだ生きてやがるのか?」

 銃弾を銃弾で飛ばしたのだから貫通力は落ちると踏んでいたが、傷口からの出血が多い。たぶん心臓には届いたはずだ。

 ハンターは倒れてからもヨロヨロと這いずッて、壁際まで逃げていく。

 「……もう逃げ場なんてねぇぜ。それにアンタはもうすぐ死ぬ」

 とりあえず場数だけは踏んでる俺から見ても、もう助からない状態だった。まぁ、俺がやったんだが。

 ハンターは壁にもたれかかるようにして体を起こすと、憎しみに目を細めて俺を睨む。

 魔術師は己を魔力に適応させるために生命力が一般人と比べ物ほど高い。だから、こいつも心臓に穴が開いてても数分間は生きるのだろうか?

 (睨まれるのも勘弁だしな……最後の責任ぐらいはやってやるか)

 そう“優しく”思い、ゆっくりと近づき、ハンターを見下ろす形で銃口を額へと向ける。

 どこぞの吸血鬼のような生命力はないだろうから、これでしまいだ。そう思っていたんだが……

 「そぉ……その銃はぁ、“蒼塵”のぉ……」

 ひゅー、ひゅーとかすれた死にかけた声で聞いてくるハンター。本来なら聞く耳もたずに殺るのが常だが、言葉の中にあったワードが引っかかった。

 「そうだよ。あの人の銃だ」

 そう言うと、力なく笑ったハンターは死に急ぐが如く口を開いた。

 「そぉうか……アイツは、死んだと…聞いたが、ね」

 「ああ、そうさ。……ある意味、俺が殺した」

 苦虫をつぶしたような俺の声で、なにかに気がついたように顔を上げるハンター。

 俺はあまり振り返りたくない過去から目を逸らしたくて、もう引き金を引く事にした。

 それよりも先に、ハンターの方が先に言葉(ひきがね)を引く。

 「奴は、キミのとって……大切な人だったの、かね」

 一拍、引き金を引くのをためらった。別にハンターを殺すことを躊躇したのではない。ただ、一瞬、思い出の中のあの人を見てしまったのだ。

 それが……



 この後に起きる後悔への引き金になった。



 視点変更 11



 その瞬間、俺の腕は可動域の限界を超えて、へし折れた。

 「グガァっ!? あっ、アアあゥああああああああッッ!!!」

 悲鳴を上げて自分の精神状態が狂うのを防いだ。

 騎士の流技(キャバルリー・アーツ)のハイリスク。自分が使用している状態の剣が破損する時、同等もしくはそれに近い使用者への肉体的、精神的な破壊が起きる。

 僕がホーキンスへ爆発を叩きつけた瞬間、ついに耐久度の限界を超え、ロングソードに深い亀裂が走った。

 折れ曲がったのは右腕、つまり剣を握っていた方。あまりに唐突な腕の折れ方に、剣を放してしまう。 剣は床に落ちるやすぐに、小気味良い音をたてて、半ばから二つに割れた。取り合えず、使用者との接触、つまり手に握っていなければ騎士の流技は発動しないために、僕の体が真っ二つにへし折れることはなかった。

 肘が完全にへし折れ、その痛みに這いつくばって堪える。

 今、自分は非常に無防備だ。ここを襲われでもしたら……

 「アルバイン」

 「っ」

 平然とした声がフロアに響く。痛みで飛びかけていた意識を無理やりに起こす。首だけで上を目上げた僕が見たのは、一人の男の姿。

 ジョゼット・ホーキンスだった。

 先ほどまであった爆炎の残り火はすでに消え果て、月は雲に隠れているのか、薄い闇がひろがっていた。

 そこでぼんやりと立つシルエットは、彼のモノ。

 負傷しているのか、輪郭に棘がある。

 「お前は、命がおしくないのか?」

 途端に影が聞いてきた。

 命が惜しくないのか? 惜しいに決まっている。だが、これでは僕は戦えない。武器をとる腕も、足もすでに動かない。

 もう“戦えない”。

 いや、口があるな。口に柄を加えて戦えるではないか。そうだ、そうしよう。

 足も動かないだけで、まだくっついている。無くなったわけではない。

 そうだ、まだ。まだ、僕は――――

 「ふはっ、ハハハハハハッ」

 笑い声が湧きあがった。僕ではない、ホーキンスが上げた。

 歓喜ではもなく、嘲笑でもない。それ以外の感情が込められた笑い声。それがどうも癪に障る。

 「なにが……おかしいんダ」

 そう言った瞬間、笑いはピタリと止まる。

 「別におもしろくはない。ただ“わかった”だけだ、アル」

 なにを……そう言おうとした瞬間。フロアに光が入り込む。雲間から覗いた月明りだろうと判断するめの一分はつかった。

 なぜか?

 それは……

 「醜いだろう? アルバイン」

 腕だった。腕が……

 数十秒間、口を開き、目を剥いて驚いた。視界いっぱいにそれを目視し、この戦いで一番の衝撃を受けた。

 それは魔物だった。

 先ほどの僕の爆発の衝撃でホーキンスの服から右腕が完全に露出している。

 その肌は青。脈打つ太い血管は別の生き物のように蠢いていた。

 人の腕とは到底考えられないそれは、魔族の、魔物の腕だった。

 「なん…なん」

 「怖いか、これが? それよりも、私はそれ以上にお前が怖いぞ、アルバイン」

 「?」

 その言葉が目の置き場を腕から顔へと変えさせた。なにを言っている? そう思いながら。

 「気がついていないのか? まぁ、いい。お前はいずれ自分で気が付く。……依頼人(ハンター)ももう虫の息のようだ。俺はこのまま退散させてもらう。まだ、やるべきことがあるのでな」

 「待テッ! っ!? ぐぁ……」

 あまりの出来事に自分の状態を忘れていた。起き上がろうとした瞬間に激痛が走り、立ちあがりに失敗する。ダメだ、逃がしてしまう。

 その時にピシャっ、と着いた掌に水の感触が広がる。

 それは血だまりだった。それが自分の流して生まれた水たまりであると理解した瞬間――――


 

 僕は、見てしまった。



 「ッッッ!?」

 電流が走った様に手を話、尻餅をついて今みたモノを理解しようとする。

 そんな馬鹿な、そんな感情が頭の中で駆け廻り、冷や汗がダラダラと出る。

 「……見てしまったか。だが、受け止めろ」

 いたわるような声の主は、窓の縁から身を乗り出していた。

 逃げられる。そんな考えは生まれなかった。ただただ、今見た“表情”を、忘れようと全力だった。

 「忘れようとしても無駄だ。考えても無駄だがな。私は見ていたよ、アルバイン。剣が交錯した瞬間、死に叩き込まれると連想させる剣筋がかすめた瞬間、そしてお前が私から勝利を勝ち取ろうとした瞬間に」

 「――――違ウッ! ボクハッ! そんな訳がないんダッ! そんなんジャッ!」

 「アルバイン。それはお前がもって生まれたモノなのだ、どうしようもできない。俺が確認し、そしてお前の養父であるシルバが気がついた呪われた“才能”だ」

 養父(とうさん)が気がついた!? そんなことが……そんなはず……それじゃあ、なんで!?

 「シルバはお前が自力で克服すると考えていたようだが、俺は違う。お前は危険な存在だと、長年言い続けた。お前がアチラ側だとな」

 話は終わりだ、そう言う様に窓から、高層ビルの上層階から身を投げ出したホーキンスは最後に言った。

 「――――アルバイン。お前は、騎士にはなれないよ」

 静寂となった。割れた窓ガラスから入り込む風の音。

 薄暗闇の中で、敗北者が負け犬の様に這いつくばる。

 負け犬――――僕は

 僕は叫ぶしかなかった。

 「ぁぁぁぁ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 ガン、ガンと床へと顔を叩きつける。鼻血が噴き出し、顔中傷だらけにしながらそれでも打ちつけた。

 「アァあぁぁあああぁッ!! ウァウアゥアアっ!! アガッァアアアアっ!」

 最後に大きく打ちつけて、自分を痛めるのを止めた。同時に思考を止めて、泣き崩れる。

 憧れの騎士に否定されたからではない。養父がこの事実を黙っていたから悲しいのではない。

 笑っていた、からだ。

 血溜まりに写った自分の顔が、歪んだ笑みを作っていた。

 戦いの最中に何を感じていた?。

 ――――充足感を感じていた。

 敵に死を与えて勝利を確信した瞬間、どう思った?

 ――――歓喜した。

 命が惜しくないのか、そう聞かれた時。

 ――――命の心配よりも、どう戦えるか頭で考え、戦えると確信した時、安堵した。

 鏡の様に映った僕の顔は血で血を洗う戦場で喜びに打ち震えている歪んだ笑みを作っていたのだ。

 人を守護し、命をかける騎士。人々の平穏と安寧のためにある存在でなければならない。

 そうあるはずの自分は、自ら争いごとを望み、死をかけた刹那の殺し合いを楽しんでいた。

 それも頭ではなく、本能で求めている。

 戦いの中で、争いごとの中で、命をかけ合うことを喜びとする戦闘狂。――――本来、騎士にあってはならない“殺人鬼”の才能がどうしようもない心の奥底で、僕を嘲笑っていた。



 視点変更 12



 その一瞬を、見逃さなかった。

 ガツッ、と目の前に突き付けられていた銃を右腕で掴む。

 さすがに、そこまでされれば自然とトリガーを引いたらしく、轟音とともに私の体に鉛玉が貫通していいった。

 さすがは、世界最強のハンドガンと言われることはある。尋常じゃない地獄の苦痛が生まれるが、それを無視することができる、怒りが私の中にはあった。

 「ハンターっ、テメェっ!」

 進・カーネルは“大事な”銃をつかまれご立腹らしい。痛みで声もだせない私は、歪んだ笑みで“敗北”を確信する。

 勝利の希望などとうにない。あるのはただ、一つ。

 私の地獄への道連れを増やす“敗北”だけだ。

 素早く掌に書かれた術式を起動させる。

 この小僧は見たことがなかったろう。たしか、コイツの連れの娘、撫子といったか? 彼女が見ていたはずだ。無謀にも私に銃を向けた哀れなチンピラ風情が、敗北した時を。あの時、私はある魔術を見せた。

 その魔術とは、接触した銃の完全分解を引き起こす魔術。

 


 パァン、と不自然な音が鳴り響き、進のデザート・イーグルがパーツの構成を解かれ、バラバラに分解された。



 目を絶望に見開いた進には、何が起きているかわからないだろう。

 細かい部品が床に落ちてはどんどん散っていく。あぁ、大穴に落ちていったのはもう見つからないだろうな~。

 そんな隙だらけの小僧に、私は手首を軽くひねると袖から出てくる仕込み銃を手に握り、額へ向けて引き金を引いた。

 小さな発射音の後、弾丸はいとも容易く着弾した。



 視点変更 13



 「……進?」

 寝ていたはずの撫子が、俺の背中からパッと顔を離し、上で戦う彼の名を呼んだ。

 「どうしたのかな?」

 あまりの切迫感ある彼女の声に、俺も緊張を隠せなかった。

 俺達が今いるのはこのビルのエントランス。つまり一階だ。まだ開設前なのだろう誰もいない玄関口は静かなものだ。僕の鼻や耳でも上の状況はわからない。

 それだと言うのに、まるで上の階で何かがあったと確信するように撫子は背中から飛びあがり、上の階へと戻るエレベーターへと走っていってしまう。

 俺は制止の声をかけようとして、ビルの自動ドアの開く気配に気が付く。

 増援か? そう思ったが、知ってる顔ばかりだったのですぐに警戒を解いた。

 「アニキっ! 無事でしたかっ」

 「よかったっ、ほんまによかったですっ!」

 音芽組の構成員たちだった。心配で援護に来てくれたのだろう。ありがたいことだ。

 「来て早々に悪いんだけど、サヤを頼む」

 「「え、ちょ!?」」

 「緊急事態なんだ。家まで頼む」

 混乱する皆にサヤを押し付け置き去りにし、すぐに閉まり始めたエレベーターへ飛び乗る。

 急な乱入者を気にすることなくエレベーターは上へと昇る。

 撫子はその中で、祈る様に立ちつくしている。

 彼女の表情は不安で一杯であった。

 「一体、どうしたんだ、撫子?」

 「わかりません」

 聞いた俺が言うのもなんだが、わからないと言いつつ、これからなにかが起ころうとしている確信をもっている言い方だった。

 と、途端にエレベーターが停止する。

 たぶん、上の階での戦闘がビルの機能に多大な付加をかけた結果なのだろう。

 「そんなっ!? 早く! 早く、私は行かなきゃいけないんです!」

 「落ち着きなさい、撫子」

 「落ち着けませんっ。私は、私は進のところに行かなきゃ。私は彼の“契約者”なのに」

 「なんだって?」

 どうも引っかかったのだ。彼女の焦り方もそうだが、その“契約”の方に確かな違和感を感じる。

 「撫子、君は一体、進とどういう“契約”をしたんだ?」

 聞いた俺が言うのもなんだが、非常に嫌な予感がした。これは聞いてはいけないことなのでは? ではなく、これを聞いてしまったら俺はなにか大きな流れの中に巻き込まれる、そんな言いようのない確信があった。なにしろ……

 「えっ? それは……依頼料返済とか、です。何十年分割払いの」

 「それでどうして、彼の元に行かないと行けないのかな?」

 「それは……え、ええと。でも……」

 頼む。頼むから、惚れてるからとかの理由であってくれ。約束したとかでもいい。

 そういう、意識の“中”であっての契約であってくれ。

 「行かなきゃ、って。そう思えるんです、今。強制力があるとかじゃなくて、使命感でもなくて。でも、私の“中”にある契約したっていう部分が、なにか危険を訴えている感じが……するんです」

 無意識より、よりさらに奥にある部分での契約。

 俺は知っている。いや、そういう関係にある人物をと言ったほうが正しいか?

 俺は天井を仰いだ。敬虔な信者でもないが、言いたくて仕方なかった。

 (おおっ、神よ、万物の意思よ、運命よ。なんでもいいですが、どうしてこの娘なのですか?)

 そんな俺を心配そうに見上げる視線を感じて、溜息を吐いた。

 なってしまったものは仕方がない。どうせ進の方も無意識だ。それにアレらがこの世に出てきたからと言って、絶対に何かが起きるということではない。

 そう自分に言い聞かせ、不安顔の撫子に笑みをむける。

 「エレベーターはここまでだが、ここから先は走りにしよう。無料で早くて安全だということは保証しましょう」

 そう言って、自分の形を狼へと変えていく。

 ここから先にある不安を感じながら。



 視点変更 13

 

 

 「あ、アハハッハハ。私だけが死ぬなど認めないぞぉ。私と一緒にお前も死ぬんだ」

 袖から出した銃が硝煙を吐き、続けざまに銃弾を放つ。

 バン、バンっ、と音を鳴らして着弾する銃弾。

 それを抵抗もせずに受ける進・カーネル。

 自分の命がもう少しで消えるなど信じられないほど、私の体と意識は覚醒していた。

 弾を撃つたびに生気を取り戻していける、と錯覚するほどに。

 込められた銃弾は6発ほどと少ないが全弾命中すれば、相手もさすがに絶命する。

 はずなのに。

 (なんで、なんで、なんで!?)

 「倒れねぇんだよっ!! この化物がぁぁあああああ!!」

 小型の銃とはいえ、至近距離からの着弾のはずなのに体はピクリと動く程度だった。

 はじから人ではない、魔族とのハーフとは見立てていた。私は何度かそういう相手と戦い、勝利したことあった。だがら、知る。如何に強大な力をもつ奴らにも近代兵器である銃は通用する、と。

 しかし、弾丸は当たったのにも関わらず、皮膚に着弾した弾は傷一つ作らずポロポロと落ちていく。

 「グボッ」

 叫びを上げて、落ちていたサブマシンガンを掴みとり、フルオートで叩き込もうとした瞬間に顔面を鷲掴みにされた。

 掴まれただけで肉は陥没して抉り取られるだけにとどまらず、頭蓋骨に指がめり込み、脳髄に侵入した指の感触がする。

 死の寸前だからこそテンションが上がっていたが、物理的に死に追い込まれた瞬間に生への執着が強くなる。

 手にした銃で反撃して逃げようとした。

 その瞬間に銃を握る手が、“銃ごと”握り潰される。

 「アギィイイィイイイィィイイィイギィイッァイイァアァっ」

 「…………」

 声がでない。痛みでもそうだが、見てしまったのだ。

 目を。

 あの紅色の目が感情の色がないことを。

 あまりに怒りで感情を無くしてしまった無色を。

 「……壊れちまったよ」

 ボソリ、と呟いた言葉はなんの感情もない平坦さがあった。それだけで恐怖を感じ、声がでなくなった。


 

 次の瞬間、左腕がもぎ取られた。



 「    」

 あまりの痛みに声を無くした。

 遠くなる意識を戻すように、今度は口を鷲掴まれ、メリメリと徐徐に万力の如く、顎がへし折られていく。

 「!!? んー!! んーー!!?! んーーーー!!」

 涙がこぼれ、鼻水が洪水のように溢れる。恨みごとを考えることも、痛みで意識を失うこともできない。

 「誰のせいだろうな。詰めの甘かった俺のせい? ぶっ壊したお前か? それとも上の階に逃げてった奴らか?」

 私はたしかに後悔をした。

 私は、きっと開けてはいけない場所を開いた。

 あの時、素直に銃弾を受けていればよかった。

 死は絶望と同意だ。それが当たり前だと思っていた。

 でも、あの場合は救いだったのだ。

 なにせ――――

 「……もう、どれでもいい。全部、壊す」

 

  

 こんなことには、なら――――

 


                           次話へ



 桐織 陽でございます。また更新に一か月以上っけてしまったことをお詫びいたします。


 今回、最後の方は若干暗い感じになっております。つまり、このままさっぱりとしない終わり方となることです。さっぱりとした終わり方希望の方はスイマセン。ですが、そうしないと、次の章が始められないのでご了承ください。


 前回と今回出てきたギルバート・カーネル、蒼塵の二人は本編に出す気ではいるのですが、たぶん後、七章ぐらい先になると思います。

 そして、最近知ったのですが、読者の方々から各章のあらすじが掲示されないことをしりました。

 やられた!! 結構真面目に書いてたのに! 

 

 では、次話で。読んでくれた方々に感謝を。

 

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